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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第24話 「漆黒の剣士VS白刃の騎士」

 はやてに連れられて俺とユウキは八神堂の地下にあるデュエル会場へと移動した。そこに至るまでにユウキが八神堂の仕様に驚いたり、唖然したりする場面があったのだが想像はたやすいだろうから説明は割愛しておく。
 大分はやてとのやりとりで疲れていたユウキだが、デュエル会場へ到着するとホビーショップT&Hとは違ったデュエリストと戦えるとあってテンションが上がり、喜々として人混みの中に姿を消して行った。こういう切り替えがあるから子ども扱いしたくなるのだ。
 ちなみにはやてはというと、今日は上で本屋の仕事をするらしいので俺達を送り届けるとさっさと姿を消した。

「……俺がデュエルする時には戻ると言ってたが」

 普通はどのタイミングで俺の番が来るかなんて分からないはずだよな。ただあいつはすでに大卒だし、頭の回転も一般人より格段に良い。ジャストタイミングで現れたとしても「まあはやてだし」と納得できる自分が居る。

「……くだらないことを考えてないで俺もデュエルをしよう」

 あまりユウキにデュエルしているところを見られたくはないが、俺ばかりユウキのデュエルを見るのもフェアではない。彼女は驚異的な勢いで成長しているが、経験値的には俺が遥かに勝っているのだから。
 そもそも……俺はただユウキに勝ちたいわけじゃない。小細工なしの真っ向勝負で戦って勝利を収めたいんだ。それにあれこれデュエルに関係のないことを考えながらデュエルをやっても楽しくはないし、わずかな油断が敗北に繋がる可能性もある。今はただデュエルのことに集中しよう。

「…………っと」

 人にぶつからないように進んでいたのだがら、不意に人影の奥からさらに人が現れた。ただその人物がその場に止まり、こちらが方向を変えながら移動したこともあって衝突はなかった。互いに避けようとしていればぶつかっていた可能性があるだけにある意味運が良かったと言える。

「すみません」
「いやこちらこそ……あれ、夜月くんじゃないか」

 ぶつかったわけじゃないので謝罪してすぐに立ち去ろうとしたのだが、名前を呼ばれたので改めて意識を向ける。視界に映ったのは、白いジャケットを着た長身の男性。黒髪で穏やかな雰囲気のせいか見た目以上に大人びて見えるが、年齢はシグナム達と同じくらいのはずだ。
 この人……どこかで。
 記憶を遡ってみるとすぐに思い浮かぶ人物が出てきた。
 その人物の名前は白石涼介。はやて達から耳にした情報や俺の記憶に間違いがなければ、確か何かしらの専門学校に通っている人で、授業時間が短いこともあってよく八神堂の手伝いをしていたはずだ。

「白石さん、でしたよね?」
「うん……俺ははやて達から聞いて知ってたけど、君も俺の名前知ってたんだね」
「まあ俺もはやて達と話しますし、社員でもないのに毎日ここの手伝いしてる人が居れば気になりますよ」

 毎日手伝ってるわけじゃないんだけどな、と白石さんは笑う。
 どことなく自分に近いものを感じていたが、どうやらそれは間違いだったらしい。この人は俺と違って口数が少なくても明るいというか穏やかで人当たりの良い人だ。というか、口数も人並みにあるんだろう。はやて達が多いから少ないと思えるだけで。

「それにしても珍しいですね。白石さんがこっちに居るなんて」
「そうでもないんだけどね。俺もそれなりにデュエルはやってるから……まあ頻度的にはアインスやシグナムと変わらないくらいだろうけど。何だかよくここに来る子達からは普通に店員だと思われてるみたいだし」
「あれだけ店の手伝いをしていれば誰だってそういう認識になりますよ」

 年齢もシグナム達と変わらないだろうし、そのへんと仲良く話してるところを見られてるだろうから。距離感的に店員と客とは思われないだろう。

「聞けばバイト代とかもらってないそうですけど、あいつらと同じ時間働くなら何か報酬をもらわないとダメだと思いますよ。メンツ的に体力だって居るんですから」
「ははは、確かに一般的にはそうなんだけど俺が自分からやってるのもあるからね。特に予定がなければここの手伝いをしている方が有意義な時間を過ごせるし。それにはやての手料理とかご馳走になったり、お客さんが引いた後でデュエルとかさせてもらえるからね。報酬はちゃんともらってるよ」

