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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第三部
名誉と誇り
  にじゅうよん

 そんなやり取りがあり、森の中間辺りに位置する手前の場所まで作業を進めた私は、一度船まで戻る。

 国が動くのならばまだ数日時間はあるだろう、とのことであった。

 4人の騎士が冥府へと旅だったその翌日、スタイン達の帰りが遅いことに違和感を持ったのであろう。数名のエリステインの部下である騎士と、近くの村の者が森の境目辺りでうつ伏せで倒れている頭部のなくなった、明らかに絶命している同僚を発見し、大騒ぎしている様を確認している。
 面白生物(ガミュジュ)、ゴキブリによる騎士隊の全滅と続き、その生き残りであった3名の仲間の有り様に随分と動揺していたようであるが、まだまだ情報伝達を人と馬に頼っている現状、それなりのタイムラグが発生するのは僥倖といえた。
 なので、私の同族が動き出すとすれば、そろそろのタイミングでもあるだろう。

 エリステインの部下だった騎士は、いま私の船で冷凍保存をしており、略式ではあるが彼女が弔いを行った。

 さて、この惨状を見た者は、いったいどの様な報告を中央の人間に上げているのか。

 戻ってきたと思った副隊長であるエリステインはまた姿を消し、その部下である騎士の消息も不明。
 尚且つ、スタイン子爵は跡形もなく消え失せ、その子飼の騎士2名は頭部のない死体が残っているだけとなれば、それだけで国が動くのは明白だ。

 しかし、軍を組織するのにも動かす人員が多けれその分準備にも時間が掛かり、尚且つ行軍速度は遅くなる。
 だが、同族であれば単身で行動することが可能であり、もし、この地に船で来ているのであれば、間違いなくそれを利用するだろう。

 私のように原因不明の事態に陥っていなければ、であるが。

 さて、そんな裏工作といえるか微妙で安直な手段を用いての作業を繰り返していた私ではあるが、他にも色々と準備をしなければならない。

 まず一番に進める必要のある、戦力の増強。
 と言っても、私とエリステインしか居ないわけであるから、そんなに時間は掛からない。
 むしろ、対人間での戦闘になった際は、彼女を表に出すようなことはしない。仮にも彼女はこの国の人間であり、今現在、彼女が戦う理由がないためだ。
 場合によっては、彼女に有らぬ嫌疑が掛けられている可能性もある。それに伴って、命を狙われる可能性もない訳ではないのだ。
 その際に自衛ができるようにしておかなければならない。生き残ればその疑いが晴れることだって、あるかもしれないのだ。

 そういったリスクを考えて、ある程度行動の指針を決めていかねばならない。
 何で私がここまで……と、思わなくもないが、彼女を助けてしまった手前、無責任にほっぽり出すのも私のプライドとかなんかその辺が許さないだろうし、絶対に罪悪感に苛まれる。

 私はヘルメットの中で嘆息する。

「? どうしたんですか?」
「いや……。そう言えば前に、スタインに対して何か思うようなことがあるみたいだったが」

 流石にもう、知らぬ存ぜぬを通すのは不可能だ。

「いえ、私の考えすぎということもありますし……」
「いまは少しでも情報が欲しい。何か知っているなら話してみろ」

 無理強いするつもりはないが、私が気になっていると言うことだけは理解してもらえるようにそう伝える。
 エリステインは顎にてを当てて、考える仕草をすると、「そうですね……」と呟き、顔を上げる。

「分かりました。噂程度のモノなので、役に立つかどうかはわかりませんが」

 私は縦に首を振り、それでも構わないと了承する。
 参考程度なものであるし、そこから何か掴めれば儲けもの位の考えだ。

「そうですね……。では、順を追ってお話させていただきます」

 そう前置きし、彼女から聞かされたことに、私は頭を抱えたくなった。
 どうやら、ことはそう単純なものでもないらしい。

 曰く、スタイン子爵は近年、軍備の強化にかなり私財を投じていたらしい。
 かなり曖昧な噂程度の話ではあるが、人の口に戸は建てられない。相当数の商人を呼び込み、かなりの資金を落としているのは事実であった。
 また、ここ最近になって王都を拠点としていた数ある傭兵団の動きが活発化しており、宗教国家であるプロメス皇国へ渡りをつけていることが確認されていた。
 そしてどうやら、スタインはこのプロメス皇国の人間との接触を頻繁に行っていたとのことだ。
 献金も行っており、それなりの支援も受けていたようである。

 しかし、プロメス皇国の国教でもあるプロメス教はこの大陸のほとんどの者が信者であり、エリステインも漏れずにその1人であるとのことだ。
 当然スタインもプロメス教であり、もちろん、この国の中央の人間もプロメス教を信仰している。また、個人的に皇国から司祭等を招くことはそう珍しくもないとのことだ。
 3年前に両親を流行り病で亡くしているということも含め、その対応ではないかと疑いすらしておらず、噂を含めて聴衆を行ったらしいが、そういった造反の動きは見られなかった、というのが中央の見解だったようだ。

