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サラリーマンヒーロー

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第一章

                 サラリーマンヒーロー
 宮田吉彦は所謂小市民である、この言葉は古いがそう呼ぶべきしがないサラリーマンだ。
 中背で痩せた身体だが最近腹が出て来た、くたびれたスーツが似合っていて眼鏡がよく似合う細い穏やかな顔だ。髪型は七三分けだが最近髪の量が減った気がする。
 家は三十五年ローンの郊外の家であり妻の美佳、息子の悠悟、そして犬のゴンと一緒に暮らしている。年齢は三十五歳で会社では主任である。
 家でも職場でも普通だ、至ってごく普通の社員であり夫であり父親だ。穏やかで部下や子供が悪いことをすると叱る、それだけだ。趣味は読書と釣りだ。お小遣いは少ない。電車通勤である。
 その至って平凡な彼がだ、夜に妻と一緒のベッドで寝ていると。
 夢の中でだ、急に白い髪の毛にゆったりとした服の老人にこんなことを言われた。
「御主ヒーローになりたいか」
「何かいきなりですね」
 宮田はこう老人に返した、見れば周りは何もない真っ白な世界だ。
「そう言われるなんて」
「そうだな、しかしだ」
「私がヒーローにですか」
「なりたいか」
 こう問うのだった。
「これからな」
「それはどうしてですか?」
「実はわしは神だ」
 老人は自ら名乗った。
「高天原にいるサエキノヒコだ」
「サエキノヒコですか」
「人間だった頃は鉄道会社の社長だったがな」
「それでお亡くなりになってですか」
「神になったのですか」
「そうだ、それでだが」
 その神サエキノヒコはさらに言った。
「近頃世の中が乱れていてだ」
「それで私をヒーローにですか」
「選んだ、特に悪事もしなさそうだしな」
 こうした理由から彼を選んだというのだ。
「それでどうだ」
「ヒーローにですか」
「なってみるか、仕事帰りにでもな」
「まあ仕事や家庭に差支えがないなら」
 それならと答えた宮田だった。
「そうさせてもらいます」
「それではな」
「ですが」
「ですが。何だ?」
「残業とかありましたら」
 仕事の話をだ、宮田は神に言った。
「申し訳ないですが」
「ああ、その時はいい」
 神もその辺りのことは許した。
「わしも事情はわかる」
「そうですか」
「言ったな、人間の時は鉄道会社の社長だったとな」
「大きな会社だったんですね」
「まあな、路線は長くてしかもグループ企業も多かった」
 自分の人間の時の会社のこともだ、神は話した。
「こう言っては何だが努力して大きくした」
「神様がですか」
「色々とな、今では見る影もないが」
 無念の顔もだ、神は見せた。
「全く、後継者はしっかりと育てないとな」
「色々と思うところがあるんですね」
「まあのう、とにかく残業は会社勤めでは付きもの」
 神は言い切った。
「その辺りのkとはわしもよくわかっておる」
「それなら」
「御主の出来る限りで悪を成敗せよ」
 正義のヒーローとなって、というのだ。
「よいな」
「わかりました、それでヒーローといいますと」
 宮田は神の言葉に頷いてからあらためて彼に尋ねた。
「やっぱり変身しますか」
「うむ、このネクタイをやろう」
 神は宮田に応えて今度は一つの赤と白、青の三色の派手な柄のネクタイを差し出した。白地でところどころ赤があり少し青がある。 
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