アイドルになるには
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2部分:第二章
第二章
「お母さんこれでもアイドル好きだし」
「自分の娘がアイドルになれるかどうか気になるの」
「そういうことよ。だからね」
「わかったわ。何かお母さんが一緒って恥ずかしいけれど」
「気にしない気にしない」
「気になるわよ」
こうしてだった。母も一緒にいるのだった。
待合室には彩奈の他に何人も候補者が集っていた。見ればどの娘も可愛い。その娘達を見てだ。彩奈は不安な顔になり母に囁いた。
「私大丈夫かしら」
「大丈夫だと思うの」
「そう思えばいいの?」
「自分は絶対にトップアイドルになるんだってね」
そう思えばいいというのだ。
「いい?目指すは北乃きいちゃんよ」
「やっと今のアイドルになったわね」
「そうでしょ。お母さんだって勉強したのよ」
アイドルについてである。これも勉強なのだ。
「だからね。いいわね」
「北乃きいさんみたいになのね」
「そう、オーディションなんて通過点だから」
トップアイドルになるにはそれすらもだというのだ。
「わかったわね。それじゃあね」
「うん、それじゃあ」
「どんといきなさい」
まさに背中を押す感じだった。
「いいわね」
「どんとね」
「そう、どんとよ」
いけと娘に言ってだ。そうしてだった。
彩奈はオーディションに向かうことになった。ここでだ。
事務所側からだ。オーディションを受ける娘達、彩奈も含めてだ。差し入れがあった。それは。
「お昼御飯ですか」
「はい、お弁当です」
若い奇麗な女の人がだ。彩奈達に話す。眼鏡をかけて髪を後ろで上にあげてまとめている。スーツがとてもよく似合っている。
その人がだ。にこやかな笑顔で彩奈達に言うのである。
「私が作ったんですよ」
「そうなんですか」
「とても精のつくお弁当ですから」
こう彩奈達に話していく。
「ですからどうか召し上がってそれで」
「オーディションにですね」
「皆さん挑んで下さい」
こう言ってであった。彩奈達にそのお弁当を食べる様に勧めるのだった。そのお弁当はというと。
サンドイッチだった。その中に色々入っている。その入っているものを見てだ。
彩奈の母がだ。急に剣呑な顔になった。そうして言うのだった。
「しめ鯖?それに納豆にキムチにザーサイにマスタードって」
「あと焼きそばも入っているわね」
「これは酷いわね」
その中身を見てだ。母は言うのである。
「その他にも何か色々と」
「ホルモンも入っているわね」
「サンドイッチの具じゃないわね」
母は断言した。
「間違ってもね」
「あれっ、けれど」
しかしだった。もうだ。彩奈は食べはじめていた。そのサンドイッチを手に取ってもぐもぐと食べている。そうしてこう言うのである。
「美味しいわよ」
「あんたもう食べてるの」
「うん、美味しいけれど」
「大丈夫なの、食べても」
「だから美味しいけれど」
そのサンドイッチを食べながらの言葉だ。
「全然平気だけれど」
「平気って」
「だから美味しいけれど」
また言う彩奈だった。
「それも全然」
「そういえばあんた昔から何でも食べるわよね」
「好き嫌いないのが自慢よ」
それこそ何でも食べる。食べないものなぞないのだ。
「だからね」
「それは知ってるけれど」
母だからだ。このことは誰よりもよく知っていた。
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