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第2章 VS武偵殺し
6.終わりの始まり
前書き
「5話のあらすじ」
理子の依頼でとある倉庫に入り、潜入しようとしたものの数分で失敗。
アホなアイテムを用いてなんとか撃退していたものの狭い通路に挟み撃ちに合い修一撃沈。
いいことなしの修一は意識を失った。
それは俺が武偵高で二年生に進級する始業式前日の夕方だった。
一年間で何も得ることができなかった俺は、男子寮の側のたった一つポツンと置かれた周りに何もないベンチで夕日を見ていた。
明日は始業式。また無意味な一年を始めるのか、それとももうここで引退して普通の高校に転入するか。俺の知り合いの同じEランクの奴らは才能がないことを理解してあいさつもなく去っていった。何も言わなかったのはお前もだろうということを暗に伝えたかったのだろうか…そう深読みしてしまうほど、俺の精神は異常だったらしい。
期末試験の結果が記載されている紙が俺の手から風で離れ飛んでいく。見られたらまた笑われる。そう思うが
ま、どうせ変わらずのEランクだったから見られてもいいかと目で追うだけで取りには行かなかった。Eランクは下手なことしない限り取らないとされておりDランクとCランクがもっとも多く、EはAランクなみに少ない。
人間とは下を見て自分はまだ大丈夫だと安心する生き物だ。だからこそ俺の顔も、ランクもかなり有名だ。罵るために、自分を否定するために。
最後こそって思ったんだけどな…本当にもう、無理みたいだ。
明日転校届け出でも出すとするかな…。
と思った時だった。
「あんた、これ落としたわよ?」
横から、先ほど飛んでいった成績表を俺の元へ返しに来てくれたやつがいた。わざわざ俺に話しかけてくるなんて、変な奴だな。
「…ああ、さんきゅな」
「どうしたの?体調でも悪い?」
顔も見ずに受け取ってお礼だけいうと、そいつはなぜか俺の横に座って顔を覗き込んできた。な、なぜ!?
「お、おお!?」
俺は思わずベンチの端へ移動してその子の顔を見てしまった。
「なんでそんなビックリしてんのよ??ちょっと失礼じゃない?」
その《《ピンクのツインテール女》》はそう言ってこっちに近づいてくる。
男子としては嬉しいが…。
「なっ、なんでもないっての!!いいから俺に近づくな!」
「はぁ!?せっかく心配してあげたのになによその言い方!!日本人ってみんなそうなの!?」
思わず久しぶりに大声をあげてしまった。というかなんで逆ギレしてんのこいつ。まあでも
「ああ、すまん。悪かった。そうだよな。心配してくれてんだよな。悪い、悪い」
「…なにかあったわけ?」
こいつ、どうしてこんな俺にわざわざこんなにしてくれるんだ??こいつにはなんのメリットもないのに。
「まあ色々とな。色々と」
「色々じゃわからないわ。ハッキリ言いなさい」
「…。」
こいつ、空気読めよ。話たくないってことをさりげなーく伝えようとしてんのによ。
……だけど
「わーったよ。くだらない話になるし、途中で切ってくれてもいいならな」
「わかったわ。でもちゃんと最後まで聞くわよ」
「……。」
そうして俺はそのピンクツインテに中学の俺の話とそれからの一年間を話した。
初めて会ったからだろうか、プライドとか捨てて、俺の残念なところまで全て話した。
きっと面白くもなくつまらなかっただろう。それでもピンクツインテは最後まで俺の話しを聞いてくれた。
素直に、嬉しかった。俺の話しをこれだけ聞いてくれるのは時々電話するリサくらいのもんだったからな。でもあいつにはこんなことは言えない。あいつにとって、俺はまだ最強なんだから。
「ーで、俺は期末試験でもEもらって全くダメだって証明されたわけだ。俺はもう、無理なんだよ。いくら努力して、強襲科の辛い訓練を続けても、全然成果が出やしない。・・他の奴らより2倍3倍は絶対に努力してるはずなのに!それでもなんであいつらのほうがランク上なんだ!?ズルいじゃねぇか酷いじゃねぇか!!才能ってのはそこまで人をバカにできんのかよ!!」
俺はピンクツインテのことも忘れるくらいに全てを吐き出した。俺の嫌な部分、恨み、妬み、その全てを吐き出した。ピンクツインテの顔を見ていないが恐らく変な奴の話聞いちまったなって顔してるんだろうな。
「ーーあんたの気持ち、少しわかるわ」
そう、告げてきた。
「あたしもね、あんたと同じよ。貴族に生まれたのにその遺伝子は全く受け継がれてなかったって言われてるの。あたしも才能なんてなかったのよ」
「…じゃあ、お前もEランクだったりするのか?」
「いいえ、Sランクよ。強襲科のね」
バッと俺はそのピンクツインテを見た。なに言ってんだこいつ。
Sランクってのは、なるのに努力と才能が必要なAランク10人分の力を持った最高のランクだぞ!?
