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若き禿の悩み

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4部分:第四章


第四章

「全くよ」
「まあまあ。じゃあ私歯磨いたから」
「ああ」
「交代よ」
 洗面所の鏡の前から離れろというのだった。
「後は私がね」
「ああ、じゃあな
 何とか髪で額を隠したのだった。そんな毎日を過ごす幸三だった。
 しかしである。額は少しずつ拡大していく。それはまさに砂漠化であった。
 学校でもだ。皆がそのことを言う。今ではそのニックネームまで決まってしまっていた。そのニックネームが彼にとってはこれまた不本意なものだった。
「よお、若ハゲ様」
「ライトヘッド、元気か?」
「そうしたニックネームはもういじめどころか人権侵害じゃないのか?」
 むくれた顔で楽しげに声をかける皆に返すのだった。
「何だよ、若ハゲだのライトヘッドって」
「じゃあ和尚な」
「それか和田選手か?それとも谷村さんでいいか?」
「最後の二つは完全に本人さんに対する名誉毀損だよな」
 同じ悩みを持つからこそわかることだった。
「幾ら何でもそれはないだろ」
「それじゃあ磯野さんでいいか?」
「漫画のキャラでな」
「それか大ちゃんな」
 漫画と野球選手であった。
「まあよ。髪の毛以外のことは言わないからな」
「それは安心してくれよ」
「それが一番言われたくないんだよ」
 牙さえ出かねない言葉だった。
「髪の毛とか額のことがな。しかしな」
「しかし?」
「どうしたんだよ今度は」
「いや、とにかく俺はそればっかりなんだな」
 憮然とした顔である。
「全くな。どうなんだよ」
「だから諦めろって」
「運命を受け入れるんだ」
「何処の拳法伝承者なんだよ。全くよ」
 そんな話をしていた。そしてその時だった。
 不意に校門の方から悲鳴があがった。絹を切り裂く様な。
「こ、来ないでよ!」
「先生、先生!」
「んっ、何だ?」
「何があったんだ?」
 幸三だけでなく皆もその悲鳴を聞いて関心をそちらに向けた。
「まさかと思うけれどな」
「暴漢とかか?」
「だったらまずいな」
 幸三もその危険を予測して眉を顰めさせた。
「そんなのが来たらな」
「っていうかそれなんじゃないのか?」
「おい、どうするよ」
 皆それぞれ眉をしかめさせてだ。真面目な顔で言い合う。
「銃とか持ってたら」
「いや、流石にそれはなくても刃物は持ってるだろ」
「警察呼ぶか?」
 一人が携帯を出してきた。
「それならな」
「ああ、それならな」
「今はな。そうするか?」
「だよな」
「それより前にだよ」
 ここで幸三が皆に対して言った。
「警察呼んでも来てくれるまでに時間があるだろ」
「ああ、少しな」
「じゃあそれまでは」
「とりあえず女の子とか守らないとな」
 彼はすぐにこう判断を下したのである。
 
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