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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第六十五話 夏の花火その九

「橿原市にもありまして」
「他の場所にも」
「確かにありますわ」
「万葉集で歌う場所も」
「色々と」
「いいわね、和歌で歌われる場所なんて秋田にはね」
 詩織さんは花火を観続けながら困った顔で言った。
「そんな場所ないわよ」
「確か小野小町さんが」
「あっ、あの人ね」
「確か秋田の方でしたね」
「らしいわね」
「らしい、ですか」
「実際わからないわよ」
 小野小町が秋田の人かどうかはというのだ。
「本当にどんな人かね」
「わかりませんの」
「出身地にしてもね」
「では秋田生まれでないことも」
「私も周りの人もそう思ってるけれど」
 つまり秋田の人達はというのだ。
「正直はっきりしないのよ」
「そうなのですか」
「ええ、奈良県の人かも知れないし」
「そうですの」
「それにあの人は秋田の人でも」
 それでもとだ、詩織さんはさらに言った。
「秋田を歌った歌はないわよ」
「一つもですか」
「そう、一つもね」 
 それこそというのだ。
「ないのよ」
「古今集にも」
「ないわよ、他の和歌集にもね」
「そうなんですか」
「物語にも出ないし」
 そちらにもというのだ。
「源氏とか伊勢とか」
「伊勢物語にもですか」
「主人公が東国に行くけれど」
 その主人公は在原業平ではないかと言われている、小野小町と同じく六歌仙の一人で絶世の美男子だったという。
「それでもね」
「秋田まではですか」
「行ってないわよ」
「そうなのですね」
「もうその頃秋田というか東北は異郷だったから」
「異郷ですか」
「そうだったのよ」 
 そうした国だったというのだ。
「もう日本じゃなくてね」
「確か蝦夷の」
「そうそう、悪路王とかね」
「坂上田村麻呂さんの」
「そうした場所だったから」
 和歌が歌われていた頃、つまり平安時代の頃はというのだ。
「もうね」
「物語でも出なくて」
「僻地どころかじゃなかったの」
「そうでしたか」
「今じゃ秋田小町とか言うけれど」
「昔はですか」
「そんな場所だから奈良県みたいに歴史だの和歌だのいう場所は」
 それこそという口調での言葉だった。
「夢みたいよ」
「香久山も」
「本当にね」
「そうなのですか」
「まあナマハゲがいて」
 いささか気を取り直した様にしてだった、詩織さんはまたナマハゲの話をした。 
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