そんなやつが才能がないだと??
俺の中でプツンと何かが切れる音がした。
「ふざけんな!Sランクのくせに才能がないだと!?才能があるくせにないって言えばかっこいいとか思ってんのか!?それは本当に才能がない奴に対しての嫌味にしか聞こえねぇぞ!!このバカ!」
「うるっさいわね!!そう思うのはあんたがただ逃げてるだけだからじゃないの!!」
「はぁ!?」
俺が思わず立ち上がると、ピンクツインテもベンチの上に立ち俺の胸ぐらをつかむ。
「さっきから話聞いてたら!才能がないから無理だ、力がないから無理だ、無理無理無理無理ばっかり!!そんなこと言ってる奴が上になれるわけないじゃない!!そこに才能なんて関係ないわ!!」
そう言うとピンクツインテは俺を軽く突き飛ばし、俺の目をまっすぐ見てこう言った。
「いい?よく聞きなさいよ。私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!そんなこと言ってるから強くなれないの!まだ諦めるのは早いわよ!男だったらもっと本腰入れて頑張りなさい!!」
初めて会った。会ってまだ15分ほどしか経っていなかった。まだ他人と呼んでも全く問題ないくらいの関係だった。
なのに、
そいつの、言葉が
俺の考えを180度ぐるっと反転させた。
「………!」
ガッと近くのセグウェイ2機に装着された銃器を持つとそれを思いっきり引っ張り、セグウェイから取り外す。そしてそのまま2つをぶっ放しながら残りの10メートル目指して、セグウェイの荒波に飛び込んだ。
もちろんその間、敵もただ突っ立ているわけではない。俺目掛けて何十機ものセグウェイが発砲する。そのほとんどが俺の体にまたは制服に突き刺さる。防弾制服が破れた部分にはそのまま弾が貫通し俺の肉を引き裂く。目が充血で真っ赤に染まり、体はもう限界をとうに超えてる。
それでも
「……………!!」
俺はただ前だけを向いて弾が無くなれば次のセグウェイから奪い取りまた乱射し、乱射し、乱射をただ繰り返しながら突き進む。もう俺の意識は途切れてると言っていい。すでにもう痛みすら感じることはなかった。
ただ、
でも、
それでも
「あいつにまだ、礼もなにも言ねぇんだ!こんなところで死ねるか!諦めてたまるかってんだよ!」
無理じゃ、ない。
動ける。
無理じゃ、ないんだ………!
気づくと俺は、なにかの機材の上で寝転がっていた。一体どうなった?敵は?武偵殺しは?俺は、生きてる、のか??
