ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第51話 血の約束
力無くモカの腕の中で気を失った月音を見て、カイトは 流石に心配になったので、『邪魔かな?』とは思ったのだが、とりあえず 2人の側にまで来た。
月音の状態を、手を添えつつ確認した。
「ん。気を失っただけ、だな。 ……ふぅ、兎も角よかった。 月音は、ただの人間なのに 今回 大分頑張ったからな………」
無事を確認した、カイトはゆっくりと肩を下ろした。
「はは…。月音を優しく介抱しているモカを見たらさ。……さっきまでの容赦ないモカが嘘みたいだな…」
盛大に砕蔵を蹴り上げたシーンは、強烈なまでに、鮮明に頭に残ってる。だからこそ、今 月音を抱きとめているモカを見て、ギャップを感じた様だ。
「……お前こそ、あそこまでする必要なかったんじゃないか? あの程度の相手に」
カイトにそう言われ、僅かに顔を赤らめてモカは話しかけた。
確かに砕蔵は小物も良い所だ。『能ある鷹は爪を隠す』とはよく言ったものである。それが《妖の世界》では尚更だろう。……何より、大っぴらに力を誇示しようとする者が小物だと言うのは相場で決まっている。
カイトは、それを思い浮かべつつ 答えた。
「まあ、確かに。……だが、今の月音をみても判るだろ? オレも結構腹が立った。少しばかり幼稚だったな。……が、それを言うならモカもあそこまで蹴り上げなくても良いんじゃないか? ダメ押しはオレがしたけど、する必要が無い程盛大にすっ飛んだと思うけどな』
「……ふん、彼奴は、この私に挑んできたんだ。 なら、あのくらいの代償は当然だろう」
そういうと同時に、モカは笑った。ひさしぶりに力を解放する事が出来て、気持ちが良かった、と言う理由もあるだろう。
カイトはそれを見て、同じく軽く笑った。
「へぇ……」
「ん? なんだ?」
「いや、……笑うモカは。笑顔を見せるモカは、どっちも素敵だな、って思ってな。うん良い笑顔だ」
カイトは、思った事をそのまま言った。というか声に出てしまった。そのモカのカイトへの返答、それは……ヒュンッ、と言う風切り音、殆ど同時に蹴り返ってきた。
「っとと!!」
近距離からの回し蹴り。非常に高速だったが、何とか蹴りを躱す事が出来た。……モカが、砕蔵の時の様な力。……ある程度の本気だったら、ちょっと無理だと思えるが。
「はは、口より手、いや 足か。いきなりご挨拶とは結構酷い。ビックリしたよ」
カイトは、苦笑しながらそう答えた。
蹴りを放ったモカは、少なくとも当てるつもりだった。だが、難なく回避された事に驚きは無かった。……何処かで、躱される事は解っていた様だ。
「ふん…。私の蹴りを軽く避けといてよく言う…」
最後には、お互いに苦笑しあっていた。
「さて。 月音を、このままにしておけないだろ? 行こうか。オレが肩を貸すよ」
カイトがそう言い、月音に手を貸した。そして、モカはゆっくりと頷くと。
「ああ、少し待て」
月音に外され、その手に握り締めていた十字架を、月音の手から取った。
「……随分と久しぶりに目覚めたばかりだからな。 まだ、私はかなり眠いんだ。……すまないが、もう外させてもらうよ。 …お前にはこれから手数をかけると思うがな、もう1人のおセンチなモカも見てやってくれ」
「はは。 だが、その役は月音だと思うがな。……勿論 オレも、出来るだけはフォローするよ。安心しろ。……おやすみ、モカ」
モカは微笑みを返すと、十字架を、再び身に付けた。
ゆっくりと、自分自身の意識が闇の中へと沈んでいく……。そんな刹那の時間帯。モカの脳裏にはとある事、が過ぎった。
「(……カイト、カイト………か。なぜ、だろう…………? 何だか、懐かしい…… そんな気がする…………、気のせい、だとは思うが………)」
その疑問に答えてくれる者など居るはずもなく、時間も僅かだった為、そのまま モカの意識は消えた。
淡い光がモカの体を包み込むと、銀色の髪がやがて、元の桃色の髪へと戻る。抑えていても、圧迫される様な強大な妖力も息を潜めていく。……完全に元に戻った後は、月音の様に、気を失った。
力無く、モカはカイトにもたれ掛かる。
「っと。……あらら、運ぶのが2人になったか。まあ、仕方ないか。フォローする、と言った手前だ。頑張るとするか」
月音はともかく、モカを乱暴に運ぶのは気が引けるのは仕方のない事だろう。
だから、月音には、風の系譜の力を利用し、その身体を宙に浮かせ、モカに関しては、両腕でしっかりと抱き、所謂 お姫様抱っこの要領で 寮の方へ運んだ。
男女差別じゃないか? と思えるが、本当にそんな事は無いし、多分考えてない。カイトにとってはこの世界で出来た大切な友達だ。
