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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第24話 終局

 
前書き
これにて、第1章は終わりです 

 
努力はしてきたつもりだった
幾千幾千の努力がたったひとつの能力に打ち砕かれる現実

学園都市って残酷よね
能力を数値化してどっちが優秀かハッキリさせちゃうんだもん

いつかきっと超能力(レベル5)になる
この街の学生の大半が思い描いてきた夢を追いかけてきた
カリキュラムをこなし、少しずつ能力は上がっていった
しかし、本当の超能力を目にしてしまった
そこに行くには
突飛な足がかりさえ掴めない
高く厚い壁があるとい事を理解した

......レベルアッパーに手を出した多くの者達の心の闇を溜め込み、膨張した胎児は、醜く膨れ上がっていた。
ひたすらに泥水を舐めるように抑えられてきた無能力者や低能力者の念いが不安定で不定形なものを生み出した。

ここでは、能力者とそうではない者の差は激しく。
自分の無力に打ちのめされて、夢を破れられて、ここに居る意味を見つけられなくてもがいている。
みんながそうしていた。超能力開発という強烈でセンセーショナルな教育が抱える負の側面。

一人の兵器並の超能力の陰には数百、数千人の失敗があるわけで。

怪物はその思念体の塊だった。
学園都市が抱える声にならない弱者の叫びが具現化した姿。
それが、決して届かないと思っていた超能力者(レベル5)を相手に対等に渡り合うのは皮肉に近い。

木山は、初春に言い渡した案が成功するかどうかなんて確証は無かった。

ワクチンソフトを学園都市中に流す事でレベルアッパーのネットワークを破壊する。
彼女がうまくやれば『幻想猛獣(AIMバースト)』の暴走を抑える事ができるはず

そう、理論では成功する
だが、現実は不確定要素が絡み思わぬ綻びから重篤な状態に落ち込む可能性もある。

安全だと思っていた実験
計画書に記載された手順通りやれば何もかもうまくいくはずだった

強く殘る薬品の匂い
耳鳴りのように身体に染み付いた警告音
教え子を昏睡させてしまった木山に安息の夜なんて訪れなかった。
眼を閉じれば、血に彩られた教え子がベッドに横たわりながら目の前を通過していく。
何度も、何度も
時が過ぎても色褪せることなく、むしろ濃くなる記憶
木山は、その時から一瞬でも寝ていないかのように眼の縁に隈を浮かび上がらせながら、研究者としてすべての力を総動員してあの子達を救うことに執念を燃やし続けてきた。
女性としての身なりなど木山には二の次にし、学園都市上層で踏ん反り返っている科学者、役人を引きずり降ろそうとした。

奴らがいる限り、この非人道的な実験が陰の中で誰にも知られずに行われるに違いない

だが、木山は敗れた。
元締のかつての上司と戦うことなく、御坂とサソリの前で膝を突き、自死も初春に止められて無様に生きるしかなくなった。
昏睡状態の子供たちも立派に成長していればあのくらいの歳になっていただろう。
大人は甘い汁を吸い
いつだって子供たちが凄惨な現場に押しやられていく
実験に血を流し、涙を我慢し、吐きそうになるほどの嗚咽に堪えている。
泥だらけになっても、汚れても決められた週二回のシャワーのみ。
お風呂に入れるだけで、感激の声を上げる。
大人にとってみれば、当たり前のことが子にとって幸せだった。

そして、当たり前のように実験に使いボロ雑巾のように使い棄てをする。
声にならない咽びを冷たいガラス越しに覗き、発案者の大人は優雅にコーヒーを飲んでいる。

あの子達は何の為に生きている!
大人が勝手に踏み躙っていいものじゃない!
あの子達は、子供達は......
生きなければならない
こんなのを運命と認めるわけにはいかない
「......幸せにならないといけない!」
木山は、身体に走る鈍い痛みを感じながら起き上がる。

このまま、座り傍観する方が遥かに楽だ。
しかし、それは大人の毒に侵されるということだ。
諦めること、落ち着いているがそれは力に屈して大人しくしているだけだ。
それでは、実験の時にモニターの前でデータ集めをしていた学者と同じになってしまう。

木山は力を振り絞り、暴走した怪物の後ろを足を引きずりながら追う。

自分が蒔いた種だ
大勢を巻き込んだ自分の罪は重いだろう
AIMバーストを止めなければ
命に替えても......