 そんな報酬で満足だなんて白石さんは人が好過ぎる。偶に手伝うくらいなら十分な報酬なんだろうが、どう考えてもほぼ毎日手伝っている彼には足りてないだろう。はやてあたりもそのへんを考えてバイト代くらい出すと言っていそうな気はするが、おそらくこの人はもらわないんだろうな。

「ところで夜月くん、ひとつ提案なんだけど?」
「何です?」
「ここでこうして会って話したのも何か縁だと思うんだ。よければ1戦やらないかい?」
「それは……断る理由もないですし、もちろん構いませんよ」

 今日八神堂に来た目的は誰かの指導をするためでもなければ、本屋の手伝いをしに来たわけでもない。ただ単純にデュエルを行いに来たのだ。
 そもそも、デュエリストである以上デュエルに誘われたならば受けるしかあるまい。
 と思うことはあるが、おそらくイベントといった場でもない限りは口にしないだろう。何かしら予定があれば断るだろうし、どういうデュエリストでありたいかはその人が自分で決めればいいだけなのだから。

「じゃあ決まりだ。いやはや、あの《漆黒の剣士》とやれると思うと楽しみな一方で緊張するね。胸を借りるつもりで挑ませてもらうよ」
「あまり持ち上げられるのはあれですけど、まあご期待に添えるようベストは尽くします」

 正直なところ、デュエルである以上100パーセント勝てる保証はない。
 ただ経験値やカードの総合的なステータスで言えば、おそらくこちらに分があるだろう。だが……俺の勘になってしまう部分もあるが、この人はシグナムやアインスに近いタイプのように思える。
 どういうタイプかと言うと、簡単に言えばカードのステータス云々の前に本人が強いタイプだ。ブレイブデュエルは現実と同じように自分の意志でアバターを自由に動かせ、またデバイスは武具になるものが多い。故に現実で武道といったものを行っている人間はその経験が活きやすいのだろう。
 それに……少し聞いた話だが、この人はシグナムと剣道を行えて良い勝負をするらしい。デュエルの腕を耳にすることは少ないが、下手という話を聞いたことはない。動きを見切るために様子見は行っても油断はないようにしなければ。
 そんなことを考えている間に俺と白石さんの順番が回ってきた。お互い経験者なだけにフィールドやルールの設定はスムーズに進行し、意識を戦闘モードに切り替え終わる頃にはアリーナにデュエルフィールドの形成が終了しアバターとなった自分がそこへ降り立っていた。

「……さて」

 あれが白石さんの……今回の俺の対戦相手か。
 目の前に立っているのは先ほどまで見ていた私服姿の白石さんではない。純白のコートに身を包み、手には鞘に納められた反りのあるデバイスが確認できる。
 所属はベルカ、使用しているカードはRクラス……通り名は《白刃の騎士》。ベルカスタイルで手には刀型のデバイス、それに通り名からして近接戦闘がメインだろう。問題なのは近接戦闘の技量がどれほどのものなのか、だ。
 俺は射撃魔法も可能なミッドチルダスタイルではあるがメインとなる攻撃は近接攻撃……シグナムとデュエルをした場合、カードのステータス差もあってどうにか打ち負けることはないが、逆に言えばカードのステータスに差がない場合は近接では分が悪いということだ。つまり……現実でシグナムとやり合えるこの人に近接戦闘で油断はできない。
 それに八神堂の手伝いをしていれば客がいなくなってからもデュエルが出来る可能性がある。今日のように客として利用することも考えれば、この人はシグナム以上にデュエルの経験があるかもしれない。となれば……

「最低でも……」

 シグナムに匹敵すると考えてデュエルを行うべきだろう。
 そう意識しただけに俺の中の緊張感は自然と高まっていく。しかし、その一方で早く剣を交えたいと思っている自分も存在していた。そうでなければ、このどうにも落ち着かない気持ちに説明が付かない。
 とはいえ、俺はデュエルに慣れていない新人ではないし、一部の人間は俺がシュテルと同等のデュエリストだと認識している。
 勝負事なんだから全戦全勝できるとは思っていない。が、少なくとも自分らしい戦い方で勝ちに行く気持ちを捨てるつもりはない。勝つにしても負けるにしても、自分らしく戦うことが出来れば納得できるのだから。
 両手を背中に伸ばし、右手で黒い肉厚の剣を、左手で白い華奢な剣を引き抜く。

