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やり直し

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3部分:第三章


第三章

「そんなこと有り得ないじゃないですか」
「それもそうか」
 元義は常識の範囲内で考えて答えていた。
「有り得ないよな」
「そうですよ。消しゴム終わりましたね」
「ああ」
 話をしている間も手は進めていた。消しゴムはもうかけ終えていたのだ。
「じゃあ次のページですけれど」
「それか」
「もう終わらせておきました」
 気の利くアシスタントだった。
「消しゴムまで全部」
「おい、随分と早いな」
「何かね。進んだんですよ」 
 何故そこまで進んだのか彼にもわからないようだった。少しきょとんとした顔になっているのがその証拠だった。時間がそれだけあったということに。
「自分でも信じられない程に」
「そうか。まあとりあえずそのページは終わったんだな」
「はい」
 その問いにこくりと頷いて答える。
「あともう少しですし。頑張っていきましょう」
「そうだな。あと少しだ」
 その言葉にお互いで頷き合う。
「慎重に行こうか」
「慎重にですか」
「何かな」
 またここで首を捻る元義だった。
「何度も間違えた気がしているしな」
「あれっ、今回は先生これといったミスしていないですよ」
 アシスタントが覚えている限りではそうだった。
「それでまたどうして」
「あれっ、そうか」 
 彼もまた気付いていなかったのだった。
「そういえばそうか。何か何度もえらいミスしてる気がするんだけれどな」
「何かおかしいですね」
「何故だ。やっぱりこのページだ」
 今まであれこれしていたそのページをまた指差す。
「無性に憎らしくもあるしな」
「憎らしいってまたそんな」
「どうしてか自分でもわからないけれど無性に」
 そういうことであった。自分でもどうしてかはわからないが。
「腹立たしくてな」
「はあ」
「まあいいか」
 とりあえずもうこれでいいとした元義だった。
「それは。とりあえず原稿終わらせるか」
「ええ、本当にもう少しですしね」
 アシスタントもこれには異論がなかったのだった。漫画家の仕事は漫画を描いてそれを終わらせることだ。二人もそれははっきりとわかっていた。
「徹夜せずにいけそうですし。それじゃあ」
「よしっ、やるぞ」
「はいっ」
 こうして二人は仕事のクライマックスに入った。だが元義はこの時知らなかった。原稿を送る段階になって今度はあれこれと紛失したり送り間違えたりしてその度に何度も時間が元に戻ってやり直していることを。それは彼にはわかる由はないことだった。人である彼には。


やり直し   完


                 2008・8・14
 
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