英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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外伝~オーバルギア開発計画~後篇
~中央工房・地下実験室~
「ここか……?……!あ、あれがオーバルギアか………!?」
地下実験室に到着したアガットは周りを見回して、オーバルギアらしき機械を見つけると驚いた。
「うん、足回りのチェックも完了。もう一度、シークエンスの流れを確認しておこうかな。お母さん達、どこかへ行っちゃったし………」
ティータがオーバルギアの整備チェックをしているとアガットが近づいてきて声をかけた。
「てっきり導力砲か何かかと思ってたが………よくもまあ、こんなもんを作りやがったな。」
「あ、アガットさん!?どうしてここに………?も、もしかしてお母さんですか!?お母さんに来いって言われちゃったから………」
アガットに気づいたティータは驚いた後、表情を青褪めさせて慌ててアガットに近づいた。
「ご、ごめんなさい……お父さんとお母さん、アガットさんのこと勘違いしてるみたいなんです。昨日から説明しているんですけど、全然わかってくれなくて………」
「あー、そんなんじゃねえ。………心配すんな。」
「え…………?」
「その、なんだ………お前が正式に技師として頑張ってるって聞いたからな。まあ、今日は応援代わりに付き合ってやろうってことだ。オーバルギア実験の手伝い……一応、正式な依頼らしいからな。」
「……………え、えへへへへ…………あのあの、じゃあ、オーバルギアの説明をしますね。………………あ、アガットさん。こっちに来てくれますか?」
「お、おう…………」
ティータは軽い説明をした後、アガットを呼び、呼ばれたアガットは戸惑いながら頷いてティータに近づいた。
「それで…………」
ティータが嬉しそうに説明をしながらオーバルギアの背面に回った時、あるものにぶつかった。
「あ、あれ………?」
あるものにぶつかったティータが後ずさると、なんとエリカが現れた。
「お母さんっ!?い、いつからそこにいたの………!?」
エリカの登場にアガットとティータは驚いた。そしてエリカはティータを隠すようにティータの前に来て不敵な笑みを浮かべて言った。
「アガット・クロスナー……実験への協力、感謝するわ。やっと罪を認めて懺悔する気になったのね!」
「ま、またワケわかんねえことを言いやがって………」
「今、ティータに接近してたでしょ。そうよね、接近してたわよね!?決定的証拠を掴んだわ!!」
戸惑っているアガットをエリカは目を妖しく光らせて睨んだ!
「その目はやめろっての……」
エリカに睨まれたアガットが溜息を吐いたその時
「まあメカ音痴はメカ音痴じゃが……アレはアレでなかなか面白いじゃろ?」
「そうですね……その点も少々懸念していたのですが……ついていけない話題でも、頭ごなしに否定しない点は評価できるかもしれません。」
「クスクス、まあ、それがあのお兄さんの数少ない良い所よ♪」
「あ、あんたら何でそんな所に……!?つーかダン、あんたは屋上にいたんじゃ……」
いつの間にかラッセル博士とダンが、レン上の階層から見ていて、それに気付いたアガットは驚いた。
「……言わなかったかな。『実験』には立ち会うって。」
「(こ、こいつも何考えてんのか読めねえ……)それと、レン!お前まで何でそこにいるんだよ!?」
「あら、キリカお姉さんから聞いていないのかしら?オーバルギア関係の依頼でレンにもアガットお兄さんとは別口の依頼が来ている事を。」
「そ、そういやそんな事を言っていたが……まさか本当にこのオーバルギアって兵器の開発の為に金を出すつもりなのか……!?」
「うふふ、それは今から行われる実験の結果を見てからよ♪先に言っておくけどティータが友達だからって、評価を甘くしてお金を出すみたいなことはしないから安心していいわよ♪」
「何で俺が安心しなくちゃならないんだよ……」
「アガット・クロスナー!?シカトしてんじゃないわよ!!」
