FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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星霜の雫
前書き
大舞踊演舞直後にスッピンオフでストーリーがありましたが、『FAIRYGIRLS』でのストーリーなのでやりません。シリル絡めませんので。
ただあれ読んでて一つオリジナルのストーリーが思い付きましたが、どのタイミングでやればいいかが迷いどころですね。
冥府の門の前か蛇姫の鱗加入時か。ストーリー自体はほぼ出来上がってるからどちらでもいいんですけどね・・・オリジナルをしたことがないからさっぱりわからん(笑)
お城でのパーティーの次の日、俺たちはギルドへと帰ることになったのだが・・・
「美しいわ」
「あの・・・えっと・・・」
あのパーティーの後、いつものバーで二次会と称したどんちゃん騒ぎをしていると、そこにカナさんとお酒を飲みに来たバッカスさんを筆頭とした四つ首の仔犬の皆さんが現れ、そのすぐ後に、ルーシィさん救出に向かった際にウェンディたちが戦った王国最強の処刑人とされている餓狼騎士団さんが謝罪にやってきたのだが・・・
「や!!やめてくださいコスモスさん!!」
俺は今、その処刑人のうちの一人、薄い桃色の髪をした女の人に詰め寄られている。何か話があるということでウェンディとシャルル、そしてセシリーが彼女の隣にいる黒髪の人・・・カミカさんに呼ばれていたのだが、桃髪のコスモスさんが俺を見るや「この子も一緒に」などと言い出して拉致されてしまった。
正直何をされるのかと心配していたが、詰め寄ってくるだけで特に何かが起きるわけでもなく、たった今ウェンディに救出されて事なきを得た。
「コスモス。あんまり変なことしないようにね」
「あらごめんなさい。あまりに美しかったからついね」
カミカさんに注意され、コスモスさんが悪びれる様子もなくそういう。
「それで・・・一体何のお話ですか?」
元々はウェンディが二人から何か話があるとのことで呼び出されたのだが、コスモスさんが俺やウェンディをじっと見つめていたり詰め寄ってきていたりして全く話が進んでいない。なので多少無理矢理ではあるが、話を戻そうと思いそう声をかけた。
「あら、忘れていたわ」
「おい!!」
すると、もはや何用で俺たちを呼び出したのか完全に頭から抜け落ちていたコスモスさん。それに対してセシリーが怒ったような声でそういう。
「この前はごめんなさいね。あなたたちのこと、勘違いしていたみたいで」
「私たちも命令ではあったけど、こちらの勘違いであなたたちを危険な目に合わせてしまったから」
今度は申し訳なさそうに二人が謝罪する。
「いえ。私たちも忍び込むようなことしてしまいましたし・・・」
「お互い様って奴ですよ」
それに対して俺たちは、こちらにも非があるのだからと頭を上げるようにいう。その後ろでシャルルが何か文句を言っていたけど、セシリーがそれを宥めていた。
「謝罪の品・・・って言い方はおかしいかもしれないけど、私たちから一つ贈り物を」
「こっちよ」
言われるがままに二人の後を付いていく。しばらく歩くと、目の前に馬車が見えてきた。
「街まで戻るための馬車。まだ予約してないでしょ?」
「金額は全部王国持ち・・・ってまでできなかったけど、通常料金より割引できるようにお願いしておいたわ」
それを聞いた俺とウェンディの反応は真っ二つに別れた。片方はキラキラと可愛らしい笑顔になり、もう片方はこの世の終わりのような、絶望にうちひしがれたような顔をしている。
「あら?どうしたの?」
言うまでもなく、絶望に蝕まれているのは俺なのだが、なぜそんな表情をしているのかわからないカミカさんが俺の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫よ。この子、乗り物酔いするだけだから」
「用意してくれてありがとうね~!!」
シャルルが事情を説明し、セシリーがまんべんの笑みでお礼を述べる。
「乗り物酔いするなら私がもらってあげるけd」
「いえ!!結構です!!」
