英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第76話
~琥珀の塔・屋上~
「もう……待ちくたびれちゃったわ。」
エステル達が屋上に到着するとユウナが”ゴスペル”が装着された装置の前で待ち構えていた。
「ユウナ……!」
「うふふ。エステルってば悪い子ね。ユウナが留守にしている間に”方舟”から逃げちゃうなんて。でも、まあいいわ。こうして遊びに来てくれたんだし。」
「ユ、ユウナちゃん……」
「うふふ、ティータもわざわざ遊びに来てくれたのね?アイスクリームは御馳走できないけどゆっくりとしていくといいわ。」
「あ、あう……」
勇気を出してユウナに話しかけようとしたティータだったが、ユウナに意味ありげな笑みを浮かべて答えると次に何を話せばいいかわからず、口ごもった。
「うふふ、王都以来ね、レン。あの時は遊んであげる時間はなかったけど、今回はたっぷりあるから楽しみにしていてね?」
「うふふ、それは楽しみね♪―――それよりもエステルから聞いたわよ?レンからエステルを取り上げる為にユウナがレンの代わりになる事を条件にエステルを”結社”に入るように誘ったって。幾らエステルがヨシュアを連れ戻したいからって、エステルの性格を考えたら”結社”に入る訳ないし、そもそもそれ以前に幾らユウナがレンそっくりになったとしてもエステルがユウナをレンと思える程器用な性格をしている訳がないでしょう?随分と浅はかな事を考えたものね?」
「むう、確かに言われてみればそうね。悔しいけどその点についてはレンの言う通り、そんな単純な事に気づかなったユウナの落ち度ね。」
レンの正論を反論することなく認めたユウナは疲れた表情で答え
「互いを嫌い合っているくせに、何であたしの事になると息ピッタリになるのよ。あんた達、本当はやっぱり仲が良いんじゃないの?」
「ア、アハハ……ま、まあ二人は双子ですから考えも一致してもおかしくありませんよ。」
「フッ、そういう意味ではお前とモースの手下であった導師守護役も同じではないか?」
「失礼、です。アニスとアリエッタ、全然違い、ます。」
ジト目になっているエステルにイオンは苦笑しながら指摘し、口元に笑みを浮かべているバダックに視線を向けられたアリエッタは表情をわずかに歪めて答えた。
「それから……うふふ。やっと姿を見せてくれたわね。会いたかったわ、ヨシュア。」
「……まさかこんな所で君と再会するとは思わなかったよ。大きくなったね……ユウナ。」
「うふふ、当然よ♪ユウナはもう11歳なんだもの。ヨシュアも、しばらく見ない内にすごくハンサムさんになったのねぇ。冷たい瞳をしていないのはちょっと変な感じがするけど……でも、今のヨシュアも悪くないわ。」
懐かしそうな表情をしているヨシュアに話しかけられたユウナは嬉しそうに答えた。
「そうか……ありがとう。」
「まったくもう……姉妹揃って相変わらずマセてるんだから。……あのね、ユウナ。あたしたち、”結社”の計画を阻止するためにここに来たのよ。」
「うふふ、そうみたいね。ユウナも退屈なのはイヤだし、付き合ってあげてもいいわよ。」
エステルの話に頷いたユウナは大鎌を構えた!
