英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第119話
バリアハートの様子を見て回っていたリィンは職人通りの手すりに座っているフィーに気付いて尋ねた。
~バリアハート・職人通り~
「どうしたんだ、フィー。こんな所で……って、何で片方靴を脱いでいるんだ?」
「さっき歩いてたら靴底が壊れちゃって。ちょっとグキってなったから休んでるところ。」
「うーん、その靴もこれまでの戦いで随分消耗していたんだな。足、大丈夫か?」
「ん、大したことはない。靴もこれから直しに行くからリィンは気にしないで。」
(直しに行くって……その靴が壊れているのにどうするつもりだ?)
フィーの話を聞いたリィンは心配そうな表情で片方脱いだ事により、裸足になっているフィーの足に視線を向けた。
「ん、痛みも引いたかな。よっと。」
「―――ちょっと待て、フィー。まさか、そのまま歩いていくつもりじゃないだろうな?」
「?そうだけど。別にこれくらい慣れてるし。」
リィンに問いかけられたフィーは不思議そうな表情で答えた。
「あのな………女の子がそんな格好で出歩くものじゃないぞ?尖ったものでも踏んで怪我をしたらどうするんだ?」
「……むう。じゃあどうするの?」
リィンに指摘されたフィーはジト目で問いかけた。
「ふう、仕方ない。ここは俺が一肌脱ぐか。」
すると溜息を吐いたリィンがフィーを背中に抱えて靴屋まで移動した。
「ほら、到着したぞフィー。」
「…………………」
「ん、どうした?やっぱりどこか痛いのか?」
「……それは大丈夫。でも、あそこでおんぶを選ぶなんて……リィンって、つくづく天然だよね。」
「へ……」
フィーの指摘を聞いたリィンは呆け
(全く持ってその通りですね。)
(うふふ、それがご主人様の良い所だものね♪)
(ふふふ、ご主人様にとって最大の武器と言ってもおかしくありませんね。)
(ア、アハハ……ま、まあそうですよね。)
(でもその性格で救われた人がいるのも事実……私はそんなリィンを愛しているわ。)
リィンの身体の中にいるアルティナはジト目になり、ベルフェゴールとリザイラは微笑ましそうに見守り、メサイアは苦笑し、アイドスは微笑んでいた。
「……まあいいか。じゃ、店内にれっつごー。」
「いや、ここで下りなさい。」
こうしてリィン達は無事に老舗の仕立て屋まで辿り着き、フィーの靴の修理を頼んだ。修理はすぐに終わるらしく、それまで二人で店内を眺めてみることにした。
「おっ、これってフィーの好きな”ストレガー社”製じゃないか?」
フィーと共に商品を見て回っていたリィンはある靴を見つけるとフィーに視線を向けた。
「そうみたいだね。でも、この店のはどっちかっていうとフォーマルタイプっぽい。運動性が高いスニーカーなら新しいのが欲しかったんだけど。」
「うーん、色々とこだわりがあるんだな。団にいる時からそうなのか?」
「ん、お手伝いをしたお駄賃に団長にスニーカーを買ってもらって。………思えばあれが2番目のプレゼントだったかも。」
昔を思い出すかのようにフィーは目を閉じてリィンの問いかけに答えた。
「2番目……?」
「一つ目は……団長にもらった”クラウゼル”という名前だから。これだけは、どんなことがあっても絶対に手放さないと思う。わたしを―――”フィー・クラウゼル”にしてくれた、かけがえのないものだから。」
「……ああ、そうだな。俺も父さんにシュバルツァーの名をもらうことができた。お互い、今後も絶対に大事にしていかないとな。」
フィーの言葉を聞いたリィンは真剣な表情で頷いた。
「さっき、リィンにおぶってもらった時……少し、団長を思い出していた。」
「え……?」
「拾われて間もない頃、わたしをおぶってくれたことがある。広くて、頼もしくて………本当の父親みたいだった。」
「……フィー……」
「………でも、同時にようやく気付いた気がする。リィンの背中は………団長とはやっぱり違うって。Ⅶ組も”家族”だけど、それは団とは違う”家族”……ただみんなに守られていたあの頃と同じじゃ、だめなんだって。」
「あ……ああ、そうだな。同じⅦ組である以上、俺達は支え合わないと。どちらかが一方的にじゃなく、互いが互いを守れるように。」
フィーの意見に一瞬呆けたリィンだったがすぐに頷いて表情を引き締めた。
「ん、そのためならゼノたちに学んだ猟兵の力だって存分に振るえる。……がんばろ、リィン。同じⅦ組の”家族”として。」
「ああ、勿論だ……!」
その後、フィーのブーツの修理が終わるまで店内を見て回った後フィーと別れたリィンは街道に出る出入り口付近のベンチで座っているトワに気付き、近づいた。
~中央広場~
「……………………」
「会長、どうかしたんですか?」
