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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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百一 鬼の国

「予言の巫女か…」

ぴちゃん、と空洞で反響する。
天井から垂れる氷柱石。其処から滴下する雫が深閑とした洞窟内で響き渡った。
一点の光も入れぬ暗闇。その陰に紛れた二つの人影は双方とも闇に溶け込んでいる。
一方がもはや人影よりも薄い陽炎であるのに対し、片方は確実にその場に存在しているのに気配は無きに等しかった。

「その予知能力が事実ならば、後々我々の障害と成り得る」
「必要とあれば、殺せ…と?」
「流石察しが良いな―――ナルト」

呼び出しに応じて此処まで足を運んだナルトは、ゆらゆらと揺れる陽炎を前に眉を顰める。
【幻灯身の術】によるペインの立体像を胡乱な眼差しで見遣り、彼は軽く肩を竦めた。
「…その巫女とやらは鬼の国にいるのだろう。ならば、火の国…木ノ葉隠れに依頼が来るはずなのでは?」

ペインの言葉足らずの説明にも動揺一つせず、全てを察したかのようにナルトは言葉を続ける。
むしろ今し方己が問うた質問の答えすら彼は知っていたが、そんな素振りなど一切見せず、それどころか怪訝な表情まで浮かべてみせた。

「何故、鬼の国がわざわざ、『暁』に依頼をする?」
「…全く以て、妙な話だ」
同じく訝しげな顔をしたペインがナルトの疑念に同意する。困惑げに頷きながらも彼は鬼の国の意向を淡々と語り出した。

「我々『暁』を犯罪組織だと知った上で、彼らは接触してきた。それも内容は…要人警護だ」
「要人…つまり、その巫女のことか」
「ああ。なんでも強力な妖魔を封印するにあたって、それを妨害する者達から巫女を守ってほしいとの事だ。詳しくは鬼の国内にて話す、と。…どうにも眉唾物だがな」
ペインの言葉の端々に不審の念が感じ取れて、ナルトもまた猜疑心を募らせる。


事実、先ほど述べたナルトの言葉通り、件の鬼の国は火の国の近くにある。
ならばこういった依頼は当然、木ノ葉隠れの里へ向かうはずなのだが、先方はわざわざ何処の国にも所属していない『暁』を指名してきた。
各国が警戒するほどの組織たる『暁』に依頼するなど、鬼の国の思惑は如何なるものか。

真意を探る前に、一つ気掛かりな点をペインの言葉内から見出して、ナルトは早速訊ねた。
「…その強力な妖魔が尾獣である可能性は?」
「無い、……とは言い切れんからな。そこでお前に頼むのだ、ナルト」

唐突な名指しに、ナルトは面倒くさそうな風情で顔を顰める。態度とは裏腹に思考をめぐらしながら、彼はペインに話の続きを視線で促した。視線を受け取って、ペインの口が再び紡がれる。
それはやはり、ナルトの予想通りのものだった。

「この依頼、お前に一任する。その代わり、報酬等は好きに扱ってもらって構わない」

ナルトは表面上うんざりと肩を落とした。
ペインの呼び出しに応じた瞬間から、否、体内の黎明の様子がおかしくなった頃から感じていた予感が的中したと、内心溜息をつく。


火の国にほど近い鬼の国は小さな国家にも拘らず、大国の侵略を受けずに依然として残っている。
それはひとえに、鬼の国にいる巫女の存在と、そしてその巫女に封印されし妖魔が大いに関係していた。
妖魔の名は【魍魎】。かつて大陸の制覇を企んだ忍び達の一団にて、異界より呼び出された、想像を絶する強大な魔物とされている。

不死身の幽霊軍団を率いし【魍魎】は諸国を蹂躙し、大陸を破滅手前まで追い込んだ。
その危急存亡を救ったのが、鬼の国の巫女であると言い伝えられている。よって巫女は鬼の国にて妖魔を見張り続ける宿命を代々担っているのだとも各国では伝えられていた。
実際のところ、太古から在ったとされる【魍魎】自体が本当に存在するのかも疑わしいが、その巫女の血筋が未だ途絶えていないという事実が妖魔の存在の証明とも言えるだろう。