「クスクス……楽しませてちょうだいね?」
「……ユウナ……」
「悪いけど、あたしはユウナと争うつもりはないわ。それよりも……話をしに来たの。」
「お話?わあ、ひょっとしてお伽話でも話してくれるの?」
「ううん……”結社”の仲間になるって話。せっかく誘ってくれたんだけど、改めて断らせてもらおうと思って。」
「ま、ヨシュアと再会できたし仕方ないかもしれないわね。でも、考え直した方がいいわよ?エステル達が頑張ったって”身喰らう蛇”は止められない。それはヨシュアが一番よくわかっているはずよね?」
”結社”入りの話をエステルが断る事をある程度予測できていたユウナは溜息を吐いた後エステル達に忠告し、自身の忠告が正解である事をヨシュアに問いかけた。
「……それは……」
「それに”結社”に入ればエステルはもっと強くなれるわ。そうすればユウナと同じ”執行者”になれるのよ?うふふ、ステキだと思わない?」
「うーん、強くなれるっていうのは心惹かれないでもないんだけど……でも……それは本物の強さじゃないと思う。少なくてもあたしにとってはね。」
「……え……」
エステルの口から出た予想外の答えを聞いたユウナは呆けた表情をした。
「あたしは確かに強くなりたい。お母さんみたいに大切な人を守れるくらいに。ヨシュアを心配させないよう自分自身を守れるくらいに。」
「エステル……」
「でも”結社”に入ったりしたらあたしはあたしじゃ無くなっちゃう。本当の自分として強くなれなくなる。それじゃあ意味がないと思うんだ。」
「……わからない。エステルの言ってる事はユウナにはちっともわからないわ。本当の自分ってなに?それってどういうものなの?」
(あら……うふふ、さすがエステルね。)
エステルの主張を聞いて一瞬黙り込んだ後真剣な表情でエステルに訊ねるユウナを見たレンは目を丸くした後口元に笑みを浮かべてエステルに感心していた。
「あたしは……ユウナのことが好きだよ。マセてて、イタズラ好きで意外と思いやりもあって……色々と騙されちゃったけどあんたのことは憎めないのよね。勿論ユウナがレンの双子の妹だからとかそんな二人に対して失礼な理由じゃなくてね。」
「……エステル……」
「ふふっ……」
エステルの言葉にユウナが呆けている中、レンは静かな笑みを浮かべていた。
「でも、だからこそ……だからあたしはユウナに”結社”に居て欲しくない。大人になって、自分自身の意志で選ぶのならともかく……子供のあんたが、そんな場所にいること自体間違ってると思う。このまま大人になったら取返しがつかなくなるから……だから……」
「………………………気が変わったわ。」
「え……」
「「……ッ……!」」
説得の途中に突如呟いたユウナの言葉にエステルが呆けている中、ユウナの殺気を感じ取っていたヨシュアとレンが表情を引き締めたその時ユウナがエステルに襲い掛かり、ヨシュアはユウナの強襲を弾き返し、同時にレンは双銃で牽制攻撃を行ってユウナと自分達の距離を空けさせた。
「!!!」
突然の出来事にエステルは目を見開き
「ふふ……さすがねヨシュア。なかなかの反応速度だったわ。後レンも瞬時にヨシュアがエステルを庇う事を悟ってエステルの事をヨシュアに任せた後ユウナに反撃するなんて、ユウナの”元お姉ちゃん”だけはあるわね。」
「君こそ……大したものだ。どうやら”殲滅天使”の異名は伊達じゃなさそうだね。」
「そう、ユウナは強いわ。闇に紛れて動くしかない”漆黒の牙”や一つの事に特化した戦い方ができないから器用貧乏な戦い方で強さを誤魔化している”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”よりもね。」
「失礼ね。レンの場合は”器用貧乏”じゃなくて”完全無欠”よ。レンの強さがわからないんだったら、”格の違い”を思い知らせてあげてもいいのよ?」
ヨシュアの言葉に対して答えたユウナの答えを聞いたレンは不愉快そうな表情で答えた後不敵な笑みを浮かべてユウナを見つめた。
「ちょ、ちょっとユウナ!いきなり何をするのよ!?」
「うふふ、気が変わったの。ユウナの仲間にならないんだったらエステルなんか死ねばいいわ。ヨシュアも、レンも、他の人達も全員ね。」
突然の凶行に驚いているエステルにユウナは笑顔で恐ろしい事を答えた。
「っ……死ねばいいなんて物騒なこと言うんじゃないわよ!も~、アッタマ来た!お尻百たたきにしてやるんだから!」
「エステル、落ち着いて。彼女を甘く見たら―――」
「ヨシュアは黙ってて!子供のしつけと同じよ!」
「クスクス、甘いわね。エステルのそういうところわりと好きだったけれど……今は大嫌い。」
殺されようとしてもなお、自分をしつけるだけにしようとしているエステルの甘さに微笑んでいたユウナだったが膨大な殺気を纏って凍てつくような視線でエステルを見つめた。するとその時人形兵器達がエステル達を包囲した。
「No.ⅩⅤ―――”殲滅天使”ユウナ。これより敵集団の殲滅に入るわ。」
そしてエステル達はユウナ達との戦闘を開始した!