「…っ!!」
体を起こそうとすると、激しい痛みに襲われた。血が俺の体中から出ているのがわかる。
近くにはセグウェイから取ったマシンガンが二丁。どうやら本当にあの難関を乗り切れたようだ。
生きている。
俺はまだ、あいつに礼を言うことができる。
だが、もう1つ
『障害物!回避不可!回避不可!』
現状を確認する。五体満足ではあるが右手と左足にそれぞれ一発。他にもかすった傷が数十個ほどだ。だが、これは不幸中の幸いってやつだろう。頭の傷は全て致命傷にはなっていない。擦り傷程度だ。
だがそれでも動かそうとするだけで激痛が走る。もう動かずこのままの状態で寝ていたいほどだ。
だが、まだ終わっていない。
こいつらを全機倒すか、気付かれずにこの倉庫を抜け出さないと終わらない。
「やるか…っ!!」
ぐっと力を入れ立ち上がると先の方で光るなにかをを見つけた。
「なんだ、これ?」
近づいて見てみると血に染まった携帯がなぜかライトをつけて落ちてあった。
どうやら先ほど落としたものを無意識の内に拾っていたようだ。
「……はは」
こまた買い直すの金かかるから拾っとかないとと思ってしまった俺に、俺自身が呆れる。帰った後のことを考えているなんてな。
まあそれが、あいつのいう諦めない心って奴だろうか。
そう考えながら携帯を取ると、先ほど開いたままの画面が出ていた。
「………まじかよ」
そして、その画面が俺の逆転の一手になるとはその時まで思わなかった。
画面に映っているのはある場所の映像だった。
ボタン型監視カメラ。
ボタンの中に小型のカメラが設置されており、その映像は携帯やパソコンに自動で送ることかできる。その映像がいま勝手に携帯へと送られていたようだ。どうやら落としていたらしい。
さらに
「GPSまでついやがる…ほんと、すげーな平賀」
映像の横には2つの画面がついており、そのひとつがGPSだった。映像とGPSの位置から倉庫の入り口あたりに落ちているらしい。これを使えば入り口に戻ることが可能になった。
しかも
「ここにあったのか、ことわざでなんかあるよなそういうの。欲しいのは最初から近くにあったって、やつ」
俺の探していたそれは、倉庫の入り口にあったらしい。いまもカメラに映っている。
そしてもうひとつ。
映像の画面、GPSの画面の他に、なにやら「・」が次々と横に流れていく画面があった。
「…ああ、なるほどな」
俺はその画面をしばらく見つめ、そして静かに笑う。ほんとうに天才ってのは才能がないやつのフォローが上手すぎて。
「うっし、戻るか」
だが、問題はどう戻るか、だ。GPSを辿るにしろ、あの道を戻らないといけない。俺の体は限界に近いどころじゃない。
もう限界なんてとうに超えてる。先ほども言ったが体を動かそうとするだけで体全身に激痛が走ってしまうのだ。
この状況では走ることも出来ないしセグウェイ1機でも会ったらThe endだ。
まあでも
「ここまできたんだ。いまさら見つかっちまったで終わるほど、俺の人生軽くはなってないはずだ」
そうして、俺は生涯初めての本当に耐え凌ぐ戦いをスタートさせた。
ポロン
「…あ」
そのとき、いままでかけていた女の子のぞきメガネが落ちてきた。
もちろん鼻つきで。
………え、嘘。
いままで俺これかけたままシリアスなこととか色々こっぱずかしいこと言ってたわけ?うそ?まじか??
俺は誰も見ていないのに俺は無駄に恥ずかしくなって顔を覆ったのだった。
『あっはははははは!!修一やっば!かっこ悪ー!!あっはははははは!!』
↑誰とは言わない
ーーーーー
「ーーはは、これ、俺がやったんか」
それからしばらく。GPSを辿ってゆっくり進んでいると。あの一直線の通路についた。先ほどの戦闘で明かりが破損して暗くなっているが、少なくとも10機は残骸になっているだろう。
「もしかして俺って、死にかけると覚醒する何か力あったりするん?」
