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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第七十二話 夜の電話その九

「イタリアに行った時もそうだったけれど」
「俺らしいだろ」
「正直全然嬉しくないけれどね」 
「ははは、そう言うんだな」
「何度でも言うから、まあとにかくおかえり」
「ああ、ただいま」
 僕も親父も笑ってお互いに挨拶した、ここでやっと。
 そしてだ、僕は親父の今の服装を見てあらためて言った。
「いつもと違うね」
「いいスーツだろ」
 白衣じゃなくてそのままスーツだった。
「アルマーニだよ」
「ああ、イタリアの」
「やっぱりイタリアだからな」
「そのスーツなんだ」
「それだよ、気に入っててな」
「それで買って着てるんだ」
「この通りな」
「けれど暑くない?」
 僕は親父にあらためて問うた。
「日本の夏にスーツは」
「いや、これは生地が薄いからな」
「大丈夫なんだ」
「ちょっと位だな」
 その暑さはというのだ。
「汗はぎりぎりかかないな」
「ならいいけれど」
「ああ、しかし久し振りに母校にも来たが」
 親父もこの学園出身だ、保育園から大学院まで出ている。
「変わらないな」
「そうなんだ」
「ああ、あそこの木なんてな」
 こう言って入口の桜の木も指差して言った。
「もうずっとなんだよ」
「このままなんだ」
「でかくてな」
「春になったら満開で」
「それを見るのが楽しみだったんだよ」 
 笑顔で僕に話すのだった。
「ずっとな」
「親父の高校時代はだったんだ」
「春の楽しみだったよ、その桜もな」
「見ての通りなんだね」
「そのままだな」
 親父が在籍していた頃からというのだ。
「変わってなくて何よりだよ」
「色々変わってると思うけれどね」 
 僕は笑顔の親父に現実から突っ込みを入れた。
「親父がいたのは二十年以上前だから」
「そうだろうな、けれどな」
「感覚的にはなんだ」
「ああ、変わらないな」 
 暖かい目のままでの言葉だった。
「本当にな」
「そうなんだね」
「ああ、それでこれからな」
「親父二日は日本にいるんだよね」
「ちょっと付き合うか?」
「付き合うって?」
「飲みに行くか?」 
 笑ってだ、僕にその誘いをかけてきた。
「これから」
「お酒?」
「ああ、どうだ?」
「親父が飲みに行く場所って」 
 僕は親父のその誘いに眉を顰めさせて返した。
「女の人が沢山いるお店じゃないよね」
「流石に高校生は無理だな」
「そうだよね」
「ホステスのお姉さん達もいいけれどな」
 いつもの親父の言うことだった、完全に。 
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