「…………」
エステル達を包囲した人形兵器達は戦闘開始早々次々とレーザーを放った。
「キャッ!?」
「あうっ!?」
仲間達がそれぞれ回避したり防御したりしている中、回避や防御が遅れたエステルとティータはレーザーによるダメージを受けた事によって怯み
「うふふ、逃げられないんだから♪」
エステル達が人形兵器達の攻撃に翻弄されている間にユウナは全身に闘気によって発生した漆黒の闇を纏ってエステル達に突撃して大鎌を振るった!
「そ~れ♪」
「―――龍炎撃!!」
一撃必殺の斬撃を放つユウナのSクラフト―――ユ・ラナンデスからエステル達を守る為にレンは双剣に纏わせた炎の龍を叩き込む剣技で相殺した!
「うふふ、”元お姉ちゃん”が最初に死にたいんだ?それなら遊ぶ前に言ってよ♪」
「うふふ、”元妹”の腕でレンを殺せると本気で思っているのかしら♪”元”とはいえ家族に迷惑をかけたんだから、ユウナの”元お姉ちゃん”として2度とレン達に逆らえないように徹底的に叩きのめしてあげるわ♪」
互いの武器でつばぜり合いの状態になった双子の姉妹はそれぞれ殺気を纏って不敵な笑みを浮かべて互いの顔を見つめた後それぞれ同時に跳躍して互いの距離を取った後戦闘を再開した。
「――――フィールドバリアー!!オーブメント駆動…………………」
一方譜術の詠唱を終わらせたアリエッタは仲間全員の防御力を上昇させる譜術―――フィールドバリアーを発動した後オーブメントを駆動させ、更に譜術の詠唱を開始した。
「巻き込め―――空破爆炎弾!!」
アリエッタの譜術が終わるとイオンは全身に火炎を纏った斜め回転突撃で人形兵器を宙へと浮かせ
「鷹爪襲撃!!」
続けて宙へと浮かせた人形兵器を地面に踏みつけた。
「連牙弾!四葬天幻!!」
そしてイオンは凄まじい勢いで次々と拳や蹴りを繰り出して人形兵器のダメージを蓄積し
「連撃、行きます!疾風雷閃舞!」
連携技を繰り出した後全身に闘気を纏って、拳と蹴りによる激しい連撃を浴びせた後飛び上がって高速移動を伴った蹴りを繰り出し
「これで止めです!」
止めに拳で溜めた気を叩きつけ、イオンのSクラフト―――疾風雷閃舞を受けた人形兵器は消滅した!
「おぉぉぉぉっ!」
「………」
自分に向かってくるバダックに気づいた人形兵器はレーザーをバダックに放ったが
「烈火衝閃!!」
バダックは大鎌を振るった事によって発生した放射状の火炎を放って相殺して人形兵器に近づいて反撃を叩き込んだ。
「獅子戦吼!!」
「!?」
機体に強烈な打撃を受けた人形兵器は怯み
「地龍吼破!!」
その隙を逃さないかのようにバダックは大鎌による薙ぎ払いから叩き付けて地面から岩石を吹き上げる連携技で追撃して人形兵器を宙に浮かせ
「とらえたぞ!炎牙爆砕吼!!」
止めに宙に浮いた人形兵器を掴み取って闘気による業火の爆発で止めを刺した!
「か、覚悟してください!!」
ティータは煙幕弾を空に撃ちあげて自分達の周囲を包囲している人形兵器達にダメージを与え
「せいっ!!」
「絶影!!」
エステルとヨシュアは続くようにそれぞれクラフトで追撃をした。
「…………」
「きゃっ!?」
「やっ!?」
「っ!?」
しかし追撃していなかった人形兵器達が反撃をしてエステル達にダメージを与えた。
「が、頑張って!!」
ダメージを受けたティータは癒しのエネルギーを降り注がせる回復砲弾を放つクラフト―――バイタルカノンで自分達の傷を回復し
「烈震天衝!!」
「おぉぉぉぉ……!」
エステルとヨシュアはそれぞれ広範囲を攻撃するクラフトで人形兵器達を足止めしていた。
「降り注げ、聖なる雫よ―――ホーリィレイン!―――デス・スクリーム!!」
その時譜術の詠唱とオーブメントの駆動を終えたアリエッタが戦場全体を攻撃する譜術とアーツを発動して人形兵器達を纏めて一掃した!