それでも……やっぱり、この2人運ぶとしたら、こうなるのは仕方がない。
と言うより、誰に聞いてもきっと、《男》であれば。
と、多少脱線しそうな事を考えつつ、カイトは2人を連れて、寮の方へと戻っていく。
寮長には テキトーに誤魔化しつつ、女の子であるモカは同性の役員に頼み、月音はカイト自身が部屋まで連れて行ったのだった。
~翌日~
「ふあぁぁ~ やっぱ疲れ溜まってんのかな? あれからすぐ寝た筈なのに……、メチャクチャ眠い……」
カイトは、大きな欠伸を1つ、2つと しながら、学園に向かって 通学路を歩いていたその時だ。
「おっはよーー!! カーイトっ!!」
後ろから声が聞えた。声からすぐに誰かが判る。間違いなくモカだ。振り返るまでもないが、挨拶はしっかりと返さないといけないだろう。それがエチケット! と言う事で、カイトは直ぐに振り返る。
「ああ、おはよモカ。昨日はよく寝れたか?」
「うん! なんとかね! あの、カイト。いろいろとあったけど、ありがとう。……つくねも戻ってきてくれたし♪ ほんと良かったっ」
満面の笑みとはこの事、そして 笑顔が眩しいとは、こう言う時に使うのだろう。カイトは、そんなモカを見てそう思いながら、一緒に登校していた。
「そういえばさ、その十字架が外れた時のモカと、今のモカは完全な別人格なのか?」
かつての記憶が殆ど薄れてきているとは言え、流石にその部分は覚えている、知っている事だが、モカ本人の口から聞いてみたかった。何よりも《知っている》雰囲気を見せるのは不自然だろう。昨日今日で。
モカは直ぐに答えてくれる。
「――うん。そうだよ。私が、覚醒して人格が入れ替わっても私自身には意識はあるんだ。ぼんやりと曖昧だけどね。昨日全部終わってわたし達を寮まで送ってくれたのカイトだよね! ほんと、どうもありがとー♪」
そう言って、モカはカイトに抱きついた。
両腕を首にまわし、ぎゅっ抱き寄せるモカ。……とっても柔らかな感触が胸に伝わる。
「……あのモカ? オレもさ。一応 健全な男子生徒だから。照れるよ」
自分の心臓がバクバク動いているのがよく判った。平然と返すことが出来た理由が本当はよく判らない。
これが仮に月音だったとしたら、動けない上に言葉も出ない。最後には鼻血を盛大に撒き散らせて、気を失う事間違いないだろう。と、カイトは考えていた。
それが、気を紛らわせるのには丁度良かった様だ。
モカは、抱きついている腕を離す。
「あははっ…… 嬉しかったから、ついつい抱きついちゃった! ……でも……、うーん………」
何やらモカの様子がおかしい。喜んでいる、と言うよりは困惑している様だ。
一度は離れたけれど、再びカイトの方へと身体を、顔を近づかせている。
「あのー……カイトは妖だよね? 間違いないよね? だって、あの時 精霊魔導師だって言ってたし………」
じっと顔を見られていた。これでもか! って勢いで顔を近づかせてくる。
先程は、抱きつかれた為、モカの顔を至近距離で見る事は無かったのだが……、今回は違う。
「ん、んんっ! そっ そーだよ? 間違いないって、だ、だから……(も、モカ 近い近いって!!)」
ここまで接近されると顔が赤くなるのは止められない。まるでキスでも…… と言わんばかりの距離だから。……と言うより、この状態で モカの様な美少女に迫られて、照れない男がいたら見てみたいもんだ。
「………だよね……。うーん………、 おかしいなぁ……… わたし…」
そう言うと、モカは今度はカイトの首元に顔を近づけてきた。
「……欲しくなるのは人間の血なのに……。 つくねの時だって、あんなに吸いたいと思った訳は、正体が人間だったから、だし…… ……う~~ん……、今朝で貧血気味だから…かなぁ………?」
それは、もはや会話では、無く。モカの盛大な独り言だ。
その独り事の内容を訊いて、カイトは完全に確信した。
「(……血を、狙われている……、よな? これ。って、このままじゃ、絶対吸われる!?)」
だが、次の行動はモカの方が早かった。
「……ねぇ……ちょっとだけ! ちょっとだけっ!! 良い、かなぁ……」
モカは、ボーっとした状態だった。いや、違う。頬を赤らめており、何処か悶えている色っぽい仕草。艶っぽい表情。
見蕩れかねない顔なのだが、ストップを掛けるカイト。
「ちょ、ちょーーーッと待った!!!」
流石にいきなり吸われるのは抵抗がある様だ。現に月音が吸われている場面を見ているから、尚更抵抗がある。……何よりも、この役は月音だ。
「あぁ……! カイトー。そー言わずにさぁ……、ちょっと、ちょっとだけ、味見するだけでいいから。ね?」
モカはウインクしながら手を合わせて強請る。正直、モカの願いなら訊いて上げる事だってやぶさかではないが、事が事だ。