マッズイわね......
アンチスキルの人に教えて貰ったけど原子力施設へ向かって来ているわ

もはや、胎児だった面影はなく幾重にも重なった肉の塊が人体の脳を形成しているように見えた。
触手を伸ばし、御坂の足を捉えると引っ張り上げる。
「やばっ!」
かつて抱いた憧れは、今や強大な憎しみへと変貌し、御坂に迫る。
引っ張りながら、別の触手に太い剣先を造り上げて御坂を貫こうと狙いを定めていく
「うっ!?」
御坂は咄嗟に電撃を出して焼き切っていくが放った後で学習した相手の挙動が過る。
攻撃を加えれば加える程に容積は大きくなり、怪物の凶悪さ、能力がエスカレーター式に上昇していく。

ミスッた!
すぐ復元するんじゃ意味ないじゃないっ......

しかし、怪物の焼き切られた触手は再生せずに生々しいドロッとした中身を露出させている。
「!!?」

木山は、再生しない怪物の身体を眺め、案が正しい解であったと悟る。

レベルアッパーのアンインストールに成功した!
あとは、力を削ぎ落とし倒すことが出来る

???
怪物は、切られた触手が再生しないのが理解できないように首とも思えない部分を伸縮させる。
だが、それ以上に動きが固まり、怪物はギョロッと張り出した眼で、ある一点を見つめている。
「?」
動きが止み、御坂は攻撃のチャンスとばかりに電撃を放ち、肉塊を崩しながら大量の電撃を触手に流し込み、熱電対で吹き飛ばす。
怪物は、焦げ付いた身体から口を裂き、浮遊していた身体を地面に落下させた。

生物ならばこれだけの火傷は命に関わる。追い打ちはしない。
「何とかギリッギリで止めたって事になんのかしらねー」
実験場を囲んでいたコンクリートの壁が破壊されたが、これくらいは大目に見て欲しい。

ついに地に堕ちた怪物は身体を震わせていた。

その恐怖の対象は、御坂でもなく木山でもない
全く新しい脅威をこの場に居る誰よりも先に気づいた
弱いと自覚しているからこそ働く察知能力
それが己を守ることに繋がるからだ

確実に倒したと思った人物
悍ましい程に高められていく眼

万華鏡写輪眼!

すべてが飲み込まれていくような寒気を感じた。
かつての努力を無に帰す程に圧倒的に開いた格の違いをあの人物は放っている

怪物は、背後にある原子力実験炉を見ていた御坂に向けて、太い触手で殴りかかる。
「気を抜くな!まだ終わっていないっ!!」
その声に、御坂は思わず電撃を放出し、寸前のところで躱した。
声のした方をみれば、穴の空いたストッキングを履き、肩を押さえて辛うじて微かに歩んでいる木山が居た。

「ちょっ......!?動いて大丈夫なの?」

そんな心配を他所に木山は、目の前の怪物について慣れたように御坂へと授業を始めた。
「アレはAIM拡散力場の塊だ。普通の生物の常識は通用しない。体表にいくらダメージを与えても本質には影響しないんだ」
「そんなのどうしろって言うのよっ!?」
「力場の塊を自立させている核のようなものがあるはずだ......それを破壊できれば......」

怪物は低くなった声で咆哮した。そして増えた眼球で高速道路上にいるサソリを見据える。

オマエサエイナケレバ......

優先順位が変動し、サソリへと攻撃の照準を変えると光線を集めて、光球体を作り出した。
「ちょっ!?」
「!!?」
御坂と木山は予想だにしない怪物の動きに身体を動かす、御坂は電撃を本体に飛ばすが誘電力場を形成し、弾いた。

そして、光球を作り出すとサソリの居る所へ放った。

******

あの怪物を倒すには、レベルアッパー治療のデータを使えば良いみたいです

初春が木山から聞き出してきた情報を信じて今は言う通りにするしかない

サソリは、初春と白井が乗り込んでいる連絡専用車の前で腕を組んでその時を待つ。
チャクラ感知をしておけば怪物に起きる変調を逃さずにおける。
それが成功しなければ、打つ手がなくなる。
無限に再生し、無限のチャクラで襲い掛かってくる相手と戦い合うのは分が悪過ぎる。
「!?」
サソリは、組んでいた腕を外した。
チャクラの塊がこちらに飛んでくるのが分かり、忍の構えをすると足先にチャクラを込める。

見つかったか
邪魔はさせんぞ!

