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若き禿の悩み

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2部分:第二章


第二章

「そんなに気になるんだったら出家する?それで将来の仕事はお坊さんね」
「冗談で言ってるのか?」
「半分冗談だけれど半分本気よ」
 妹は素っ気無く返した。
「出家はね」
「それ以外の半分は何なんだよ」
「だから髪の毛よ」
 やはりそれであった。
「覚悟しておくことね」
「ちっ、髪の毛髪の毛って言いやがってよ」
 家族の言葉を受けて憮然とした顔になっていた。しかし実際にその額を前髪をおろしてそのうえで隠している。そのことは隠せないものだった。
 学校でもだ。皆彼に対して言うのであった。
「御前さあ、やっぱりさ」
「まずいだろ」
「まずいっていうか危ないよな」
「ロックオンされてるよな」
 軍隊の用語まで出て来ている。
「危険度でいったらもうイエローだよな」
「六段階で五段階目ってところだな」
「かなりやばいな」
「そうか、十七でか」
「ここまで来るのか」
「あのな、俺は違うからな」
 ムキになって返す幸三だった。家でのやり取りと同じだ。
「禿とかじゃないからな」
「いや、禿だろ」
「若禿だろ」
「ヤング志村だな」
 挙句にはこう言われる始末だった。
「中居みたいになってな」
「もう少しでだよな」
「好き勝手言ってくれるな」
 周囲に言葉にいい加減頭にきていた。そうしてであった。
「本当にな」
「まあ髪の毛がなくても生きられるからな」
「安心していいからな」
「気にするなよ」
「気にするなか」
 それをまた話すのであった。
「そこまで言ってかよ」
「ほら、育毛な」
「あと鬘な」
「幾らでもあるからな」
 クラスメイト達は口々に言う。
「俺達も将来どうなるかわからないけれどな」
「まあ御前はもう間違いないからな」
「絶対にな」
「いや、俺は禿ない」
 意固地になって断言したのだった。
「絶対にだ」
「禿は運命だからな」
「特に御前はそうだからな」
「あと数年か」
 タイムリミットまで告げられたのであった。
「高校卒業までもつかな」
「あと少しだしいけるんじゃないのか?」
「そうか?」
「何度も言うが禿じゃないんだよ」
 あくまでこう力説する。本人はだ。
「俺はな。それは言うからな」
「自分ではそう言うからな」
「まああれだよ。禿でもしっかりしていればいいさ」
「禿で下品だったら最低だけれどな」
「いや、それは禿以前だろ」
 すぐに突っ込み返した幸三だった。
「それこそあれだろ?味噌汁茶碗に痰吐くような奴だよな」
「実際にそういうのいるからな」
「そうだよな」
「信じられない位下品な奴な」
「そういうのにはなるなよ」
 クラスメイト達も今度は真面目な顔である。それはするなというのだ。
 
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