以上の事柄の真偽のほどは定かではないものの、鬼の国の巫女が予言をするというのは有名な話だ。
だがその予言がどういった範囲を示すのか、そういった類は謎である。
遥か先を見通すのか、はたまたそう遠くない未来を予知するのか。どういった犯罪が起きるのか、或いは誰が誰に殺されるのか。
そういった事を予言出来るのであれば、その未来を阻止しようと大抵の者は動くだろう。だが、それでは一部の者は非常に困る。
もちろん犯罪を起こす側――加害者の立場である者達だ。

その代表的な例であるが故に、『暁』のリーダーたるペインは出会い頭にナルトに告げたのである。
予言が妨げになるようなものならば、その巫女を消せ、と。


「…その依頼、引き受けよう」
妙な胸騒ぎを覚えつつも、ナルトはペインの言葉に承諾の意を返した。もちろん己の有益になる条件付で。
「ただし、依頼を受けるにあたって俺一人に全権任せてもらおう。無論、事後報告はする」
「構わない。巫女の予言が妨げとなるかの見極め、及び、妖魔が尾獣か否かの結果さえ判ればよい」
ペインの承諾を得て、ナルトは内心ほくそ笑んだ。

言質は取った。依頼を受けるにあたってのメンバー構成も、鬼の国の真意も、巫女の予言の見極めも、強力な妖魔とやらの対処法も全てがナルト一人に委任された。
それだけナルトは『暁』に信用されている。たとえ彼自身は誰一人信頼していなくとも、信用に値する何かがナルトにはあった。ちなみに、ペイン本人は六道とも別の用事で忙しく、小南も長門の傍にいなければならない。どちらにせよ、表向き要人警護が主なこの依頼は最初からナルトに頼むつもりであった。

ナルトならば悪い結果にはならないだろう、と全てを委任したペインが【幻灯身の術】で消えてしまう前に、聊か疑問だった点をナルトは問うた。


「しかし何故俺を呼んだ?他にもいるだろう?」
「…護衛に向いている者が他にいると思うか?」
「………………」
「………………」

遠い目で理解し合ったその無言の会話は、ナルトが倒れるほんの一週間ほど前に交わされたものだった。













不意に、意識が戻る。

現実の世界で眼を瞬かせた彼は、その双眸の蒼を周囲に巡らせた。
途端、瞳に飛び込んできたのは、文字通りナルトの許へ飛んできた者達。彼らの顔は何れも憔悴の色が濃かったが、それよりもナルトが目覚めた事への安堵感のほうが勝っていた。

「ダーリン、よかったぁあぁぁ~…っ」
「ったく、しんぱ…じゃなくて、驚かせやがって‼この大バカヤローがっ」
抱きつこうとする香燐をひっぺがしながら、多由也が呆れたように文句を言う。
ぎゃいぎゃい額を小突き合わせて睨み合う赤髪の少女らの隣で、キンがさりげなくススス…とナルトの傍へ寄った。
「大丈夫か?水、飲むか?」

さっと手渡された水をありがたく頂いて、ナルトは「ありがとう」とお礼を述べる。
この気が利いた素振りから実は甲斐甲斐しく介抱してくれたのは、キンではないかと察して、彼はにこり微笑んだ。
みるみるうちに顔を真っ赤に染めたキンが眼を逸らすのを不思議そうに見遣ってから、ナルトは後方に控えていた男性陣に視線を送る。
正確にはその目線は、ドス・水月の後ろにて、扉傍の柱に身を寄り掛からせている再不斬に向けられていた。

「やれやれ。一時はどうなる事かと思いました」
「全くだよ。アンタにはボクが再不斬先輩から首切り包丁を奪う瞬間を見てもらわないといけないんだから。こんな所で倒れられたら困るよ」
「おいこら。誰が誰から奪うって?」

ドスに続いての水月の発言に、再不斬が片眉を吊り上げる。悪びれもせず、「あっれ~??聞こえなかったんスかぁ~?」とふざけた物言いで笑う水月に青筋を立てながら、再不斬はナルトに向き合った。

「零尾、といったか?アレの暴走を止めた直後にお前は倒れた……憶えてるか?」
「……俺は、どのくらい寝ていた?」
ようやく本題を切り出してくれた再不斬に感謝しつつも、顔を伏せる。その視線の先は自らの身体。
体内の零尾、否、黎明の様子を感じ取りながら、ナルトは再不斬の言葉を待った。