ベンチに座って艦長の帽子を持って辛そうな表情をしているトワが気になったリィンはトワに話しかけた。
「あ……ううん。何でもないんだ。アルバレア公をプリネちゃん達に―――メンフィルに引き渡して何とかメンフィルが再びエレボニアに攻め入る時間を伸ばす事ができた……そう思ったら何だか気が抜けちゃって。その、待ち合わせには戻るからあんまり気にしないでね。」
「(なんだか元気がないような……ちょっと話していこうかな?)その、俺もここで休んでいっていいですか?気持ちのいいそよ風が吹いていて良い気分転換になりそうですし。」
「リィン君……うん、いいよ。」
リィンの問いかけに頷いたトワはずっと顔を俯かせていた。
「……その、会長。もし何か悩んでいるんだったら何でも言って下さい。」
「え……」
「会長には、士官学院でもカレイジャスでも本当にお世話になっています。年下の俺なんかじゃ頼りにならないかもしれないけど……もし、何か一つでも力になれることがあるなら恩返しをさせてもらいたいんです。」
「リィン君……えへへ、ありがとう。」
リィンの心遣いに感謝したトワはやがて本音を口にした。
「今更だけど……ちょっと自信が無くなっちゃったんだ。カレイジャスの艦長代理を引き受けた事に。」
「え……?」
「確かにアルバレア公爵夫妻をメンフィルに引き渡して、メンフィル帝国軍がエレボニア帝国に攻め入る時間を稼ぐ事はできた。でも、それで焼き討ちにあったケルディックの人達の傷が癒えるわけじゃないんだよね。幸い犠牲になった人はいなかったけど、それでも実際に傷を負った人達はいるんだし……」
「それは……」
トワの言葉を聞いたリィンはかける言葉がなく、複雑そうな表情をした。
「双龍橋でフィオナさんが人質になったときも……ルーレでアンちゃんが大変だったときも。わたしは結局、待っている事しかできなかった。でも、カレイジャスがあればきっと、もっと”何か”ができたんじゃないかって思うんだ。もし子爵閣下が艦長だったら……わたし以外の誰かが艦長代理を引き受けていたらって。」
「トワ会長……」
「えへへ……ゴメンね。こんな弱音を吐いちゃって。強くなろうって誓ったのに、全然ダメだね……わたし。こんなのじゃ、艦長代理失格かもしれない……」
「………………」
弱音を吐いて頭を俯かせたトワをリィンがジッと見つめたその時突如風が吹き、トワが持っている艦長帽が飛ばされた。
「あっ……」
「っと。」
風に飛ばされた艦長帽を遠くに飛ばされる前に手に取れたリィンはトワに近づいた。
「リィン君……?」
「失格だなんて……そんなことあるはずがないじゃないですか。カレイジャスの今の艦長は、トワ会長以外に考えられません。」
「で、でも……」
「俺達は士官学院生とはいえ、いまだ未熟な学生です。”光の剣匠”や皇子殿下、機甲師団の方達やメンフィル帝国のような肩書きも強さも持っていない。でも……そんな中でトワ会長は”艦長代理”という重要な責任を立派に引き受けてくれている。小さな体で、それでも自分の役割を果たそうと陰で必死に努力してくれている。だから俺達も頑張れる………強くなろうと思えるんです。」
「あ……」
そしてリィンはトワの頭に艦長帽を被せた。
「ふぇっ………?」
リィンに艦長帽を被せられたトワは頬を赤らめた。
「これまで各地を回って……確実に近づいているはずです。俺達のトールズ士官学院に。士官学院を取り戻すためには、トワ会長は絶対に必要です。だから……一緒に頑張りましょう。トワ会長が俺達を支えてくれるように俺達も会長を支えますから。」
「リィン君……えへへ……わかったよ。そうだよね……未熟だからこそ悩みながらも精一杯、前に進んでいかないと。そんな事も忘れていたなんて、わたしもまだまだだねぇ。」
リィンの言葉を聞いて呆けたトワはやがて元気を取り戻して苦笑した。
「会長……」
「きっと、あと少しだよね……士官学院とわたしたちの学院生活を、絶対取り戻そうっ!」
「はい……!」
リィンとトワは互いの意志を確認し、決意の表情をした。
その後リィンに元気付けられたトワはバリアハートの様子の見回りを再開する為に自分から去って行くリィンの背中を見つめていた。
「リィン君………………やっぱり君の事を諦められないよぉ……何とか頑張って諦めようとしていたのにまたそうやってわたしの心を奪うなんてずるいよ……でも………大好き………………」
リィンの背中を見つめていたトワは肩を落としていたがやがて頬を赤らめて小声で呟いた。
一方バリアハート市内を見回っていたリィンは貴族街のベンチに座っているエマに気付いてエマに近づいた。
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