アガットがダンやレンと話しているとエリカがアガットを睨んで怒鳴った。そしてラッセル博士達も下の階層に降りてきて、アガット達に近づいて来た。
「まあ予定通り揃ったようじゃし。」
「そろそろ始めましょうか。」
「……えっと………??一応最終チェックは済ませておいたけど……?」
ラッセル博士とダンの言葉を聞いたティータは全員を見回した後ラッセル博士達の様子がおかしい事に気づいて戸惑った。
「ぬほほほほほほほ!!」
「ははははは………」
「おーほっほっほっほっ!!」
「何なんだ、この一家は……?」
「クスクス、ティータの家族はみんな、愉快な人達で賑やかね♪」
ティータ以外笑っているラッセル家の人間達を見たアガットは冷や汗をかいて溜息を吐き、レンはからかいの表情で見守っていた。その後ティータはエリカの指示によってオーバルギアに乗った。
「ティータ、どう?うまく操縦できそう?」
「うん、大丈夫。何度も練習したし……いつでも動かせるよ。」
「モニタリングシステム起動。データリンク、異常なしじゃ。」
「……準備が整いましたね。それではアガット君、これよりオーバルギアVer0,5の動作実験を開始する。心の準備はいいかな?」
「……ああ、任せとけ。ここまで来たら逃げも隠れもしねえさ。」
「ま、骨くらいは拾ってあげるから、ティータの為に頑張ってね♪」
オーバルギアの状態を確認した後のダンの念押しにアガットは頷き、レンは小悪魔な笑みを浮かべて見守っていた。
「ではまず、これだけは約束してほしい。実験の最後には、オーバルギアと君とで模擬戦闘を行ってもらうが……」
「もしティータにかすり傷一つつけたら………私が女神の元へ送ってあげるわ………!!」
「ははは………まあ端的に言うとそういうことだ。怪我だけは、させないようにね。」
「……わかってる。言われるまでもねえっつーの。手を抜くつもりはねえが、怪我させるつもりもねえよ。」
「十分だ………それではまず………」
ティータに対する気遣いをしているアガットの答えを聞いて頷いたダンはアガットの体中に、小さな結晶回路を取り付けて回った。
「な、何しやがる………?」
「実験中は、君の身体データをリアルタイムで取らせてもらう。この試作機の基本的な運動性能は恐らく今の君と同等か、少し上だ。性能比較には丁度いいだろう?」
「うっ………実は嫌がらせとかじゃねぇだろうな………」
「はは、気にし過ぎだね。………さてと。それではエリカさん、お願いします。」
「よし、行くわよっ!」
ダンの言葉にエリカは頷いた後
「フウウウゥ………フンッ……!フンヌッ!がーーーーっ!!がぁーーーーーっ!!しゃおおおおん!!ゴォォォォォ………!!」
周囲を激しい動きで動き回りながら叫び、立ち止まった後凄まじい”気”を溜めた!
「な、何なんだ、あれは………」
「エリカさんの『成功音頭』だ。大きな実験をする前には必ず行う。」
「シャアァ!気合満点ッ!!………よし、セットアップ完了!」
エリカの行動に戸惑っているアガットにダンが説明をしていたその時、エリカは溜めていた”気”を放出させた後、凄まじい早さの指使いで機械の操作をしていた。
「お、お母さん……まだあんなのやってたんだ………」
「うふふ、話に聞いていた以上に面白い人ね、ティータのママは♪」
「フン、ただのジンクスじゃろ。統計的に見ても、成功率は大して変わっとらんの~。どーれ、シークエンス管理はワシが代わってやろう……」
エリカの行動に恥ずかしがっているティータをレンがからかいの表情で見つめているとラッセル博士が勝ち誇った笑みを浮かべてエリカに近づいたが
「ファイヤァ~!!」
「ぐほうっ!?」
エリカに吹っ飛ばされ、それを見たアガットは冷や汗をかいた。
「………気が立ってるから刺激しないように。」
(お、恐ろしく疲れる………)
ダンの忠告を聞いたアガットは溜息を吐いた。そして実験は順調に進み、最後の実験――模擬戦闘に移った。
「最後は総合能力を見る為、模擬戦闘を行ってもらう。両者、位置についてくれ。」
「はいっ!」
「へいへい。」
