八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第六十七話 合宿の前にその三
「そこでこの世で最も美しい絵の一つを観ました」
「この世で、ですか」
「特攻隊を送った方の絵ですが」
「確かお婆さんでしたね」
「はい、その方が亡くなられた時の絵なのですが」
その絵のことをだ、畑中さんは話してくれた。
「天、雲の上に行かれてです」
「その時が描かれていて」
「雲の上に特攻隊の英霊の方々がおられて迎えているのです」
そのお婆さんをというのだ。
「旭日旗を振り飛行服のまま笑顔で」
「そうした絵があるんですか」
「鹿屋には」
「そうですか」
「あと石丸進一という方をご存知でしょうか」
「あっ、親父に教えてもらったことがあります」
その名前を聞いてだ、僕はすぐに応えた。
「戦前のプロ野球選手でしたね」
「そうです」
「その頃は職業野球っていって」
「中日におられました」
「それで特攻隊で」
「その鹿屋から出撃されたのです」
そして散華した、そうなったというのだ。
「石丸投手もまた」
「そうだったらしいですね」
「その方の資料も鹿屋にはあります」
「そうですか」
「その鹿屋に行ってです」
畑中さんはここで言葉を少し詰まらせた。
「私はそこでも涙を落としました」
「そうだったんですか」
「我が国を護る為に散華されたのです」
「そうですよね、その資料を見ていて」
僕も涙を流しそうになった、江田島で観たものを思い出して。そこにあったものは感動と呼ぶにも足りなかった。
「ここまで美しく悲しいことがあるのかって」
「まことにそうですね」
「人は何処までも美しくなれるんですね」
「はい、それがまさにです」
「あの人達にありましたね」
「私もそう思います、そして」
ここでだ、畑中さんはこうも言った。
「止様が教えられたのですか」
「はい、石丸進一さんのことは」
「やはり止様はわかっておられます」
畑中さんは確かな声で言った。
「人としてのあり方が」
「僕に言いました」
石丸投手のことを話したその時にだ。
「日本を、未来の僕達を護る為に死んだ人達もいるって」
「まさにその通りですね」
「そのことを覚えておけって」
「はい、忘れてはなりません」
「絶対にですよね」
「あの特攻で多くの方が散華され」
そしてとだ、畑中さんはさらに話した。
「英霊になられ靖国神社におられますが」
「その人達の敬意を忘れてはいけないですね」
「全くです、私はその時代を観ましたが」
畑中さんもというのだ。
「どの方も笑顔で行かれました」
「特攻隊の人達は」
「そうです、義和様もこのことは伝えていって下さい」
「僕が結婚して子供が出来たら」
「そうした方々がおられたということに」
「それは務めの一つですよね」
「はい、日本に生まれて生きているのなら」
それならというのだ。
「決してです」
「忘れてはいけないことですね」
「私もそう思います」
「その通りですね、よく靖国神社とかあの戦争について言う人がいますけれど」
「私は違う考えです」
「僕もです、ただそうしたお話は」
「はい、こうした時にすることはいいですが」
それでもとだ、畑中さんは僕に言った。
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