「魔神剣・双牙!!」
「うふふ、そんなの喰らう訳ないでしょう?えいっ!!」
レンが放った衝撃波を軽やかに回避したユウナは大鎌で弧を描く技―――クレセントエッジで強襲し
「!アクロバレット!!」
ユウナの強襲に対処したレンはその場で跳躍して空中で武器を双銃に変えた後上空からユウナを銃撃した。
「っと!」
しかしユウナは上空からの銃撃に対しても子供とは思えない跳躍力で側面に跳躍して銃撃を回避し
「うふふ、死んじゃえ!」
レンが着地する瞬間を狙って大鎌を投擲するクラフト―――カラミティスロウで反撃した。
「粋護陣!!」
襲い掛かる大鎌に対してレンは一瞬で闘気による結界を展開して防ぎ
「二の型・改―――裏疾風!双牙!!」
「キャッ!?」
投擲し、ブーメランのように戻って来た大鎌を回収する時にできたユウナの隙を逃がさずに電光石火の速さで強襲してダメージを叩き込み
「ブラッディブレイズ!!」
瞬時に武器を双銃に変えた後双銃を華麗に連射した。
「!よくもやったわね……!お返しよ――――エアリアル!!」
「キャッ!?」
レンの銃撃を回避したユウナは凄まじい集中力によって僅かな時間でオーブメントを駆動させてアーツを発動してレンにダメージを与えた。
「うふふ、これで逃げられないでしょう?さようなら、元お姉ちゃん♪」
アーツによって発生した竜巻に命中したレンの様子をチャンスと判断したユウナはSクラフト―――ユ・ラナンデスで竜巻の中にいるレンごと斬り裂いた。しかし――――
「え……手ごたえがない……?」
竜巻ごと斬り裂いたにも関わらず人を斬り裂いた感覚を感じられなかったユウナは困惑の表情をした。
「うふふ、最初に言ったでしょう?ユウナとレンの”格は違う”って。崩襲脚!!」
するとその時跳躍して上空に退避してユウナのSクラフトを回避したレンがユウナの背後から闘気を纏わせた蹴りで奇襲した!
「!!」
レンの奇襲にすぐに気づいたユウナは大鎌でレンの奇襲を防御し、一方ユウナに蹴りで襲い掛かっている僅かな間に次の技を繰り出す為に両手で溜めの構えをしていたレンは猫の顔をした闘気の衝撃波を放った!
「ニャン戦吼!!」
「ッ……!」
闘気の塊ともいえる猫の形をした衝撃波も防御したユウナだったが、防御した際に武器越しに伝わって来た衝撃によって後ろに後退させられた。
「ホーリィレイン!―――デス・スクリーム!!」
「キャアッ!?」
するとその時アリエッタが発動した戦場の敵全体を巻き込む譜術とアーツが発動してユウナにダメージを与えると共に怯ませた。
「チャンス♪―――ハァっ!せいっ!やぁっ!ハァァァァァ……!」
その隙を逃さないレンは分け身を作り出した後分け身達と共に高速で全方面から流れるような連打をユウナに叩き込んだ後両手に練った闘気のエネルギーを解き放った!
「風塵ニャン吼掌!!」
レンが解き放った闘気のエネルギーは巨大な猫の顔となり、エネルギーはユウナに噛みつくかのように口を大きく開けてユウナに襲い掛かった!
