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少年は旅行をするようです

作者:Hate・R
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少年は真剣で恋するようです 弐

 
前書き
単発と言ったな、あれは嘘だ。 

 
Side 大和

「決闘しようじゃないか、ノワール!」


ノワールさんに負けた翌日。予想通りと言うか何というか、姉さんは早速再戦を

挑んでいた。楽しげに笑いながらもワン子すら少々怯えるだけの闘気を真正面から

受けたノワールさんはしかし、弟さんをおぶったまま鬱陶しそうな顔をして振り返った。


「礼儀がなってないわね、百代。朝に人と会ったら"私と戦え"と言いなさいって教わったの

かしらぁ?親の顔が見てみたいわねぇ?」

「うぐぅっ!?す、すまない……おはよう、ノワール。」

「ええ、お早う。あと、戦うのは嫌よ。」


姉さんが一切反抗する事なく謝った!?借金もしていないのに!?・・・いや、そこじゃないって。

たった二言三言やり取りしただけで姉さんの戦闘意思を抑え込むなんて、この人本当に凄いな。

しかし、叱責されてしょぼーんとなっていたが、さらりと断られた事に気付くと元気になる。


「な、何故だ!?まさか戦うのが嫌いと言う事じゃないだろう!?」

「そうねぇ。あなたって弟とか妹が居るかしら?」

「唐突だな……まぁ、いるが。小さい可愛いポニーテールがワン子、ふつーのが大和だ。」

「俺の扱い雑じゃない!?」


普通と言われて若干傷ついたが――これでも少しは鍛えているのに――こちらを

見られた瞬間、心臓を握られた様に胸が締め付けられ、冷や汗が滝の様に溢れ出す。

ふざける余裕すら無い。これは・・・ああ、嫌なくらい覚えがある。・・・恐怖だ。

横に居るワン子も同じらしく、微動だに出来ないでいる。


「成程ね。さて、想像なさい。あなたは寝ぼけたままのワン子ちゃんをおぶって

学校に向かっているわ。」

「あ、ああ。」

「それはそれは天使の様に可愛らしく、愛でる以外に方法が見つからない寝顔でね。

そんな人生の至福である時間を、大声で喚きながら邪魔してくる吹けば飛ぶような人が割り込んで

来たらどうかしら?許せるかしら?無理よねぇ?ここら一帯塵に返したくなるわよねぇ?」

「本当にすいませんでした心より反省しています。心にしかと刻み、以後気をつけます……。」


ズゴゴゴゴ――と擬音を背後に背負っていたノワールさんに気迫負けした姉さんが

平身低頭で謝った。もういろんな意味で姉さんがこの人に勝てる気がしない。

・・・それにしてもこの人何者なんだ?こんな達人が今まで隠れ住んでたのか?

だとしたら、なんで態々出て来たのか・・・?


「そう難しい事じゃないわよ?シュウがそう望んだからそうしているだけ。

取り敢えず、遅刻してしまうわよ。早く行きましょう。」

「無駄に真面目な……。まぁ良い、美女と美少女?追加で登校だ。ぬっふふふ~。」

「…………言っておくけれど、手を出したら危険だからやめたほうが良いわよ。」


先程の剣呑さはどこへやら、弟さん(シュウと言うらしい?)をおぶり直し、姉さんとトコトコ

歩いて行く。まぁそのサッパリさは姉さんで慣れているんだが・・、何故か俺の背に未だに隠れて

鬱陶しい事になっているワン子を引っぺがす。


「どーした、お前。そんなにおっかない人だったか?」

「う、ううん。の、ノワール、さん?じゃ無くて、弟さんの方が…。」

「弟の方、って。」


あの人畜無害どころか天変地異が起こっても寝てそうな子が?と前を見たが、三人の姿は既に

見えなくなっていた。・・・気のせいだと思うが、こいつの野生の勘はたまに凄いからな。

後で調べとこう。


「ま、そんな悪い子でもなさそうだし気にすんな。学校行くぞ。」

「う、うん……。」


まだビビッてるワン子の手を引いて、学校へ向かう。

・・・しかし、どんどん"変態橋"のレベルが上がっていく気がするな。

………
……


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
「おはようノワーァアアアアアあああぁぁあぁぁーーーー!!?」(ドップラー

