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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第11話 誘い

 
前書き
誤字報告がありましたので修正しました

修正箇所
第7話と第8話

結構、ボケている作者なので誤字、脱字がありましたドンドン報告してください
確認して修正に反映したいと思います
 

 
写輪眼……特定の一族にしか発現しない特殊な瞳術の一つ。
瞳の中に対称的な幾何学模様を有し、その眼を宿した者は、忍術、幻術、体術などを一瞬で見切り、術や動きを瞬時にコピーするといった芸当が可能となる。
また、その眼を直接見たものには「幻術」や「催眠」を掛けられることがあり、扱いには注意が必要な代物だ。

レベルアッパーを使った犯罪に初めて巻き込まれたサソリは、相手である不良の男の予想外の能力と自身の不調により一時追い詰められた。
しかし、サソリの眼に目覚めた「写輪眼」の能力により勝利を収めることができた。

サソリのいた忍世界にその名を轟かす瞳術使いの一族「うちは」
その「うちは」が忍世界に広く伝わっているのは、この「写輪眼」によるところが大きい。
忍の世界を創設したとされる「六道仙人」の血を受け継ぎ、強力な術や厄介な幻術を得意とする一族の存在に何度も世界のパワーバランスが崩されたことか……

もちろん、サソリは「うちは一族」ではない。
家族関係や親戚筋を思い返してみるが、うちは一族に繋がるような者はいなかった。
サソリがかつて所属していた組織「暁」のメンバーに写輪眼を使う奴がいたのを思い出す。
「うちはイタチ」……その眼に映る紅き紋様を直接見たものの精神を崩壊させることが可能でメンバーの中でも異質な存在だったと記憶している。
一度、手合わせをしたことがあったが、写輪眼の恐るべき殺傷能力を感じた。
特殊な空間に飛ばされて、磔にされた挙句多数のイタチに刀で貫かれる。
現実では、一瞬にも満たない時間であったが……永遠のように感じた。
頭をこびりついて離れない痛みの恐怖が自分を人傀儡に改造する要因の一つになったと思う。
奴は、かつての生まれであるうちは一族を全滅させた過去があった。
意図や策略は一切不明だが。
オレが考えるには、写輪眼の秘密を外部に漏らさないため。
写輪眼は遺伝子により、一部の者に現れる特異体質だ。
それは、死体にも痕跡は残る。
うちは一族の死体が一体でも手に入れば、写輪眼の能力を丸ごと奪うことも可能となる。
しかし、イタチはそれを許さなかったのだろう。
忍にとって家族は弱みになる。
普段冷静に事を運ぶ忍でさえも、身内を人質に取られて自滅した者は多い。
その弱みを消すことは非常に合理的な判断だ。

褒めることをあまりしない、サソリはこのことに関してイタチを称賛した。
忍にとって何が大切か?
それは相手に勝ち、生き残ることだ。
相手に一切弱みを見せず、葬り去る、これが理想。
家族や身内が邪魔なら消す。
将来的に巨大な敵になりうる者ならば、たとえ年端のいかぬ子どもであろうとも手を掛ける。
人間の身体が弱いのなら、解消させる。
人傀儡にだって成ってやる。

予期せず目覚めたうちは秘伝「写輪眼」の能力。
サソリはどの戦闘よりも泥臭く、血生臭い戦闘をしたことを悔しがった。
自分のプライドが許さなかった。
傀儡があれば、もっとスマートに収めることができただろうか?
一人で考えてしまえば、戦闘の反省点ばかりが頭を過ぎる。
あのときもっと、ああしていれば……ケガが少なかったかもしれない。
もっと油断をしなければ……こんな惨めな姿をさらすことはなかっただろう。
なぜ、少々難しい話と反省点を反復させているのかと言うと……

「ほれ、口開けなさいよ」
まさに今、その弱みを見せてしまっていることであった。
サソリは病室のベッドで横になり、患部を中心に覆うように包帯がグルグルと巻かれている状態で御坂からつまようじに刺した林檎を口元へと持ってこられている。
「ぐうぅぅぅ、屈辱だ……」
悔しそうに歯ぎしりをする。
「動けないんでしょ?ほらほら」
「くそ!」
諦めたように少し口を開けて、林檎を一齧りした。
「全く、とんでもない無茶するものね。動けなくなるまで喧嘩してくるなんて」
「ちっ!アイツから仕掛けてきたんだよ」
シャリシャリと食べ始める。舌打ちの頻度がいつもより二割増しだ。
「それにしてもその眼、どうしたの?カラコンは身体に悪いみたいよ」
「何だよカラコンって」
注 カラーコンタクトレンズの略称です。
サソリの包帯の隙間から紅色の巴紋をした眼が片方だけ出されている。
御坂は横になっているサソリの眼を上から覗きこもうと動いた。
サソリは咄嗟に目を閉じて、御坂を視界に入れないように配慮する。
「写輪眼はあまり見ない方がいいぞ」
「しゃりんがん?」
「ある一族に伝わる秘伝の術かな……なんで開眼したか分からんが」
サソリはゆっくりと腕を眼の部分に持っていくが力なく掴んでずり落とすように包帯で写輪眼を覆い隠した。
「直接見たヤツの精神を崩壊するようなことを仕掛けてくるやつもいるし」
「そんなに危ないの!?」

