英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第13話
~ケルディック~
「―――さて、町に来たからには用心しないとな。」
町に到着したマキアスは眼鏡を取った。
「ああ、変装か。」
「え……?ど、どうして変装を?ここはメンフィル領ですわよ?」
マキアスの行動を見たリィンは目を丸くし、セレーネは不思議そうな表情をした。
「プリネの話では僕の場合、帝都知事の息子として貴族連合にⅦ組の中での特にマークされているらしくてね。革新派の有力者達もことごとく逮捕されているそうだ。他国の領とはいえ、念には念を入れないとな。」
「ふーん、確かに意外とわからないものね。」
「人間の印象は目を大きいからな。眼鏡で変化をつけるのはアリだと思うぜ。しかし、視力は大丈夫なのか?」
「…………努力します。」
トヴァルの指摘を聞いて少しの間黙って答えたマキアスの答えを聞いたリィン達は冷や汗をかいた。
「ア、アハハ……」
「できるだけフォローするから言ってくれよ。」
「ともかく町を一回りしてみるか。そうだ、元締めの家やギルドを訪ねてみるのもいいかもな。オットー元締めやギルドなら何か情報がもらえるかもしれん。」
「ええ、無事に合流できたことを報告しておきたいですし、訪ねてみましょうか。」
「はいはい、何でもいいけど早く行きましょ。」
町に再び足を踏み入れたリィン達はまず、ギルドに向かった。
~遊撃士協会・ケルディック支部~
「ここがケルディックの遊撃士協会……」
「あの板に張っている紙はもしかして”依頼書”ですか?」
「ああ。しかし……」
ギルドの中に入ったリィンと共に興味深そうに周囲を見回していたセレーネの疑問に答えたトヴァルは何かに気付いて真剣な表情で依頼版を見つめ
「見た限りでも相当な数の依頼書が張ってあるわね。」
「……依頼書が多いという事は多くの市民達が困っているという事だよな?メンフィル領になったケルディックはプリネ達が善政を敷いている事によって、様々な問題が解決したと聞いているが……」
「―――難民達が増えている事や本日急遽発表された検問の件もあって、その関係で増えているんですよ。」
依頼版に収まり切れないほど貼ってある依頼書を見たセリーヌと考え込んでいるマキアスの指摘に応えるかのように受付から声が聞こえ、声が聞こえた方向に視線を向けるとそこには紫色の髪を腰までなびかせている青年がリィン達を見つめていた。
「よ、ベルモン。久しぶりだな。」
「ええ、お久しぶりです、トヴァルさん。」
「えっと……もしかしてギルドの……?」
トヴァルと親しそうに話している青年にリィンは不思議そうな表情で話しかけた。
「―――初めまして。遊撃士協会・ケルディック支部の受付を務めているベルモンと申します。貴方が噂の”灰の騎神”の操縦者ですね?お会いできて、光栄です。」
「!俺の事を知っているんですか……」
「ええ。それとそちらの喋る猫さんの事もマキアスさん達から聞いていますよ。」
「そう。じゃあ、説明の必要はなさそうね。」
青年―――ベルモンの言葉を聞いたリィンは驚き、セリーヌは静かな表情で呟き
「ハハ…………そういやさっき”蒼黒の薔薇”のお嬢さんからギルドに様々な依頼をしたと聞いていたが……」
セリーヌの様子にトヴァルは苦笑しながら見つめた後ベルモンを見つめた。
「ええ、内戦の影響によって今後起こり続けるであろう問題解決の依頼をする為に彼女が”メンフィル帝国の代理”として来まして。その際にルクセンベール卿――――メンフィル帝国から今後起こる問題解決の”依頼”に対する”報酬”として、1000万ミラが支払われました。」
「なっ!?」
「ええっ!?」
「い、1000万ミラですか!?」
「”国”が遊撃士に依頼する時の相場は知らないけど、さすがに取りすぎじゃないかしら?」
ベルモンの説明を聞いたリィン達が驚いている中、セリーヌはトヴァルに視線を向け
「いやいやいや!?取りすぎも何も、ありえねえって、そんな法外な値段の依頼なんて!というか、何でお前さんもそんな法外な金額を”報酬”としてアッサリ受け取ったんだよ!?」
視線を向けられたトヴァルは疲れた表情で答えた後ベルモンに指摘した。