俺は冗談半分にそう言って、杖代わりにしていたマシンガンを捨て新しいマシンガンを拾う。先ほどのはもう弾が無くなっていたのだ。
まあ正直覚醒とかそんなこと微塵も思ってないが。ほかに言うなら死に際の馬鹿力ってやつだ。
と
「あり?これって」
そのマシンガンの先になにか光るものがあった。また携帯か?と近づいてみるとら元の大きさにもどっているスーパーボールだった。確か破裂していたからもう使えないもんだと思っていたが
「まあ使えるなら取っとくか」
俺はスーパーボールをポケットにしまうと後ろを確認する。
おかしい。
先ほどからゆっくり進んでいるのにまったくセグウェイと会うことがない。ここで倒したのはせいぜい7機ほど。その前の20機とあわせてもまだ半分近くが活動していると思っていたが…。
「ま、いないならいないで、楽でいいんだけどな」
そう言って俺はまた携帯を見つつ、ゆっくりと進み始めた。
ーーーーー
「ぜぇ………ぜぇ………」
血をポタポタと落としながら少しずつGPSを辿ってやっとあの入り口前の大広間にたどり着いた。
結局あの後もセグウェイに出会うことが無かったが…いまは、そんなこと考えることすらままならないほど頭がぼやける。血を流しすぎたようだ。
腕もブランと垂れ下がったまま痙攣してほとんど動かない。なんとかマシンガンを1つを杖にして来たが、かなり体力を消耗してしまった。
老人が杖を大事にする気持ちがかなりわかったね。
頭がぼーっとしている俺は、この大広間にもセグウェイざ見当たらないことをラッキーとしか思えなかった。そして、目的のアレのもとにたどり着く。
灯油のタンクだ。
機械の設備やら地下の機材から考えてどこかに置いてあるとは思っていだが
「少ない…な」
タンクはたった一つ。これだけ爆発させても残りのセグウェイ全てを破壊するにはこれにベタッと全てくっつけさせるぐらいしかないだろう。
だが、まあ敵がいないなら、なんの問題もない。
敵がいない以上もう帰りたいという一心で一歩一歩少しずつ出口へと向かう。
「なるほどね、灯油を使って私の力作達を破壊したかったのか、考えるじゃないの岡崎修一」
その時、入り口から聞きなれない女の声が聞こえた。
俺は声をかけられてようやく気づくことができた。すでに体は限界、目線もフラフラしている状況では仕方なかったのだが。
「…ま、少なすぎてそれも難しいんだけどな」
顔を少しずつ上に上げ、目の前にいる女の顔を見る。
黒い髪を腰まで伸ばした美人の女がそこでくすくすと笑って立っていた。俺の記憶の中にこんなやつはいない。恐らくは…。
「おまえが、武偵殺し、か?」
「ま、そう呼ばれるのは嫌いだけど、あんたが知ってる名前ならそれで合ってるわ」
髪をかきあげながらそう言う武偵殺し。
「そっか。あいつじゃ、無かったんだな。………よかった」
「あら?あんたの仲間に武偵殺し疑惑のかかった人でもいたの?」
「あいつは仲間ではないんだが、まあ友達、かな?違うとは思っていたが、本当に違ってたら嬉しいもんなんだよ」
「あれ?じゃあもしかして、その子の疑い晴らすためにこんなとこ来たって感じ?」
なぜかちょっとワクワクしている様子の武偵殺しがそんなことを言ってくる
が
「あ?」
なに勘違いしてんだこいつ
「あれ?違うの?」
本当にきょとんとしている武偵殺しに俺は胸を張って伝えてやった。
「あのな、この依頼よこしてきたのその友達なんだよ。もし仮にだ、そいつ自身が俺を殺すためにそんなことしてきたんなら
ーー30万なんてウソってことじゃねぇか!!
そんなの酷いだろ!いじめにしても限度があるぞコラ…ってことでその線は俺の中から消してるわけ。あいつは武偵殺しじゃない」
いやいや!と体をコネらせようとして激痛で動かせずにプルプル震えてしまう。本気でそれはない!絶対ないわ!!
