| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十六話 花火が終わってその六

「実際にそう言われました」
「そうか」
「悪い人間じゃないって」
「遊び人であるだけでだな」
「ああした生き方もあるって」
 本当に言われた。
「そう言われて」
「否定はされなかったか」
「そうでした」
「ふむ、魅了があるか」
「人としての」
「そうした方だな」
「そうなんです、卑怯なことはしませんし」
 本当にだ、何時でも誰にでも。
「責任も取りますし」
「遊びの中でもだな」
「酔って暴れたりもです」
「それもないか」
「はい、全く」
 こうしたこともだ、実際に。
「ないです」
「そう聞くとやはりな」
「親父は悪人じゃないですか」
「私もそう思う」
 井上さんははっきりと答えてくれた。
「卑しいものも感じない」
「そうですか」
「実際にそうだな」
「卑しい人じゃないです」
 間違ってもだ、親父は卑しい人間じゃない。そうしたところは見たこともないし聞いたこともない。卑劣でも卑屈でも卑怯でもない。
「浮気がばれてもです」
「それでもだな」
「いつもそれを隠さないですし」
「そうなのだな」
「堂々としています」
「遊び人としてだな」
「そうです」
「それもいい、卑しい輩はだ」
 どうしてもというのだ。
「人間として尊敬出来ない」
「ですよね、絶対に」
「そうだ、そしてルールは弁えておられるな」
「借金はしませんし」
 自分のお金の中だけで遊ぶ、それが親父だ。
「それに彼氏とかいる人はです」
「相手にしないか」
「はい、絶対に」
「そうだな、伊藤博文公の遊びだな」
「あの人もあれでしたよね」
「稀代の好色漢だった」
 英雄色を好むというけれどこの人程この言葉が当てはまる人はいないのではないだろうか。その業績は素晴らしくて人間としても面白い人だけれど。
「とにかく女性の噂が絶えなかった」
「それでもですね」
「常に相手は無名の芸者さん等でだ」
「誰かのお妾さんみたいな人はですね」
「相手にしなかった」
「そうだったんですね」
「そして意外と紳士だったのだ」
 女性に対してだ。
「人間としてもててもいたのだ」
「女の人から」
「そうだったのだ」
「それでうちの親父はですね」
「伊藤公爵だな」
「あの人みたいな感じですか」
「いい遊び人だ、そしてだ」
 井上さんはさらに言った。
「粋だな」
「やっぱり親父は粋ですか」
「私から見てもな。だが」
「だが、ですね」
「私はそうした人とは遊ばない」
「そうされますか」
「私はあくまで相手は一人だ」
 井上さんらしい実に真面目な言葉だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