八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第七十三話 一杯のお茶漬けその三
「俺はな」
「そう言うんだ」
「ああ、俺は協調性がなくて自分勝手だからな」
「人の上に立つ柄じゃないっていうんだ」
「好き勝手したい奴は人の上に立つものじゃないさ」
こうも言った。
「背負うことになるからな」
「背負う、ね」
「ああ、背負うのが嫌なんだよ」
笑って焼酎を飲みつつ僕に言う。
「それでなんだよ」
「成程な」
「そうだよ、そしてその俺をな」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは認めてくれて」
「こうした生き方でいいって言ってくれた、感謝してるさ」
自分の生き方を認めて許してくれたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんをというのだ。
「だから早くいったのがな」
「僕が生まれる前に」
「それが残念でな」
それで、というのだ。
「今も墓参りはしてるさ」
「毎年してるよね、お墓参り」
「御前を連れてな」
「そうだね、それじゃあ」
僕はそのお墓参りのことを聞いてだ、親父に言った。
「明日にでも行く?」
「自分から言ってきたか」
「うん、そうする?」
「お墓参りは春にしただろ」
親父は僕に顔を向けて言った。
「そうだろ」
「うん、けれどね」
「それでもか」
「行かない?」
僕はあらためて親父に言った。
「ここはね」
「そうだな、毎年行っててもな」
「行く回数は決まってないよね」
「何回でもいいさ」
こうだ、親父は僕に答えた。
「それはな」
「それじゃあ行こうよ」
「部活は大丈夫か?」
「明日は十時からだから」
「そうか、じゃあな」
「うん、明日の午前中にも」
「行くか、早いうちにな」
朝早くにだ。
「そうするか」
「そういうことでね」
「いいことだな」
親父はしんみりとして言った。
「お墓参りも」
「悪いことじゃないのは確かだね」
「ご先祖様へやることはしっかりしないとな」
「孝行だよね」
「こういうこともな」
「だから忘れたらいけないんだね」
「まして俺は長男だ」
親父はこのことも話に出した。
「それならしないとな」
「長男だからなんだ」
「長男だとやることが多いんだよ」
「お墓参りとかも」
「ああ、だからしないとな」
「親父は確かに長男だけれど」
「長男だからな」
それ故にというのだ。
「こういうことはしないんだ」
「そうしたところはしっかりしてるね」
「というかな」
「というか?」
「親父とお袋の墓だ」
正面を見て真面目になった顔での言葉だった。
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