 そこまで聞いて、私は頭を抱える。

 大丈夫か、この国。

 他国との繋がりという下りだけでも厄介であるのに、一番厄介な宗教が出てきてしまったのだ。それも、その宗主国が怪しいときた。

 いまここで、全てを是として判断することはできないが、これは最悪を考慮して行動していかないと停滞しっぺ返しを食らうことになりかねない。

 では、何故エリステインの命が狙われていたのかと聞けば、流石にそこまでは分からないらしい。
 スタインの好意には気付いていたようだが、なんだか下心のようなものが透けて見えており、受け付けなかった、とは彼女の言だ。
 同僚や部下からは首を傾げらられ、同姓からはやっかみにも似た視線や空気を感じていたようである。
 その意趣返しで命を狙うほど考えなしな人物ではないだろし、かなり理性的な人間であると彼女も知っていた。だからこそ、あの行動にはかなり驚愕したようである。

「私自身、妾腹とはいえ侯爵家の人間です。なので、その影響力も少なからずあります。……私を害することで実家が動くかは分かりませんが、決して好意的には見られないのは明白です」

 スタイン自身、子爵位を預かる人間だ。その意味するところが分からないなどと言うこともないだろう。

 であるならば、それこそ何が狙いであるかは不明なままだ。

 内に取り込むならまだしも、排除するとなるとリスクの方が大きすぎる。
 婚姻関係となれば、侯爵家のバックアップも受けられる筈だ。
 噂話が全て本当のことであったとすれば、スタインからしてみれば彼女の存在は大きかっただろう。

「ちなみに貴様、歳は?」
「今年で21になりますが?」

 そうか、21か。

「……行き遅れか」
「ちょっと黙ってて下さい!」

 ちなみに、今も昔も私は独身である。

 それなりに私も人気があったと、自惚れでなく自覚ずる部分は多々あった。

 そう、この体になってから私のモテ期が到来したわけだ。

 しかし、あれは女性ではない。

 雌だ。

 私は体格に恵まれた個体である。

 同族の雌は基本、雄よりも大柄なのだが、それを差し引いても私の美的感覚がそちらに靡くことはなかった。

 あれは胸ではない。筋肉だ。

 絶対に任意で動かすことができる。私にもできるのだから、絶対にできる。

「……あの、どうかしましたか?」

 どうやら随分と遠くへ行っていたらしい。
 エリステインの呼び掛けに、私ははっとして彼女を見る。

……うん、骸骨だ。

 どこからどう見ても、綺麗な形をした頭骨だ。

 この体、もうやだ。

「いや、もしプロメス皇国が裏で手を引いているとしてだ。……何が狙いだ?」
「……狙い、ですか」

 エリステインはまた顎に手を当て、うんうんと唸りだす。

「正直、なにも。民を虐げるような行いもしていないですし、むしろ飢餓や伝染病など不足の事態が起こった際には率先して援助を行っています。その他にも診療所や孤児院の経営、教会の力がなかなか届かない辺境の地にも司祭を派遣して教会を建て、辺境に住まう人々の心の拠り所になっています」

 隙が無さすぎるだろ。

 手を出したら、間違いなくこっちが悪者だ。

 いや、私1人にその矛が向かう分には何の問題ないが……。

 チラリと視界に彼女を納めれば、不思議そうに首を傾げている。
 まあいいと、彼女から視線を切って、私は再度思考の海へと沈んでいく。

 それであるならば、スタインが皇国と繋がり、何か画策していると考えてしまうのは少々穿ち過ぎな考えなのかもしれない。

 事はもっと単純な話なのか?

 いくら私が頭を悩ませたところで、情報が少なすぎるのだ。
 更に言えば、私は一介の冒険者の上、前世ではただのサラリーマンだったのだ。政治のことなと大雑把には理解できるが、政治家の考えていことなど分かるわけもない。
 それも、わかるといっても民主主義や社会主義、共産主義の中でも、比較的現代に近しい政治形態であり封建制などの旧体制など門外漢である。

「一時期、スタイン子爵はご両親を謀殺したのではないかと、噂が立ったこともあります。結果的に、それは彼の立場や人望に嫉妬した、利権にあぶれた者達の言い掛かりだと分かりましたが……」

 苦労してるな、総隊長。

「当然中央もそれを聞き入れることはありませんでした」
「人望もあり、腕も立つ。まさに超人だな」
「はい。剣の腕ならば王国内でも3本の指に入ると言われていました。“閃光”という二つ名持ちでもありましたし、神速の突きは誰にも止められない、とも」

 突きなんて繰り出してないぞ、アイツ。

「……不思議そうな雰囲気を出してますけど、本当のことですからね」
「私は何も言っていないが」

 エリステインは深く溜息をついて、半眼で私を睨む。
 よくまあこんなガタイの良い、鬼面マスクの人外相手に堂々とできるものだ。

「なんだか、あなたの事が少しだけ分かった気がします」

 貴様の言い方に、私はとっても不服だ。 
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