「…くふ♬そっかそっか。結局金なんだね、修一は」
「まあな。金が優先度第一位だ」
「クズ」
「人を殺したお前には言われたくない」
武偵殺しとついてる以上、武偵を1人や2人殺していてもおかしくはない。そう思って返すと…
「あら?あたし、誰も殺してないけど?あの船強奪でもね」
「あ、そなの?」
「そうよ。もう一回よく調べてみてよ。そしたらあたしのこともうちょっとわかってくれるでしょ?もちろん、生きて帰れたら、だけどね」
武偵殺しが片手を挙げると、俺の後ろに残りの25機が姿を現した。そしてさらにゾロゾロとどこに隠れていたのかさらに多くのセグウェイが俺を囲い込む。その全てが瀕死の俺を狙っていた。
「生きて帰れたら、ね。帰す気ないだろうが」
「まあ半分そうね。あと半分はあんたの腕を期待してるわ」
「その腕ももうひとつ使い物にならねぇけどな」
軽口を叩いてるが、絶望的な状況に変わりはない。俺に秘めたる才能なんてのはないし、持っているもので使えそうなのはマシンガンとスーパーボールくらいか。
………だが、あとひとつ、最初はなかった秘策がある。
「なあ、武偵殺し」
「なに?」
「お前俺を見てたんだろ?どの位置から見てたんだ?」
「…横の倉庫だけど?あ、見たわよあんたの恥ずかしいシーン!爆笑もんだったわ!」
「いや、あれは忘れてくれ頼むから」
あの恥ずかしさはない。ないったらないのだ。
「んなことより、なんつーかさ、やっぱ暗闇ばっかにいたほうがこういう薄暗いところって見えやすいのな」
「はー?いきなり、なに言っちゃってんの〜?意味わかんなーい??」
「いやさ、なんか、《《下に変な煙が見えるが》》わかるか?」
俺は地面を指差し、武偵殺しもそれに従って下を見る。
そして、目を見開いた。
白い煙のようなものが足元を揺れている。俺の元にも、武偵殺しのもとにも。
「液体窒素だ。ここもともと缶詰工場だろ?缶の蓋閉める時に使うんだよ。お前が最初に階段にいた俺を、というか俺の方の全体を撃ったときに溜めていたタンクかなんかが壊れちまったんだろうな。もうここの地面スレスレには液体窒素が漂いまくってるぞ」
「…はっ。それがどうしたってのさ。あんた知らないの?液体窒素ってのは窒素を凍らせただけの、ほとんどただの空気と変わらないのよ?それだけでなんだってー」
「………。」
俺は饒舌に話す武偵殺しの話を無視して、そっとポケットに手を入れる。
「っ!待ちなさい!!動かないで!」
武偵殺しも戦闘のプロだ。俺なんかの平凡な動きは簡単に読めるようで、拳銃を俺に向けてくる。武偵殺しの銃も俺を狙う。俺は冷や汗をかきながら
「な、なんだよ…なにもしてないぜ」
「よく言うわよ。さっきから凍る床とか爆発するなにかとかおっきなボールとか、わけがわからないものばかり出されて。あんた、予想が全くできないの。いいからそのまま下がりなさい。そして機械の上に持ってるもの全部置くこと」
「…ちっ」
この状況を打破できるような策は持ち合わせていない。俺は一歩一歩ゆっくり下がると近くのセグウェイもどきの上に持っているもの全て置いていく。マシンガンに携帯、スーパーボールと暖か毛布、ティシュ。
「ほら、これで全部だ。もうなんも持ってないって・・というかそもそも灯油がむっちゃ少ないとわかった時点でお手上げ。なにも他に作戦なんてたてられないっての」
「…やけに素直ね」
「もう若干諦め感あってな。というか、知ってるかもしれないが俺はEランクだぞ。なんの才能もねーし、銃の腕もねーんだ。んな俺がお前みたいな一級犯罪者と戦うって時点でもうおかしいだろうが。俺は子猫探すーとかそういうボランティアもどきをやってるのが一番似合ってんだよ。才能って言葉俺ほんと嫌いだわ」
「才能、ね。あんた、最後にひとつ聞きたいんだけど。才能がないってわかった時さ、どう思った?自分にはなにもなくって、なにもできないってわかった時あんたはどうするの?」
なぜかこんな時に武偵殺しから質問がきた。いきなりどうしたとは思ったが
だがまあ、とりあえず本音を言うことにする。
