パパは不審者
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1部分:第一章
第一章
パパは不審者
授業参観にだ。異様な人物が来ていた。
やけに大柄だ。しかもでっぷりと太っている。
顔はむさくるしい髭で覆われている。髪の毛は少し後退しかかっている。黒スーツを着ている。その姿は誰がどう見てもだ。普通の人間ではなかった。
「誰なのですか、あの人」
「ヤクザ屋さんでしょうか」
「とりあえず。そうした人なら学校に入れるのは」
「そうですよね。ここは」
「通報しましょう」
「そうしましょう」
こうしてだ。授業参観に来ている主婦達がだ。密かに携帯を出してだ。
「あっ、警察ですか」
こう言うのでした。
「はい、学校の中にです。怪しい人間が来ていますから」
通報するのだった。そうしてだ。
制服の警官達が来てだ。その不審な男を取り囲むのであった。
「君、学校で何をしようとしている」
「よからぬことを考えているのか?」
「仕事は何だね?」
「どの組の関係者だ」
ここまで言う警官がいた。顔は真剣そのものだ。
「さあ、ちょっと来てもらおうか」
「詳しいことは署で聞こう」
「来なさい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
その黒いスーツの不審者はだ。慌てて警官達に話すのだった。
「俺は保護者だ」
「嘘をつけ」
「そんな筈があるか」
警官達は全く信じない。彼のその言葉を。
「その姿、何処からどう見てもだ」
「不審者にしか見えるか」
「子供を襲うつもりか?」
「それとも女の先生の誰かをか」
「どうするつもりだ、一体」
「だから違うんだ」
不審者は必死に否定する。
「俺は子供の授業参観にだな」
「ええい、嘘はもういい」
「いいから来い」
「話は署で聞く」6
警官達は彼の言葉を全く信じずだ。そのうえで連行しようとする。しかしだ。
背は普通位で線の細い、黒髪を適当な長さで刈った平凡な顔立ちの若い男がそこに来てだ。そのうえで警官達に話すのだった。
「あのですね」
「んっ、何だあんた」
「関係者か?この不審者の」
「犯罪者の仲間か?」
「ひょっとして」
「違いますよ」
それはだ。全力で否定する若い男だった。
「僕はこの学校の先生でして」
「ああ、そうなのか」
「先生だったのか」
「そうだったのか」
「はい、それでその人はですね」
そのあからさまな不審者がだ。何かというのだ。
「僕の受け持っている生徒のお父さんなんです」
「何っ、本当にそうだったのか」
「保護者だったのか」
「犯罪者じゃなかったのか」
「そうですよ。ですから安心して下さい」
先生はこう警官達に話す。
「それじゃあです」
「わかった。それならな」
「我々はこれで帰ろう」
「ううむ、間違いないと思ったが」
「絶対に痴漢か誘拐犯と思ったが」
「連続殺人犯かと思ったがな」
「最後の三つは何なんだ」
不審者ではなく保護者もだ。その容疑には思わず抗議した。
「幾ら何でも酷いじゃないか」
「そんな外見だからなあ」
「通報も受けたしな」
「悪いとは思うがな」
「それでもな」
警官達は申し訳なさそうな素振りはするがそれでもまだ疑いの目を向けている。それでも疑いは晴れてだ。彼は授業参観に参加できた。
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