「全く……毎日毎日良く飽きないものねぇ。心配だわ。」

「おはようございます。ウチの姉がホントすいません……。強い分頭が残念と言うか、戦う事と

美少女愛でる事しか頭にないと言うか……。」

「おはよう、大和君。いえ、私が心配しているのは百代の残念な頭ではないのよ。」


鮮烈な転校から一週間。川神最強となったノワールさんは熱烈なファンを増やし、背中の愁磨君は

庇護欲をそそるとアイドルのような扱いとなっていた。

・・・それを姉さんが黙って見ている筈も無く、とうとう三日前から強行手段に出ては吹っ飛ば

されると言う行為を繰り返していた。にしても愁磨君が碌に起きてる所見たこと無いんだが。

授業中も寝てるらしいし。


「ま、そうなったらそうなったで仕方ないしね。」

「は、はぁ……?」


何を指しているか分からないから胡乱な返事しか出来ず困っていると、置いて来ていた皆が

追いついて来た。


「おはようございます、ノワールさん。今日もお美しい。」

「おはよう岳人君。ちなみにお返事はノーよ。」

「まだなんも言わねぇウチから振られた!?」

「ククク、これで3日連続フラれてるね。どこまで記録を伸ばすかな。私達の子供何人まで

記録伸びるかな、大和?」

「まだ一人もいないしお友達で。」


初めに突っ走って来て振られたマッチョなナイスガイ(自称)の岳人。

罵倒と挨拶(最近急激に飛躍するようになって来た)して来た京。


「その後からトコトコ歩いて来た金髪美少女のクリスと、剣を抱いたけしからん一年生の

まゆっちと、最近女装に目覚めたモロ、と。ワン子は?」

「そろそろ切り上げて戻ってくる頃だと思うが……って言うか、な、なんだ朝から!

そ、そんなお世辞を言われたっておいなりさんはあげないぞ!」

「って言うか僕の紹介酷くない!?」

「う、うぅ……けしからんってなんですか大和さぁん。」


俺の紹介が気に食わなかったのか、口々に文句を言う三人。

と、いつものようにまゆっちの声に反応し、今まで毛ほども動かなかった白い

頭が持ち上がり、ぽやっと開いた目がこちらを見た。


「あ~……おはよぉまゆまゆ。」

「おはようございます、愁磨さん!今日も眠そうですね。」

「ん~~……。」


すたっとノワールさんの背を降りトコトコまゆっちの背に回り、しゃがんでいた

背中にぽてっと垂れた。それを慣れた手つきで背負い直して立ち上がる。

・・・うん、不思議な光景のはずなんだけど慣れちまったな。あと若干怖くなったノワールさんも。


「おねがいしまぁす、まゆまゆ~。」

「うん、任されました!」

「それじゃぁまたほーかごねぇ、ねーさぁ…………くー。」

「はいはい。それじゃお願いねまゆちゃん。」

「ハッ、喜んで!それではお先に失礼します!」
ドウッ!

愁磨君を背負ったまゆっちは跳躍一発、先に学園へ飛んで行った。

入学二日にクラス変更して、寝まくっていたのをまゆっちが背負って移動教室

させてたら普通に友達になったらしい。喜ばしい事かな。・・・と、言う事は。


「みんなー!おはよぉーー!」

「あらワン子ちゃんおはよ。相変わらずシュウがいなくなってから来るのね。」

「うぐっ。いやぁ~、なんとなく苦手意識があってー。」

「勿体無いぞワン子。あんなに可愛いのに!」

「うわぁ!?モモ先輩何時の間に戻ってきたの!?」

「飛ぶのに飽きたからノワールから習った舞空術試してみた!便利だなこれ!」

「あら、もう習得したの?やっぱり出来た子ね百代。」


ワン子がやっと合流し、残った皆で学園へ向かう。

結局、この姉弟の情報は全くと言って良いほど集まらなかった。姉さんのお陰で(と言うかせいで)