「まぁ辞めるよな。才能がない以上、いくら努力したって才能があるやつには勝てねぇよ。まあ中には知り合いの力を自分の力のようにして上がってく奴もいるけど、それでのし上がったとこでそれは結局他人の才能。自分の成果じゃない。だからンなことするくらいなら辞めて、楽な人生に生きるよ」
「…。」
だけど、
「そんな風に思ってた俺にさ、あるやつがガチギレしてきやがったんだよ。『無理、疲れた、メンドくさいは絶対に使うな!諦めるなんてまだ早い!』ってな。まだそん時は初対面で、会って15分だぞ?変な奴もいたもんだよな」
「…。」
「だけど、正直助かったんだ。才能だけが全てじゃないって気付かせてくれたから。
才能ないやつは、無いなりの天才とはまた違った生き方をすれば、自分にとってなにか大切なもんでも見つけ切れるんじゃないかって。そう思うようになったんだ」
「…そっか。修一はそうやって頑張ることにしたんだ。くふ、あんたとあたしってやっぱ意外と似てるし気が会うわね。普通にあってたら好きになってたくらいに♡」
「俺は犯罪者でも付き合える自信あるぜ。足洗って俺の恋人って役職にでもついたらどーだ?」
「くふ、それも面白そう!…ま、生きてたら、考えてあげる♡」
「ああ頼むぜ」
武偵殺しは楽しそうに笑うと、片手を後ろに回した。その後、後ろからウィーンと発射準備の合図が。
「それじゃ、長話に付き合ってくれてありがとね修一」
「俺は話し足りないがな」
頬を伝う汗が、俺の緊張感を表していた。
そして、
「じゃ、蜂の巣になりな!!」
「………っ!!」
一瞬の静寂の後ーー
武偵殺しの合図に50機ほどのセグウェイが一斉に俺に向けて発砲。
俺の体全体に弾を浴びせるようにつん裂く音が倉庫に響く。悲鳴にも似たその音はもう避けることのできない俺に絶望感を与えたまま、全てを奪っていった。体中を弾丸が貫き、血がアスファルトの上に広がる。俺は何もすることができないまま地面に倒れ意識を失う。こうして、俺の人生は終焉。
Eランクの短い人生が幕を閉じた。
「なんてな。あー《《死ぬかと思った》》」
「どうして撃たない!?何が起こってる!?」
俺は先ほどと変わらず腕をブランと下げ、意識が途切れるのをすんでのところでかわしながら、立っていた。目の前の武偵殺しの驚いた顔が見える。
50機による一斉射撃は、行われなかった。
『あややー!ちゃんと機能してなによりなのだー!!』
そこに、突如聞こえた子供声。その発信源は俺の携帯だった。
「おお、なんだ通話機能もあるのかコレ」
『違うのだ!これはただの通話なのだ!電波がようやくつながったから勝手に繋いでみたのだ!』
「やっぱ天才のやることは違うね」
『このくらいなら少し勉強すればバカな岡崎君でもできるのだ。あ、でもモールス信号はちゃんと勉強するしてたみたいだから偉いのだ!』
「ああ、あの『・』な。たまたま授業で勉強してたところだったからよかったよ。まぁ解読にはかなり時間使ったけど」
今話しているのはボタン型監視カメラの機能、映像、GPS以外のもう一つの機能のことだ。それは、モールス信号を送信、受信できるものだった。
俺は携帯を置いてあるセグウェイに近づきつつ通話する。相手は、あの平賀文。というかこいつ俺のことバカって言ったな。あとでとっちめてやる。
「んで、全部できたのか?」
『なのだ!自律型だったから一つ一つやらないとダメだったから時間かかったけど、岡崎君のクサイ台詞で時間を稼いでくれたから問題ないのだ!』
「なに言ってんだ。俺の言葉は女神でも落とせるぜ。やってやろうか?」
『うわぁー女神とか言ってる時点で気持ち悪いのだ』
「男ってのはみんな女神とかバニーが大好きなんだよ。おら、時間かかったお礼に今度俺にお前のバニー姿見せやがれ」
『うわ!?手伝ったのにお礼しろとか岡崎君クズなのだ!しかも要求がただの変態なのだ!?!?』
「ちょ、ちょっと待て!一体なにが起こってる!?」
俺と平賀の会話を武偵殺しが邪魔してくる。なんだよ、今大事な交渉中なのに
「なにって、ハッキングだ」
「ハッキング…!?」
「ああ、平賀が俺の携帯を通してハッキングしたらしいぞ。俺もよくわからんが。俺は平賀の言う通りセグウェイの上に携帯を置いてコードを適当に繋いだだけだ」