「それにしてもアイツ……本の角っこで殴りやがって」
サソリは未だにヒリヒリする頭を枕に擦りつけた。
レベルアッパーを使用した事件であるが、表向きにはただの学生による暴行事件として処理されている。
まだ正式に幻想御手(レベルアッパー)の存在を認めていないので学園都市側も通常のありきたりな事件としか考えていなのであろう。
意識を失ったサソリは、通報を受け、運ばれた病院で担当看護師の知るところとなり、少々きつめに包帯を巻かれた後にサソリの頭をチョップするようにカルテをまとめた分厚いファイルの角で殴られた。
「当たり前よ、無許可で外出した挙句血だらけで運ばれてくるんだもの」
サソリに守られた白井も目立った外傷はなく、ジャッジメントとして今回の事件の処理にあたることになった。
「その……ありがとうね」
「あ?」
「黒子のこと守ってくれたんでしょ……結構無茶するヤツだからいつも心配していたのよ」
「確かに無茶なことをしていたな」
サソリの身を護るために、我が身を盾にサソリに覆いかぶさったことを思い出す。
結果としてサソリが引きずり下ろして、白井が傷つかないで済んだが、サソリもそれは分かった。
「そもそも、どうしてあんな場所に行ったの?」
御坂が少しだけ疑問に思ったことを口に出した。

白井や佐天さんが襲われているということを知り、駆け付けた?
でも、そんな正義の味方をするような性格だったかしら?

「んー、ちょっとチャクラ反応があったからな」
「チャクラって、忍者の術みたいな?」
「そう、もしかしたら見知った忍がいるかと思ったんだが」
見知った忍……!?
御坂も心当たりを探ってみる。
御坂も知っていて、サソリが探している忍者と云えば……
おろちまるちゃん!
御坂はそっと林檎が乗せられた皿をテーブルに置くと、感動に打ち震える。

そうだった!
コイツ、こんな天邪鬼みたいな性格をしているけど
一途で純情だったんだわ
たった少しだけ感じた彼女の反応に駆け付けるなんて、さすがよ!
世の彼氏の鏡よ!

「結局、分からずじまいだが……って何で泣いてんだよ」
御坂が涙を流して感動している仕草を見せた。
「いやー、いい話だなぁっと思ってねえ。久しぶりにお姉さんの心は温かくなったわ」
ハンカチで感動の涙をふく。
「その調子で自分の信じた道を歩みなさい!」
と親指を出して、サソリに向ける。
御坂の脳内にお花畑でスキップをする「サソリ」と「おろちまるちゃん」の姿が浮かんでいる。
幸せになるのよー!
「?」
サソリは疑問符を呈し、少しだけゾクッと身震いした。
1人で素晴らしい純情の恋を想像している御坂を片目に収めながら、サソリは包帯からわずかに透過してくる病院の天井を仰いだ。
「ん!?」
サソリの視界に何か「光る線」のようなものが見えた気がした。
サソリは包帯を取って、片目の写輪眼で光る線の出どころを探すように線をなぞる。
「どうしたの?」
「何か天井にあるな」
御坂もサソリと同じように天井を見るが、あるのは照明とカーテンレールだけだ。
「別に変わったところはないわよ」
「光る線がないか?」
「……見えないわ」
「……ということは写輪眼にしか見えてねえんだな。よっと」
とサソリは少しだけ動く腕を上げて手すりにつかまって、身体を起き上がらせようとするが、まだチャクラが戻っていないらしく力なく握るだけだった。
「おい……オレを移動させろ」
「大丈夫なの?」
「ちょっと確かめたいことがある。早くしろ」
「?」
もう一度天井を見てみるが、ごくごく平凡な病院の一室だ。

サソリは先日に追い詰められた不良との戦闘を思い出していた。
確かに幻術を使っていたが、それ以上に頭から光る線のようなものがあり建物の外にまで伸びていたことを昨日の記憶から掘り出した。

