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お好み焼き

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3部分:第三章


第三章

「食ってそのうえでだ」
「どっちが上か確かめてもらうんですね」
「そういうことだ。ただし金は払えよ」
「えっ、審査するのに金かかるんですか?」
「それって何か」
「心配あらへんで」
「そこんところは勉強しておくけんのお」
 桜と菜月がここで嫌な顔をするクラスメイト達に対して言うのであった。
「一枚五百円のところを四百円」
「それでどうじゃ」
「まあその位ならいいか」
「そうだな」
 皆その値段なら、と納得するのだった。やはり普段よりも安いというのも売りになっていた。皆こうしたところはしっかりとしていた。
「じゃあ俺達はそれでな」
「楽しく食べさせてもらうぜ」
「わかったら学校中に宣伝するからな」 
 先生がまた皆に対して言う。
「それでいいな」
「ええ。先生が奢ってくれるんなら最高だったんですけれどね」
「それはないですか」
「俺を破産させる気か」
 むっとした顔になって言い返す先生だった。また随分とノリがいいようである。
「御前等全員にそんなことできるか。自分の金で好きなだけ食え」
「まあそういうことで」
「今度の日曜だな」
「負けへんで」
「それはこっちの台詞じゃ」
 皆が早速お好み焼きを楽しみにしているところで桜と菜月はまた睨み合うのであった。
「大阪の味に勝てるのはあらへんからな」
「広島は至高じゃ。思い知らせたるけえのお」
 こう言い合いそれぞれ勝利を誓い睨み合うのだった。そして時間は瞬く間に過ぎその日曜日になった。学校の中庭に並んで二軒の屋台が並んでいる。それぞれ桜と菜月が中にいて鉄板の上に油をひきそこで早速両手に持っているヘラを使ってお好み焼きを焼いていた。
 まず桜のそれは大阪風だった。分厚く焼かれておりその中にキャベツや豚肉や具が入っている。やはり彼女はそれであった。
 対する菜月のそれは当然ながら広島風である。二枚の薄い生地の間にキャベツやモヤシや具が入っている。こちらも当然と言えば当然であった。
「さあ、いよいよだな」
「そうだな」
 皆その一枚ずつ的確に、だが手早く焼かれていくそのお好み焼きを見つつ屋台の前に集まっていた。もうソースや青海苔、鰹節の匂いが辺りに満ちている。当然マヨネーズもある。
「どっちが美味そうだ?」
「俺は大阪かな」
「私は広島ね」
 二人の屋台を覗きながら皆それぞれ言う。
「やっぱりな。どっちかっていうと」
「そちらかしら」
「けれどどっちにしろな」
「ああ。食べたいよな」
「もうすぐよね」
 やはりまずはそれだった。そのソースの暴力的な香りの前に皆暴動寸前だった。とにかく今まさに戦いがはじまろうとしているのであった。
「さてと、いよいよか」
 そのゴリラブタと呼ばれている先生が屋台の前に皆が集まっているのを見て楽しそうに言う。
「そろそろはじまるな。じゃあ俺も」
「おや、袴田先生」
 ここで温厚な顔の老人に声をかけられるのだった。
「貴方も参加されるのですね」
「あっ、校長」
 その老人はこの学校の校長先生だった。生徒からも教師からもその温厚な人柄で評判の人物である。当然PTAからも人気が高い。所謂いい先生である。
「先生も」
「ええ、まあ」
 ちらりと屋台の方を見つつ校長先生に答える先生だった。
「言いだしっぺですしね、私が」
「いい案だと思いますよ」
 校長先生はその温厚な笑みで先生に対して述べた。
「やはり。食べ物の言い争いはその食べ物で解決するのは一番ですから」
「だからですか」
「はい。それにです」
 見れば校長先生にしろその視線はじっと二つの屋台の方に向けられている。そこから離れるところがないのがみそであった。
「私も。楽しみにしています」
「校長もですか」
「実は。お好み焼きが大好きでして」
 温和でかつにこやかな笑みを浮かべて述べる校長先生であった。
「私もまた」
「左様ですか。ではどちらを?」
「それは断定できません」
 今度はそれぞれの屋台を見ての言葉であった。
「それに関しましては。実際に食べてみないと」
「そういうことですか。それでは」
「はい」8
 早速一歩前に出る校長先生であった。
「少し。確かめてきます」
「そうですな。では私も」
 この先生もまた校長先生に続いて屋台に向かう。屋台の前に来るともう行列になっていた。そこに並ぼうとすると早速生徒達が彼を見て言うのであった。
「げっ、ゴリラブタじゃねえか」
「何しに来たんだよ」
「まさか食いに来たのかよ」
「また太るぜ、あいつ」
「聞こえてるぞ、こら」
 いつもの如く無茶苦茶言われたので言葉を怒らせる先生であった。
「俺が太ろうがどうなろうが勝手だろうが。違うか?」
「けれど先生って糖尿ですよね」
「あれ、痛風じゃなかったか?」
「俺高血圧って聞いたぜ」
 どれにしろ聞きたくもない不吉な名前の病気ばかりであった。確かに大人になればこういった病気のことが気になったりするものだ。しかし彼等の言葉はこれまた実に無遠慮でありしかも先生の神経を逆撫でするのに充分過ぎる程のものであったのであった。
 そして先生はそれを聞いて。やはりいつものように言うのであった。最早この学校ではお約束ともなっている話の流れであった。
「どれにもなっとらんわ」
「あれっ、そうなんですか」
「成人病じゃないんですか」
「そこには気をつけているわ」
 これは本当のことである。太っているから余計にであった。
「かみさんに言われてな。ちゃんとしているぞ」
「げっ、先生結婚していたんですか!?」
「嘘でしょ、それ」
「嘘言うと閻魔様に舌を抜かれますよ」
「・・・・・・あのなあ」
 生徒達のあまりにも酷い言葉に流石に閉口しつつも言うのであった。
 
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