今すべてのセグウェイもどきが俺の方へ向けていた銃口を武偵殺しの方へ向けている。そのうちの一つ。俺が持ち物を置いたセグウェイに携帯からコードが繋がれていた。
『ヘイキ ウバウ コードヲ ヒトツニ ツナゲテ』
モールス信号にはこう書かれていたのだ。…充電コード持って来ててよかったわ…。
「なっ、そ、そんなの不可能だ!そもそもどうやって携帯から、しかも機械全てにーー」
「そんなの俺が知るかよ。というか、多分平賀自身に1から聞いてもわからんと思うぞ?まあ、実際できてるわけだからなんか理論はあるんだろうが、天才がやってるんだ。俺たちには理解できないようなすげーことしたんだろうさ」
「………ちっ、結局お前も才能があるやつにすがるんだな!」
「………。ま、今回は、な」
正直俺自身も頑張ったと思うが、ダメなのだろうか。
下唇を噛む武偵殺し。相当悔しいのだろう。そこに平賀が呼びかけていた。
『あや、そこにいるのは武偵殺しなのだ?』
「ああ、目の前にいる」
『あやー、なら速攻逃げることをお勧めするのだ!いま色々なところに呼びかけてそっちに来てもらえるように手配したのだ!もうすぐしたら怖い人たちが襲ってくるのだ!!』
「………そうね。今回はこのまま帰るわ。嘘じゃなさそうだし」
「いいのか逃して」
『岡崎くんが足止めできるならしておいて欲しいのだ』
「無理…じゃないが難しいな」
ついいつもの癖で無理だと言ってしまいそうになった。危ない危ない。
これ以上どうやってこいつを、足止めしろと?
「岡崎修一。今度またあんたを殺しに来るから、その時を楽しみにしててね?」
「お前なぁ俺Eランクだっつってんだろ。もうお前来ても勝てる気しねーっての。やめてください、本気で」
「あら?アリアの次くらいに面白い人材だって思うわよ♡前に言ったあの言葉、忘れないでね♡」
そう言うと、彼女は倉庫から立ち去っていった。どうやらもうこのセグウェイもどき達もいらないらしい。
『なにをお願いしたのだ?』
「ん?ここ生き残ったらあいつ俺の彼女にするって話」
『あ、あやー!?どうしてそんな話をテロリストと話せるのだ!?』
「ま、色々あったんだよ。………というか…すまん、………もう、無理」
俺は武偵殺しが完全にいなくなったのを確認した後、思いっきり頭から倒れた。
激痛とくらむ視界に対抗するのも限界だ。もうこれ以上はなにもできない。
『ちょ、岡崎くん!?大丈夫なのだ!?岡崎くん、岡崎くん!』
電話越しに俺の名前を呼ぶ声が聞こえる中、俺は少しずつ意識を失っていった。
『くふ、なるほどね。思った通り面白かったよ岡崎修一。ーーお前がもしあたしの正体に気づいた時、その時はー』
「…」
目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。そしてその後に香る薬剤の臭い。どうやら病院のようだ。横の台に乗っている時計で日付を確認すると、どうやら1日寝て過ごしていたようだ。
「あー、生き残れたね」
正直奇跡だと思う。Eランク武偵が100機のセグウェイに対して勝った、とは言えないがとりあえず痛み分けにできた時点で十分だろう。そう思うものの、問題だけが二つほど残ってしまった。
それは
「あ、しゅーちゃん、やっほー♬」
ガラガラと扉を開けて入ってきたのは、理子だった。手にはお菓子類を持っている。わざわざ見舞いに来てくれたのか
「おっす。見舞いなんて悪いな」
「ま、理子が依頼したことでこんなになってるんだもん。流石の理子も罪悪感がちょーっとでちゃったの!はい、トッポあげる!」
理子が持っていたトッポを一つ俺の口に押し込んだ。俺は礼を言ってそれを食べる。
…トッポなんて何ヶ月ぶりに食ったかな。基本お菓子は買えなかったし。
「えっと、今回の件について結果だけ報告すると、武偵殺しは結局捕まらず逃げられちゃったみたい。
あの機械人形は回収されていま平賀に色々と調べられてるってさ。
しゅーちゃん発見されたとき出血多量で死にかけてたってのも知って理子も流石にあせったよ〜」
なるほど、つまり成果無しってことなのか。まあそんなことで捕まるやつじゃないよな。というか俺のことで焦ってくれたの?え、嬉しいんですけど!