サソリは光球の軌道上に来ると氷を出現させて相殺させようとするが......
「!?」
氷は発動せずに、耳鳴りは止んでいた。

レベルアッパーがアンインストールされたことにより佐天から渡された能力は解除されてしまっていた。
光球は、スピードを落とさないで真っ直ぐ飛んで来ている。
「くっ!!」
サソリは高速で印を結び砂の壁を造り、
腕を前に出して全身で光球を受け止めに掛かる。


連絡用車で作業を進める初春。
後ろには白井がバックアップを担当し、最後の作業をしていた。
音声データが破損した時のことを考え、コピーデータを作成している。
「よし、これで学園都市全体に流されたはずだ」
「ありがとうございます」
初春がホッとしたように息を吐き出した。
「ふう、バックアップのコピーも完了しましたわ。これが壊されたら替えが効かない死にゲーなんてゴメンですわよ」
「はは、結構動き回っても大丈夫でしたよ」
突如、車の外から爆発音が響く。衝撃で車自体が少し傾いて、一定の所で元に戻る。
「うわわ!」
「な、何が?」
バランスを崩し、床に頭をぶつけた初春が頭を押さえている。
初春と白井は、互いに顔を見合わせた。
爆発ということは攻撃を受けているということ。

「!?」
初春と白井、アンチスキルの四人が慌て車から降りてくると、もうもうと土煙と火炎が近くに起きていた。
「な、何が起きた!?」
「それが、あの怪物がこちらに向かって攻撃をしてきまして、あの少年が身を呈して車両を」
指の先には、車両から少し離れた場所で左腕を押さえて激痛に耐えているサソリがいた。
「あ......ぐぐ!」
激しい爆発をモロに食らい、サソリは傷口の下を持ち、なんとか腕が振れないように固定している。

「サソリ!」
「サソリさん!!」
白井と初春が駆け付ける。
信じられない程、腕から出血していた。
「つつ......」
呻き声を出した。

「大丈夫ですの!」
「クソっ!オレの術を突き破って来やがった......なんとか軌道をズラしたが」

サソリが砂の壁を出現させて、光球を迎え討つが、壁を突き破り、サソリの腕に当たると爆発し、僅かに軌道がズレて車両の横寸前を通り過ぎた。
爆発の衝撃でサソリは飛ばされてしまい、半ば倒れてしまうように前屈みになる。
「はあはあ、ぐっ!」
光球のモロに受けたに等しい、サソリの左腕はダラっと力なく重力に引かれ血がダラダラと流れ落ちていた。
サソリは、自分の血が滴る腕を力を入れて握る。
痛みを紛らわそうと、身体中に散らそうとしているかのように見えた。

酷く痛む
指先に力が入らなく、印を結ぶのは難しい
だが、氷遁の能力が使えなくなったということは、レベルアッパーの繋がりが断ち切れたということを意味する。
ようやく、これで奴を......
「はあはあはあはあ、良くやったお前ら」
「サソリさん......」
「大丈夫か!?」
救急箱を片手にアンチスキルの隊員が走って来て、負傷したサソリの腕を診る。
「これは......応急処置しか出来ないが」
折れていることも考慮して、傷口を消毒しガーゼを当て、添え木をするとサソリの左腕に包帯をキツめに巻いた。
「ぐがっ!」
「痛むか?これで病院まで我慢してくれ」

「!?」
サソリのチャクラ感知が更なるチャクラの塊を捉えた。
「......待ってくれねえみたいだな」
光球がサソリ達に向けてもう一発放たれていた。
眩い光が空気を切り裂き、負傷したサソリを狙うかのように真っ直ぐ向かって来ている。
その前に白井が立ち塞がった。
「き、君!?」
「白井さん何を?!」

