D&Dから異世界に迷い込んだようですよ?
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3話
外門を抜けると、彼等の前に緑豊かな森林が現れる。
その森を黒ウサギを先導に、進んでいく。
森の中を散策していくと、周りから声が聞こえだした。
低く唸るような不気味な声は、黒ウサギを珍しそうに騒めいている。
黒ウサギとウースはそんな声を聞いて、足を止めた。
「森の賢者様方、この近くで狩猟のギフトゲームを開催されている方を御存知でないでしょうか?」
彼女の質問に、数瞬沈黙する。すぐに一本角を生やした青白い馬……ユニコーンと呼ばれる高貴な魔獣が現れた。
「よろしければ、私がご案内しましょうか?」
「これはまた! ユニコーンとは珍しい方が」
黒ウサギによれば、本来ここら辺で現れるような存在ではないらしい。
ユニコーンと黒ウサギが会話をしている最中、ウースは杖を構えていた。
ペロリと唇を舐めて、ユニコーンを見つめている。彼のとがった耳も、嬉しそうに動いている。背中のバックに手を入れた。
「モルデンカイネンズ・ソード」
呪文を唱えると、彼の前に透明な力場で出来た剣が現れる。
詠唱が響いたのか、黒ウサギとユニコーンがウースに顔を向ける。
ユニコーンはすぐに気づいた。獣にとって其の視線は日常茶飯事のごとく受けるからだ。
即ち、強者が餌を見つめる視線。
(く、喰われる!)
そのことに気付いたユニコーンの行動は早かった。転身して、一目散に離脱。
黒ウサギは呆然と突っ立っていたが、ウースの
「待て! 馬肉!」
と言う発言に意識を取り戻す。力場の剣を射出しようとしているウースに、
「な、何をしているんですか! お馬鹿様!」
と言って虚空から取り出したハリセンで突っ込んだ。
力場の剣は在らぬ方向に飛び、空へ消える。周りにいた魔獣たちも、何時の間にかいない。。
ウースは叩かれた頭を摩りながら、黒ウサギに視線を向けた。
「狩ろうと思ったんだが、駄目か?」
「駄目です! 彼は他のコミュニティの一員です! それに!」
話し合いが出来る生物なのに、と黒ウサギの目は語っている。
「馬だし、あれは魔獣の類だ。私の世界では狩る物だった」
話が出来ようが狩ろうと思えば狩る、とウースは言っていた。
思わず黒ウサギは頭を抱える。
(この方もこの方で)
問題児だと黒ウサギは内心思う。少しの間そのまま悩むが、
「ここで待っていてください。黒ウサギが狩猟のギフトゲームを貰ってきますので」
と言って背を向ける。前方に向かって走り出すが、幾度か振り向くと、
「絶対そこで待っていてください!」
何度か念押ししながら消えていった。
ウースは彼女を見送る。無論先程のは半分は嘘。流石の彼も善よりの生き物を食べる事はあまり(・・・)ない。
黒ウサギと離れるのが、本来の目的だった。
ウースが道の横にある森林に体を向ける。
「スピーク・ウィズ・プランツ」
彼が唱えた呪文により、植物との会話ができるようになった。
彼等は単語の様な文章で話すため理解しにくい。ウースはそれを幾つも質問することで補う。
20分ほどで呪文は解ける。だが、彼は十分な情報を収集した。
彼らによれば、この世界のコミュニティには名と旗が必要不可欠。なければノーネーム。その他大勢として扱われる。つまり、信用もなければ実績も存在しなくなるのだ。
(彼女は、我々のコミュニティと言っていた。名前や旗は見た限りないはず)
つまり黒ウサギたちがウースに隠していることとは……。
そこまで考えたウースの耳に、何者かが大急ぎで近づいてくるのを感知する。
音が聞こえるほうへ体を向ける。
ウースの前方から、黒ウサギが猛スピードで向かって来ていた。
おそらく狩猟のギフトゲームを持ってきたのだろう。
(さて、どうしようか)
内心で思っていることを全く出さずに、ウースは黒ウサギを笑顔で出迎えるのだった。
森林のとある場所に、異様な光景が広がっていた。
木も草も、森に棲む獣たちも全てが石化している。
その中心に、二体ほどの牛が居た。勿論ただの牛ではない。
鋼鉄の装甲を身の纏い、銀色の角を生やした牡牛。それらは緑色の吐息を吐きながら、石となっている草を食べていた。
その光景を数十メートル程遠くから黒ウサギとウースは観察していた。
「あれですね。あの魔獣の狩猟のギフトゲームを貰っています」
黒ウサギの説明を聞きながら、ウースは青鈍色の魔獣を観察していた。
すぐに質問を発する。
「あの魔獣の名前は?」
「いえ、黒ウサギも知りません。何でも、突然現れたとか」
黒ウサギはウースに顔を向けた。