ダンの言葉に頷いたティータとアガットは戦闘配置について、ティータはオーバルギアに付いている武器を構え、アガットは重剣を構えた。
「……わかってるとは思うけど、オーバルギアだけを狙う事。ティータにカスリ傷一つ付けたら………即死罪、よ。」
「……だから、わかってるっつんだろ。」
「……準備は良いかな?」
「ああ………いつでも来いや!」
そしてアガットとティータは模擬戦闘を始めた!オーバルギアを操作するティータの攻撃は接近をすれば、斧のような武器で攻撃し、離れれば機銃や特殊な弾丸を放ってきたが、アガットは今までの経験を利用し、特に苦戦もせず、オーバルギアを停止させた。
「……フン。ま、こんなとこだろ。」
「評価としては100点満点の60点って所かしらねぇ。」
オーバルギアの戦闘不能を確認し、自分の勝利である事を悟ったアガットは武器を納め、レンは苦笑しながら評価をしていた。
「ぬ、ぬうううううううう…………!アガット・クロスナー。いま、反則したでしょ。」
一方オーバルギアでアガットを圧倒できると思ったエリカは悔しそうな表情をした後、アガットを睨んで言いがかりをつけてきた。
「は、反則?俺はそんなことしてねえぞ。」
「いいえ、反則したわ。何か目に見えない力を使ったでしょ!!」
「し、知るかそんなモン!!」
「それとそこ!今までの稼働試験を見て何でたった60点しかないのよ!?どれだけ低く見積もっても90点はあるわよ!?」
アガットに理不尽な言いがかりをつけたエリカは今度は低い評価をしたレンを睨んで反論した。
「幾らなんでも90点はサバを読み過ぎよ。走行テストはゴール寸前まで人間の足とほぼ互角、精密制御テストはまあまあ、模擬戦闘はB級正遊撃士相手にアマチュアのティータがそれなりに粘ったのは評価できるけど、武装がイマイチねぇ。せめて常時時速40セルジュは出せるようにして、武装は最低でも導力砲みたいな相手に決定打を与える強力な威力を持つ武装をつけるべきだと思うのだけど?」
「グギギギギ……ッ!」
「ははは………とりあえず、今回の勝負はアガット君の勝利ということだね。」
レンの正論に反論できないエリカが唇を噛みしめて唸っている中、ダンは苦笑しながら模擬戦闘の終了を告げた。
「シキーッ!!ぶつぶつ、ぶつぶつ……」
「……おい、実験はここまでなんだよな。依頼終了ってことにさせてもらうぜ。」
悔しそうな表情で考え込んでいるエリカの様子を見たアガットは声をかけるのをやめて、ダンに話しかけたその時
「……ダン。そういえば昨日………この赤毛小僧と一度手合わせしたいとか言ってたわよね?」
エリカが突然ダンに視線を向けて尋ねた。
「………え?ああ……まあね。彼のことはカシウスさんから少し聞いているし……」
「……な…………っ!?(何だか嫌な予感がするぜ………)」
ダンの言葉を聞いたアガットは驚いた後、肩を落としてエリカを見つめた。
「クク……決まりね。さあ、早く得物をもってらっしゃいな!」
「まあ、今でなくてもいい気がするんだけど………」
「さあ、早く早く………!」
「……わかったよ。じゃあ、ここを頼むね。」
エリカにせかされたダンがその場から去るとエリカは勝ち誇った笑みを浮かべてアガットを見つめて口を開いた。
「……言っておくけど、ケガで引退したとはいえ、ダンは強いわよ。なにせ10年前、カシウスさんに棒術の基礎を指南したくらいだから。」
「なっ………!?」
「あら。」
ダンの意外な過去を知ったアガットは声を上げて驚き、レンは目を丸くした。
「ま、カシウスさんもその後は自分で棒術を極めて、それを娘に教えたみたいだけど。………それでもどのくらいの実力かわかるわよね?」
「へっ、そんな話を聞いちまったらこっちも後には退けねえな………って待て!もう実験は終わりだろうが!?なんでいきなりそんな話になりやがる!?」
エリカにダンとの手合わせを促されたアガットは不敵な笑みを浮かべて受けようとしたが、オーバルギアの実験とは関係ない事にすぐに気づいて突っ込んだ。
「……まだよ!ああ、そうそう。ティータの体も調べないとね。万が一、カスリ傷の一つでも付いていたら………ティータ、降りてらっしゃ~い!」