同時に視覚を封じられているサソリがチャクラ感知で反応した。
「お前!?」

空間移動しようにも、アンチスキルと初春、そしてサソリもいるこの状況では、全員移動し終わる前に着弾し、爆発してしまう。

でしたらあの光の球を移動させてしまえば良いですわ
爆発する瞬間に、触れた瞬間に安全な場所へ移動させる

少しでもタイミングがズレれば白井は爆発に巻き込まれて終わりだ。
正直、そんな大博打に出るのはゴメンだ。
しかし......白井はサソリの前から退かない。
覚悟を決めたかのように一瞬だけサソリを見た。
何者にも屈しない
子供の頃に憧れた「正義の味方」とサソリが重なった。
「今度は、私が護りますわ」
流石に今からやる事を考えれば、背中側に冷たい汗が流れる。
頭がおかしくなったと言われれば肯定しそうな心境だ。

「ふ、ふざけんじゃねーぞ!そんな事を許すと思うか!」

時空間忍術が扱える、数少ない能力を有する白井はサソリにとってはこれ以上ないレアな素材だった。
それが自分の目の前で壊されそうになっているのがサソリにとっては我慢出来なかった。

白井は、前だけを向き続けていた。
今、後ろを見てしまえば踏ん切りがつかなくなる。
極限にまで集中力を高めなければ、触れた感覚よりも早く演算処理をして飛ばさなければいけないからだ。

「白井......お前はオレのものだ!退がれ」
サソリの眼から包帯が崩れ落ちた。
中から紅く輝く幾何学模様の瞳が姿を現す。
「えっ!?」
白井は、サソリの言葉に赤面した。サソリのメガトン級の告白に白井はワナワナと震えだして、信じられない言葉を聴いたように口を少しだけ開けてサソリを振り返る。

「!?」
初春も固まる。アンチスキルからも「おお!」と歓声が漏れた。
サソリは、息を切らしながら焦点を光球に合わせるとチャクラを込めた。
光球の周りの景色が歪みだし、一点に凝縮するように消えた。
「!!?」

不意に消えた光球に白井は、辺りをキョロキョロして探すが何処にもない。
サソリの方を見れば、紅い眼をしたサソリが荒い呼吸を繰り返していた。

「嘘ですわ......触れずに空間移動を!」
白井の空間移動能力(テレポート)は、手に触れた物を瞬間移動させる。
つまり、対象に触れていなければ能力は発動できない。

サソリは、自分の目が見えていることに驚いていた。
無我夢中で白井を守るために時空間忍術という術をこの眼から発動できた。

再び目覚めた万華鏡写輪眼で攻撃を開始している怪物を視野に収める。

オマエサエ
オマエサエイナケレバ

憎悪に似たドス黒い感情がサソリの中に流れてきた。

そういうことか
オレを最初から狙っていたということか......
望み通り目の前に行ってやろう

サソリの身体から残り少ないチャクラを溢れ出させて、立ち上がる。
「はあはあはあ」
包帯で巻かれた部分から血が滲み出す。
サソリは、写輪眼にチャクラを溜めた。

やはり、この眼は時空間忍術が使えるな
これで移動がしやすくなるな

フラフラと身体を引きずるように歩き出す。
「さ、サソリ!」
白井がサソリの腰元に抱き付いた。
「!?」
不意の突進をくらい、ビリビリとした痛みが左腕から流れ、顔を歪ませる。
「何処に行きますの?!」
必死に見開いた眼でサソリを見上げる。
「ちょっとな」

早く白井達から離れなければ......

「まさか、そんな身体であの怪物の前に行くんじゃ?」
「奴の狙いはオレだ」
サソリは白井の腕を外し、払い退けた。
「あ......」
払われヒリヒリする手を持ちながらも白井は、サソリを止めようと手を伸ばす。
このまま遠くに行ってしまいそうな程に寂し過ぎる背中。
居ても立っても居られなかった。
「で、でも」
「白井」
サソリは、振り返ると白井の腕を取り強引に白井の顔に自分の顔を近づけた。
正確には眼に近づけた。

写輪眼!

