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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第六十三話 夏祭りその五

「前に進むといい」
「修行とか思わずに」
「苦しいことをしていると思わずにな」
「このままの気持ちで、ですね」
「油断せずにだ」 
 今度はこう僕に言ってくれた。
「前に進むといい」
「そういうことですか」
「うむ、そしてだ」
「そして?」
「何故楽しいと思うのか」
 井上さんは僕の横顔をじっと見つつ尋ねてきた。何かその見る視線がこれまで以上に強いものに思えた。
「それを知りたいのだが」
「そのことですか」
「そうだ、何故だ」
「何故かといいますと」
 僕は正直井上さんの返事に戸惑った、そして。
 そのうえでだ、こう答えた。
「やっぱり今いる環境が」
「楽しいか」
「いい家ですからね」 
 まずは八条荘のことからだ、僕は井上さんに話した。
「それもかなり」
「確かに見事な洋館だな」
「はい、正直いきなり親父がイタリアに転勤になって僕だけになりましたから」
 そして家も放り出された、正直これからどうなるのかどうしてやっていこうかと途方に暮れた。いきなりそうなったので。
「そこであそこに入って、畑中さんも来てくれて」
「畑中さんに案内されたのだったな」
「はい、八条荘に」
 本当にまずこの人からだった。
「そうしてもらってでした」
「その畑中さんもいてくれる」
「おまけにお給料まで貰えて。そして何より」
「皆がいるからか」
「はい、八条荘の皆さんがおられますから」
 今ここに一緒にいる四人の人達だけじゃなくてだ、八条装にいる皆がだ。
「とても賑やかで明るい場所になっていますから」
「そこにいてだな」
「本当に幸せです」
「幸せに将来の為の道を歩んでいる」
「そうですね、僕は」
「そうだな、しかしそれを幸せと思うのはいいが」
 井上さんは僕に自分のこ考えを話してきた。
「過ぎたと思わないことだ」
「僕に、ですか」
「そうは思わないことだ」
「過ぎた幸せとはですか」
「誰にもその人に相応しい幸せが来るものだ」
 井上さんは微笑んで僕にこう話してくれた。
「その逆も然りではあるがな」
「相応しい幸せが、ですか」
「その人に。神様が与えてくれる」
「だからですか」
「不相応と思っているのならだ」
 僕が僕自身を幸せと言った言葉に対するものだった、明らかに。
「そうした考えは捨てるべきだ」
「僕にあるべき幸せですか」
「訪れるべきな」
「そういうものなんですね」
「もっとも溺れることも駄目だ」
 その訪れた幸せにだ。
「そうなってしまっては元も子もない」
「幸せが訪れても」
「それではな、幸せはただいいものだけではないのだ」
「溺れてそれで駄目になる」
「恐ろしいものなのだ」
「そう思うと怖いですね」
「そうしたこともわかったうえでだ」
 まさにとだ、僕に話してくれた。
「今を楽しみながら前に進むことだな」
「わかりました」
「どうも君はだ」
 井上さんは話が一段落したと思ったらまた話してくれた。 
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