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3部分:第三章
第三章
「けれどそれでもよ」
「それでも?」
「あんたこのサンドイッチは本当に危ないから」
「だから美味しいから」
「美味しい以前の問題よ」
その具を見てまだ言うのである。
「本当に食べて大丈夫なの?」
「大丈夫よ、こんなの」
こんなことを言いながらだ。彼女は平然と食べていく。見れば他の娘達も恐る恐るだが食べていく。しかしだ。
すぐにだ。彩奈以外全員だ。血相を変えてトイレに駆け込んでいく。それを見てだ。
彩奈は何が何なのかという顔でだ。こう言うだけだった。
「皆どうしたのかしら」
「あんた大丈夫なの」
「だから全然平気だから」
こう言うだけだった。言いながらだ。
そのうえでだ。母に尋ねた。見れば母の前にもそのサンドイッチがある。ついでに言えば茶は赤と緑と白が混ざり合った最高の色だ。
その茶も見ながらだ。彩奈は母に問うた。
「お母さんのサンドイッチとお茶も貰っていいかしら」
「別にいいけれど」
娘が何ともないことに驚きながら娘に答える。
「けれど食べるの」
「お腹空いてるから。緊張してるからよね」
それでだというのだ。
「頂戴。それじゃあ」
「何だかんだで食べるのね」
「緊張していたら余計にお腹が空くのよ」
それでだというのだ。
「じゃあ貰うわね」
「うん、それじゃあ」
こうしてだった。彩奈は母の分のサンドイッチも食べるのだった。その頃事務所のスタッフの部屋では。
スタッフ達がだ。大騒ぎして言い合っていた。
「何っ!?喜多村君の弁当を女の子達に出した!?」
「それでオーディションを受ける女の子が皆食べたって!?」
「それってまずいだろ」
「死ぬぞそれ!」
ここまで言われるのだった。
「おい、今回のオーディションどうなるんだよ」
「誰があの娘に飯作らせたんだよ」
「タレント候補に劇薬食わせてどうするんだ」
「オーディションどころじゃないだろ」
スタッフ達はオーディションができるかどうかということすら危うんだ。とにかくその彼女の作ったサンドイッチが大惨事を引き起こすと思っていた。
実際にだ。彼等のところに来た報告は。
「全滅か」
「皆トイレに駆け込むか気絶か」
「食中毒みたいになってるらしいな」
「本当にオーディション駄目だな」
「ああ、折角アイドル発掘しようって思ってたのにな」
「有望な新人な」
「それこそ第二の伊藤つかささんな」
彼等は全てが終わったと思っていた。しかしだ。
希望というものはあらゆる災厄の後に残っている。彼等についてもそうだった。
暗澹たる気持ちになり絶望する彼等にだ。この話が来た。
「えっ、一人!?」
「一人残ってるって!?」
「一人だけぴんぴんしてるって?」
「それ本当なのか?」
「喜多村のサンドイッチを食って」
「お茶まで飲んで」
それを聞いてだ。スタッフ達はまずは驚いた。しかしだ。
それは事実でだ。オーディションを受ける娘達の控え室にだ。
彩奈だけが残っていたのだ。その話を聞いてだ。
誰もがだ。こう言うのだった。
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