「ウース様は御存知なのですか?」
「まぁな」
(ゴルゴンが何故ここに? 呼ばれたか? もしくは)
思考を首を振ることで遮断する。
どちらにしろ狩ることは変わりない。
杖を構えて、幾つかの強化呪文を行った後、静かに近づいていく。
森の中を静かに目標に向かって歩く。まるで、自然の中に溶け込むようだった。
あまりの静かな移動に、黒ウサギも
(しっかり把握していないと見失いそうです)
驚きを隠せずにいた。
だが、本当の驚きはそれから始まる。
風を起こし魔獣達に雷を落とし、木でできたゴーレムを召喚した。火炎球をぶつけ、力場の剣で切りつける。近づいて来れば、バックから取り出したショートソードで首を落とす。
物語に出てくる強力な魔法使い。そのままの姿だった。
ただ一人で戦場をコントロールする能力。それがウースが持っている力だった。
(この方と、今度呼び出す方々が多少なりでも強ければ)
彼の力は最強ではない。ただし万能だった。
だからこそ、少しでも力があれば。彼とその者たちは、どんな難航不落なゲームでも……それどころか魔王でさえも。
黒ウサギの心の中は期待に満ち溢れていた。
(だからこそ)
コミュニティに入って貰いたい。
一瞬締め付けるような苦しみが黒ウサギの胸を襲う。だが、彼女はそれを無視した。
黒ウサギは確かに善性の心を持っている。だからと言って、欲がないわけではないのだ。
コミュニティ(秩序)の為に。仲間(秩序)の為に。彼女は自信の痛み(罪悪感)を無視する。
(でもだますことには変わりないんですよね)
そんな事を黒ウサギが、空回る思考を巡らせていた。
彼女の考えを遮るように、ウースが最後のゴルゴンを呪文で倒していた。
そして黒ウサギの方向に向き直り、手を振っていた。
彼女はそれに答えるように、手を振ってウースに向かって歩き出す。
数分もしないうちに、黒ウサギはウースがいる場所に着く。
黒ウサギの目に映る光景に、一か所に集まった首のないゴルゴン達が、逆さになって宙に浮かんでいた。
傷ついたウッド・ゴーレムが周りを警戒するようにたたずんでいる。
ウースはゴルゴン達を囲う様にに、地面に何かを書いていた。
「何してるのですか?」
「ああ、これ持ってくの大変だろう。あの屋敷の前まで転移しようと思ってね」
「瞬間移動まで可能なのですか」
黒ウサギは感心するように言葉を発する。
「本当に何でもできるんですね」
「何でもじゃあない。大抵は、だ」
彼女の言葉に付け加えるように、ウースは呟く。
「処で、ギフトゲームとやらはこれでクリアしたんだろう。何か貰えないのかな?」
「ええ、勿論。早速黒ウサギが受け取りに行ってきますね」
地面に魔方陣を書き続けるウースに背を向けて、黒ウサギは走り出した。
ウースが魔方陣を書き終える頃に、彼女は帰ってきた。その背中に大きな袋を背負っている。
黒ウサギは袋を彼の前に置く。
「見てください! これ全部葡萄や林檎、梨とかいろいろな果実や木の実です」
彼女の言う通り、袋の中に様々な果物や木の実がびっしり収まっていた。
「これで幾日かは食べ物に困らないな」
「YES! みんな久しぶりにお腹いっぱい食べれます」
嬉しそうに黒ウサギは頷く。
その笑顔を見て、ウースは満足げに首を上下に振る。
そして、
「さあ、サークルの中に入ってくれ。屋敷に帰るとしよう」
「はいな」
黒ウサギは、うまく収まっているゴルゴン達の死体をよけて、中心にいるウースの隣に立つ。
それを確認した彼は、杖を構えると、
「テレポーテーション・サークル」
と唱えた。
その瞬間、ウースたちは森から姿が消えるのだった。
夜中。ウースは通された客室で横になっている。
あれから、持ってきたゴルゴンや果物で夕食を取った。その後、皆が寝静まる頃に幾つかの確認を行っている。
他次元世界の移動についての実験。
結論から言えば、召喚は可能。召喚された存在が帰還するのも可能。ただし、自身から他の次元世界に移動するのは不可能だった。それも自身が知る世界全て不可能だろうという結論が出たのである。
(もしかして、完全に別の次元世界。別の宇宙観か)
帰れないかもしれない。だが、意外と彼はあまり深く考えていなかった。
(まぁ長い人生こういう時もあるだろう。まだ、手段はある)
完全に手が尽きたわけではない。
(この世界でやる事も山のように多そうだしな)
夕食のころ、自身によく話しかけてきた黒いうさ耳の少女の事を思い出す。
彼女の姿を思い浮かべながら、ウースは眠り(トランス)に落ちていくのだった。
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