一週間見てたが、怪しいと言うよりむしろ好ましいと思える人達だ。愁磨君は二日目からSクラス

からFクラスに移ったりと良く分からない行動をするが。いっつも寝てるし。


「あ、そーだノワール!今日悪者退治のバイトやるんだ、来ないか!?」

「なにその怪しいバイト面白そう。喜んで参加させて貰うわ。」

「言っておくけど姉さん、分け前は自分の分から出してよね。」

「別にいらないわよ?食費困ってないし、シュウのお弁当あるし。」

「ほー、意外だな。あのぽやっとぼやーっとした子が。」


ワラワラーっと8人で橋を渡る。

ここにキャップも入れば大変な事になるだろうなぁ。何処にいるのやら。

Side out


Side ノワール

『こちら大和。敵さんは全員建物に入りました。正面部隊どうぞ。』

「はいはーい、こちら年上美人お姉さん部隊。いつでも行けるぞ。」

「サラッと俺を除外しねぇでくれよモモ先輩!」


放課後・・・ではなく5時限目を抜け出して"親不孝通り"とか言う怪しい路地裏街に連れて来られて、

更に怪しい廃工場前で待機している次第。ちなみに京ちゃんは裏出口を狙撃、クリちゃんと

ワン子ちゃんが左右から挟撃。シュウが寝てたのでまゆちゃんはお留守番。

と状況を確認していたら、大和君から突撃秒読みが伝えられた。


「それじゃノワール、ひと勝負と行こうか。」

「良いわね。それじゃどっちが多く倒せるか勝負よ。」

『あ、あははは……行くよ。3・2・1、ゴー!』
ドドウッ!

瞬間、二人同時に廃工場へ突撃する。未強化とは言え私と同じ速度で動けるなんて、

やっぱり百代は強いわねぇ。ちょっとやる気を出した所で前を見る。居るのは不良が45人。

ああ良かったわ。次に持ち越し、なんて気持ちの悪い事にならなくて済みそう。

………
……


「えー、姉さん22人、ノワールさん22人。京1人。と言う訳で勝負は持ち越し!」

「納得いかないわ……。」

「ぬぅぅぅ、まさかあんなに存在感の無い奴が居たとは。」


結果、以上。私と百代のセンサーにひっかからなかった一人が裏から出て、そこを京ちゃんに

狙撃されて終了となった。こうなったら戦闘で決着を・・・と思ったら同じ考えの人が真横に。

ニヤリと嗤うと、二人の闘気が雲を突き抜け―――!


