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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第三部
名誉と誇り
  にじゅうご

 
前書き
風呂敷広げすぎたー!! 

 
 動きがあったのは、それからすぐのことであった。

 とは言え、既に10日ほどは経っており、こちらもできるだけの準備は整えたことになる。

 しかし、意外であったのはこの森に訪れた手勢が軍でも騎士団でも同族でもなく、私の同業者、“冒険者”と呼ばれる自由業のパーティーであったことだ。

 さて、この冒険者と呼ばれている彼ら。主に荒事に突っ込む命知らずな者達である。

 魔物の討伐から商隊の護衛、街中の簡単な雑事から要人警護までと、言わば便利屋家業である。

 いったい傭兵家業と何が違うのかさっぱりである。

 その辺りをエリステインに聞いてみれば、違いは微々たるものらしい。

 傭兵は戦争や対人においての荒事はもちろんのこと、魔物の退治やら商隊の護衛、要人警護を生業としており、基本10名以上で構成される組織であるということだ。
 また当然、様々な戦争に駆り出されることもあることから、国がその組織を管理し、構成人数はもちろん、その足取りなども把握しており、国を出ての仕事がある際は、所属している国への報告義務がある。
 しかし、大きな組織、それこそ3桁を超えるような要員を保有している傭兵団に限っては、その末端まで管理は行き届かず、意外と悪事に手を染めていることが多いとされ、問題視されている。
 また、微々たるものであるが、国から保障や手当てもあるとのことなので、それなりに国への帰属意識も持ち合わせているとのこと。

 自由とは少々離れているが、軍人ほどお堅くもなく、それなりの幅をもって仕事を選べるため、腕っぷしに自信のある者はまず、傭兵団に所属するらしい。

 それとは異なり、冒険者は本当に“自由”なのである。
 冒険者組合なるものは組織されてはいるが、軍人や傭兵団のようなローカルな規律や掟もなく、国に縛られもしない者達である。
 主に、傭兵団に所属していたものが冒険者になることが多く、有り体に言ってしまえばアウトロー中のアウトロー、と言ったところか。
 ただ、保障や手当てもないので、用意する報酬金額はそれなりに高額であるが、意外とその腕は確からしい。
 基本、何かに縛られるのを嫌い、自分達の中にルールを設けているので、お抱えとして雇うのは困難とのこと。
 しかし、バックアップしてくれる存在も多くないことから、比較的常識的な者や人情、義によって動く者も多く、ある意味では損得勘定で割り切る傭兵団より扱いやすいとのことだ。

 話だけだと、一種の人格障害かなにかと思ってしまう連中だ、冒険者というやつは。

「何か言いたいことでも?」
「いえ、自分のことは棚上げなんだなーって」

 冒険者って素晴らしい!







 エリステインには、我々種族のことを掻い摘まんでではあるが説明済みである。

 やれ、宇宙を飛び回って強い獲物を狩猟する残念な種族でーとか、こういうルールを設けて狩りに挑んでるドMなんだよーとか、死にそうになると辺り一体を巻き込んで自爆すんだよーなどと軽くだ。
 自爆の件で顔を青褪めさせていたが、それ以外の話では瞳を輝かせてもっともっとと話をねだられた。

 就寝前の幼児か、貴様は。

 あとは、私が冒険者というモノであり、未開の惑星を調査し、狩りとして適切な生物が存在するのか、または(エイ)()(アン)の繁殖問題などの調査をすることを生業としていることくらいか。

「なので、これは魔道具などではなく、科学技術で作成されたものだ」
「カガクギュジュツ、ですか?」
「そうだな。簡単に言えば、自然現象を『科学的』に解明することだ」
「カガクテキ?」
「……そうだな。簡単に言えば……」