もしかしたら、レベルアッパーという奴の影響か……
そんな仮定を立ててみる。
御坂は、車椅子を持ち出してくるとサソリを椅子に乗せて、移動させた。
病室を出るために御坂が引き戸を開けて廊下に出ると……
「あら!?どちらへお出かけですかね。サソリさんと御坂さん」
サソリの担当看護師だ。
意識不明の重体で運ばれて来たサソリには、外出許可が撤回されており、許可届を出しても受理されることはなくなった。
「え、えっと……」
御坂がしどろもどろで看護師に対しての言い訳を考える。
「さ、サソリが急にトイレに行きたいって言って……こんな身体だから補助が必要かなあって」
咄嗟についた嘘だ。
「それでしたら、ナースコールを押してくれれば専門のスタッフが対応しますよ。常盤台のしかも女性の方に頼まなくてもよろしいです」
ぐぬぬぬ
確かにこのままでは、変な二人組としか映らないだろうな。
笑顔で看護師が対応しているが、明らかに殺気のこもった言葉と端々からほとばしる威圧感に御坂は尻込みした。
オーラだけで炎に包まれた巨人が見える。
「……はぁ」
サソリは大義そうにため息をつくと
「痛たたたた、朝から目が痛いぜ」と明らかに棒読み感満載のセリフを言い出して、眼を手で覆った。
「全く!安静にしていれば事は済みますのに、さ、見せてくださいよ」
まあ、目の前で痛がっている患者がいたら確認しないわけにはいかないので看護師はサソリの包帯を取っていく、サソリの紅色に光る巴紋が姿を現した。

写輪眼!

「あ……」
チャクラの込められた瞳が看護師の眼球から直接脳内へと流れていき、看護師の頭の中で幻が流れていく。
ケガがすっかりなくなり、元気に笑顔を見せているサソリが幻として浮かんだ。
「はい……そのくらいのケガなら大丈夫ですね……あとは私でやっておきますから……外出を許可します」
という言葉を引きずりだした。
サソリはニヤッと微笑んだ。包帯で軽く眼を隠すと御坂に合図を出して連れていけと催促する。
眼は少しだけ濁った気がした看護師を不思議そうに見上げながら御坂が訊く。
「何したの?」
「ちょっとな。いやー便利な眼を手に入れたもんだぜ」
少しだけ機嫌が良くなった。
「それにしても……お前、下の世話はまだいいや」
後ろのハンドルに手を掛けた御坂に向かって、真顔で少々こっ恥ずかしいことを言い出した。
「ぶっ!!アンタねー、そういうのは聞き流すのが常識でしょ!」
今回はケガと黒子に免じて叩くのは勘弁してやるわ!
「そうか、安心した」

御坂に車椅子を押してもらいながら、サソリは時折包帯から目を外して、写輪眼で場所を確認していく。
「そこ!そこの病室だ」
サソリが御坂に指示をだした。
「ここ?入っていいのかしら」
御坂が手を掛けて開けてみると、すんなりと開く。
そこの病室にはレベルアッパーで倒れた意識不明が今でも横たわっている。
サソリの写輪眼には、頭から伸びている光る線を捉えていく。
「ここは何だ?」
「ああー、ここ前に入ったところだわ!確かレベルアッパー使用者かもしれない人たちよ」
「そうか、やはりな」
サソリは、御坂を窓際まで誘導する。
数本の光る線が窓の外に走っている。サソリは窓から顔を出して、学園都市を眺めた。
「もしかしたら、この眼は例のレベルアッパーを使用したヤツが見分けることができるかもしれねえな」
「えっ!?うそ」
「ソイツらからどうも光の線みたいなもんが伸びている、まだ断定は出来んが」
レベルアッパーを使った者を識別できる。
それができるのなら、事件収束も夢ではない。
「そ、それで線はどのくらい?」
「かなりいるな」
サソリは病院の上を見る、おびただしい数の光る糸が束になって上空へと一本の巨大な線となっているのが見えた。
クモの巣のように学園都市の地から天へと伸びる光る線。
フワフワと空中をたなびく様は、安定していない無能力者の精神を象徴するように見えた。
どこか自分だけの居場所を探し求めるかのように天へと細い線を引いている。

******

トラブルに巻き込まれた佐天は、アンチスキルへと連絡したあとに現場から逃げるように歩いていた。
きっと、あのまま居たのでは事件について詳しく聴取を受けるだけだろう。
一目を避けて、肩を落とす。
「サソリは病院に運ばれたけど、白井さんは無事……良かった」
助けに入った白井も心配であるが、病院に運ばれたサソリが気になった。
対応した救急隊員からの「命に別状がない」の一言を聞いて安堵した。
自分独りだけでは、きっとどうしようもできなかった……

サソリが言った最後の言葉を思い出す。
「お前が気づいていないだけじゃねーの?」
気づいていない?
あんなに勉強してネットで「能力」について調べたり、学校で検査もしたりしているのに見つからない自分の能力って何なの?
知っている人だけが上にいく
知らない人はずっと下にいる
この世は、平等ではない気がした。

今回の一件でマジマジと現実を突きつけられる。
能力者の白井さん
非凡さを見せる忍者のサソリ
自分と同じ人間なのにこの差って何だろう?