「めー!」
スパパァン!
「あばっ!」「はぶっ!」


後ろから二人同時に、盛大に頭を叩かれた。

何事かと後ろを向くと、居たのは・・・ぷんすか怒りながら腰に手を当てている

シュウと困った顔のまゆちゃんだった。うぅ・・・凄く珍しく怒ってる・・・。


「だめでしょ~ねーさんず!勝手に戦ったらてっちゃんにおこられちゃうよ!」

「お、おぉう……?ご、ごめんなさい。ってかてっちゃんて誰だ……。」

「鉄心さんの事じゃないかしら?そんな名前一人しか知らないし。」

「あのジジイをてっちゃん呼ばわりするとか……趣味が悪い上に恐れ知らずだな。」

「てっちゃんくらいなら可愛いものですよ~。」


ほわ~っと笑うシュウに、その場にいた全員が『えぇ・・・』とドン引いた。

私もそれに漏れてはいない。鉄心さんよりならガクト君の方が・・・いや、それも無いわね。


「そ、それじゃ祝勝会と行くか!」

「良いっすねモモ先輩!そんじゃ秘密基地行くか!」

「……それは………。」

「「あ。」」


ドン引きした空気を何とかしようとしたらしいモモちゃんとガクト君だったけれど、京ちゃんが

何やら渋った声を上げると、しまったという顔をする。ん~、秘密基地とか言ってる辺り、他の人に

立ち入って欲しくないのかも知れないわね。どうしたらいいものかとシュウを見てみたけれど・・・

ダメだ。もう既に垂れモード入っちゃってる。あぁ、そっか。


「私達は気にしないで良いわよ。もうおねむみたいだし。」

「そ、そうか?すまないな、ノワール。明日報酬貰ったら飯奢るから。」

「だからご飯はいらないってば。それじゃあね。ほらシュウ、行くわよ。」

「んん~~~……。おやすみなさぁい、またねぇまゆっち~。」

「は、はい!おやすみなさいです!」


座り込んでまゆちゃんに付き添われながら、舟を漕いでいたシュウをひょいっと脇に抱えて、

帰路に就く。全く、気楽でいいわねぇ。自分は『答えを出す者』でテストは完璧だからって

授業中もその他も寝まくって、人には妙な役を押し付け・・・いえ、それに関しては悪い事

ばっかりじゃないわね。美少女と触れ合えるのは良い事だし。


「ま、仕方ないわね。たまには楽させてあげないと。」


横抱きに抱き直した寝顔を眺めながら、あまりの安らかさに、ふと笑みをこぼしてしまう。

だってどうせ・・・シュウの方が面倒な事になるに決まっているのだから。言い出しっぺの法則、

ギャップ、力の温存、バトル世界。これだけ揃っていれば分かる事だ。


「ふふふ、楽しみねぇ。」

「う、うぅぅん……マギノフレームのデザインが………ナイトメアもぉぉ……。」

「……違う事でうなされ過ぎよ、もう。」


うなされるシュウを撫でると、直ぐにほにゃっと表情が崩れる。人の苦労も知れ、と少し思ったん

だけれど・・・無理ね。暫くは槍玉に上がらないようにしてあげましょうか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide 大和

『『『カンパーーイ!』』』


姉弟二人と別れた俺達は秘密基地に集まり、祝勝会と言いつつもいつもの様にだらけていた。

しかしそんな中で、若干小さくなっているのが一人。


「お前なー、そんなに気にすんなら言わなきゃよかっただろ。」

「うぅうう、だってー……。」

「あー、ハイハイ。分かってるって。」


脚をバタバタさせ始めた京の頭を撫でてやる。こいつとモロが秘密基地を大切に思ってる事は

皆が知ってる。実際、途中参加のクリスとまゆっちの参加を拒絶したのはこの二人だし。


「別に飲み会に来るくらいいいと思うんだけどなぁ。」

「微妙にオッサンみたいな事言うね、お前。」

「ハハハ、オッサンにオッサン言われるとかヤバイなぁ大和。」

「誰がオッサンだってんだよ!」


ギャーギャー言い出した姉さんとガクトを後目に、ふといなくなった二人の事を考える。

話しに聞いた限り、両親はおらず二人で暮らしているらしい。そしてまゆっちは出身地が同じと言う

事で愁磨君と仲良くなった。しかし、剣聖であるお父さんも"織原"と言う武道家は全く聞いた事が

ないそうだ。武神である姉さんを圧倒する力を持った人が、俺達と同じ年になるまで"気"を察知

される事無く鍛錬するのは不可能との事だ。なら・・・何処から現れたのか?