「無論、私も最初はそのような大金は受け取れないと断りましたが……ルクセンベール卿からメンフィル帝国は内戦の影響によってエレボニア帝国に隣接している自国領で膨大な数の問題が起こり続けると予測し、それらを解決する”依頼”を纏めた分の”報酬”だと諭され、渋々ですが受け取ったのです。実際見ての通り、膨大な数の依頼が来ていて現在常駐している遊撃士達やリベールから応援で来ている遊撃士達でも捌ききれない状況ですから、メンフィル帝国の予想も強ち間違ってはいないでしょうね。先程他のメンフィル帝国領にあるギルドにも確認した所、そちらでもこのケルディックと同じ状況で、メンフィル帝国政府の使者がこちらの支部同様今後起こり続ける問題解決を”依頼”し、法外な金額の”報酬”を支払ったそうです。現在はエレボニア帝国領と隣接しているメンフィル帝国領にあるギルド支部全てがレマン自治州にある本部に他国の遊撃士の応援の追加の派遣を要請している所です。幸いメンフィルから支払われた法外な金額の”報酬”がありますから、それをうまく配分すれば普段より多めの”報酬”を支払う事ができますから、それを目当てに応援に来る遊撃士達もいるでしょうね。」
「それは…………」
「実際今も様々な問題が起こっている話はお姉様も仰っていましたものね……」
「そしてそれら全てがエレボニア帝国の内戦が影響しているなんて、エレボニア帝国人として肩身が狭いよ……」
ベルモンの説明を聞いたリィンやセレーネ、マキアスは辛そうな表情をし
「………………リベールの遊撃士で思い出したが、エステル達は今、どうしているんだ?」
「あ……!」
「そう言えばエステルさん達はケルディック支部に常駐している遊撃士でしたね……」
トヴァルの質問を聞いたリィンとマキアスはそれぞれ目を丸くした。
「彼女達でしたらレグラム支部への応援の為に先日ケルディックを発ち、先程レグラム支部に到着したという報告がレグラム支部から来ました。」
「へっ!?」
「レグラムというとラウラさんの故郷でしたわよね?」
ベルモンの答えを聞いたリィンは驚き、セレーネは不思議そうな表情をし
「何でまたあんな辺境にいるのよ?あの娘達、遊撃士の中でも相当な腕利きでしょう?今の状況でそんな辺境にいるなんて、勿体ないと思うけど。」
「君な……少しはオブラートに包んだ言い方をしたらどうだ?」
セリーヌの指摘を聞いたマキアスは呆れた表情でセリーヌを見つめた。
「トヴァルさんがいなくなった事でエレボニア帝国領でも数少ないレグラム支部の遊撃士がいなくなりましたからね。その抜けた穴を補う為に少々惜しいですが、彼女達にレグラムに行ってもらったんです。」
「ハハ……あいつらにも借りができちまったな。……にしてもあいつら、レグラムまでどうやって行ったんだ?列車は今の状況だと無理だし、徒歩で行くにしてもバリアハートの検問を越える必要があるが。第一あいつら、以前バリアハートで大暴れをした事で、領邦軍からマークされているだろうに。」
ベルモンの説明を聞いたトヴァルは苦笑した後首を傾げた。
「既に皆さんもご存知かと思いますが、エステルさんは多くの異種族達と”契約”しています。そしてその中には飛行できる大型の魔獣がいますから、その魔獣に乗って空を飛んでバリアハートを通過したとの事です。」
「ええっ!?」
「まあ、領邦軍もまさか飛行する魔獣に乗って自分達の領地を通過するとは誰も想像していないでしょうね。」
「そ、そう言えばエステルさんが”契約”している異種族の中には飛行可能な大型の魔獣がいたな……」
「あ、ああ。確か、”カファルー”と呼んでいたな。」
「ハ、ハハ……相変わらず滅茶苦茶な奴だな。”反則”と言ってもおかしくねえんじゃねえか?そんな常識外れな方法……」
エステル達がバリアハートを越えた理由を聞いたセレーネは驚き、セリーヌは納得し、リィンとマキアスはそれぞれ表情を引き攣らせ、トヴァルは苦笑した後疲れた表情になった。
するとその時ギルドの扉が開かれ、赤い髪で頬に傷があり、背中には身の丈程ある”重剣”を背負った青年がギルドに入って来た。
「………………」
ギルドに入って来た青年は目を細めてリィン達を見回し
「ん?お前さんは………」
(な、何だあの男……何で僕達を睨んでいるんだ?)