「…お前は、三日間意識を失っていた」
「三日…そうか、」
三日間も時間を無駄にしてしまったのか、と無言の内に悔恨の情を潜ませて、ナルトはようやっと身を起こす。どうやら自分を休ませる為に何処だかの宿を借りてくれたらしい。

ペインから鬼の国の依頼を一任されたナルトは即座に白と君麻呂に連絡を取った。そしてある事を早急に頼むと、自身はジャングルの奥地のアジトにいる再不斬達と合流。そして彼らを率いて、鬼の国へ向かっていたのである。なるべく人気が無いルートをわざと選んだのでかなり遠回りしたが、そうせざる理由がナルトにはあった。
数日前から予感していた零尾の暴走。それに無関係の人間を巻き込まない為、あえて荒野を進んでいたのだが、やはり被害は大きかったらしい。加えて三日間も意識を失ったのを踏まえると、鬼の国が暁に依頼してから五日ほど経っている。一刻も早く鬼の国へ向かわなければならない。

周囲の気遣わしげな視線を一身に受けながらも、危なげなく立ち上がったナルトは、さっと顔触れを確認した。
「面倒を掛けてすまない。……迷惑を掛けた直後に心苦しいが、早速頼まれてくれるか?」
何か聞きたそうな面々を視線で黙殺し、ナルトはその場にいる全員に指示を下した。

ナルトの身を案じつつも頼みを引き受けてくれた彼らに感謝の言葉を告げ、己自身も動こうと扉へ向かう。扉傍の柱を背にしながら腕を組んでいる再不斬の前を横切る。

病み上りにも拘らず速やかに行動を開始するナルトの行く道を遮るように、黙していた再不斬が口を開いた。扉に手を掛けるナルトの傍らで、彼は瞑目したまま静かに問うた。
「……それで。主導権は奪い取れたんだろうな?」

再不斬の詰問を耳にし、ナルトの手がぴくりと止まる。扉の取っ手に指を掛けたまま、ナルトは再不斬に見向きもせず、ただ一言返した。
「ああ…問題無い」

室内の他の面々の耳には一切届かぬ小声同士の応酬。
一度も視線を交わらせずのこの会話は、ナルトの次の一言で終わりを告げた。

「賭けも、忘れなどしないよ」
だから案ずるな、と擦れ違い様のナルトの一言を聞いて、再不斬はうっすら瞳を開けた。

放たれた扉がギイ、と擦れた音を立てて、視界からナルトの後ろ姿を覆い隠す。目の前で閉ざされた扉と共に、再不斬もまた瞼を下ろした。
寸前に見た小さくも大きい後ろ姿を脳裏で描きながら、心中でナルトの言葉尻を捉える。

(忘れるわけないか、お前は…―――)











赤々と篝火が燃え立つ。

その背後に張り巡らされた幕の前で、男が一人座っていた。
頬肉が落ちたその顔は以前と比べ、げっそりと痩せ衰えており、何より生気が無い。

「何処だ、四人衆」
「既に御前に」
男の呼び掛けに応じて、四人の青年達がさっと跪く。
呼び出しておきながら、男――黄泉の双眸は虚空を見つめ、その眼線は何処かあらぬ方向を向いていた。

「状況は…?」
「…遺跡周辺に幾重もの幻惑系の術が施されています。おそらく【狐狸心中の術】及び【魔幻・此処非の術】あたりかと…。更には砦から向こうに行けないよう結界まで…。我々ならともかく幽霊軍団にはこの結界から出る事は敵わないでしょう」


鬼の国の奥地にある地下神殿。其処に封じられていた妖魔【魍魎】をせっかく解き放ったにも拘わらず、【魍魎】の部下たる幽霊軍団は遺跡周辺を彷徨っていた。
同じ場所をぐるぐると回り、別の場所へは行けず、やっと鬼の国の国境を抜けたと思えば、遺跡の神殿前に戻っている。その上、国境にある砦を襲おうとしても、何か視えない壁が国境付近を取り囲んでおり、軍団は其処から一歩も動く事が出来ない。
ある程度のチャクラを持つ黄泉と四人衆ならともかく、魂の無い人形たる幽霊軍団はこの結界を突破するほどの力を持ち合わせていない。