「う、うん………」
「ティータ………?どうかしたの?」
「えっと、ヘンなエラーが出ちゃって…………あ、あれ………?ど、どうなっちゃってるの??」
エリカに尋ねられたティータが答えたその時、オーバルギアから変な機械音がした後、煙が上がり始め、ティータは慌てた。
「むう、いかん!!」
「こ、これは………いけない!!………くっ……コマンドを受け付けない………!ティータ、一旦システムを落としなさい!」
「そ、それが………なんだか言う事聞いてくれなくてぇ………」
ラッセル博士が声を上げたその時、オーバルギアは煙を激しく出して揺れ始め、オーバルギアの異変を見てエリカは慌てた様子で端末を操作してティータに指示をしたが必死にオーバルギアを止めようとしたティータは不安そうな表情でオーバルギアを止められない事を伝えた。
「お、おい………どうなってやがる!?俺にもわかるように説明しろ!」
「えっとえっと………わあっ………!?」
アガットにティータが説明をしようとしたその時、オーバルギアは勝手に動き出して壁に突進した!
「大丈夫、ティータ!?」
「………ティータ!そいつ、暴走してんのか!?」
「アガットさん、あの………逃げてぇ!!」
「…………ッ……………」
ティータの警告を聞いたアガットは舌打ちをした後、武器を構えて暴走したオーバルギアとの戦闘を開始した!暴走したオーバルギアは動きが倍以上に早くなり、多少苦戦はしたがなんとか勝利した。
「ティータ、無事か!?動きは止めた!さっさと降りて来い!!」
「そ、それが………ベルトが引っかかってて………」
「チッ………!」
自力でオーバルギアから降りられない事をティータが口にするとアガットは舌打ちをした後、ティータのベルトだけを狙って、武器を振るってベルトを斬り、ティータをオーバルギアから降ろした。
「ティータ、よかっ………」
ティータがオーバルギアから降ろされる様子を見たエリカが安堵の表情で近づいたその時、オーバルギアは二人を襲った!
「………………!あ、あれ………?」
ティータは自分に来る衝撃を予想して目を瞑っていたが、衝撃波来なく、戸惑った。そしてオーバルギアはティータに振り向き武器を構え
「ティータ………!」
それを見たエリカがティータを庇う為に走り出したその時!
「ハッ………!!セイッ………!!」
「四の型・改――――紅葉散華!!」
その場に駆けつけたダンが棒を振るってオーバルギアをふっ飛ばし、止めとばかりにレンが双剣を振るってオーバルギアの足の関節部分を攻撃した。するとオーバルギアは完全に停止した。
「ふう、間に合ったか………みんな、怪我はないか?」
「ええ、私とティータは。でも…………」
武器を収めたダンに頷いたエリカは真剣な表情でティータを庇って吹っ飛ばされ地面に倒れているアガットに視線をやった。
「あ……アガットさん!………アガットさん!………アガットさん!!」
「……………………」
それを見たティータは表情を青褪めさせた後、慌ててアガットにかけより、何度もアガットの名を呼んだが、アガットは目を瞑って倒れたまま黙り込んでいた。
「………う…………そ、そんな………わたしのせいで………わたしのせいで………アガットさんが………」
「……………………」
「ご、ごめんなさい………わたし、いつも勝手なことばっかりで………アガットさんに迷惑かけてて………そんなことばっかりだから……アガットさんにこんな………わたしの……勝手なワガママなせいで………ユ、ユウナちゃんに近づきたいだなんて………何もできないくせに………叶わないことを願ったりするから!」
「ティータ………」
倒れているアガットの近くで座り込んで涙を流して叫ぶティータをレンは複雑そうな表情で見つめていた。
「こんなことがしたいわけじゃなかった………こんなことを望んでたわけじゃなかった………なのに、なのにぃ………!」
そしてティータが泣きながら呟いたその時
「………ッ………う……うるせえ………頭ガンガンしてんだ。大声出すんじゃねえ。」
なんとアガットが目を覚ました!
