木の葉詰め合わせ=IF=
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IF 完全平和ルート
偽装結婚シリーズ
偽装結婚の舞台裏
――うちはヒカクは目下の所、二人の人物に関して非常に悩んでいた。
因みにその人物達とは他ならぬ彼の尊敬する一族の頭領と、その妻(といえばあちこちから反論が来そうな人物)に関してである。
世が世ならば鼻で笑ってしまいそうな些細な事なのだろう。
しかし、彼の属する里を治める火影様の志のお蔭で世に平穏が訪れている今、嘗てならば大した事でないと一笑にふせたであろうその問題は生真面目な彼を苛むには充分すぎた。
元々、暴れん坊の多いうちは一族の中では珍しく苦労症かつ責任感の強い気質を持つ彼の事。
些細な筈の問題は彼の決して弱くはない胃を苛むには充分だったし、最近の彼の気苦労を知る他の一族の忍び達による胃薬の差し入れは(色々な意味で)本当に涙が出そうだった。
「はぁ……。今日もあれに巻き込まれるのか」
そんなこんなで挫けそうになる心を、うちはヒカクは必死に奮起させる。
でもそんな辛い毎日も本日で最後だ――否、そう思わないとやっていられない。
周囲からも一族からも、最近生暖かい目で見られる様になられて来た頭領は、結婚数年目にしてとうとう自らのお心のうちを自覚なされたのだから。
此処に至るまでは長かった……ああ、長かったとも。
心のうちでそれまでの日々を思い起こして、力強くヒカクは頷く。
そんな彼の姿を他の者達が見れば、疲れているのだろうな、ときっと優しい目で見てくれるに違いない。
それだけ長年の心の重しが取り除かれた彼の表情は、晴れ晴れとしていた。
――周囲を、というか他国を欺くための偽装結婚。
始まりが始まりであったために、仮面夫婦の仲はちっとも縮まらなかった。
寧ろ、それ以前の方が近かったんじゃないかと見ているこっちがハラハラしてしまう事なんて多々あった程である。
夫婦でも家族でも何でもいい。
取り敢えず親兄弟を除いてこの世で最も近しい存在にあったにも関わらず、彼らは大方の予想を裏切って面倒くさ……ごほんごほん、ややこしい関係のままであった。
その一端とも言える原因の一つを思い起こして、今でもヒカクは頭を抱えたくなる。
偽装結婚を持ちかけた側である火影様は何をどうトチ狂ったのか、一応は夫である頭領に対して、各地より見つけ出して来た(又は誑かして来た)女性達を紹介し出したのだ。
本人なりの罪滅ぼしであったのだろうが、巻き込まれるヒカクとしては冗談じゃなかった。
「あれはどう考えても、地獄だったよなぁ……」
ほつりと侘し気な声が零れ出て、慌ててヒカクは口を押さえる。
一応皆知ってはいるのだが、これは(公然の)秘密である。
当然だ、妻の持ち込む(こういうと表現が可笑しいが、そうとしかいいようがない)見合い話に苛立って周りに当たる頭領の第一犠牲者がヒカクであった事なんて、知ったって何の役にも立たないし、ヒカク自身何の自慢にもならない。
いい加減お前素直になれよ、というのが(ヒカクを含む)木の葉の大部分の住民達の率直な言分であったのだが、幸か不幸か面だって言える人はいなかった。
なので事情を知る者達がさり気なく、それでいて密やかに外堀を埋める努力をしていた事を、当の本人達は知らなくていい。
何とかして離婚させようとする妹様の妨害工作にもめげる事無く、ヒカクを始めとする同士の面々(又は被害者友の会)がどれだけ苦労をして来た事か。
―――ー深々と溜め息を吐く彼の姿は正しく苦労人であった。
『今まで偽装とはいえ、オレに付き合わせて済まなかったな。最近は世界の情勢も落ち着いて来たし、ここら辺が潮時だろう。――離婚しよう』
だからこそ彼は、今朝訪れた火影の執務室での奥方様の一言を耳にした途端、全身を硬直させる羽目になるのだが。
『何、大丈夫だ。幾ら離婚歴があるとはいえ、そんな事を気にしない娘さん達はそれなりにいるだろう。どっかで可愛い娘さんを見つけて、今度こそ本当の奥さんになってもらえ。――安心しろ。流石に結婚式には顔を出せないが、祝儀ぐらいなら送ってやるぞ』
そんなことを笑顔で言われて、頭領が怒ったのも致し方ないと思う。
元々憎からず想っていたであろう相手だし、なんだかんだで独占欲と執着心の強い人だし。
世紀の大戦争が始まってしまったのも、致し方ない事である(と彼は異論を唱えたくなる心を納得させた)。
ただその終末戦争の幕引きの仕方を伝え聞いた彼が、影で『やっと頭領がデレたぁぁああ!!』と快哉を上げた事は後の里の語りぐさとなったのである。
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