サソリが言った「気づいていない」という言葉……
あたしはいつ気が付くの?
このまま、ズルズルと学生生活を終えて、歳をとっておばあちゃんになっても自分の能力に気づけなかったら……
そう考えると怖くなった。
佐天はそっと音楽プレイヤーを力なく握った。

これを聞けば、あんなに焦がれていた能力が手に入る……
甘い悪魔のささやきが佐天の脳内に響いた。

使いなさい
このまま惨めに「無能力者」として生きるなら
一回くらい、能力者になっておいた方がいいんじゃない

で、でも安全か分からないし
いけない事だし……

構わないよ
学園都市は、あなたに何をしてくれた?
能力がないことで不利益を被ったのは誰?
使えば、補習を受けなくて良くなるよ
毎日、誰かと比べられることもないよ

私には何もない。
生まれた時からそれは決まっているのだろうか。
幾度となく体験したその気持ち。
もう嫌だと思った。
何が違うのかはっきり知りたいと思った。
能力者と無能力者
たった一文字の違いしか文面上でしか変わりしないのに。
ただの打ち消し働きをするモノが前についただけなのに……決して越えられない壁がある。

さあ、今度は君が強者になるんだよ
この世は、どう形を変えても「弱肉強食」
強い者だけが楽しく生きられる世界なんだよ

そこに佐天の同校の友人が歩いている佐天を見つけて声を掛けた。
「ルイコ――おひさ!終業式以来」
佐天は、自分の心の闇に気づかれないように作った笑顔を向けて声に応える。
「アケミ!むーちゃん、マコチンも」
「一人で何してんの?買い物?」
「う…うん、そんなとこ……アケミ達はプール?」
佐天は、三人が手に持っている水着バッグを見つけると注意をそらすように質問した。
自分に注意が向かないように……
しかし、話して楽になりたい衝動にも駆られる。
「それがスンゲ―混んでてさあ、全然泳げんかったんよ」
「できれば海とか行きたいけど、私ら全員補習あるしねー。泊りでどこにも行けん」
「あれさ――勉強の補習はわかるけど、能力の補習って納得いかないよねー。あんなん才能じゃん?」
「あ、でもさ聞いた?『幻想御手(レベルアッパー)』っての」
それに少し反応を佐天がした。何度この言葉に後ろめたさを感じたことか。
「なあにソレ?」
「あ、知ってるー!能力が上がるとかいうのでしょ」
「そうそう、どっかのサイトからダウンロードできるらしいんだけど、風紀委員(ジャッジメント)がそこを封鎖しちゃったんだって」
「えー、なんでそんなことすんのよぉ」
「今、すごい高値で取引されてるらしいよ?」
「金なんかねーよー」
「あっ、あのさ!」

そうそう、独りで使うのは怖いよね
どんなことになるかなんてわからないし……
この三人と一緒に使おうよ
良い友達を持ったね

「あたし…それ、持ってるんだけど……」
喉が異様に乾いた気がした。心臓が黒くはっきりと早く拍動するのが分かる。
たぶん、罪悪感から酷い表情をしていたと思う
でも言ってしまった。
取り返せない言葉を並べてしまった。

佐天を含めた四人は、ある公園に入り、佐天の持っていたレベルアッパーで能力の底上げをして、自分の能力の確認をしていた。
佐天の手に触れた部分は急激に温度が下がり、触れたところを中心に放射状に氷が発生していく。
「の、能力だ」
佐天がベンチに張った氷を信じられないものでも見るように震えながら歓喜した。
「すごい、ルイコは氷使い(アイスマスター)か……すごいな」
他の友人は、念力でモノを持ち上げ、自分の能力やレベルアッパーの凄さを再認識する。

御坂や白井の能力者に比べれば、些細な氷が張れるくらいの力だ。しかし、本人にとっては大きな一歩である。
少し意識を傾けるだけで自分の周囲が冷たくなる。
空気中の水分が冷やされて、氷の小さな粒が数個できる。
一粒、空へと投げた。
興奮と感動で頭は冷静でなくなった。
使えばどうなるのか考えなかった。
想像しなかった。
今、この時だけでも実感が欲しく、楽しみたかった。

ありがとう
これで君の中に入れるよ
友達まで紹介してくれるなんて、君は良い人なんだね
お礼に、もう悩む必要はなくなるからね
後悔しても遅いよ
 
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