「!!っ……!?――――!あら、連れてきた子が全部やられちゃうなんて……クスクス、結構やるじゃない。」
しかしユウナは間一髪で後ろに跳躍して回避しようとした。ユウナがいた場所にエネルギーがぶつかると広範囲に衝撃波が発生した為、直撃は避けたが衝撃波によるダメージをユウナは受けてしまい、態勢をすぐに立て直そうとユウナだったが既に人形兵器達をエステル達が倒し終えた事に気づくと感心した様子でエステル達を見つめた。
「い、いい加減にしなさいよ!こんな事ばかりして本当にユウナは楽しいわけ!?」
「うふふ、もちろんよ。ユウナはね、人が苦しむ姿を眺めるのがとっても好きなの。ぽっかり空いた胸の穴が埋まっていく気がするから。ユウナはね、人が痛がる声を聞くのがとっても好きなの。夜、ぐっすり眠れるから。」
「……ッ……」
「そうか……君は今でも……」
「…………なるほどね。”それが”ユウナの”あの時の事を思い出さない”方法ね。」
ユウナの話を聞いたエステルが信じられない表情をしている中、ユウナの話を聞いてある事を察していたヨシュアとレンは複雑そうな表情で呟き
「……ヨシュアとレンは黙ってて。」
そして全てを凍てつかせるような視線でヨシュアとレンを見つめて二人にこれ以上話さないように釘を刺したユウナはエステルに視線を向けて話を続けた。
「ねえ、エステル。ユウナとレンの関係を知ってからレンにも聞いたでしょうけどユウナとレンには小さな頃、ニセ物のパパとママがいたわ。」
「うん………確か二人の両親は昔、危険な相場に手を出したせいで借金を背負ってしまったって話よね?」
「そうよ。ニセ物のパパとママ、そしておねえちゃん。みんな大好きだったけど、エステルの話にあったようにお仕事とかで失敗しちゃってね。ユウナとレンのこと、悪い大人たちに引き渡しちゃったのよ。『必ず迎えに行くからね』って泣きながら何度も繰り返してね。レンも覚えているでしょう?」
「……ええ。」
「……………」
笑顔で自分達の壮絶な過去の一部を語ったユウナに視線を向けられたレンは静かな表情で答え、エステルは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「その人達に引き取られた後、ユウナとレンは色々なことをやらされた。大抵のことはすぐに慣れたけど痛くされるのだけは慣れなかった……同じくらいの子達もいたけどすぐに具合を悪くしちゃって、いなくなっちゃう事が多かった。そんな生活が半年くらい続いたわ。」
「……くっ……」
「……ユウナ……ちゃん……レン……ちゃん……」
(イオン様、”殲滅天使”の話している事は間違いなく……)
(”D∴G教団”に拉致されて以降の生活の事ですね……)
(あの最低最悪の外道共が……!今思い出すだけでも、”予言”によってシルヴィアを失い、メリルを奪われた時の事を思い出す程の怒りが湧いてくる……!)
ユウナの話を聞いたエステルは唇を噛みしめ、ティータは辛そうな表情で双子の姉妹を見つめ、アリエッタに視線を向けられたイオンは重々しい様子を纏って答え、バダックは怒りで震えていた。
「結局ね。パパとママは偽物だったのよ。本物なら、ユウナが痛がっていたらすぐに迎えに来てくれるはずだもの。勿論、”妹”が痛がっているのに助けてくれなかったレンも偽物。そうでしょう、エステル?」
「………………」
「ユウナこそ、”姉”が痛がっているのに助けてくれなかった癖によくそんな厚かましい事が言えるわね……」
ユウナの問いかけにエステルが複雑そうな表情で黙り込んでいる中、レンは全てを凍てつかせるような視線でユウナを見つめて呟いた。
「”厚かましい事”ですって……?ユウナと同じ”穢れた子供”の癖に自分だけ”幸せ”になったおねえちゃんにだけはユウナにそんな事を言う資格はないわよ!」
するとその時ユウナは怒りの表情でレンを睨んで怒鳴った。
「ユ、ユウナちゃん……?」
「レンとユウナが”穢れた子供”……?レン、それって一体どういう事なの……?」
「…………………”今のエステル”だと知る資格はない……とだけ言っておくわ。」
「「「………………」」」
ユウナの突然の豹変にティータと共に戸惑っていたエステルに訊ねられたレンは複雑そうな表情で答え、事情を知っているイオン達は重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「……ユウナ。まさか君がレンを憎んでいる本当の理由は――――」
「レンだけ”本物の家族”を手に入れて”幸せ”になった事を嫉妬しているのでしょう?」
ヨシュアがユウナに問いかけようとしたその時、レンが続きを答えてユウナを挑発するかのように口元に笑みを浮かべてユウナに問いかけた。
「うふふ、確かに最初にその様子を見た時にそんな感情が湧いた事は否定しないけど、その事は関係ないわよ?だって、レンは”ニセ物のおねえちゃん”なんだからユウナには関係ないし、レンに”焔の剣聖”が迎えに来たようにヨシュアとレーヴェがユウナを迎えに来てくれたから。悪い大人たちを皆殺しにしてね。」
「え……」
「……”結社”はたまに下劣な犯罪組織を潰す事がある。もちろん正義のためじゃなく、自らの秩序に組み込むためにね。そんな任務の一つだったんだ。」
「そうだったんだ……」
「女王宮で”剣帝”と対峙した時のアリエッタの話を聞いてもしやと思いましたが、あの場所にいた者達を殲滅したのは貴方と”剣帝”だったのですか……」
ユウナの話を補足したヨシュアの説明を聞いたエステルは呆け、イオンは真剣な表情でヨシュアを見つめた。
「”結社”に引き取られてからユウナは色々なことを学んだわ。ヨシュアからは隠形術を、レーヴェからは武術を教わった。他の人達も、それぞれ得意とする分野を教えてくれた。そして”十三工房”では人形とお友達になる方法を教わって……―――そこでユウナは本当のパパとママ(パテル=マテル)に出会った。」
そして話を終えたユウナが大鎌を掲げると上空からパテル=マテルが現れて屋上に降り立った!
