造られた神
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4部分:第四章
第四章
そこにおいて彼は言うのだった。またあの巨大な竈を出して。
「子供達を投げ込め」
今度は罰ではなかった。
「我への祝いだ。子供達を投げ込め」
「何故ですか?」
「罰ではないというのに」
痩せ細った人々は彼に対して問うた。今度ばかりは納得がいかなかったからだ。
「気紛れだ」
これが彼の返答だった。
「我はこの祝いの場で子供達の悲鳴が聞きたい」
だからだというのである。
「だからだ。投げろ」
「それは」
「投げ込め」
拒む人々に対して命じる。
「すぐに投げ込め。さもなければ御前の子供を投げ込む」
「私の子供を」
「そうだ。さもなければだ」
こう一人に言うのだった。
「投げ込まれたくなければ投げ込め。いいな」
「私の子供は」
しかしその一人は言うのだった。見れば痩せ衰えた中年の男だ。彼は弱々しい声ながらもそれでも神に対して言うのだった。
「もう皆。焼かれてしまいました」
これが彼の返答だった。
「竈の中で。ですから」
「ですから。何だ」
「それに従うことはできません」
遂に言ったのだった。
「どうしても」
「ならば御前が飛び込め」
神はそれを聞いても動じず言った。
「御前がだ。早く飛び込むのだ」
「いえ、私は飛び込みません」
しかし彼はその命をはねつけた。
「もう。私は貴方を神とは思いません」
「何っ」
「もう沢山です」
顔をあげて言った。
「ですから。飛び込むのは貴方です」
言葉と共に神を突き飛ばした。痩せ細っているがそれでも渾身の力で。竈の側に立っていた神をその中に突き飛ばしたのだ。
それを受けた神は竈の中に消えた。何も言わずただ竈の奥から金属が落ちた音がした。それから暫くして派手な爆発が起こった。神は炎の中で死んだのだ。
「死んだ?」
「神が」
人々はその竈で起こった爆発を見て言い合った。
「まさかとは思うが」
「神が」
「いや、死んだ」
一人が言った。
「神は死んだのだ」
また周りの人々に対して言った。
「今。確かにな」
「神が死んだのか」
「確かに」
「間違いない。竈の火を消してみればいい」
その言葉によって竈の火が消されその中が確かめられた。残っていたのは神の残骸だけだった。炎の中で爆発し頭だけが残っていた。黒焦げになった頭だけが。
「確かに。神のものだ」
「それではやはり」
「神は死んだのだ」
またこの言葉が出されたのだった。
「これでな」
「死んだか」
「ああ、死んだ」
その黒焦げになった頭を見ての言葉だった。
「これでな」
「じゃあもう苦しめられることはないんだな」
次に人々が言葉に出したのはこのことだった。
「これで。神が死んだのなら」
「そうだな、ない」
「死んだのだから」
次にこのことが確かめ合わされることになった。神が死んだことにより彼等が苦しめられることはなくなった、このことが確かめられたのだ。
「もうこれでな」
「そうか」
人々はこのことを確信すると安堵の息を出した。そしてそのうえで言うのだった。
「よかった。これで昔のような生活に戻れる」
「しかしだ」
だがここで。一人がその神だった存在の頭を見て言ってきた。その機械の頭を。
「神も。こうして壊れてしまえばただの機械だな」
「ああ、そうだな」
「機械に過ぎない」
人々はその壊れた機械を見てまた言い合った。
「こうなってしまえばな」
「本当にそれだけだな」
「最初からそうだったのかもな」
次に出た言葉はこれであった。
「我々が造った機械だからな」
「そうだな。我々が造った」
「ただの機械だった」
皆神の正体に気付いたのだった。神とは一体何であったのか。気付いたというよりは思い出したと言った方がよいかもしれないことだった。
「それが今こうやって壊れて」
「ガラクタになった」
壊れた機械はガラクタでしかない。そういうことだった。
「それだけのことだったんだな」
「ああ、本当にな」
そして誰もが言うのだった。
「それだけのことだったんだ」
こうして神はいなくなった。機械で造られた神はただのガラクタになって終わった。後はゴミとして捨てられスクラップとなってからは誰も知らない。それで何もかもが終わったのだった。災厄の記憶だけを残して。神のもたらした災厄を。
造られた神 完
2009・4・8
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