「剣を2本……これまでに見たことがないスタイルだけど、おそらくそれが君の本気なんだろうね。俺なんかと本気でやってくれるとは……嬉しいと思う反面、少しは花を持たしてほしいと思ってしまうよ」
「何を言ってるんですか、八神堂の面々とデュエルしてそうな人に手加減なんかできるわけないでしょう。そもそも……今の俺は少し前にもっと強くなろうと決めてこの場に居ますから。相手が誰であろうと戦い方を変えるつもりはありませんよ」
「なら……俺も覚悟を決めるしかないようだね」

 穏やかな口調とは裏腹に確かな戦意が白石さんの目には見て取れる。彼は無駄のない動きで鞘に納められているデバイスを引き抜いていく。姿を現した白銀の刀身から確かな武器としての輝きと共に恐怖してしまうほどの美しさも感じられた。
 この場に関係のない話になってしまうかもしれないが、日本刀が美術品として扱われるのも今の俺のようにこういう感情が抱く人が居るからかもしれない。

「「………………」」

 俺達は互いに開始地点から動くことはせずに相手の動きを観察する。
 ――俺も白石さんも剣を使って戦う。つまり得意とする距離はクロスレンジ……ここを制した方が勝利を収めると言っていいだろう。
 しかし、迂闊に攻めるわけにはいかない。
 俺の本来の戦い方は両手の剣を用いて攻撃は最大の防御と云わんばかりに攻めることだ。だが俺は白石さんの力量を把握していないどころか、彼が戦っている姿を見たことがない。
 シグナムと同等だろうという予想はあるし、刀を使って戦う騎士だということは見た目から判断できる。が、同じ剣を扱う者でも戦い方は異なる。もしも白石さんがカウンターを得意とする剣士だった場合、下手に攻めれば返り討ちに遭うだけだ。
 ……かといって、このまま様子見をしているだけではいたずらに時間が過ぎるだけだ。それにリスクばかり考えていては何も始まらない。俺はユウキに勝つために……今の自分よりも更なる高みへ行くために2本目の剣を常時使うことを決めたんだ。こういうときこそ……自分から踏み込まなくてどうする!

「……ッ!」

 無声の気合を発しながら地面を強く踏み切る。今回のデュエルステージは、これといって障害物の存在しない荒野のような場所だ。頼れるのは己のデュエリストとしての力量のみ。
 爆発的な加速を得た俺は、地面を滑空するかのように白刃の騎士へと接近する。こちらのスピードが予想よりも速かったのか、それとも真正面から突っ込んでくるとは思っていなかったのか、彼の顔には驚愕の色が見て取れた。
 だがシグナムの相手を出来るだけに度胸は据わっているらしく、一瞬の内に余計な感情を消し去ると踏み込みながら白銀の刃を振るってきた。こちらも負けじと左の剣を振るう。

「っ……!」「く……!」

 純白の刃と白銀の刃が交わると同時に火花と甲高い音を撒き散らす。
 カードのステータスや剣の重量的にはこちらが上だと思われるが、こちらは片手持ちで振るっているのに対しあちらは両手持ち。今の一撃を見ても剣速はあちらに分がある。
 そのため、俺達の一撃は互いの攻撃を相殺する形で終わり優劣を付ける展開にはならなかった。つまりここからどう戦うかが大切ということになる。
 俺はすぐさま体勢を立て直しながら今度は右の剣を振るう。
 だがあちらも体勢をすでに整えていたため、最小限のバックステップで回避するとすぐさま反撃を行ってきた。襲い掛かってくる剣閃を反対側の剣で迎え撃つ。
 それを皮切りに互いに足を止めて斬撃を繰り出していく。
 手数としては2本の剣を用いているこちらが上だが、あちらの攻撃を受け流す柔の技と華麗な体捌きで有効打を与えられない。こちらもあちらの素早い斬撃を体重移動や剣の描く軌道から予測しパリィや回避を行う。
 高速の剣劇が開始してからしばらく……俺の持つ黒い剣と白石さんの持つ白銀の刀が交差し競り合う形になった。

「……さすがは《星光の殲滅者》のライバル。一瞬も気が抜けないよ」
「気が抜けないのはこっちも同じです。シグナムとやり合えるのも頷けますよ」
「君だってシグナムとやり合えると思うけどね」
「デュエルでならまだしも現実じゃ無理でしょうけどね」