「あ………ア……アガット、さん………?」
「ケッ、俺がこの程度でくたばるわけねえだろ……………っ痛………!ったく……大したパワーだぜ………斬撃は武器で止めたからよかったものの………へっ、まともに食らってたら今頃あの世行きだぜ。」
ティータが呆けている中、アガットは顔を顰めて起き上がった後、苦笑した。
「………ヒック………ヒック………」
「だ、だから大して怪我はねえんだっつーの!メソメソしてんじゃねえよ!」
「だ、だってわたしのせいで………ふえーん、アガットさんごめんなさい………わ、わたし………わたし、もうこんなことやめます………だ、だから………」
「……………」
泣いているティータを見たアガットは目を閉じて考え込んだ後
「この程度で諦めてんじゃねえ!!」
目を見開いて怒鳴った!
「………え……………?」
「簡単に、諦めてんじゃねえよ。お前、あのユウナのやつに近づきたいって思ってんだろ。あのとんでもねえ小娘のこと、わかってやりてえんだろう。……諦めんじゃねえよ。」
「アガット……さん………?」
自分の言葉を聞いて泣き止んだティータが戸惑っている中、アガットは自分が常に身に着けている石のペンダントを見つめて話を続けた。
「……俺はな、ティータ。くだらねえ10年を過ごして来た。本当にくだらねえ10年だったが、それでもコイツだけはどうしても捨てられなかった。絶対に捨てなかったんだ。……………それでいい。だからこそ俺はいま遊撃士をやってんだからな。………どうしても捨てられねえものがあんだよ。いくら忘れようとしても絶対に忘れられねえものがな。…………ティータ。お前も……そんなものを見つけたんじゃねえのか?」
「………ぁ……………(そうだ……………わたしは………わたしはやっぱり…………)………あ、あの、アガットさん………わ、わたし諦めません。」
優し気な雰囲気を纏わせるアガットに問いかけられたティータは決意の表情で考え込んだ後、真剣な表情で立ち上がって言った。
「こんなところで泣いているわけにはいかない………わたしはわたしにできることをやっていくって決めたんだから。アガットさんが遊撃士であるようにわたしは研究者なんだから!」
「…………………そうか……………」
「………???アガットさん………?」
「………何でもねえよ、チビスケ………」
そして自分を見つめて首を傾げいるティータに答えたアガットがティータの頭を撫でたその時、空気が凍った!
