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銀河抗争史 統一への道

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プロローグ

 全宇宙の人類を統べる偉大なゴールデンバウム王朝、銀河帝国は腐敗した。
 皇族、貴族は共に太祖ルドルフの崇高で健全な理念を忘れ退廃的自堕落な生活を送り、民草はエリートに導かれるのではなく食い物として踏みにじられた。
 そんな時代にあって自由惑星同盟建国の父、アーレ・ハイネセンが自由を求め帝国から逃げ出したのも仕方が無かった。
 長征1万光年の果てに民主主義の名の下で同盟は勢力を拡大し、今や帝国に拮抗する戦力と国力を兼ね揃えていた。
 自由惑星同盟首都の惑星ハイネセン。宇宙艦隊司令部から遠くない場所に同盟軍の士官学校が存在する。
 士官学校とは同盟軍の明日を担う指揮官を育成する学校で、その基礎を叩き込む場所だ。士官候補生には国家への献身、市民への義務、部下への責任が教えられる。
 宇宙暦784年、一人の男が教官室で授業の資料となる生の情報──戦闘報告を読んでいると生徒が入ってきた。
「ミンチ大尉、戦史科が廃止されるそうですが」
 訪ねてきたのは優等生で知られるジャン・ロベール・ラップだった。
「予算の兼ね合いでそうなった」
 答えるのはコリアン・ミンチ大尉。イゼルローン要塞攻防戦で負傷し、義足と義手の慣らしで教官職に付いていた。
「どうにかならないのでしょうか」
 コリアンは戦史教官として教鞭をとっていた。科の廃止で戦略研究科への移動を命ぜられていた。
「校長も承認されている。教官と言ってもたかが大尉の俺にはどうでもならんな。だが生徒に納得しない者も居る。そうだな?」
「はいミンチ大尉。ご推察の通り、ヤンの奴がごねています」
 ラップの同期で親友のヤン・ウェンリー。コリアンの受け持つ戦史はそれほどでも無いが、他の教育を見れば怠惰で授業態度と成績も悪い。食う為に士官学校に入ったと言う信じられない志願動機で、上昇思考も無く辞める事しか考えていない為に他の教官からの受けは悪い。
「部隊が解散すれば余った人員は他所に回される。同じ事だろう」
「そうなんですが、あいつは固い所がありまして……」
 ラップは庇おうとするが、コリアンは不快感を隠さない。
「彼を買ってるようだし校長に相手をして貰おう。それで辞める辞めないは彼自信が決める事だろう」
 ヤンは士官になろうとする立場にも関わらず自覚が足りない。税金で食わせて貰っていれば、その分だけ市民に答える義務がある。
(その士官候補生にやる気が無いなんて市民にとっては悪夢でしかない)
 士官学校は戦争のやり方を教えると同時に、士官としての下地を準備する場所だ。
 古くさい戦史も、応用による柔軟性を教える為の物だ。ヤンは好みと仕事を区別できていない。

◆◇◆◇◆◇◆

 校長のシドニー・シトレは教育者と言うよりも経営者である。軍と言う組織を円滑に運営する上で、幹部候補の士官候補生に脱落者を出す事は不利益しか生まない。素行に問題があっても士官としてそれなりにやれるなら任官拒否も退校も認めなかった。
 コリアンはやる気の無い者は周囲に悪影響を与えると経験から知っていた。周囲に被害を与える前に辞めさせるべきだと進言した。それがシトレの不興を買った。
「二度と私の前に顔を出すな」
 人事発令通知を机に叩きつけるとシトレはコリアンにそう言った。
 宇宙暦787年、ヤンやラップ達の教育修了に伴い教官の任を解かれたコリアン・ミンチは少佐としてエル・ファシル警備隊に配属された。
「ミンチ少佐、これからよろしく頼む」
「はい、幕僚として閣下の補佐と職務に邁進する所存です」
 堅くなるなと笑顔でコリアンの肩を叩く上官のリンチ少将は、次期宇宙艦隊参謀長と言われるドワイト・グリーンヒルの秘蔵っ子で、何千万人も居る同盟軍の中で数百人しか居ない少将に抜擢され若手の出世頭として著名人だ。
 主席幕僚のランドリー・ポーク准将は規律を重んじる人物で、コリアンの着任に対して助言をしてくれた。
「帝国軍は強い。辺境の警備隊何て一捻りする強さがある。貴官もイゼルローンで経験しただろうが、決して油断をするな」
「はい、ポーク准将」
 実戦経験者であるコリアンはその言葉の重みを確りと捉えていた。
 同盟軍と違い、時には狂信的に玉砕するまで帝国軍は戦う。それは帝国軍には皇帝陛下の下で戦うと言う正義が精神的支柱としてあるからだ。
(国防の最前線か)
 コリアンは前線に帰って来れた事に感無量だった。 
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