「う~~~ん。」

「どうしたの大和?何か考え事?」

「あー、いや。どうしようもない事だから気にすんな。」


ずっと頭を撫でられていた京に唸ったのを聞かれ、益体の無い考えを放棄する。

まぁ、仲良くなればサラッと話してくれそうな人だし、ワン子の野生の勘が正しいかどうかも

その内分かるだろ。

Side out

―――その数か月後、大和は自分の浅慮を後悔する事となる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

川神学園に転校してからおよそ一ヵ月。私達は積極的にモモちゃん達に関わり、そこから派生する

生徒達――主に2-Fや2-Sの子達――と交流を深め、学園内での地位をほぼ確立した。

そして今日は、あずみちゃんからお呼ばれして、何故か九鬼極東本部ビルに来ていた。


「英雄君に内緒って所がどうもキナ臭いわよねぇ。」

「まぁまぁ~、行ってみれば分かりますって~。」


相変わらずのほんわかしたまま、シュウは本部へと歩いて行く。まさかとは思うけれど・・・。


「フフフ。」

「な、何よ急に笑って。」


心配した矢先、可笑しそうに笑われて少し語尾がきつくなってしまう。まさか相手を見縊りすぎて

怪我でもするような事があれば・・・という心配は―――


「大丈夫だよ、()()()()。全武装展開済みだ。」


こちらを振り向いた瞳に、いつもの光が宿っていたのを見て、霧散した。・・・いけないわね。

可愛さ余って、本当のシュウを少し見失うなんて。エヴァやアリカに笑われてしまうわ。

・・・アリアにはこっぴどく怒られそうね、絶対秘密にしましょう。


「んじゃぁいこっかぁ~。」

「……ええ、そうね。」


再び垂れモードに戻ったシュウに続き正面玄関に行くと、あずみちゃん率いる従者部隊が十人程

待ち構えていて、私達を見ると、厳しい目付きのまま礼をして来た。


「本日は急なお招きに関わらず、ご足労いただきありがとうございます。」

「やだなぁあずみん、硬いよぉ。いつもどーりでいいのに~。」

「ぶっは!あずみんだってよぉ!似合わねーー!!ふべらっ!」

「……本日は九鬼従者部隊序列一位としての責務があります。」

「むぅー……お仕事なら仕方ないねぇ。」


緊迫した空気を読まず吹き出した金髪のロックな子が撃沈させ、あずみちゃんは硬い表情のまま

私達を中へと案内して行く。その場にいた従者部隊の面々は私達を要人の様に――この場合は連行

するが正しい――周囲を取り囲む。豪華でありながら落ち着いた雰囲気のエントランスを抜け、エレ

ベーターに乗る。その先が示すのは・・・最上階の一つ下。

嫌な予感を抱きつつ長い廊下を歩き、そのフロア唯一の大会議室らしい部屋で止まる。


「ではお二方。申し訳ありませんが、この部屋で暫しお待ちください。」

「あら。私達を呼び出した人はまだ来てないのかしら?」

「申し訳ありません、主は多忙な方でして、少し遅れが……。」

「気にしない、気にしない~。あ、じゃあ紅茶用意してねぇ~。」

「畏まりました、では。」


気にしないと言いつつもお詫びの紅茶を寄越せと要求され、あずみちゃんは一人の従者に命じると

・・・扉と私達を挟む様に整列する従者達の中央に並ぶ。キナ臭いどころかもう確定だと諦め、

素直に扉の中へ入る。部屋の中央にはO字を描く机が置かれ、そこに等間隔に椅子が置かれていた。

そして一番奥。上座の席の後ろに、三人の執事の姿があった。


「初めまして。私は九鬼従者部隊零番、ヒューム・ヘルシングと申します。」

「同じく三番、クラウディオ・ネエロと申します。」

「従者部隊四番、ゾズマ・ベルフェゴールだ。よろしく、お嬢さん方。」

「ご丁寧にどぉもぉ~。初めまして、愁磨・ぷ……ジオン・織原ですぅ。」

「………ノワール・有亞・織原よ。よろしくね。」


壮健どころか剛健と言うべき金目金髪のヒューム、柔和な老人のクラウディオ、そして編み髪の

黒人(一番礼儀が成ってない)ゾズマ。その全員から、ここでただ待っていてくれとは微塵も思えない

闘気が溢れ出している。・・・いやねぇ、もう。


「さて、単刀直入に聞こう。お前ら何者だ?」

「いきなり不躾になったわねぇ。見ての通り、ただのか弱い美人姉弟よ?」

「クッ!武神を簡単にあしらえる奴がか弱いとは、冗談もいい所だ。」

「ゾズマ、笑う所ではありませんよ。」

「申し訳ない、失笑だった。」


本当の所を言ったのに、失礼な事を言って来るカポエイラー(決めつけ)。しかも今の質疑応答で

ヒュームは闘気を殺気に変え、クラウディオは後ろ手に何か動きを見せる。


「主の命で優しくしている内に答えろよ、小娘。挑発を二度我慢はせんぞ。」

「やれやれ、気の荒い事だ。説明いたします。"武神"川神百代に勝利した時点で、我々はあなた方

二人の調査に当たりました。第一に、あなた方が在校していた麻帆良学園。このような物は存在

致しませんでした。」

「そんな訳が………?」


衝撃の事実に、カマかけの線も考慮してシュウを見ると、思いっ切り明後日の方を見て吹けない

口笛を吹いていた。・・・致命的すぎるミスしてどうするのよ。

いえ、でもおかしいわね。麻帆良のホームページだってあったし、転校だってちゃんと出来たのに?