「な、なんだお前ら。ずっとそこにいたのかよ………」
ラッセル博士達の視線に気づいたアガットは黙り込んだままでいるラッセル博士達を戸惑いの表情で見つめた。
「はあ………やれやれ、これは仕方がないかもしれないわね。」
「だから、言っとるじゃろ。この赤毛はの、不器用で無愛想で鈍感でガラが悪いが………それなりの見所はあるんじゃよ。」
「まだ準備中だけど………早急に、赤毛の『実験』第二段階を実行しないとね!」
「お、おい何の話をしてんだ………?」
「うふふ、とりあえず第一段階はクリアしたようね♪」
エリカとラッセル博士の会話を聞いていたアガットは戸惑い、レンはからかいの表情でアガットを見つめていた。するとその時ダンがアガットに近づいて来て笑顔で言った。
「見直したよ、アガット君。約束どおり、ティータも無傷のようだしね。」
「お、おう………」
「夕方、家の方に来なさい。」
「は………?いや、初めから晩メシ食いに行くって約束で………」
ダンの夕食の誘いを聞いたアガットは戸惑いながら答えたが
「………歓迎しますよ?」
(な、何故敬語になってやがる………)
ダンの凄味のある笑顔を見ると後ずさった。
「あ、アガットさん………!あの……さっきはありがとうございました。わたし、また守ってもらっちゃって………」
「そんなことはどーでもいい!そ、それよりティータ、すまんが今日の晩メシは………」
本能的に嫌な予感を感じたアガットは夕食を断ろうとしたが
「えっと、きのこと山菜のお鍋と海草たっぷりのスープです。お父さんとお母さんもアガットさんのこと、わかってくれたみたいだし………えへへ、今日はみんなで一緒にお鍋です。」
「そ、そうだな………ははは………スゲェ楽しそうじゃねえかオイ………」
ティータの嬉しそうな表情を見て、断るに断れず冷や汗をかいて棒読みで答えた。
「うふふ、本当に楽しそうなディナーね♪レンも混ぜてくれないかしら?」
「うん、勿論いいよ!お父さん、お母さん、おじいちゃん。レンちゃんも一緒でいいよね?」
「うむ、別に構わんぞ。」
「レン君はティータの昔からのお友達なんだから、僕も大歓迎だよ。」
「まあ、そこの赤毛と比べれば天と地の差だから私もいいけど……その前に今回のオーバルギアの実験を見学した”Ms.L”として、オーバルギアの出資に合格か不合格かを聞かせてもらいましょうか?」
レンを夕食に招待する事を賛成しているティータ達の言葉に頷いたエリカは真剣な表情でレンを見つめて問いかけた。
「え?さっきの暴走も含めるけど、本当に言っちゃっていいのかしら?」
「ぐっ………いいから、さっさと言いなさいよ!」
心底不思議そうにしているレンの指摘を聞いたエリカは唸り声を上げた後、レンに答えを促した。
「当然だけど”現時点では”不合格ねぇ。正直”オルグイユ”を強化して量産した方が、現実的だと思うわよ?”オルグイユ”の現時点でのスペックでも帝国軍主力の最先端の戦車―――”アハツェン”を軽く上回っているし。現時点でのオルグイユを量産して、その量産したオルグイユに”導力停止現象”対策として”零力場発生器”をつけるだけでも、リベールの国防の力は大きく跳ね上がるわ。」
「むう……中々鋭い所や現実的に可能な事を突いてきたの。」
「ハハ、話に聞いていた以上に賢いお嬢さんですね。」
「ぬうううううう………っ!あんな既存の技術をかき集めた戦車だけで”結社”やパテル=マテルに対抗できる訳がないでしょう!?というかそもそもあんたの妹が操っている人形兵器が原因なんだから、家族として責任を取ってオーバルギア開発に出資しなさいよ!具体的には毎月最低20億ミラ!毎月約1000億ミラも稼いでいる上遊撃士協会と七耀教会に合計150億ミラを寄付しているんだから、20億ミラ程度出資してくれても別にいいじゃない!」
レンの評価と指摘にラッセル博士とダンが感心している中悔しそうな表情で唇を噛みしめていたエリカはレンを睨んで反論した。
「毎月20億ミラとか、ぼり過ぎだろ………」
「お、お母さん~。幾らなんでもレンちゃんがパテル=マテルを操っているユウナちゃんのお姉さんだからお金を出してなんて理由は言いがかりだよ~。」
エリカの反論を聞いたアガットは呆れた表情で溜息を吐き、ティータは疲れた表情で指摘した。