 などというやり取りがあって、もう面倒だから「魔法だよ魔法」と匙を投げた。

 全然納得していないようであったが、自然現象を観測して、その法則性を物理的に解明することと言っても何が何だかだろう。

 私だって分からない。

 高校の選択授業では、物理がやりたくないから地学にしたくらいだしな。

 石って削ると超綺麗になるんだよ。

 何だかとってもバカにした目で私を見るので、「じゃあ魔法ってなんだ」と、聞いてみたのだが。

「魔法というのは、大気に存在する魔素を私たちの体に宿っている魔力、精神力とも言いますが、これに詠唱を合わせたモノを鍵としてー」

 とかなんとか、どや顔でクソ長い講釈が始まりそうだったので、「うるさい黙れ」と言って切って捨ててやった。

 ぶすっとした顔の中に、どこか優越感を混ぜた瞳で私を見る彼女。

「……なんだ」
「べつに。なんでもありません」

 イラッとしたので、顔面を掴んで持ち上げてやった。

 目がうるさい、目が。







 時は戻り、私とエリステインは、ブリッジで冒険者を映し出す立体映像を観ていた。
 人数は5人と、エリステイン曰く標準的な人数であるとのことだ。

「前衛が2名、中衛が1名に後衛が2名ですね」 

 なんだかオンラインRPGを思い出すが、彼女の説明を聞いている限り間違いではないようだ。

 ターゲットの目を引き付ける者、隙をついて攻撃する者、後方から一撃必殺のごとくドカンとやる者。その他に補助的な役割を行うものもいるとか何とか。

 重戦士や戦士が前衛(アタッカー)、賢者とかレンジャーやらが中衛(サポーター)、魔法使いとか僧侶が後衛(バックアタッカーやバックサポーター)といったところか。

 遊び人とか踊り子って、どこになるんだろう。たまに商人とかあるけど。

 私は不本意ながら勇者ですので、前衛でしょうね。
 シックスパック丸出しの紙装甲ですが。

「上手い具合に、死体の残骸を追ってますね」
「……あの集団はどれ程の強さだ?」
「強さですか? そうですね、中級……。細かく言えば中の中位ではないでしょうか」

 冒険者にはこれといってランク付けのようなものはされていないらしい。
 そんなことをしては管理が面倒であるし、そもそも依頼の危険度自体を自らの力で推し量れないような輩であるなばら、どうちらにしろ長く続かないとのことだ。
 失敗すれば自分の信用問題にも関わってくるので、自然と冒険者は慎重になるとのこと。

 では、この者達はどうであるのか。

「恐らくではありますが、かなり条件を限定しての依頼なのではないかと思います」

 なるほど。条件付けしての依頼の出し方と言うわけだ。
 ある程度依頼内容に幅を持たせ、どこまでそれを行うかは冒険者自身の裁量に任される。あとは報酬を歩合制や追加報酬という形で銘打っておけば、それなりに腕に自身のあるものが依頼を受ける可能性があるというわけか。

 確かに、傭兵団と違って明確な依頼を出さずとも、依頼に幅を持たせることができ、割高ではあるが金さえ払えば意外と気軽に依頼を掛けることができるわけだ。
 それに、移動速度も5名程度であれば意外と融通が利きやすい。

 ふむ……。

 あと気になるところと言えば、依頼主がどこのどなたか、ということである。

「大元は国で間違いないと思います。ただ、足が付かないように巡り巡っているとは思いますが……」

 足がつかないように手配する必要性……。

 まだ総隊長以下、騎士団の現状は国民には秘匿されているとみるべきだろう。
 防衛の要、軍の中核に位置する存在だ。
 それが瓦礫したと諸外国に知られたとあれば、外交上、問題を抱えることを意味し、付け入る隙を与えることになる。
 最悪、戦争が始まってもおかしくないだろう。

 自らが招いたこととは言え、不思議と罪悪感などは抱かない。

 が、エリステインは少々私とは異なるようだ。
 それもまあ、当然と言えば当然で、彼女はこの国の国民であり、延いてはその国民を護る盾であり、敵を砕く矛となる騎士であったのだから、胸の痛みに苛まれても仕方がない。

 その原因を作った私から、彼女に掛ける言葉は持ち合わせていない。

 憎むなら憎めばいいし、私を責め立ててもそれはそれで構わない。結局、どのような行動に出ても苦しむのは彼女であるからだ。
 そして、彼女は賢明な人物だ。決して後ろ向きそのままなどということはないだろう。

 以前、本当に私と共にいるのかそれを聞いたことがある。

 もちろん、メリット、デメリットを説明した上でだ。

 言い方は悪いが、私に全てを擦り付けていままで通り、安寧と暮らすこともできるし、そうした方が得であろうとも伝えた。むしろ私と共にいること自体がマイナスにしかならいだろうとも。

 それでも彼女はここに居ることを選んだ。

 何故、自分の命が狙われなければならなかったのか。

 何故、あの場で仲間が殺されなければならなかったのか。

 彼女の中で、譲れないものがあるのだろう。もしくはこの国に住まう者として、何か感じることがあったのかもしれない。

 私としては国家間の問題に首を突っ込むなど、更々ごめんであるのだが。

 しかし、同族の影がチラつくいま、私も他人事ではいられないだろう。

 同族の不始末は、同族である私が片付けなければならない。

 立体映像に映し出された冒険者達は、これといって大きな収穫もなく、ただただ私の設置したデコイに素直に引っ掛かっただけであった。

 それが収穫と言えば収穫になるが、果たして、次はどんな手を取ってくるのか。

 収穫がなかったのは我々の同じであるが、恐らく次が本番といったところか。







 それから3日後、森を抜けた平原に500名からなる国軍と傭兵の混戦部隊が陣を構えることとなる。 
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