「正確に言いますと、住所の違う麻帆良学園はありましたが、それも十年前廃校になっております。

第二に、あなた方の亡くなったご両親。世界中の過去二十年分の事故・事件の記録を探しましたが、

その様な記録は出て参りませんでした。これは序列二番"星の図書館"が探し出した上での情報。

つまるところ、九鬼はあなた方を正体不明の脅威となりました。」

「近々、川神では大がかりなプランが実行される予定だ。その前に脅威は排除せねばならん。」


ふーむ、つまりどういうことなのかしら?私達の持っている情報と、彼らの掴んだ情報が違う。

確かに彼等の情報は正しいけれど、私達は"擬装"をして、入学した。だからこそ、"出てこない"

なんておかしい。


「シュウ?」

「んん~~~……自動改変機能かなぁ?『特異性を認識出来ない』って言う特性のせいで、特異

すぎる存在はそのまま別の物として、辻褄が合う様に創造し直された?その過程で、書き換えた

情報も辻褄が合う様に消えちゃった、ってところかなぁ~?大変だねぇ~。」

「全っ然大変だと思ってないわよねぇ……。」


当の管理者が推測するしかない域だけれど、まぁ、多分は設定を直さないで適当に介入した

ツケが早くも回って来た、って事かしらね。それさえ楽しんでいるのだから困ったものねぇ。


「ま、いいわ。それで、そちらの要求は?」

「今すぐこの街を出て行き、九鬼の監視の下、大人しく暮らせ。さもなくば―――」

「―――さもなくば何よ、小僧共。」
ゴウッ!!