 半ば強引に押しながら左の剣を足を払うような軌道で振り抜く。白石さんは素早く何度かバックステップを行って距離を取った。すぐにまた突っ込んでくるかとも思ったが、どうやら一旦距離を取って仕切り直すつもりらしい。
 ……どうやらあっちも俺と同じ感想のようだな。
 正直なところ、あのままクロスレンジを維持しても意味を成さない。連続で攻撃を行っても決め手どころか体勢を崩すことさえできなかったからだ。こちらにはブレイズストライクといった高威力の魔法があるわけだが、あれだけ撃ち合って優勢に立てないのであれば単発で撃ってもまず当たらないだろう。
 となると、まずは体勢を崩すことが必要になってくる。だが純粋な近接戦闘だけでは先ほどと同じような流れになって体力を消費するだけだ。体力勝負に持ち込むのも手ではあるが、あちらは現実でも体を動かす機会がある。それだけに体力面では俺が劣っているだろう。

「……なら」

 これまで以上の攻撃であの人の守りを破るしかない。
 俺が今回デッキに入れている魔法は単発重撃技の《ブレイズストライク》に高速4連撃である《バーチカル・フォース》、二刀流突進技である《ドラゴサーキュラー》……それに俺の持つカードの中で最大の手数と威力を誇るあの魔法になる。
 愛用している《ブレイズストライク》や剣士系が使うことが多い《バーチカル・フォース》は読まれやすいと考えるべきだろう。二刀流の魔法はこれまで人前で使うことがほぼなかっただけに有効打になりえる可能性は十分にある。無論、使いどころを間違わなければだが……。
 ――なんてグダグダ考えるのはやめよう。
 この勝負に勝ちたいとは思うが、負けられない戦いじゃない。更なる高みに行くための戦いだ。だったら今浮かんでいる方法を実行すればいい。それが使えるかどうかはこの勝負が終わればはっきりするのだから。
 そのように思い愛剣達を握り直した直後、白石さんにも変化が現れる。抜刀状態だったデバイスを鞘の中に納め、体を捻りながら構えたのだ。

「…………」

 構えからして白石さんの次の一撃は居合系に属するものだろう。もしも魔法を併用した一撃だった場合、これまで以上の鋭い一撃が繰り出されることになる。
 だが……構えからして攻撃が来る方向は限られる。それに片手での一撃だ。魔法を併用したものだとしても、多少なりとも勢いを殺すことは可能なはず。わずかでも時間が出来れば、その瞬間にブレイズストライクを撃ち込むことが出来る。
 直後。
 白石さんが地面を蹴って接近を始めた。俺も同じように地面を蹴って距離を詰める。
 右の剣で相手の攻撃を迎え撃ち、生じるであろうわずかな時間を使って左の剣でブレイズストライクを叩き込む。それが俺のプランだ。
 自分の考えを信じ右の剣を振ろうとした矢先、白石さんと視線が重なった。そこから感じられた気迫と直感的に感じた恐怖から俺は自身の体に制止を掛ける。

「――雷切」

 静かに呟かれた言葉が耳に届いた瞬間には、すでに白銀の刃が振り抜かれていた。俺の目に映ったのは同色の剣閃のみ。今の一撃の速さを言葉にするならば雷という言葉が相応しいだろう。
 超高速の一撃をもらった俺は後方へと吹き飛び何度も地面を転がる。意識が刈り取られてはいなかったのですぐさま体勢を整え、両手の剣を使って制止を掛けつつ立ち上がった。