「……そんなかわいい顔してねだってももダメだって。オレを飲み物扱いしないっ! オレ第一人間じゃないし、吸血鬼が好きなのは、人間の血だろ? 混じると変になるって! 月音の吸う時、味落ちるってっ」
カイトは色々と理由をつけて拒否するけれど。
……正直なところ、このまま モカに上目使いで見つめられながら、頼まれると…………。
『か・な・り心が揺らぐ……』
先程、カイトがモカに言った通り、カイトも健全な男子学生だ。思春期真っ只中だから。
そんな時救世主が現れた。……月音だった。
遠目から見て判ったが、何やら封筒? の様な物を両手で握り締めている様だ。
「ほっ ほら! モカ! 月音だぞ。モカにとって、大本命の血液所持者の! ほら、あいつのは、ミネラル、コク……、全部サイコーなんだよね?」
モカに、じりじり追い詰められてた為、思い切って月音を、差し出すかのようにモカに言った。
「あ! ホントだ!! ……それに、昨日の事 つくねにもお礼を言わないと………」
モカの標的?が、完全に変わった瞬間を見た。
「(よーしっ!)だったらさ、早く行こう! 朝の挨拶も兼ねてさ」
「うん! 行くっ!」
そう言ってカイトとモカは月音の方へ向かった。
途中から、モカは走り出した。……ムラムラしている様だ。カイトの血を吸い損ねたせいだろうか……? 兎も角、モカは月音との距離をつめ。
「つくね、おっはよーー!」
がばっ、とその背中に抱きついた。
「わーー!」
月音は、モカからのアタック? を受けて、その反動で、手に持っていた封筒を思わず破いてしまった様だ。そして、それと同時に強めの風が吹き……、完全に飛ばされていった。
もう、回収は無理だろう。
「おはよう。つくね。大丈夫か?」
少し遅れて、カイトも月音に挨拶を交わした。
「カイト、モカさんおはよう」
2人の方に振り向き挨拶を返した。
どうやら、月音は昨日の怪我の問題は無さそうだ。顔色も問題なさそう。……砕蔵に痛めつけられたのに、それだけで大した男だと思える。
「ああ。……って、 何やら飛ばされていったけど大丈夫なのか?? あれ、破れてるし」
宙に舞いながら、飛んでいく紙を眺めながら、カイトはそう返すと、笑顔で月音は答えた。
「うん。もう良いんだ!(間違って…無いよな そりゃ不安もたくさんあるけど)」
どこか吹っ切れた様子で、……清々しい顔で月音は答えた。
「そうか…。 じゃ、教室へ行こうぜ。遅刻はゴメンだしな」
「「うん!」」
3人は学園へと向かった。
「そうだ! つくね… 昨日はありがとう… つくねの言葉… わたし絶対忘れないよ!」
その道中 モカは月音に、感謝を伝えていた。
「いや……… そんな………」
モカからの感謝の言葉だ。月音は盛大に顔を赤らめた。
そんな時だった。モカは……身体を悶えさせ。
「あああ…… もう… ダメ…」
「へ? も、モカさん??」
つくねにゆっくりと近付く。完全に距離をゼロにした途端。
「………ッ~~我慢もーできない~っ えいっ!」
“かぷっ! ちゅうううう~”
「!!!? 言ってええェえッ!」
「(つくね…… サンキュ。……危なかったな……、オレ)」
横で2人を見ていたカイトは、心の中で月音に礼を言っていた。月音の姿が、自分の姿だったかもしれないから。
「また、また吸われたーーーッ」
月音は首を押さえながら左右に行ったり来たりしていた。血が噴き出しているから、やっぱり痛そうだ。
「ごめんねーー! つくねってば、やっぱりいい香りがするから…」
「ははは……相変わらず、良い反応だ。面白いよ、月音」
2人は動き回るつくねを見て笑いながら言った。
「ね…? カイト!」
今度はカイトの方にモカが向く。
「ん?」
少し、嫌な予感がした。
そして、その予感は的中する事になる……。
「いつかは……吸わせてね♪ カイトの血もさ♪」
モカに、とびっきりの笑顔で言われた。嫌な予感といえばそうで、的中も間違いないのだが、この笑顔は、十分過ぎるほどの対価だ。
「………はぁぁ。判った。 考えておくよ」
「っ! ほんと?? やたーーっ♪」
今後、カイトは もう断れる自信が無くなった。
「2人とも笑わないでーーー!! ってかモカさん! オレを食料にしないでよーー! それにカイト!! オレの反応で楽しまないでよーーー!」
月音は首を押さえながら腕を上下に振りながら言った。
言葉の内容からして、カイトとモカの会話は聞いてないみたいだ。
さてどうなるか… 嫉妬する方に100円賭けよう。
そして、カイトが言う通り、月音の反応は面白いのは間違いなく、この瞬間はとても妖怪の学校と思えないくらい。昨日までの喧騒が嘘の様に、穏やかな時間だった。
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