面倒になった所で、望んだ通りの言葉をゾズマが吐いてくれたので、漸く私は流儀に合わせ、気を

軽く解放させた。それを戦闘の意思と取った三人が構えを取る。


「私は脳筋派を馬鹿にしたりしないわ。だって、力で捻じ伏せて顔を踏んでやった方が早いもの。

かかって来なさい、坊や達。人間には辿り着けない次元の彼方がある事を教えてあげる。シュウ?」

「障壁設置おっけー。あ、クラじい、糸の結界解いて戦った方がいいよぉ?ボクはお部屋守るだけで

戦わないしぃ、中継の邪魔もしてないからぁ。」


へにゃっと敵意ゼロで嗤ったシュウの言葉で、やっと本気でかからなければいけない相手だと

認識したらしい三人。さっきとは比べ物にならない殺気を滲ませ――


「「フン!!」」


全く同時、ヒュームが右から身体を、ゾズマが左から脚を刈り取る蹴りを放って来る。

そして上と後ろからは部屋に張っていた糸が迫る。良い連携ね。多分妖怪ジジイsでもこの連携を

躱す事は不可能。対処出来るのは百代だけでしょうね。一撃必殺のヒュームの攻撃を防御、他の

攻撃を受けて、瞬間回復・人間爆弾・瞬間回復のコンボって所かしら。でも残念。


「―――"歪め"!」
ドドドン!
「「「!?」」」


強化された神言を使い、周囲360度の次元座標を90度下に歪める。左右後ろの攻撃は全て床に吸い

込まれる様に角度を変え激突。残った上から来る糸を掃う。それだけで、必殺の初撃は敗れる。


「何が起こった!?」

「分かりません、糸が私の制御を離れ、急に地面に向かいました。」

「俺の足が制御を失うものか。……何だ、今のは。」


世界最強のヒュームが理解を越えた防御――あるいは攻撃――を受け、三人はクラウディオの

糸の結界の中へ一旦下がってしまう。うーん・・・物理現象超越している癖に、超常現象を

目の前にすると混乱するの、この人達の決定的な弱点だと思うのよね。


「意味が分からないわ……百代だって本当の意味では無いにしても"概念攻撃無効"とか視界内とは

いえ"他者同士の位置を交換"とかやるじゃない。座標情報の変更くらいで何で驚くの?」

「………スマン、相手がおかしいと思うのは俺だけか?」

「いいえ、私もです。」

「俺も同じような事は出来るが、気で滝を作り出すだけの荒業だ。コレのは違う。」

「あらあら、こんな美少女を"コレ"とは酷い紳士も居たものねぇ。」


フリで嘆いたものの、彼らの反応で大体は掴めた。つまりこの世界では、人体に起こる事は

割と何でもありだけれど、世界だの空間だのに直接何かするのは非常識、と言う事みたいね。

そりゃそうね。創造者や天使を基準に考える方がおかしかったわ。


「理解したとは思うけれど、一応悪役っぽいし聞いておこうかしら?降参するなら命だけは

助けてあげるわよ?」

「……主の命は脅威の排除。それ以上でもそれ以下でもない。」

「はぁー………分かったわよ、貴方達とっ捕まえれば主さんも考え改めるでしょう。」


ガックリとやるせなさを覚えながら三人に近づく。防御主体に切り替えたのか、糸の向こうで

構えたまま動かない。穴熊って嫌いなのよねぇ。


『あー、あー、テステス。聞こえてっか?そこまでにしてくんねぇかな。』

「帝様!?しかし……!」

『マジでやられちゃ気付かれる。命令は撤回だ。お客さんを俺のとこまで連れて来てくれ。』

「は、畏まりました。」


面倒になって来た所で、帝とやらがスピーカーで不躾にも私達を呼びつけた。

こちらを伺う三人に敵意はありません、と肩を竦めて、またしても船を漕いでいたシュウを

横抱きにして、結界を握り潰して廊下に出る。待ち構えていた従者部隊が私達を見るやいなや

構えるのにまたしてもゲンナリし、事情が変わった事を伝えたヒュームに続いて、今度は最上階へ

向かう。幾分か豪華になった廊下を抜け、同じ様な扉を潜る。その部屋の左右には従者がまたズラッ

と並び、その中央・・・上座にどっかりと座る、なんだか見た事のある男性が口を開いた。


「初めまして、俺は九鬼家当主の帝だ。まずは重ね重ねの無礼を詫びさせてくれ。相手の出方が

分からん以上、こうするしかなかったんでな。」

「ま、言いたい事はあるけれど、シュウが怒ってないから流してあげる。」

「寛大だな、感謝する。」


二度も素直に頭を下げた、白髪の男性。ぶっちゃけ英雄君のお父さんね。長めの髪をヘアピンで

あっちこっち押さえている妙な髪形をしているけれど、今まであった中で一番、カリスマと呼べる

オーラを強く放っている。成程、流石はこの世界に名立たる財閥の当主、ね。


「さて、さっきクラウディオから軽く聞いたと思うが、九鬼は今、川神であるプランを実施

しようとしている所なんだ。計画名を"武士道プラン"っつーんだが。」

「ふぅん、それで?」

「簡単に言っちまうと、過去の偉人を復活させて、現代にその知恵やカリスマを活かして貰い、

かつ切磋琢磨して行く……って計画なんだがな。そこに、あんたらが風の様に現れて、色々掻き

回しちまって目を付けられた、っつーのが今回の事の顛末な訳だ。」


一旦話を区切った帝をジトっと睨み、膝に乗せたままの頭を撫でながら思案する。

要するに、莫大な時間とお金のかかった計画を躓かせた石をどうしよう、って事よね。問題は、

蓋を開けてみたら小石じゃなく隕石だった事かしらね。


「俺の勘から行くと、恐らくあんたに勝つにゃ九鬼の総力を上げても難しい気がする。

