八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第六十五話 夏の花火その六
「相当に怖いな」
「そうですよね」
「子供が観たら泣くな」
「実際に泣く子がいます」
あの泣く子はいねえか、でだ。
「迫力がありますから」
「あり過ぎる」
これが井上さんの返事だった。
「この目で見たことはないが」
「それでもですね」
「テレビで観るとだ」
それで観た限りはというのだ。
「恐ろしいな」
「実際観ますと」
「怖いか」
「私一回この目で観ました」
「地元だからか」
「はい、ナマハゲは秋田の男鹿市とかのものですが」
「そこに行ったのだな」
井上さんも話を聞きつつ応える。
「そして自分の目で観たか」
「そうしましたが」
「怖かったか」
「中学生の頃観ましたけれど」
子供の頃ではなく、というのだ。
「実際泣きそうになりました」
「中学生でもか」
「お面が怖いんです」
あの赤鬼のお面、それがというのだ。
「しかも大声で叫んで暴れるみたいに来ますから」
「怖いか」
「いきなり出て来たらそれこそ」
「泣く程までか」
「怖いです」
かなり真顔でだ、詩織さんは井上さんに話した。
「観られる時は覚悟して下さい」
「ふむ、そうなのだな」
「そうしたものは奈良にはないですわね」
円香さんは詩織さんの話をここまで聞いて述べた。
「妖怪はいますが」
「妖怪?」
「あのマスコットですわ」
困った顔での言葉だった。
「公認のゆるキャラですが」
「あの鹿の角が生えた」
「はい、あのゆるキャラです」
「あれ居着いたわね」
詩織さんも微妙な顔で言う。
「奈良県に」
「遷都一三〇〇年から」
「そうなったわね」
「そうならなくてよかったのですが」
それでもというのだ。
「もう完全に」
「あれはね」
詩織さんは円香さんに微妙な顔のまま応えた。
「ナマハゲよりもね」
「怖いですわね」
「それこそ夜に目の前に出て来たら」
詩織さんは言った。
「仰天して気絶するかも」
「はい、本当に」
「というか何であのキャラなの?」
「知事さんが決められたのですが」
「もっと他にもいるでしょうに」
ここでだ、詩織さんはこうも言った。
「例え出来レースでも何で決めても」
「私もそう思いますわ」
「幾ら何でもね」
「デザインが悪過ぎますわ」
「妖怪よね」
「どう観ましても」
「そうよね、あれはないわ」
詩織さんはしみじみとして言った。
「私最初見た時すぐに何この可愛くないマスコットって思ったから」
「私もですわ」
「他にも色々あるのにね」
「あれが公認になりましたの」
奈良県のそれにというのだ。
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