「クスクス、レンは”現時点では不合格”って言っただけよ?これからもアガットお兄さんに付き合ってもらってその”オーバルギア”の実験をするんでしょう?ティータの頑張りに免じて見学は今回限りじゃなくて今後の実験の見学もできる限りできるようにスケジュールを調整してあげるから、それでいいでしょう?レンが出資してもいいって思わせるチャンスはいっぱいあげているんだから。」
「レンちゃん………」
「チッ、仕方ないわね……今回はそれで手を打ってあげるわ。」
(つーか、俺が毎度オーバルギアの実験に付き合うのは確定かよ、オイ……)
レンの答えにティータは嬉しそうな表情をし、エリカが舌打ちをした後納得している中、アガットは疲れた表情で肩を落とした。そしてその夜……
~ラッセル家・工房~
オーバルギアの実験が終わったその日の夜、ラッセル博士とダンはオーバルギアを解体し、エリカとティータは設計図を見直しながら話し合っていた。
「うう、そっか………最終チェックのときにわたしが気づかなきゃいけなかったのに………」
「………ティータ、まだここが原因だって決まったわけじゃないのよ。簡単に判断したりしないの。反省するのも責任を感じるのも原因を突き止めてからにしなさい。」
「う、うん……でもやっぱり………」
エリカの慰めの言葉にティータが暗そうな表情で頷いたその時
「ぐはっ………!?な、なんだこのハンマーは………?………あ、危ねえな………」
「うふふ、何だか悪意を感じるわね♪」
遠くから聞き覚えのある青年と少女の声が聞こえてきた。
「?あれ、今アガットさんとレンちゃんの声がしなかった?」
「さあ~、気のせいじゃないかしら?」
声に気付いたティータは首を傾げて、声が聞こえた方向を見つめたがエリカは笑顔で誤魔化した。
「うーん、でも………そろそろ約束の時間だよね。……わたし、お料理を温めなおしておかなくちゃ。えへへ、アガットさんだけじゃなくまさか、レンちゃんも来るなんて………今日は泊まってもらって、レンちゃんには一緒に寝てもらおうっと!」
考え込んでいたティータだったが、気を取り直して嬉しそうな表情で台所に向かった。
「うぉっ………!?な、なぜ街路から槍が………!?」
「うふふ、さっきのハンマーといい、ティータのお家は素敵な歓迎で一杯ね♪よほど貴方が気に入られているのね♪」
ティータが台所に向かって少ししてから、また聞き覚えのある青年と少女の声が聞こえてきた。
「あー、エリカ。槍はやりすぎるかと思うんじゃがな………」
「そ、そうですね。せめて落とし穴くらいで………」
一方青年と少女の声を聞いたラッセル博士は呆れた表情で溜息を吐き、ダンが苦笑しながら指摘したその時
「あら。まさかレンまで歓迎されているなんて。」
「なっ!?くっ!」
少女の声が聞こえた後、青年の驚いた声がし、そして何かと何かがぶつかり合う音がして、さらに
「ぐがっ…………!?」
「クスクス、大丈夫かしら?」
「………ぐっ、この程度………って、テメェ!さっき飛んで来た矢をかわす為に俺を盾にしただろう!?」
「え~、だってレンは”か弱い”女の子だもん♪男性は女性を守るのが役目でしょう?」
「テメェッ、俺と同じランクの癖によくそんなふざけた口が叩ける………うおぉっ!?また、いきなり上からハンマーが……!」
「うふふ、油断は禁物……!っと!!レンはそう簡単に引っかからないわよ♪」
再び青年と少女の声が聞こえてきた。
「………えっと。アガット君とレン君が到着するまでどのくらいかかりそう?彼とはもう少し腹を割った話をしたいし、彼女ともゆっくり話したいと思ってるけど………」
「ふふふ……それは女神のみぞ知るよ。」
苦笑しながら訊ねるダンにエリカは不敵な笑みを浮かべて答えた後、何かの装置を起動させた。
「フフ、二人ともなかなか健闘しているみたいね。……特にレン・ブライト。未だに一度も引っかからず、アガット・クロスナーを”盾”として利用するのは見事よ。…………そしてアガット・クロスナー。野生の勘で健闘はしているみたいだけど………『実験(しけん』はまだまだこれからよ!」
そしてエリカは目を妖しく輝かせて叫んだ!
こうしてアガットは毎月、月末の金曜日はティータの家に行く前に毎回エリカの『実験(しけん』を受けさせられた。その結果アガットは毎月の月末の金曜日は覚悟を決め、最大限の警戒をしながらティータの家に向かい、ティータを含めたラッセル家の者達から”歓迎”されていた…………
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