「あ......ああ」
万華鏡写輪眼の幻術に掛かり、白井はサソリの身体に凭れかかるように力を無くした。
目には涙が溜まっている。
サソリは、ゆっくりと白井をその場に座らせると
「すまんな。初春、白井を頼んだ」
「サソリさん......戻ってきますよね?」
サソリは、静かに笑みを浮かべる。
「当たり前だ」

サソリはチャクラを集中させ、時空間忍術で己を一点に凝縮させた。

時空間忍術 神威

******

欲しい
苦しい
難しい
羨ましい
助けて

電子音のような音にノイズのように走る、日本語。
どれもが御坂には苦しみ、もがいているように思えた。

「倒せそうか?」
空間が捻り始め、紅眼をしたサソリが一点から三次元へと拡張された。
不意に現れたサソリに御坂は仰天する。
「アンタ、眼は大丈夫?」
「ああ、よく分からんが。観えるようになった」
「赤髪君か」
木山は肩を庇いながら現れたサソリに声を掛けた。
「お、どうやら死に損なったみてえだな」
サソリが皮肉交じりに木山に言った。
「花飾りの彼女に止められてね。全く次々と目論見を打ち崩してくれる」
「お前が上手くやらんからだ」
サソリは肩で息をしながら、腕を押さえた。
そこで御坂は、サソリの腕に大怪我をしているのに気づいた。
「あ、アンタ!どうしたのその傷!?」
「コイツの流れ弾に当たっただけだ」

怪物はサソリの姿を見下ろすと震えだした。
そして叫び声を上げるように奇声を出すとサソリに向けて触手で一斉に囲むように繰り出した。

「!?」
サソリは、迫る触手の群れを前にしても笑みを浮かべて、両眼を怪物に向けた。

コイツ
サソリを狙っているんじゃない
サソリを恐れているんだわ

サソリの万華鏡写輪眼が怪物の眼を捉え、動きが止まる。
「さて、レベルアッパーが解除されたが、どうやって仕留めればいい?」
視線を怪物から離さずに木山に質問した。
怪物は、金縛りにあったかのように震えながらその場に留まっている。
伸ばした触手もそのままだ。

「核を破壊すれば止まるはず」
「核か......ちょっと待ってろ」
サソリは万華鏡写輪眼で観える世界に意識を向ける。
写輪眼により観えるチャクラの細かい流れ、その全てが集まり中心となる箇所を捉えた。

あそこにチャクラの中心があるな

サソリは焦点を核の手前の肉塊に集中させた。核は予想以上に堅固に出来ているらしく飛ばすだけでは意味がない。

神威

膨れ上がった肉が渦を形成し、一点に結われていくかのように消失すると怪物の身体から三角柱のガラス体のような物体が露出すると、サソリは踵を返し御坂に指示を出した。
「あれを撃ちぬけ」
サソリは、脱ぎ捨てた自分のボロボロになった暁の外套を手に持つと左肩に引っ掛けた。
傷口を隠すように覆った。

苦しい
妬ましい
羨ましい
憎い憎い
自分の弱さが憎い
全てが憎い

サソリの写輪眼を通じて伝わる、負の感情。
それから目を背けて、サソリは厳しい口調で怪物に言い放つ。
「知るか!」
サソリに消された肉塊の間から露出した核を狙い、御坂はコインにエネルギーを溜めて、電磁誘導で音速の三倍以上のスピードに加速して撃ち出した。

超電磁砲(レールガン)の異名を持つ御坂の得意技だ。

レールガンを受けた核は、怪物の身体から飛び出ていき、衝撃で真っ二つに割れて粉々に砕けた。
予想より持つ衝撃が激しく、火花が散っていく。
サソリは、その様子を背中で受けながら
「終わりだ」

核を撃ち抜かれた怪物は、大気に弾け粉々になり大量の光を放出しながら、まるで蒸発するかのように、空気を切り裂いて消えていく。
切り裂かれた空気が悲鳴のように聴こえた。

いとも簡単に核を見つけたサソリ。
常識では通用しない不思議な技で怪物を破壊に導いた。
この科学主義の都市では推し量れない能力。
そしてAIMバーストを寄せ付けない圧倒的な力
この二人が相手では......

