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遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜

作者:ざびー
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episode8

 
前書き
ようやっと続きが書けました。  

 
 薄っすらと瞼を開けると、暖色系の温かい光が差し込んだ。 同時に背中から伝わる感覚は、固く冷たい床ではなく、柔らかいものの上に寝かされていた。

 何があったんだっけ? とぼんやり考えていると、見知った顔が上から覗き込んできた。

「……華蓮さん、気がつきましたか?」


 心配そうな表情を向けてくる楓さんに大丈夫ですと返事を返すが、自分でも驚くほど弱々しい声だった。
 意識がはっきりするに従って、次第に周りの状態が分かってくる。 私が寝かされているのはソファの上で、此処は何処かの休憩室だろうか。 けど、なんでこんな所に……?

 目覚める前の記憶がすっぽりと抜け落ちたように思い出せない。 確かに、明日香さんが白の結社に入った途端に人が変わったようになってしまい、それにショックを受けて落ち込んでいたのだ。それで。 ……それで。

 何かスゴく悲しいことがあったはずなのに、うまく思い出せない。

 とりあえず、起きようと思い、体を起こすが
 ズキリと背中に鈍い痛みが走る。 鈍痛に顔を顰めていると、驚いた様子で楓さんが駆けつけ、支えてくれる。


「……ありがとうございます。 けど、此処どこですか?」
「ここは教員用の休憩室です。 しかし、なんでデュエルコートで気なんて失ってるんですかねぇ。 しかも、夜遅い時間に……」


 言われて部屋に備え付けられた時計を見ると午後10時。 気を失ってそんなに時間が経っていないと思われる。 しかし、デュエルコート……。何かもう少しで、思い出せそう。 しかし、ズキズキと頭が痛んでそれを妨害してくる。 「思い出すな、思い出さない方が楽だ」と暗に告げてくるよう。

謎の頭痛に(さいな)まれている中、気にせず楓さんが言葉を続ける。

「葵さんに、デュエルコートに呼び出されたと思ったら……彼女じゃなくて、あろうことか華蓮さんが倒れてるんですからねぇ。 ホント、びっくりし過ぎて心臓止まるんじゃないかと思いましたよ」
「ーーーッ!」


"葵さん"

その言葉を聞いた途端に、霧が晴れていくように記憶が戻ってくる。 だが同時に頭痛も激しさを増し、思わずその場で(うずくま)ってしまう。

「……ぅ、ぐ」
「ちょ、華蓮さんっ⁉︎ 何処か悪いんですか!」

肩に腕を回され、楓さんが心配してくる。 悪いんじゃない、辛いんだ。
頭痛のせいか、ポロポロと熱い雫が込みあげてくる。

「か、華蓮さんっ。 な、泣いてるんですか……⁈」

溢れ出したものは止まらず、堰を切ったようにポロポロと涙が頬を伝う。
なぜ経った数時間前の事を思い出せずにいたのかわからないが、今、はっきりと思い出した。 となで慌て始めた楓さんを他所にぽつぽつとぽつぽつと呟いた。

「……わ、わたし。 私……っ」
「な、なんですか華蓮さん……」

涙で霞む視界に映る楓さんには慌てた様子は既になく、真剣な眼差しでこちらを見てくれている。

「わ、たし……負け、ちゃいました」
「……華蓮さん」


葵さんが実は斎王の手先で、信じてたのに裏切られて……けど、それよりも悔しかった。 〈真紅眼〉さえいれば誰にも負けないって思っていたから。 けど、マトモなダメージすら与えられずに完封されて、何も出来ないままで負けた。 心の支えの柱をポッキリ折られたみたいに涙が溢れて、止まらない。
涙で濡れる視界の中、私の事を黙って見つめていた楓さんが不意に手を伸ばす。 はたかれると思い、体を固めたが衝撃はいつまで経っても襲ってこず、代わりに温かなぬくもりが伝わってくる。

「……だいじょぶ、ですよ」
「……ぇ?」

ギュッとほうようを受け、戸惑った。 私の事を高く評価してくれていた彼女を失望させてしまったとばかり思っていたから、なぜこうなったのかわからない。 ぽんぽんと頭を撫でながら、楓さんは続ける。