明らかに何者かが前以て仕掛けておいた術の仕業だろう。


「よもや巫女め…。我の復活を恐れ、予め術を施しておいたか…」
黄泉の体躯に入り込んだ【魍魎】の声が苦々しげに轟く。
主人の口から洩れる人ならざるおどろおどろしい声音を耳にした四人の青年達の背筋に寒気が奔った。姿形こそ黄泉だが、眼の前にいるこの男はもはや自分達の主人では無いのだ、と四人衆のリーダーたるクスナは人知れず沈痛な面持ちで俯く。
主人が黄泉だからこそ従っていた彼は、主の変わり果てた姿を内心嘆いていた。

「いくら我が軍団が強力な勢力を持っていても、この場から出られなければ意味が無い…」
うつろな響きを伴った声が、跪く四人衆の頭上に降りかかる。

「今より直ちに巫女の館へ向かえ…そして巫女を消せ…」
「術者ではなく、ですか?」
思わず口を挟んだクスナの進言を、黄泉は鼻で笑った。

「遺跡周辺の幻術も結界も巫女の命令によるものならば、巫女の傍に術者もいるはずだ…巫女共々、殺せ」
「「「「御意」」」」
頭を項垂れるや否や、四人衆の姿はもう黄泉の前にはいなかった。


篝火がぱちぱちと音を立てるのを視界の端に捉えつつ、黄泉は無人の軍営の中、震える右の手首を左手で握り締める。
「……急げ…」
震えが止まらぬ手をじっと見下ろしながら、黄泉は――【魍魎】は呻いた。

「この肉体(いれもの)が力尽きる前に…」
篝火に照らされ、陣幕に映し出される男の影はもはや人のものでは無かった。










チリリリ、と鈴が鳴る。
警告を告げる鈴を手に、少女は唇を噛み締めた。

また、あの夢だ。寝ても覚めても金髪の少年の姿が彼女の脳裏を駆け抜けてゆく。
瞼の裏に色濃く焼き付いた金色を視るのはこれで何度目だろう。一度も会った事が無いにも拘わらず、少女はもう彼の姿を一生分視た気がした。
彼女は今まで様々な予知夢を視たが、これほど同じ夢を何度も視る事は稀だった。

それだけ自分に深い繋がりと影響を与えるのだろう、と少女は長年の経験から悟る。
あの金色の少年が己の何に関わってくるのか。物思いにふけていた彼女は、外の異変に気づくのが遅れてしまう。
己自身の命の危機だというのに。









鬼の国の盆地の中央。

結界をなんとか抉じ開け、向かった先にある館を眼にし、四人の青年はにんまりと唇に弧を描いた。
幽霊軍団では結界を抜ける事すら出来なかったが、自分達はこうして森の外れまで来る事が可能なのだ。軍団以上の力を己は持っているのだ、と彼らは自らを自画自賛する。

朝靄の中、獰猛な野獣の如き笑みを口許に湛え、リーダーたるクスナはうっそりと眼を細めた。
視線の先、盆地の中央の館を取り巻く篝火の多さに、クスナの隣でひゅうっと口笛が吹かれる。
「あんな物々しい警備してりゃ、巫女が何処にいるかすぐバレるって」

口笛を吹いた小柄な少年――シズクが苦笑雑じりに呟く。シズクに同意し、他の二人―ギタイとセツナが頷くのを眼の端に捉えてから、クスナは改めて眼下の館を見下ろした。

高さ数メートルの高い壁に囲まれた館。周囲で幾人もの兵士達が見張りに立っている。
あの館の中に、殺すべき対象がいるのは間違いない。
「よし、抜かるな」

クスナの号令で、すぐさま館目掛けて飛び出す四人衆。
黄泉配下の四人は己の力を過信するあまり、巫女を殺すという目的をすぐにでも達する事が出来るだろうと、そう信じて疑わなかった。









館の周りを取り囲む髙い壁も物々しい警備も、四人衆の前では無意味に等しかった。

数人の兵士達が弓を構えるが、矢は飛ぶ事なく地に墜ちる。
矢を放つ寸前、四人による手裏剣の雨が兵士達を襲い、彼らは何れも矢と同じく地に伏せてしまう。
しかしながら忍びとの力量差にも怯まず、兵士達は侵入者を館へ近づけまいと刀を前に掲げた。
それを失笑に付せ、四人は群がる兵士達を瞬く間に打ち倒す。

