八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第六十三話 夏祭りその十一
「どうしても無理なものもある」
「無理っていうト?」
「どう当てても倒れない賞品あるか」
「この店ではないがな」
「そうしたことはしないさ」
おじさん、角刈りの痩せた中年の人がこう言って来た。
「うちの店じゃな」
「左様ですか」
「倒れにくいものは置いててもな」
何気に種明かしもしてきた。
「けれどどれもちゃんと当てたら倒れるさ」
「そうなのですね」
「ああ、確かにそうしたもの置く店はあるさ」
どう当てても倒れず決して手に入ることのない賞品を置く店もというのだ。テキ屋さんではよくあることだろうか。
「けれど俺はしないんだよ」
「では上手に当てればですね」
「ああ、どの賞品だってな」
それこそ、というのだ。
「貰えるさ」
「左様ですか」
「だから安心しな」
「ではぬいぐるみも」
「持ってきな」
不機嫌な顔でだがだ、おじさんは井上さんに言った。
「もうあんたのものだよ」
「それでは、それでだが」
再びだ、井上さんはジューンさんと水蓮さんに顔を戻して話した。
「このお店は大丈夫だがだ」
「そうしたお店もあるのネ」
「絶対に手に入らないものを置くお店もあるな」
「そうした賞品は必ず大きくしかも価値のあるものだ」
例えばプレステ本体だ、中身が箱に入ってそのまま置かれていたりする。どう見ても射的で倒せるものじゃない。
「そうしたものはかえってだ」
「狙わなイ」
「それがいいあるな」
「射的は正確に、そしてだ」
さらに言うのだった。
「欲を張らないことだ」
「欲を張らずに正確に撃ツ」
「それが攻略法あるか」
「そういうことだ、これは輪投げでも言える」
このお祭りではないみたいだけれどこのお店でもというのだ。
「完全に通らないものは見極めてだ」
「それは狙わなイ」
「それがいいあるな」
「お店もわかってやっている」
お客さんが絶対に手に入れることが出来ないことがだ。
「そこを見極めることだ」
「わかったヨ、じゃあネ」
「私達もやってみるある」
こうしてだった、二人もやってみた。けれど。
二人共一発も当てられずにだ、終わってから残念そうに言った。
「ううん、ちょっとネ」
「難しいあるな」
「こうしたゲームはじめてだけれど」
「狙いが定まらないあるよ」
「そういうものだ、最初はな」
井上さんは二人に腕を組んで話した。
「誰でもだ」
「一発も当たらなイ」
「倒すどころではないあるな」
「そういうものだ、アメリカは銃社会だが」
「持ったことはないヨ」
一言でだ、ジューンさんは答えた。
「銃ハ」
「ないのか」
「家にはあるけれど」
ジューンさんの実家にはというのだ。
「お父さんは持つけれどネ」
「君はか」
「実は嫌いなノ、銃ハ」
「銃社会の国でもか」
「だから余計ヨ、自分の身を守るものだけれド」
それでもとだ、ジューンさんは井上さんに難しい顔で話す。
「悪いことに使う奴も多いし乱射事件もあるかラ」
「学校でもだな」
「出来ることならね」
希望もだ、ジューンさんは話した。
「ああいうのがない社会になって欲しいネ」
「我が国の様にか」
「日本は銃がないね」
「あることはあるが持ったことがある人は稀だな」
それこそという口調での言葉だった。
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