「ありがとうございます!!ありがたく使わせてもらいますね」
コスモスさんが妙な提案をしてきたので大急ぎでその意見を拒否。ウェンディと一緒にペコペコと頭を下げてその馬車をお借りすることにした。
まぁ格安で乗れる馬車を見つけてくれたのは本当にありがたい。ギルドは財政難ですからね。ただ、俺とナツさんはきっと地獄を見ることになるのだと考えると、無意識に溜め息が出た・・・
「「皆さ~ん!!」」
俺たちがクロッカスに来てからずっと泊まっていたハニーボーンの前に到着する。中ではナツさんたちが帰るための準備をしているはずなので、外から皆さんを大きな声で呼ぶ。
「帰りの馬車、確保して来ました」
「しかも、格安料金よ」
ウェンディとシャルルが出入り口からこちらにやって来たエルザさんたちに馬車を見せながらそう言う。その馬車を見た彼女たちは、興味津々といった様子でそれを見ている。
「ずいぶん立派なものじゃないか」
「餓狼騎士団の人たちが用意してくれたの~!!」
「カミカさんとコスモスさんって人が」
馬も美しく手入れがされており、乗るところもきれいにされているものだから、少々困惑していたエルザさん。ただ、俺たちから事情を聞くとすぐに納得してくれた。
「・・・」
すると、帰りの交通手段を手に入れたにも関わらず、顔面蒼白の人が一人。まぁ、その気持ちは俺にしかわからないんだけど。
「それ・・・乗るのか?」
「ナツには地獄の旅路ね」
「大丈夫!!シリルも一緒だから」
「「それは大丈夫とは言わねぇ!!」」
ハッピーがナツさんに対して何のフォローにもならないことを言うので思わず二人で突っ込んでしまう。
「待てよ。シリルとウェンディに酔い止めの魔法をかけてもらえばいいのか!!」
俺の名前が出たからなのか、急にトロイアのことを思い出したナツさん。しかし、その言葉が聞こえたウェンディは、申し訳なさそうに肩を落とす。
「それが・・・すみません・・・」
「え?」
「この数日の魔力の消耗が激しくて、まだ回復するまで時間がかかりそうなんです」
「お・・・おう・・・気にすんな・・・」
涙ながらに俺たちに死刑を伝えるウェンディ。それを聞いたナツさんは、ショックで真っ白になっている。
「シリルは!?お前もまだなのか!?」
だが、どうしても諦めきれないナツさんは最後の望みである俺に迫ってくる。
「ごめんなさい・・・一緒に苦しみましょう・・・」
「そんな!?」
俺はある程度は魔力が回復してはいる。ただ、トロイアは自分にかけることができないから、ナツさんだけ助かって俺が苦しむなんて納得できない。旅は道連れっていうし、申し訳ないけどナツさんにも苦しんでもらいます。
「情けねぇなナツ。歩きで帰れ歩きで」
「気の持ちようだぞ、ナツ」
「人に頼ってばかりじゃなくて、自分でなんとかしたら?」
「そうそ~!!」
「っ!!言われなくてもやってやらぁ!!」
グレイさんとエルザさん、そしてシャルルとセシリーにそう言われ、カッとなったナツさんはできもしないのに燃えている。その後、馬車に乗り込んだ俺たちは・・・
「・・・で、結局こうなんのか」
「心の鍛練が足らんのだ」
吐き気と戦いながらギルドへと帰ることになった。その際ルーシィさんがナツさんの背中を擦り、ウェンディが俺の背中を軽く叩いて少しでも吐き気を何とかしようとしてくれていたが、結局、あまり変化もなく、薄れる意識の中、帰路へとついたのだった。
カミューニside
「ウル・・・見つからないね」
「あぁ」
ありとあらゆる建物が壊れ、残骸とかしているクロッカス。今俺たちはその中を仲間であるウルティアを探すために歩き回っている。
「ケガしてなきゃいいけど」
「ケガは時でも治せんようだからな」
「まぁ、あいつならなんとかしそうだけどな」
時のアークは人の時間を操ることができない。ゆえに傷の時間を戻して完治させることもできねぇんだ。だから仮にあいつがケガをしてたら、最悪の事態になっていることだって考えられる。
「クソッ・・・目があればすぐにでも探せんのに・・・」
俺が滅竜魔法を操っていた頃、その魔水晶のおかげでありとあらゆるものを見通す目を持っていた。だが、今は本来の持ち主であるシリルにやっちまったから、その能力もなくなっちまったんだよなぁ。
