真田十勇士
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巻ノ三十二 会見その八
「わしがそう造らせたからのう」
「まさに天下の堅城です」
「忍の者ですら越えられませぬ」
家臣達も言う、その堀や壁はというのだ。
「それを見ては、ですな」
「敵は堀や壁を越えようとはせぬ」
「必ず正攻法で来ますな」
「大手門から」
「そうじゃ、だからじゃ」
それでというのだ。
「大手門から来ると見ておったわ」
「そしてまさにですな」
「敵は大手門から来ました」
「では、ですな」
「大手門から攻めて来るからこそ」
「備えをしておりましたな」
「その通りじゃ、さて後はな」
徳川家の軍勢が大手門に来た、昌幸の読み通り。彼は櫓からその動きをまじまじと見つつこう言うのだった。
「策にかかるだけじゃ」
「その徳川殿の軍勢が」
「これよりですな」
「そうじゃ、どうするか」
こう言うのだった。
「敵はな」
「はい、それでは」
「ここは、ですな」
「敵がどう来るか」
「それを見ましょうぞ」
「そこから動くぞ」
確かな声だった、ここでも。
「よいな」
「はい、わかりました」
「それではですな」
「まずは大手門での戦ですな」
「大手門を守る者達に伝えよ」
昌幸の采配がここで動いた。
「適度に戦いな」
「そのうえで、ですな」
「退けとですな」
「そう伝えよ、戦いはせど」
それでもというのだ。
「ここは命の捨て時ではないぞ」
「ですな、まだ」
「今はその時ではありませぬな」
「そうじゃ、今は武勲を挙げる時じゃ」
死ぬのではなく、というのだ。
「命を無駄にするなと伝えよ」
「そして、ですな」
「二の丸を守る源三郎様、源四郎様にですか」
「お伝えしますか」
「そうじゃ、敵が二の丸に着いた時に」
まさにその時にというのだ。
「仕掛けよとな」
「わかりました」
「では我等も」
「二の丸に行きます」
「わしも支度は済んでおる」
他ならぬ昌幸自身もというのだ。
「よいな」
「はい、その時が来れば」
「皆一丸となり攻めましょうぞ」
「そして勝ちましょうぞ」
「うむ、その時は近いぞ」
城を攻められているがだ、昌幸は勝利を確信していた。そのうえで大手門に迫ってきている徳川家の軍勢を見ていた。
大手門の上と左右の櫓からだ、次から次にだった。
鉄砲と弓矢、それに石が徳川家の軍勢に襲い掛かる。だが鳥居は顔のすぐ横を石や矢がかすめても言っていた。
「怯むな!一気に進め!」
「まずはですな」
「大手門をですな」
「そうじゃ、門を破れ」
兵達に言う。
「丸太を使え」
「はい、既にです」
「その用意は出来ています」
見れば丸太を何本も持って来ていた、それを足軽達が数人がかりで横にして抱えて持っている。
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