「……辛かったですね。 苦しかったですよね。 別に負けたっていいんです。 勝敗をつけなければならないデュエルは、いずれは負けがくる。 むしろ、今までが出来すぎだったんです」
「……かえで、さん」


慈愛のこもった笑みが突然、歪む。 悲しそうな表情を見せ、彼女は続けた。

「けど、私もマネージャー失格ですね。 貴女がここまで悩んでいるのに気づけずに、貴女の戦果に酔いしれた……。 勝つ事に対し責任感を持っていた事は薄々と感づいていました。 けど、気づいた頃には、……。 全然まだまだですね、私は」
「そ、そんなことない、ですっ」

突然自らを責め始めた楓さんの言葉を慌てて、否定する。

ーー私が此処までやってこれているのは一重に彼女あってこそだと思う。 だからそんな事を言わないで……?

うまく喋れないままでそう伝えると、目尻に浮かんだ雫を指で払うと彼女は微笑んだ。

「ありがとうございます。 けどね、華蓮さん。 貴女も背負うことはないんです。 負けたら、また勝てばいいんです。 それで納得がいかないのなら、相手をコテンパンになるまでのしてしまえばいいのです!」
「……はい。 ハイ!」

いつしか涙は止まっていた。 残ったのは、少しの後悔と彼女の本当の言葉を聞けた嬉しさ。 そして、また勝ちたいという気力が沸々と湧き上がってきた。


* *


「ハァ〜、サフィラに宣告者にハンデスと来ましたか……。 彼女も中々にエゲつないですねぇ〜」

そう言うとマグカップを傾け、一息吐いた。
数十分時間を置いて私が落ち着くのを待ってから、楓さんはデュエルコートで何があったのかを訊ねてきた。 勿論、私はそれに丁寧に答えた。 楓さんとデュエルした事とその内容。 そして、彼女が既に光の結社の一員で、かなりの幹部格であろうこと。

やはり自分が負けた事を口に出すのは躊躇われたけど、楓さんは、それを真摯に受け止め、聞いてくれた。 それで先の発言である。

「……あんなの打つ手がないですよう」
「まぁ、話を聞く限りそうですよねぇ。 手札を減らされ、選択肢を狭められたところに宣告者による不意打ち。 見事としか言いようがありませんね」

互いにマグカップを傾け、ふぅと一息。
完封されたのは確かに悔しいけど、相手のが一枚上手だったのは確かだ。 それは認めざるを得ない。 けど、何をどうすれば勝てたかと言われるとどうしてよかったのかわからない。

「……やはりそろそろ限界が来ました、かね」
「うっ……」


何となくそうなるだろうとは思っていたが、実際に言われると辛い。 ガックリと肩を落としていると、楓さんが続けて言った。


「ですから、レベルアップをしましょう」
「けど、私……アレ以上変えられるとは思いません」

展開力重視に、融合型に、バーン型そして、儀式型と色々と型を変えてはその都度デュエルに挑んでいるが結局のところ同じだと思う。 けど、楓さんから返ってきた言葉は私の予想を裏切った。

「えぇ。ですから、新たな力を手に入れるんです」
「え……?」

〈真紅眼〉以外ということだろうか……?
そんな考えを他所に、楓さんに真剣な眼差しを向けられ背筋が伸びる。

「……一応、聞いておきますが。 貴女は一度負けたまま、泣き寝入りするような柔なデュエリストじゃあないですよね?」
「……ハイ!」


答えはイエスだ。 葵さんに勝ちたい。今はそれだけだ。
楓さんはニコリと笑うと話を続けた。


「そうですか。 その意気ならテストは間違いなく合格するでしょうね」
「……て、テスト?」
「えぇそうですとも。 明日早朝、KC社へと飛びますんで覚悟しといて下さい」


KC社……海馬・コーポーレション!? なぜあんな超が沢山もつく大企業に向かうのか、まるで訳がわからない……!

戸惑う私の腕を強引に引き、ずるずると引きずられていく!

