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サイボーグ軍人

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10部分:第十章


第十章

「言われた役目を果たさせてもらう。だが」
「だが?」
「言わせてもらうことは言わせてもらう」
 このことは言うのであった。しっかりとだ。
「それでいいな」
「それもわかりました」
 使者はしっかりとした声で頷いてもきた。
「長官に伝えておきます」
「長官か」
「防衛省の長官です」
 それだというのだった。
「その長官にお伝えします」
「その長官は誰だ」
「八条義統です」
 その名前が今ここで言われたのだった。
「日本で防衛大臣を務めておられた方です」
「日本のか」
「御存知でしょうか」
「日本という国は知っていた」
 懐かしむ言葉だった。彼がサイボーグになりたての頃だ。ドイツにいた頃だ。その頃のドイツの同盟国の一つだったのだ。まさにその国だった。
「あの国か」
「あの国の防衛大臣でしたが今は中央政府国防省の長官です」
「思えばそれも因果か」
 ふとこうも言ったのであった。
「それもまた」
「因果とは」
 それを聞いた使者の顔が怪訝なものになった。
「それは一体」
「あっ、いや」
 使者の表情が変わったのを察してだ。ハルトマンは咄嗟に言葉を変えたのであった。そしてすぐにこう言い換えてきたのである。
「何でもない」
「そうなのですか」
「そうだ、何でもない」
「そうですか。それでは」
「連合軍か」
 その名前にも記憶があった。とはいっても名前だけであった。
 そしてだ。かつての己のことも言うのであった。
「ドイツは今は敵だな」
「はい、千年前から」
 即ちエウロパが宇宙に出てからの対立である。もっと言えば宇宙進出時代からの非常に根の深い対立である。そしてハルトマンもまた、だ。
「私も今では連合の人間になったのだな」
「いえ、大佐は確かアルム生まれでは?」
 今はシュメールにいる。だがそれでもアルム出身ということになっているのである。経歴はかなり改竄されているのである。少なくともドイツ出身ということにはなっていない。
「そうだったのでは?」
「そうだ」
 そして彼もそのことにしたのだった。
「その通りだ」
「ではドイツもまた」
「そうだ、敵だ」
 最早そうとしか思えなくなっていたのである。今ではだ。
「エウロパは敵だ」
「では。そのエウロパに勝てる様な軍を作り上げる為にも」
「この力役に立たさせてもらいたい」
 こうして彼は連合軍に入った。鬼大佐誕生の瞬間であった。一つの恐ろしい話がここからはじまるのであった。


サイボーグ軍人   完


                 2010・5・21
 
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