「扉を壊して、時を修復したと聞いたのだが・・・」
未来から来たローグと過去から来たドラゴン。未来から来たルーシィはどうなったかは知らねぇけど、それらは元の時代へと返っていった。それなのに、俺たちの記憶やら壊された街やらはそのままになっている。本当なら、すべてがなかったことにされるはずなのに・・・
「記憶・・・」
戦っている最中に見えた未来の映像・・・俺はそれを思い出し、嫌な感じを拭いきれない。
「なぁ・・・」
「ん?」
「どうしたの?」
「・・・いや、やっぱなんでもねぇ」
俺は出かけた言葉を飲み込む。もしかしたら・・・あの映像はウルティアの力なんじゃねぇかと思った・・・けど、それを聞いたらメルディとジェラールがどんな顔をするか容易に想像できた。だから、言うのをやめた。
すると、後ろから何者かの足音が聞こえてくる。
「おめぇ・・・」
「ドランバルト」
そこにいたのは評議院の一員、ドランバルトだった。
シリルside
「うお・・・まだクラクラすんぞ・・・」
「お・・・同じく・・・」
馬車でクロッカスを出てから数時間後、俺たちは一度緑が生い茂る草原で休息を取ることにした。
「だらしねぇ奴らだな」
「しょうがねぇだろ。ガタゴトするのが嫌なんだよ」
「足場悪いもんねぇ」
大きな岩の上に寝転がるナツさん。その岩に寄りかかっているグレイさんと空を見上げながら他愛もない会話をしている。
「しばらく耐えるしかないわねぇ」
「しばらくってどのくらいかな?」
「わかんない~」
お花を使って頭に被る輪っかを作っているルーシィさんがそう言い、草のベッドに寝転がっている俺のセシリーが言葉を交わす。
「半日もしたら私も魔力が戻ると思うから。それまでは我慢してね」
「は~い」
俺に膝枕しつつルーシィさんと同じように花飾りを作っているウェンディがそう言う。それを聞いた俺とナツさんは、ようやくこの辛い時間から逃れることができるのだと思い、嬉しくなった。
「ねぇナツぅ。帰ったら何する?」
「そうだなぁ。面白ぇ仕事ガンガンやりてぇなぁ」
「オイラはお魚釣りに行きたいなぁ」
帰ったら何をするかの話をしているナツさんとハッピー。大魔闘演武で無事に優勝したし、帰ったら依頼もいっぱい来てるだろうから、それはすごく楽しみだなぁ。
「私も、皆さんと一緒にどんどんお仕事こなして行きたいなぁ」
ウェンディもナツさんと同じように、たくさんクエストを達成していきたいとのことだ。よく考えたらここ
三ヶ月、全く仕事してないことになってるんだもんなぁ。そろそろ家賃とか考えると本当に仕事しないとヤバイかも・・・
「シリルは?」
ウェンディの膝に頭を乗っけている格好の俺。彼女はそのまま下を向くようにして俺の方を向いて質問する。
「俺もいっぱい仕事こなしていきたいなぁ。それで今よりずっと強くなって、レオンに勝つんだ」
大魔闘演武の時は運良く・・・というか、皆さんの手助けのおかげで勝ちを拾った形になった。それに、レオンは連戦で俺は最終日はまともな試合はあの一試合だけ。すべて俺有利な状況だったのにあの劣勢感・・・やっぱり悔しい。だから、たくさん仕事をこなして成長し、できることなら次は彼に真っ向勝負で勝ちたい。そのためにはたくさん難しい仕事をこなしていかないといけないだろうから、頑張んないといけないなぁ。
「ルーシィさんは?」
「あたしは、大魔闘演武で思い付いたネタがあるから、久しぶりに小説書こうかなぁ」
「わぁ!!どんな話なんですか??」
「う~ん。まだ内緒」
大魔闘演武はたくさんのことがあったし、小説家希望のルーシィさんからすればネタの宝庫だったんだろうなぁ。どんな話を書くのか、ちょっとだけ気になる。
「あれ?」
「ん?」
俺たちが帰った後の話をしていると、一人だけその輪に入ろうとしない人がいることに気付く。
「グレイさん?」
「どうしたのかな?」
みんなから少し離れたところで、どこか遠くを見ているグレイさん。それが気になった俺とウェンディは、彼の元へと近づいていく。
「ん?」
俺たちが近づいてくるのを感じたグレイさんが、こちらに振り返る。胸に手を当てて何か考えてたみたいだけど・・・どうしたのかな?