「詳しいことはまた明日! 今日は明日に備えて睡眠あるのみです!」
「えっ……えぇぇぇぇ?!」


* *

そして、翌朝の早朝。 ヘリに乗せられ、KC社……ではなく、海馬ランドの開発区。 親を持たない子供たちの建てられた海馬ランドだが、アミューズメントパークとして機能を持つ一方で、様々な実験等を行っているらしい。 デカデカと飾られた〈青眼の白竜〉のモニュメントを横目に見つつ、案内役らしい黒服に連れて来られたのは、かなり大きな倉庫だった。

「……此処、ですか?」
「いえ、さらに地下に降りてもらいます」

果たして何が待っているのだろうか、恐々としながら倉庫に入って行くと内部には何の用途に使うのか解らない機械がズラリと並んでいた。 もの珍しそうに見ていたら、楓さんたちに置いて行かれそうになったので焦りつつ、急いで彼らの後をついていく。暫く歩いた後、 エレベーターに乗せられ、グングンと下へと降りていった。そして、扉が開き、目の前に広がったのは白い円柱状の機械だった。 内部では、何かがグルグルと高速で回転し、虹色の光を放っていた。

「まーわーるんーですー!」
「ひっ!?」


いきなり現れた眼鏡に白衣と、見るからに研究者然とした男が喜色の色を浮かべながら、ペラペラと聞いてもないのに喋り始めた。 その勢いは、さすがの楓さんでも引くほど。

「回るからこそーこのドミノ町はすべからく無限のエネルギーを生み出しますー! その名をモォーメントォー! いまだ開発段階でありまーすがっ! 究極のエネルギー発生システム、モーメントを生み出し、グルングルンと回りながら、現に海馬ランドの電力を全て賄っておりまーす! 」

男は、華蓮たちが見上げる円柱型の装置『モーメント』をグルングルンと腕を回し、くるくると回りながら、激しいボディーランゲージと共に熱く語り続ける。

「この回転は、かのデュエルディスクを発展させー、ソリッドビジョンを新たなステージへと飛躍させるのですー! これが完成した暁には、モォーーメントの恩恵が、人類を大いに発展させるのであ・り・ま・す !!」

時間にしておよそ40秒。 グルングルンと激しく回りながら、研究者風の男はゼェ、ハァ、と荒い息を繰り返していた。 それでもなお視線で『モォーメントは、凄いんですっ!』と訴えかけてくるので一周して引く。 この場には、ガードマンを除き私と楓さん、そして目の前の研究者しかいないため、どうすればいいのか困惑していると私達が入って来たのとは別のスライド式ドアが左右に開き、白衣を羽織ったツンツン頭の男性が遅れてすまないと謝罪を述べながら入室してくる。 そして、私達二人と目の前で息を切らせている研究者を交互に見やると額に手を当ててため息を吐き出した。

「お、おお! 博士、ようやく来ましたか。 危うくモーメントについて語り尽してしまうところでしたよ」
「またか……」

頭を痛そうに左右に振ると、ジトっと半目で阿久津と呼ばれた研究員を睨む博士。

「まったく、確かに君のモーメントに対する熱意は理解出来ないでもないが、あまりこういった事に縁のない……況してや、女性に対してあんなに熱心になって語れば、理解されるどころか引かれるだろう?」

博士は、『うーむ、しかし……』と何か言いたげな阿久津研究員に『いいね?』と念を押す。 彼の暴走はよくあることらしい。
説教が終わったのかゴホン、と咳払いをすると改めて博士は、蚊帳の外だった私達へと向き直る。

「少し見苦しいところを見せてしまってすまない……わたしは、此処の責任者を務める不動だ」

この前衛的な髪型の男性は不動、というらしい。
 
 

 
後書き

踊るMADこと阿久津氏を出せて満足

〜阿久津さんのここが凄い!〜
・登場早々「まぁーわぁーるんーです!」とかましてくれる。 しかも回りながら40秒かけてモーメントについて語る様は、7分間一人で喋り続けたベクターの先駆けと言える(……たぶん)
・Dセンサーの開発をするなど活躍を見せる(モブなのに)
・その後も登場するたびによく回る回る回る。
・これでも一応KC社の研究員であるんだから、凄い。
 
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