仲間の叫び交わす声を背後に、警備の青年の一人が一目散に主人の許へ駆けていた。
眼鏡を掛けた青年――足穂(たるほ)は賊の出現により、真っ先に巫女の身を案じ、彼女の寝所がある母屋へ向かっていた。

「敵の狙いは紫苑様だ!!御寝所の守りを固めよ!」

仲間の兵士を引き連れて寝所へと続く廊下を駆ける。母屋の前を守り固める弓隊に合図を送り、足穂が寝所へ飛び込んだ直後、後ろでバキバキ、と何かが打ち壊される音が響き渡った。
その音を気にする暇も無く、足穂は寝所の奥にいるはずの少女の許目掛けて足を進める。背後で、既に準備を整えていた弓隊が母屋の前から矢を放つ気配がした。

だが次の瞬間には雷鳴の如き音が轟き、母屋の天井が崩れゆく。すぐさま飛び退いた足穂を除き、他の兵士達は落下した天井の下敷きとなった。

仲間の安否を気にするよりも前に、足穂は視線を奔らせる。立ち込める粉塵の向こう、そのまた向こうにある寝所へ向かう彼の前に、侵入者の一人が立ちはだかる。

天井を突き崩して現れた、口許を覆面で覆う青年――ギタイが冷笑を浮かべて足穂を見下ろしていた。

素早く刀を抜き払った足穂を余裕であしらうと、ギタイは寝所の奥へ眼をやった。天井を崩した際の衝撃により、所々破れた御簾の隙間から華奢な姿の少女が垣間見える。

「見つけたでありんす」
妙な言葉遣いで一層笑みを深めるギタイ目掛け、足穂は猶も刀を振り被った。
だがそれをまるで煩い蠅を払うようにギタイは容易に弾き飛ばす。手から離れた刀と共に床へ投げ出された足穂は、ギタイの傍らに何時の間にか立っていた新たな青年の姿に眼を見張った。

「その巫女の命、貰い受ける」


四人衆のリーダーたるクスナがそう宣言するや否や、彼は御簾向こうに座り込む少女に向かってクナイを投げつけた。
刀と同じく眼鏡まで弾かれた足穂は、鋭利な刃物が己の主人の胸元へ飛んでゆくのをぼやけた視界の中で見た。

「紫苑様っ!!」
一抹の願いを込めて、足穂は叫ぶ。だがその願いむなしく、少女は――紫苑はぼんやりと座り込んだまま、己の胸目掛けて突き進むクナイを眺める。
足穂の逃げてくれ、という叫びも、敵の嘲りの声も、彼女の耳には届いていないようだった。


クナイが紫苑の前の御簾を引き裂いて、そして…――――。
「紫苑様―――ッ!!」








瞬間、紫苑の瞳に、夢で幾度も視た金色が過った。

同時に、胸元まで迫っていたクナイが粉々に砕かれる。
クナイの砕片がパラパラと散りゆく中、それまで何の反応も示さなかった紫苑の眼が大きく見開かれた。
「お前は…―――」

「鬼の国の巫女――紫苑様であらせられますね」

黒地に赤い雲模様。脱ぎ捨てた黒の外套から現れた純白の羽織。胸元に光る『朱』と施された指輪の首飾り。

金色の髪を靡かせて、少年は気配も無く現れた。
紫苑が夢で視た通りの姿で。


「『暁』より馳せ参じました。うずまきナルトです―――以後、お見知りおきを」

 
 

 
後書き
お待たせしました!
序盤から映画と微妙に違います。また、前話の零尾暴走は実際にあった話でした。紫苑が夢で視たのはどうやら別みたいですね…

映画を観てない方に一応お知らせしますと、敵の四人の青年の名前はクスナ・シズク・セツナ・ギタイという名前です。あと、鬼の国の巫女は紫苑、その部下は足穂(たるほ)です。人数多すぎたら誰が誰かわからなくなりますよね、私が(←おいこら)

幽霊軍団の足止めの謎などは次回で説明します。映画編、次回もよろしくお願いします‼
 
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