「どうかしたんですか?」
「皆さん、帰ったら何するかって盛り上がってますよ」
「あぁ」
俺たちが話しかけると、どこか上の空といった感じのグレイさん。彼は何かが引っ掛かっているのか、また左胸の辺りを押さえている。
「調子良くないんですか?」
「ケガしたとかですか?」
「いや・・・そう言う訳じゃねぇんだけど・・・」
珍しくはっきりしない・・・歯切れの悪いグレイさんを見て、俺たちは首をかしげる。すると彼は急に真剣な表情になり、俺たちに話を振る。
「ドラゴンどもと戦ってた時、おかしな感じなかったか?」
「未来の映像が見えたような・・・」
「感じたような・・・それのことですか?」
俺たちを守ろうとしてカミューニさんが殺されてしまう映像。俺にはそれが見えた。あれがなんだったのかはわからないけど、違和感を感じたのは紛れもない事実だ。
「俺さぁ・・・ここ、撃たれたような・・・自分がいっぺん死んじまったような・・・変な感じがずっと抜けねぇんだ」
胸の前に手を置いてそういうグレイさん。俺たちはそれがどういうことなのか、いまいちわからずにいる。
「うまく言えねぇけど、この感じ、前にもあってさ」
「「え!?」」
前にも似たようなことがあった?どういうことなんだろう。
「そういや、お前らにはまだ話してなかったかな」
それはまだグレイさんが子供の頃の話。デリオラというゼレフ書の悪魔が、彼の故郷を襲った。家族は殺され、グレイさんも死にかけたらしい。その時に助けてくれたのが、魔女の罪のウルティアさんの母であり、リオンさんと同じ氷の造形魔法を彼に伝授した師匠、ウルさんだったそうだ。
ウルさんに命を助けられたその時と、今の感覚が似ているらしい。
「根拠があるわけじゃない。ただ似てるって思ったんだ。予知のような、自分が死ぬのを見たあの時と・・・うん。暖かいって感じたんた」
「暖かい?」
「それって・・・」
どういうことなのか、わからずに聞いてみようとする。しかし、彼は突然小さく笑うと、いつも通りの優しい眼差しでこちらを振り返る。
「悪いな。わけわかんない話して」
「いえ」
「そんなことないですよ」
もしかしたら・・・何かがグレイさんやカミューニさんを助けてくれたってことなのかな?それで、以前にも誰かに助けられて経験があるグレイさんが、 似ているって感じたのかもしれない。
「シリル~!!ウェンディ!!そろそろ出発するよ~!!」
俺たちがグレイさんの過去の話を教えてもらっていると、後ろからセシリーが呼んでいるのが聞こえてくる。
「わかった!!」
「すぐいくね!!」
俺とウェンディは手をあげて返事をしたあと、またどこかに意識が向いているグレイさんの手を掴む。
「いきましょ、グレイさん」
「皆さんが待ってますから」
「お・・・おう」
子供が親を無理矢理つれ回すようにしてグレイさんを馬車の方へと連れていく。その間もグレイさんは何か引っ掛かりを覚えているようだったけど、馬車に乗る頃には、そのこともすっかり忘れて、いつも通りナツさんと絡みながら乗り込んでいた。
カミューニside
「冥府の門・・・タルタロス」
「六魔と悪魔の心臓に並ぶバラム同盟の一角か」
ドランバルトと別れた後、奴から渡された情報を思い出している俺たち。どうやら、冥府の門が動き出そうとしているのを、仮釈放としてドラゴンと戦っていたコブラが聞いていたらしい。
「何の情報を掴んだのかは知らんが、それを免責の交渉カードにする気か」
「冥府の門・・・」