「あ……!」
「あ、あの時の人形兵器……!」
「なんて大きさ……!」
「あれが話にあった王都に現れたという”結社”の巨大人形兵器か……!」
「ゴルディアス級戦略人形”パテル=マテル”……!」
「改めて見ると本当に大きいですね……ディストの譜術兵器すら、霞んで見えますね。」
「というか、それ以前にディストが作った趣味の悪い兵器と、比べる方が間違って、います。」
パテル=マテルの登場にエステル達が驚いているとユウナは跳躍して柱の上に乗った。
「子供のユウナが”結社”にいること自体間違ってる……?このまま大人になったら取り返しがつかなくなる……?」
エステルの主張を馬鹿にするかのように嘲笑の笑みを浮かべて呟いたユウナはパテル=マテルの片手に飛び乗った。
「”結社”に引き取られたからユウナは本物のパパとママ―――”家族”に会えた!この世で一番幸せな女の子になれた!」
「……ユウナ……」
「………………」
ユウナの主張を聞いたエステルは真剣な表情でユウナを見つめ、レンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「それを否定するならエステルはユウナの敵よ……パパとママに潰されて苦しみながら死ねばいい。」
そしてエステル達はパテル=マテルとの戦闘を開始した!今まで戦った人形兵器達とは比べ物にならないパテル=マテルを相手にエステル達は善戦していたが、幾ら攻撃しても装甲が余りにも硬かった為、決定打を与えられないでいた。
「あう……硬すぎるよ……」
「パワー、装甲共に”トロイメライ”以上……」
「ああ……間違いなく”トロイメライ”すらも”格下”と思えるくらいの人形だ。」
「……しぶといわね。いいわ、もう飽きちゃった。”パテル=マテル”!出力全開でエステル達を―――」
ユウナがパテル=マテルに指示をしようとしたその時装置に設置されていた”ゴスペル”の光が消えた!
「あ……」
「も、戻った……」
「”塔”が解放されたのか……」
「これで、”四輪の塔”全てが解放されたことに、なりますね。」
「ええ……問題はここから”何が起こるか”ですね。」
「……つまらないわ。もう少し保ってくれたらまとめて皆殺しにできたのに。」
塔が戻るとエステル達を睨んでいたユウナはもはやこの場に用はないとばかりに、パテル=マテルの両足のブースターを起動させてパテル=マテルを宙に浮かせた。
「ちょ、ちょっと!?」
「うふふ……ユウナは”グロリアス”に戻るわ。”β”が役目を果したら戻ってくるよう教授に言われたの。」
「きょ、教授が!?」
「”β”が役目を果たした……”塔”が元通りになるのも計画の一部だったというのか!?」
「さあ?ユウナも詳しくは知らないわ。ただ、ここを包んでいた結界は”環”の”手”だって聞いたけど。」
「”輝く環”の……”手”!?」
「クスクス……どういう意味なのかしらね?―――うふふ、それじゃあまたね。今度会った時は―――まとめて殺してあげるから。」
そしてユウナはパテル=マテルと共に塔から去って行き、”ゴスペル”を回収したエステル達はアルセイユに戻った。
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