(何だか、雰囲気が怖い人ですわね……)
(”支える籠手”の紋章があるということは遊撃士みたいだな。それも相当な腕利きだ。)
青年を見たトヴァルは目を丸くし、マキアスとセレーネは戸惑い、青年の服についている”支える籠手”の紋章に気付き、更に青年の実力を感じ取っていたリィンは真剣な表情で青年を見つめ
「おい、ベルモン。何でガキ共やガキ共のペットがギルドにいる?それに何でトヴァルがここにいるんだ?」
青年はリィン達を睨んだ後ベルモンに視線を向けた。
「なっ!?」
「ガ、ガキ!?」
「えっと……」
「誰がペットよ!誰が!」
青年の口の悪さにリィンとマキアスは厳しい表情をし、セレーネは戸惑い、セリーヌは青年を睨み
「ハハ、口が悪いのも相変わらずだな、”重剣”。」
トヴァルは苦笑しながら青年を見つめた。
「ほっとけ。……ん?ちょっと待て。今、その猫が喋らなかったか?」
「フン、粗暴な見た目とは裏腹に観察眼はそれなりのようね。」
青年に視線を向けられたセリーヌは鼻を鳴らして答え
「………………ハアッ!?猫が喋っただと!?おい、まさかとは思うがレグナートと同じ存在だとか言うんじゃねえだろうな?」
猫であるセリーヌが喋った事に石化したかのように固まっていた青年は表情を引き攣らせてセリーヌを見つめ
「”レグナート”…………――――リベールの”異変”の際に現れた”空の女神”の”眷属”ね。まさかアンタみたいな奴が、”空の女神”の”眷属”に会っているなんて驚きだわ。」
「エ、”空の女神”の”眷属”!?」
「確かそれって、リベールの”異変”の際に現れた”古代竜”だよな……?」
「…………おい、ベルモン。何なんだよ、こいつらは……」
セリーヌの話を聞いたリィンは驚き、マキアスは考え込み、青年は疲れた表情でベルモンに視線を向け
「フフ、彼らは―――」
青年の様子を見たベルモンは苦笑しながらリィン達の事を説明した。
「フン、なるほどな。”紫電”とあの野郎が担当しているクラスの生徒どもか。」
「えっと……”あの野郎”という方はもしかして……」
「レオンハルト少佐の事ですか?」
青年の言葉が気になったセレーネは不思議そうな表情をし、リィンは尋ね
「…………ああ。――――アガット・クロスナー。リベールの遊撃士だ。」
尋ねられた青年―――アガットはある人物―――レーヴェの姿を思い浮かべて苦々しい表情をした後名乗った。
「ちなみにアガットもエステル達と一緒に”リベールの異変”を解決した立役者の一人なんだぜ?」
「ええっ!?」
「あのリベールの……!」
「へえ?あの件にも直接関わっていたのは驚きね。」
「フン…………」
トヴァルの説明によって目の前の遊撃士の経歴を知ったリィンとマキアスは驚き、セリーヌは興味ありげにアガットを見つめ、アガットはリィン達の様子に対して全く気にしないかのように鼻を鳴らし
「えっと……アガットさんはレーヴェさんと何かあったのですか?その……レーヴェさんに対して、あまり良い感情を持たれていないような呼び方をしていますが……」
ある事が気になったセレーネは戸惑いの表情でアガットを見つめて尋ねた。
「あ~、実は”リベールの異変”の際に”剣帝”とやり合った時に色々あったらしくてな。何でもエステル達の話では一方的に負けた相手である”剣帝”の事を無謀にもライバル視をしているらしいぜ?」
苦笑しながら答えたトヴァルの説明を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「余計な事を言うんじゃねえ!しかもエステル達もふざけた事を言いやがって!次に会った時、絶対にシメてやる……!」
アガットは怒鳴った後顔に青筋を立ててこの場にはいないエステル達に怒りを抱いた。
「フフ……―――ちなみにそちらにいるアガットさんがリベールから応援で来た遊撃士の一人です。彼や彼の弟子である遊撃士の方達が来てくれたお蔭で随分助かっているんですよ。」
「”弟子”、ですか?」
ベルモンの説明を聞いたリィンは不思議そうな表情でアガットを見つめ
「ふざけた事を抜かしてんじゃねえぞ、ベルモン!俺がいつ、あいつらの師匠になったんだよ!?」