「何もかもがベールに包まれた謎のギルド・・・か・・・」
それからしばらく、俺たちはただ黙って歩みを進めた。しかし、冥府よりも今は、ウルティアのことが気になる。ここまで姿を現さないこと・・・未来の映像・・・もしかしたら・・・
「もし」
「「「!!」」」
嫌な予感を払拭できない俺。それに気付いているのかはわからないが、ジェラールたちも何かを感じているみたいだと思っていると、目の前に一人の老婆が見える。
「まずい。人だ」
「うん」
「あぁ」
俺たちは他者に存在を悟られるわけにはいかない。だから人との接触もなるべく避けなければならない。目の前の老婆から逃げようと踵を返した俺たち三人。だが、俺は妙な感覚を覚え、その場に立ち止まる。
「おい。何してる」
「お兄ちゃん?」
俺が立ち止まったことで先を行こうとした二人も自然と歩を止める。この感じ・・・まさか・・・俺はゆっくりと後ろを振り返り、老人に向かい合う。
「ジェラールさんとカミューニさん、それにメルディさんですかな?」
「そうだが」
どこかで聞いたことがある声・・・そう思い、俺は一歩彼女に近づく。
「ある女性から、手紙を預かっているのですが」
「手紙?」
「まさか!!」
メルディは大急ぎでおばあさんから手紙をもらうと、それを開封する。そこには、これまた見たことがある手書きの文字が並んでいた。
「この字・・・やっぱりウルだ!!」
メルディはウルティアからの手紙とあって嬉しそうにしている。だが、その内容は俺の予感を命中させるものだった。
【ジェラール。カミューニ。メルディ。ごめんなさい。
先の戦いで、私はある魔法に失敗したの。そのせいで、私の命は後わずかとなってしまった。でも、最後にどうしてもお別れが言いたくて】
その文を見たとき、メルディの顔が強張ったのがわかった。そして恐らく、俺とジェラールも同じようになっていたことだろう。
【私の旅はここまでよ。想い半ばで先行くことになってしまったけど、魔女の罪の精神を忘れないで。
それは、罪を忘れないこと。
それは、罪に押し潰されないこと。
それは、罪が許される日を信じること。
それは、人を愛することをやめないこと。
本当の戦いはこれからよ。ゼレフを倒さねば、また魔導士が悲しみに染まっていく。私の分まで生きて。そして戦って。
あなたたちの旅が、みんなを幸せにすることを願うわ】
手紙を読み終えると、メルディは目から涙をこぼし、彼女の名前を呟いている。そして俺とジェラールは、ただ押し黙り、彼女のことを思い出していた。
「老人。この手紙はいつ・・・」
ウルティアの居場所を探るためなのか、老婆にいつ手紙をもらったのか聞こうとした。だが、振り向いたその先には、彼女はもういなかった。
「そういうことかよ・・・」
それで俺はすべてを理解した。あの未来の映像は、本来起こるはずだった未来。そして、それはウルティアの命の時を削った魔法により、時間が戻され、俺たちの体に記憶として残されていたのだと。
「礼ぐらい・・・ちゃんと言わせろよな・・・」
自分だけ言いたいことを言って、俺には礼すら言わせてくんねぇなんて・・・そんなのあんまりだ・・・
その時、俺は自分の立っている地面に水滴が落ちていくのが見えた。それが涙だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「時を奪う魔法・・・か・・・」
号泣するメルディ。仲間との別れに表情を曇らせるジェラール。そして、悔いを残した俺。