「はぁ……はぁ……」
「夜月くん、君は本当に凄いな。シグナムだって初見じゃ俺の雷切は見切れなかったのに」

 見切った? 冗談じゃない。
 浅くとはいえ俺の胸部は斬り裂かれダメージを受けたのだ。あのとき一瞬でも視線が合うのが遅ければ今頃深手を負って勝負が着いている可能性もある。
 だが現状で最大の問題はそこではない。決め手であろう《雷切》という魔法を直撃できなかったはずなのに白石さんには焦りがない。それどころか冷静にこちらを観察している。次こそ《雷切》を直撃させるために。
 穏やかな感じに接してくる癖にとんだデュエリストだ。
 正直……あの《雷切》とかいう魔法を防ぐ手段はない。今回デッキに防御系の魔法は入れていないし、攻撃速度が違い過ぎるだけに魔法をぶつけて相殺するのも難しい。
 全体的な攻撃速度はユウキに通ずる部分があるが……あの一撃に関してはユウキよりも遥かに上だ。フェイトやレヴィといった高速戦闘を得意とするデュエリストとの対戦経験があるだけに、目で追えないことはない。だが微かに追えているだけだ。見てから動いたのでは間に合わないだろう。さて……どうしたものか。
 あれこれ考えている間にも白石さんは再びデバイスを鞘へと納め始めている。彼の中でのプランとしては《雷切》を用いて体勢を崩し、連続攻撃を仕掛けるまたは再度《雷切》を放つといったものだろう。現状の俺には《雷切》を完全に防ぐ方法がないだけに最も堅実で有効な戦法と言えるだろう。

「……なら」

 こちらの覚悟は決まったようなものだ。有効な防御や回避手段がないのなら肉を切らせてでも骨を断つだけ。
 幸いこちらには両手に剣がある。1本腕を断ち切られようともう片方で攻撃は出来るのだ。勝つために必要なリスクならばいくらでも負ってやる。
 俺は左右の手に握った黒と白の長剣をクルクルと回転させ、ジャリィィン! と音を立てながら切り払う。

「……次で終わらせる」

 この交錯が終わりを迎えた時、立っているのはただひとりだ。
 俺は右足を大きく踏み出すと、突進技である《ドラゴサーキュラー》を発動させる。黒と白の刀身に魔力が集まり、爆ぜて紅蓮の炎へと姿を変える。それと同時に俺の体は、まるで砲撃で撃ち出されたかのような加速を得て前方へと飛翔した。
 今回のデュエルで最速の突進に白石さんの顔に緊張が走るが、雷に等しい速さの一撃を持つ人だけあってこちらの動きは見えているようだ。冷静に《雷切》の発射体勢に入る。
 ――あの技が発射されてからは少しでも威力を削ぐための行動しかできない。だが居合である以上、鞘に近い段階で止めれば止めるほど威力は収まるはずだ。
 俺は体をくるりと回転させながら右手の黒い剣を下から猛然と斬り上げる。その際、刀身に発生していた炎が螺旋を描き出す。

「う……おぉぉッ!」
「はあぁぁぁッ!」

 紅蓮と雷光の一撃は交差し、視界はスパークで覆いつくす。だが右手から伝わってくる凄まじい圧力が敵の存在を確かに教えてくるだけに気持ちに余裕はない。
 ――……不味い、この感覚からして剣の競り合いが崩れる。
 撃ち込む角度が浅かったか、それとも敵の凄まじい一撃に軌道をずらされてしまったのか。何にせよこのままでは俺の剣は支えを失って宙を翔け、雷と化している白刃が俺を斬り裂くだろう。
 だが……そんな未来は訪れはしない。俺の放った《ドラゴサーキュラー》という魔法は、右手の黒い剣にごくわずか遅れる形で左手の白い剣を描かれた軌道にクロスさせる形で振り抜く2連撃技だ。右手の黒い剣が外れたとしても左手の白い剣で迎え撃てる。
 余談になってしまうが、高速の突進と螺旋を描く炎にそれを纏った2連撃。これらの一連の流れが、敵からは火竜の吐息のように見えることからこの魔法は竜の名を関しているのかもしれない。

「らぁ……ッ!」

 燃え盛る炎を纏った2撃目が雷刃を弾き飛ばし、敵の体勢を崩した。このチャンスを逃せば、俺はこのデュエル最大の勝機を失うことになるだろう。
 体勢を完全に立て直せたわけではなかったが、半ば強引に高速4連撃である《バーチカル・フォース》を敢行。それによって与えられたダメージは普段に比べれば劣ってしまうが、この魔法は云わば本命の繋ぎだ。《バーチカル・フォース》を繰り出した場合、繰り出したのと反対側の腕は最終的に折りたたんだ状態で肩に引き付けられる。ここから少し身体を捻ることで、あの技の構えに等しくなる。

「これで……最後だ!」

 純白の刀身を真紅の炎が包み、技術と魔法で腕を加速させて撃ち出す。それと同時に爆音が鳴り響き、撃ち出された真紅の一撃は白刃の騎士の体を深々と貫いた。俺がこのデュエルで最後に見た顔は、悔いのなさそうな顔で笑っている穏やかな笑顔だった。

 
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