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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第七十三話 一杯のお茶漬けその二

「そこは」
「酒に強いのもか」
「そうだよ、焼酎の一本なら大丈夫だから」
 二本はいける、それで二日酔いにならない。
「僕はね」
「そうだな、俺も酒が強くてな」
 親父は僕の言葉を受けてこんなことも言った。
「祖父様もな」
「ああ、お祖父ちゃん」
「強かったな、酒」
「お祖父ちゃんね」
「むしろ俺より強かったんだよ」
「らしいね、僕が生まれる前に死んだらしいけれど」
 その一年ちょっと前に死んだ、お祖母ちゃんもその頃に。
「お酒強かったんだったね」
「そうだったんだよ、祖父様もな」
「どんな人だったの?お祖父ちゃん」
 僕はここで親父に尋ねた。
「お祖母ちゃんも」
「二人共真面目だったさ」
 一杯飲みつつだ、親父は僕に答えた。
「かなりな」
「そうだったんだ」
「仕事熱心で家庭も大事にしててさ」
「親父を育ててくれたんだ」
「何も辛い思いはしなかった」
 親父は正面を見て遠い目で語った。
「全然な」
「子供の頃から」
「ああ、いいことをしたら褒めてくれて」
 そしてというのだ。
「悪いことをしたら叱ってくれてな」
「普通の親なんじゃ」
「その普通がいいんだよ」
「普通じゃない人が多いから」
「いい人達だったよ」
 僕のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、親父にとっては両親になるその人達はというのだ。
「暖かくてな」
「そうだったんだね」
「ああ、俺が医者になりたいって言ってもな」
「そういえば親父は」
「八条家の人間だろ」
「うん」
 僕もそうだからだ、親父の言葉にはっきりと答えた。
「だったらね」
「八条グループのどっかの企業に入ってな」
「経営者になるよね」
「普通はな、けれど俺はな」
「お医者さんだね」
「ただの医者だろ」
 そのブラックジャックとさえ呼ばれる腕はともかくとしてだ。
「一介の医者だろ」
「別に経営側じゃないね」
「俺はそんなの柄じゃないんだよ」
「病院の院長さんとかは」
「ああ、柄じゃないからな」
 それで、というのだ。
「医者にはなりたかったけれどな」
「経営者にはなんだ」
「なるつもりなかったからな」
 それで、というのだ。
「医師免許取った時に親父とお袋に言ったさ」
「経営者になる気はないって」
「ああ、教授とかにもな」
「地位はいらなかったんだ」
「全然な、だからな」
 それで、というのだ。
「親父とお袋に言ったらな」
「認めてくれたんだ」
「俺の好きな様にしろってな」
「そう言ったんだね、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん」
「誰にも迷惑かけないなら俺の好きなままに生きろってな」
「そして生きてるんだね」
「そうさ、経営者になったらな」
 それこそともだ、親父は言った。
「こんなに自由には出来ないだろ」
「確かに親父の柄じゃないね」
「そうだろ、人の上に立つとかな」
「親父は一匹狼だからね」
「協調性がないんだよ」
 笑ってだ、親父は自分のことをこう僕に話した。 
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