「まあ正直その辺はいま生きてるからいいとしてよ問題はそこじゃない」
俺はまだ大事なことを聞いてなかった。
「わかってる。報酬の話でしょ?ちゃんと30万しゅーちゃんの口座に振り込まれてるよ」
「まじで!?」
俺は理子の言葉に飛びつこうとしが、身体が痛んで腹を抑える。や、やった30万だぞ!?何ヶ月楽に暮らせるんだ!肉も野菜も食べ放題!ひゃっほー!!
「ようし理子!飯でも一緒食いに行こうぜ!金のある俺様が奢ってやるからよ!三百円くらい!」
「子供じゃないんだから…。というか、そう簡単な話じゃないんだよねー」
理子にお誘いをかけるが、理子は顎に人差し指を当てて困った表情をすると、ある紙をこちらに渡してきた。
「なになに?賠償費用請求書?………450万!?」
紙に描かれていたのは壁やらなんやらの修理費の合計が書かれた請求書…ちょ、ちょっと待て!
「待て待て!あれはほとんど武偵殺しがだな!」
「わかってるって。武偵殺しがした分も合計した値段だけど、そこから保険と国からの補助でしゅーちゃんが払うのは、ここ」
そう言って理子は右下の赤で囲まれた位置を指してくる。
「…おい、それでも50万あるんだが」
「30万の報酬使っても残り20万だね」
「赤字じゃねーか!!」
死にかけの任務成功させてその報酬が赤字!?ふざけんな!!
「無理無理そんなの無理よ!!20万!?そんなお金見たことないわっ!!」
「しゅーちゃんしゅーちゃん!『無理、疲れた、メンドくさいは絶対に使うな!』でしょ?闇金にでも借りればいいんだよん♪」
「あれは闇金より怖い金髪メイドもどきに止められてるから絶対ダメなんだよ!!もーイヤ!どーして俺だけこーなるのぉ!?そもそもお前がクソな依頼寄こしたからだろうがクソ野郎がぁ!!」
俺の般若顏(我は怒りが込み上げた時こそ真価を発揮するのだ)に理子が引きつつ
「だ、大丈夫だってしゅうちゃん。理子も責任とって半分支払うから、えっと、25万。だからしゅうちゃんの元にお金入ってくるよ!」
「……命懸けで働いて…五万。割にあわねぇ…」
ズーンと本気で落ち込む俺に、理子がまたトッポを押し込んでくる。
「まあその、どんまい♡」
「…くっそあの武偵殺しが!今度会ったら本気で捕まえてやる!んで、今回の金払わせてやる!」
「あ、武偵殺しに会ったんだよね!どんな人だった??」
理子が続けざまにトッポを俺の口に押し込みつつ、そんなことを聞いてくる。…トッポうめぇ
「黒髪ロングの超美人だったな。あ、俺が生き残ったら付き合ってくれるらしいぜ」
「え、しゅうちゃん、浮気??理子というものがありながらー!」
「もともと付き合ってないから」
「えー理子は付き合ってるつもりだったけどなぁ」
「…ちょっと嬉しくなったからそのネタやめなさい。ツッコミずらくなる」
モジモジしながらそんなこと言わないでくれ。本気にしちまうだろうが。
理子はぺろっと舌を出すと…
「さってと、理子そろそろ行くからね!明日の準備もあるし!」
理子は食べ終わったトッポを捨て、くるりと一回転すると俺の方にピースして、外に行こうとする。
……さて。
「…なぁ理子」
俺は理子との会話中に頭の片隅で考えていた。というか、いま少しだけ確信できた気がする。
聞いてみるかどうかずっと悩んでいたんだ。
聞かないほうがいい、理子は理子のまま、お互い軽く冗談を言えるような関係のままのほうがいいの、かもしれない。
でも
「なぁに?あ、寂しくなっちゃった?ごめんね、理子はしゅうちゃんだけの理子りんじゃないの、暇なときに来てあげるから」
「そうじゃねーよ。最後に変な確認するけど…」
俺は一拍おいて、振り返る理子に告げた。
「お前が武偵殺しってこと、ないよな?」
俺がそう聞くと、理子は少しびっくりした表情をした後下を向き、
しばらくした後
「くふ♬」
ニッコリと不気味に微笑んだ。
【第2章 「VS武偵殺し」 終】
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