こっちの最強カード三人を一度にあしらわれたしな。そこで、だ。あんたらの目的を聞いた上で、

対応を決めようと思った訳だが、質問に答える気は?」

「大人しく座ってあげてるんだから、分かるでしょう?」

「一応な。」


さっきからヒューム達に当てたのと同じ程度の気を時々放っていても、余裕の態度を崩さない。

成程、部下の手前で無様な所は見せられないと言う"王"の立ち居振る舞いを素直に評価して、私は

椅子に座り直す。それを確認した帝が、重々しく口を開く。


「こちらに敵対する意思、またはそれに類する勢力の手の者か?」

「まさか。権力争いになんて興味ないわ。」

「では何故、偽造してまでこの地に来た?それも学生として、堂々と。」

「それに関しては色々手違いがあってねぇ。ま、偽造は事実だし良い訳はしないわ。

単にここに来たいってこの子が言い出したから、来ただけの事よ。」

「そうか、なら安心した。」


簡単な質問で、本当に安心したらしく、息を吐きながらどっかりと椅子に倒れ込んだ。

周りの従者は驚き、後ろの三人は溜息をついたり笑ったりしている。


「んじゃぁこっからはビジネスのお話だ。単刀直入に言う。九鬼に雇われねぇか?」

「やーよ、学生しに来ただけなのに、面倒なのは御免だわ。」

「まぁまぁそう言わずに、聞いてくれ。頼みてぇのはウチの娘や転入する四人に気を使って欲しい

だけだ。まぁヒュームを付けるし、従者を交代で学校に送るが、何分忙しい奴等だからな。」

「………むすめ?」

「何でそこで反応するのよ。」


帝が条件を告げた瞬間、ピクリとも反応を見せなかったシュウがむくっと起きた。

・・・アリアが居なくてよっぽど寂しいのかしら。たまに帰ればいいのに。と言うか帰ろうかしら。

でも条件は分かり易いわね。あくまで学園の友達として行動でき、尚且つ過去の英雄やヒュームと

同等以上の戦闘力を持つ警護になって欲しいと。


「おう、すんげぇ可愛いんだぜ?お前さんと同じく白髪ロングだが、快活で良い子なんだ。

真面目だし一生懸命だしな――ゴホン。そう言う事だ、どうだ?」

「ねーさん、ねーさん。」
クイクイ
「な、なによ?」


条件を聞いて、上目遣いに服を引っ張って来る。くぅぅぅぅう可愛い!絶対、間違いなく、完璧に

受けるつもりだって分かってるのに聞いてしまった!これだから男親は娘に甘くて困るわねぇ!

この外見で男親とか困るし私も人の事言えないんだけれど!


「……ダメ?」

「もう仕方ないわねぇ、可愛い女の子を守れるんなら私だってやぶさかじゃないんだからぁ。」

「……決まりだな。それで契約書はこれなんだが――」

「ああ、いいわよ。後輩の面倒を見るなんて当然の事だもの。手を出すな、って盟約付きなら、

そこだけ署名してもいいけれど。」

「そんならいいわ。んじゃ、頼んだぜ。」

「はい、頼まれました。シュウ、帰るわよ。」

「はいはぁ~い♪」


大企業の社長が甘い、と同時に好ましい人格者だと評価を上げて、上機嫌なシュウと連れ立って

九鬼のビルを後にする。かく言う私も楽しみなんだけれどね。少なくとも美少女・・・もとい

美幼女一人は確定なんだからね!フフフ、なんだか張りが出て来たわね。

Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
Side―――

「帝様、よろしかったのですか?」

「あーん?良いも悪いも、相手が良いっつってんだから良いじゃねえか。

タダより高いモノはねぇって言うが、その分信頼っつーモン返してるし問題ねぇだろ。」


クラウディオの質問と若干ズレた――分かっていてだろうが――答えに、長く連れ添った

老執事二人が苦笑する。自分達を圧倒する謎の女学生・・・と弟。その協力を取り付けられた

事は確かに大きい。


「(姉の方は言わずもがな、弟の方はあの容姿でいて相当な防御の使い手らしい。学年も同じで

あるし、紋様の警護としては最適か。)」


老執事二人の見解はほぼ同じ。主の子である長女・揚羽と次女・紋白に優劣を付ける訳ではないが、

戦闘力に長けているとは言え、九鬼の重役である分狙われやすい揚羽に警護を一人でも多く回せる

のは、九鬼にとって非常に有用なのだ。


「つか、やっぱあの二人九鬼に欲しいわ。ヒューム、学校でさりげなく勧誘しとけよ。」

「ハ、了解いたしました。」

「(やれやれ、危険度のチェックも怠らないようにしませんとな。)」


様々な想いが交錯する中――その協力が履行されたのは、僅か一週間後の事だった。

Side out
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後書き
本編そっちのけで手遊びをする今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか。
私は早くも夏バテ?気味です。梅雨前にこれでは気が滅入ります。
まぁ終盤入ってるネギま編で頭を悩ませ切れずに浮気している言い訳でもありますが。
要するにいつも以上に亀更新になりますよ、と言う告知をコソッとここで致しますと言う事で。
日差しと事故にお気をつけて夏をお過ごしください。それではアリーヴェデルチ(久 
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