「ありがとよ、ウルティア」
この声は誰にも聞こえない。ただ、言わずにはいられなかった。むしろこれだけでは、足りないほどだったのだから。
シリルside
「う・・・ぷ・・・気持ち悪ぃ・・・」
マグノリアへと帰っている俺たち。今は馬車で移動中なのだが、例によってナツさんが真っ青な顔で吐き気をもようしていた。
「すみません。酔い止めの魔法、何度もかけてると効果が弱くなっていくんです」
「二人がかりでもダメだとは思いませんでした」
ウェンディも俺も、今は魔力がほとんど回復している。なのでウェンディが俺とナツさんにトロイアをかけてくれたのだが、なぜかナツさんだけは効果がすぐに切れてしまったのだ。俺もかけては見たけど、ほとんど意味もなく、ナツさんには申し訳ないけど、結局は元のまま、乗り物酔いと格闘してもらうことになったのだった。
「もう諦めたら?」
「これだけはどうしようもないし~」
「ったく、うるさくて昼寝もできねぇや」
シャルルたちがナツさんに冷たくそう言い放つ。でも、ナツさんの気持ちが俺にはわかるから何とも言えない。だって揺れると気持ち悪くなるんだもん。
「そろそろ、あのボロ酒場が恋しくなってきたかも」
「僕も~!!」
「あたしも。あ!!ねぇ!!ジェラールはどうなったの?」
「さぁな」
ミストガンに扮していたジェラール。三日目以降は見なかった気がするけど、またカミューニさんたちと旅にでも出てるのかな?
「うぷっ!!」
「ちょっ!?大丈夫ですか!?」
「てめぇこっちくんな!!」
「やっぱりもう一度入れますか!?」
「ほっときなさいよ」
「吐かないでね~」
乗り物酔いが限界に達したナツさん。彼は揺れる車内でふらついて、グレイさんに飛び付きそうになったのだが、慌てたグレイさんがそれを避けることで事なきを得ていた。
「本当成長しない奴だな」
「むしろ成長した結果ですけど」
俺とウェンディに背中を擦られているナツさんを見て、呆れたような、いつも通りで安心したような笑みを浮かべるグレイさん。彼は不意に外を見ると、口を開けてそちらに釘付けになっている。
「止めろ!!馬車を止めろ!!」
しばらく外を見ていた彼は、血相を変えて運転手にそう叫ぶ。
「なんだ急に」
「どうしたの?」
「何かあったんですか?」
突然叫び出すので何かあったのかとも考えたが、彼はもう一度外を見ると、「いや・・・」と何事もなかったかのようなことを言い、顔をうつむかせる。
「あんただったのかよ・・・」
誰に言うでもなく、小さく呟くグレイさん。その目には、涙が溜まっており、ゆっくりとあふれでていた。
(親子揃って・・・何で俺を・・・)
ボロボロと涙を流しているグレイさん。俺は何があったのかわからなかったが、それに触れて良いものかわからず、その様子を見ていることしかできなかった。
後書き
いかがだったでしょうか。
きっとシリルがルーシィ救出に向かっていたら、ウェンディ同様コスモスに目をつけられていたのだろうと思います。
そして、長かった大魔闘演武編もこれにて終了です。この話までが大魔闘演武編なのかはわかりませんが、ウルティアとグレイとの別れを考えると、ここが区切りがいいような気がするので。
しばらく日常編の後、日蝕星霊編を飛ばして冥府の門編に入ろうと思います。日蝕星霊編はあまり改変の余地がないですしね。
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