「サソリ!」
御坂が勝ち誇ったように伸びをした。
「お疲れ!」
「お前もな」
握手をして、互いの健闘を讃え合う。
御坂がサソリの腕をブンブンと振ると左腕の怪我に響き、痛みで歪んだ。
「あだだ」
「ご、ごめん!すっかり忘れてたわ」

ズレた外套を着直す。包帯が真っ赤になっていて妙に痛々しい。

怪物出現の通報を受けて、厳重な装備で車から降りてきたアンチスキルの援軍が周囲を見渡す。
怪物の姿はなく、困惑しているようだ。

「っでお前はどうすんだ?」
木山にサソリは質問した。
「ネットワークを失った今、逃れる術はないからな。もう一度、最初からやり直すさ。理論を組み立てる事はどこでもできるからな、刑務所の中だろうと世界の果てだろうと私の頭脳は常にここにあるのだから」

「随分前向きになったもんだな」

「今後も手段を選ぶつもりはないぞ。気に入らなければまた邪魔しに来たまえ」

「へいへい」
手錠をはめられた木山は、アンチスキルの車両へと連行されていく。
「赤髪君」
木山は入る直前に止まり、座り込んでいるサソリに向けて言う。
「君の能力は異質だ。異質なモノを持っているなら気を付けなさい。排除されるからね」
「......」
一方的に話しをすると、木山は格子状の窓枠がはめられた護送車へと入る。
木山が入るとアンチスキルは、扉を閉め、鍵を掛けた。

「あー、しんど」
万華鏡写輪眼はその輝きを失い、サソリの眼から姿を消した。
戦闘で荒れ果てた地面に腰を下ろし、木山が乗り込んだ物体を眺める。
腕は、力なく外套の中で付随している。

サソリの眼を見て御坂が質問した
「サソリ、眼が元に戻っているわよ」
「自由に出し入れができるようになったみてえだ。まあ、チャクラの使い過ぎで暫くは使えんと思うが」

「そう、それを聞いて安心した」
サソリの背後からドスのきいた女性の声が聞こえ、サソリの頭をガシッと掴む。
「!?」
御坂がサソリの背後を見ながら驚愕しており、サソリも恐る恐る後ろを見る。
「げっ!!?」
サソリの担当看護師が般若のような顔で睨みつけていた。
「赤い髪の少年が戦っているから、もしやと思って来てみれば...... この大バカ者!」
傷だらけのサソリの頭にチョップを食い込ませるように炸裂させた。
「痛ってー!」
右手で頭をさすった。

そういえば
サソリも入院中の身だったわね

「まあ、レベルアッパーを使った者達の為に尽力したことを踏まえて、説教はこれくらいにしておきます。お友達も目が覚めたことですし」
看護師の一言に御坂とサソリは互いに顔を見合わせた。

「そうか......」
「良かった」
ホッとしたようにサソリが姿勢を崩す。
暁の外套がずり落ちて、真っ赤に染まったかなり重傷そうな左腕が露出した。
「やべっ!」
「............」
ピシッ!
コミカミの血管が浮かび上がり、笑顔でもあるが燃え盛る炎が看護師の背後から迫っているようか気がした。

慌てて戻すが時既に遅し

サソリの右腕を頑強に握りながら、サソリを笑顔で覗き込む。
サソリは、目線をズラしている。
「サソリさん......そういえば、色々訊きたいことがあったんですよ......どうして、許可していない外出届けが私の机にあったんですかね?」

写輪眼で操った時に作成したであろう許可書。

「どうして病院の車椅子があそこで黒焦げになって、ひしゃげているんですかね?」

それは木山との戦闘で、成り行きで......

「どうして、左上腕から血が流れているんですかね?」

「............」
必死になって、万華鏡写輪眼を発動しようとチャクラを練っているが、両眼はうんともすんとも反応してくれない。

今!
一回だけで良いから時空間を

「さあ、身体の隅々まで検査をして楽しみましょうか」
腕を掴み上げて、サソリを無理矢理立たせると配置していた救急車へと引きずるように連れていく。
「待て!離せお前!」
「採血の時間が楽しみですね」
悪魔の笑みでサソリに微笑む。
サソリは、ゾッと背筋が凍った。

「あはは、行ってらっしゃい」
御坂は、苦笑いを浮かべて頬を掻いた。

かくして学園都市を巻き込んでのレベルアッパー事件は一旦解決した。

超能力者(レベル5)の御坂美琴と忍のサソリ。
両者の活躍により、学園都市につかの間の平和が訪れる。

第1章 幻想御手編 了

 
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