アガットは心底嫌である事を示すかのような表情でベルモンを睨んで怒鳴った。
「ほう……って事は元”レイヴン”の連中も来ているのか。」
「トヴァルさんはその方達の事を知っているのですか?」
「”レイヴン”は”渡り鳥”を意味しますが……」
トヴァルが自分達が知らない人物達の事を知っている事を知ったリィンはセレーネに尋ね、マキアスは考え込んだ。
「ああ、何でも以前はリベールの”ルーアン市”でたむろしていて、時折市民達に迷惑をかけていた不良集団だったそうなんだが……エステルがそいつらを更生させ、エステルによって更生した”レイヴン”の連中は”リベールの異変”の際は率先して遊撃士(俺達)の手伝いをしていたらしくてな。”リベールの異変”解決後はその不良集団は解散して全員真面目な仕事に就きはじめた上、その不良集団のトップだった3人は遊撃士の道を歩んで今では3人共正遊撃士としてそれぞれリベールで活躍しているそうだぜ。」
「エ、エステルさんが不良集団を更生!?」
「あ、相変わらずとんでもない武勇伝を持っているんだな、エステルさんは……」
「フフ、さすがお姉様の親友であるミントさんの”パートナー”ですわね。」
「しかも不良集団のトップが真逆の存在である遊撃士になるって、どんな経緯があったのよ……」
トヴァルの説明を聞いたリィンは驚いて声を上げ、マキアスは表情を引き攣らせ、セレーネは微笑み、セリーヌは疲れた表情で溜息を吐いた。
「フン…………――――おい、ガキ共。一つだけ忠告しておく。お前ら、エレボニア帝国の内戦の状況を打開する為に何らかの形で干渉するそうだが………―――”戦争”はガキが何人集まった所で解決できる程甘くねえ。下手に手を出したら、待っているのは”死”だ。」
「そ、それは………」
「…………………」
「フン…………」
アガットの忠告にセレーネは口ごもり、マキアスは複雑そうな表情で黙り込み、セリーヌは鼻を鳴らし
「……―――自分達の身の程は弁えているつもりです。ですが、俺達はオリヴァルト皇子が俺達に期待していた”第3の風”――――”Ⅶ組”として内戦をどうにかする俺達なりの方法を絶対に諦めずに探るつもりです。勿論、はぐれた仲間達とも必ず合流してみせます……!みんなやクロウを取り戻し、俺達の”明日を掴む為”に……!」
「ほう……」
「お兄様……」
「リィン……ああ、そうだな……!」
「いつも思うけどよくそんなに次から次へと恥ずかしい台詞が出てくるわね。」
拳を握りしめて決意の表情をしてアガットを見つめるリィンの様子を見たベルモンは感心し、セレーネとマキアスは明るい表情をし、セレーネは苦笑しながらリィンを見つめた。
「…………フン、あのスチャラカ皇子が関わっている学生からそんな言葉が出てくるとは、正直驚いたぜ。せいぜい死なないように、気を付けておくんだな。」
決意の表情をしているリィンの目をジッと見つめていたアガットは鼻を鳴らした後2階に上がって行った。
「え、えっと……?」
「ハハッ、やるじゃねえか、リィン!あのアガットが褒めるなんて、滅多にない事だぜ?」
「ええ。フフ、さすがはあの”帝国解放戦線”のテロを喰い止め続けた”Ⅶ組”のリーダーですね。」
アガットがいなくなった後戸惑っているリィンにトヴァルとベルモンは感心した。
「さすがお兄様ですわね!」
「ハハ、そう言う所も相変わらずで本当にあの頃を思い出すよ……!」
「ま、馬鹿にされていたのに瞬時に見直してもらえるなんて、中々出来る事じゃないわよ?」
セレーネ達もそれぞれリィンを褒め称え
「ハハ…………(というか、”スチャラカ皇子”って、オリヴァルト殿下の事だよな?前々から思っていたけど、オリヴァルト殿下、リベールでどういう旅行をされていたんだ?エステルさん達からもぞんざいな扱いをされているみたいだし……)」
褒め称えられたリィンは苦笑しながら答えを誤魔化していたが、アガットやエステル達のオリヴァルト皇子に対するぞんざいな扱いを思い出して冷や汗をかいて。
その後ギルドを出たリィン達は町の徘徊を再開した。
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