そのアルカナは
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第1部~4月~
第1章 覚醒
臨死と高揚
「対象発見だ。保護最優先だ。いいな、相沢」
「それはこっちのセリフだよ京子ちゃん。いつもしなくていい喧嘩を吹っ掛けては無駄に消耗するのは誰ですかねーまったく……」
目の前に現れたのは二人の人間。男と女。同年代……いや少し上だろうか。
その2人が現れた瞬間、僕の目の前の影はその2人へと対象が写ったようでもう僕には目もくれず二人の方へ近づいていく。
「相沢。私があれを片付ける。対象の救出を任せたぞ」
「なーにが対象救出を最優先だよ。戦いたがってんじゃんこの戦闘狂。まぁいいけどねー」
言い終わるや否や駆け出す二人。男の人は僕の方へ、女の人は影の方へ
「大丈夫かい?さぞ怖かったろうねー。まぁ俺らが来ちゃったからにはもう安心していいぜー」
「は、はぁ」
夢に登場人物追加。全く見覚えのない人だ。
「あの、あなた達はいったい」
男は何を言おうか少し迷った様だったが、少し考えると笑みを浮かべ
「お前さんの味方さ」
とだけ言った
そうだ、あの化け物のはどうなったのか。と思い、女の方へ目を向けると
女はカタナを握っていた
ジャパニーズブレード
日本刀をだ。
夢すごいな夢。見知らぬ人を出して日本刀まで握らせちゃうなんて……
無理矢理納得させていると男が僕に話しかけてくる
「あ、っとね。簡単に今の状況を振り返るとするぞ。一つ、まずここは夢ではない」
男が喋り始めた。夢では、ない?何なんだこれは
「ここは、影時間という一日と一日の間にある時間だ。普通の人間はこの時間を感知することが出来ない。みんな棺桶に入っちまうからな。だが、素養のあるものはこの時間を認知できる」
「僕にはその素養があるってことですか」
素養。あの夢に出てくる少女も言っていた。
「ま、そーいうこと。でもお前はまだ完全に覚醒してる訳じゃないし発現する前にカードを破るっていう手もあるけど。おっと、終わったみたいだぜ」
あの影のいた方を見ると、女の人が立っているだけで。あの影は消えていた。
「まぁ、あとはじっくり事務所で話すんで、とりあえず行こっか」
促されるままに立つ。流されるままに付いていく僕。正直何が起こってるのかまだちゃんと理解出来た訳では無いけど、僕を助けてくれたなら、多分、いい人だ、多分。
歩き始めて数十分
駅を出て商店が立ち並ぶ道へと入っていく
「もう少しだから頑張れよー」
男は僕に声をかけてくれるが僕は頷く事しかできない。かなり消耗してるみたいだ。
二人はどんどん進んでいく。この状況に慣れているのだろう。足取りに迷いはないし、躊躇いもない
「あと少し行って路地に入ったらついたようなもんだからな」
優しい人である。かなり気遣ってくれているようだ。男の方は背は170そこそこといった所だろうか。茶髪の男にしては少し長めの髪の毛に、ジーンズそしてジャケットという至って普通の格好。顔はそこそこイケメンである。羨ましい
そして女の方。今こうして見ると、いや、逆になぜ気づかなかったのだろう。僕と同じ幻夢高校の制服を着ている。セーラー服である。セーラー服と日本刀。アンバランスすぎるだろ……
長い黒髪を後ろで縛ってポニーテールにしている。顔も可愛い。なんだこの美男美女は。ますます謎だ。
かく言う僕はと言うと……身長160という男子にしては絶望的ハンデを抱える少年である。生きてきてこの方イケメンなんて、カッコイイなんて言われた事一度もない残念ボーイである。
そんなこんなで商店街を歩く僕達。影時間とあの人は言った。夢ではないのだこれは。現実離れというどころではない。
商店街はシャッターが降りていて、もちろん人っ子一人、猫っ子一匹いない。こうして見ると夜の街であるが、ただ時々路地に刺さる棺桶を見る度その考えをなかったことにされる。
月は大きく、明るく、夜であることを忘れさせるくらいに光っている
目的地に近づいていたであろうその時。確かに聞こえた
鎖を引きずるような音が
僕の空耳ではなかった様だ。前の二人にも聞こえたようで。しかしさっきとはまるで状況が全然違うかのように焦っていたのがわかる
「やべーな。死神だ。しかもハッキリと。近いぞ。逃げるぞ京子ちゃん。」
「名案だ。さすがの私もあれは勘弁願いたい」
相当やばい相手らしい。僕らは目的地へと足を早めた。
しかし、鎖の音は鳴り止むどころか大きくなっている。
ジャラララと不快な、不安にさせるような音を。
そしてついに
路地は目の前だというのに
「目の前だったのにこれは……まずいな」
ボロボロになった黒のコート、体には鎖を巻いていて、顔は仮面で隠れている。いや、片目だけよく見たら出ているのかも。その両手には、大きな二丁の銃。ミリタリーに疎い僕としては種類までは分からない。でもあれは
多分
さっきの気持ち悪いやつと同じなんだと本能的に思った。
「仕方ない。私が注意を引き付ける。相沢、対象を事務所へ」
「流石に京子ちゃんだけでもあれ一人はキツイだろ」
「注意を引くだけだ。すぐに離脱する。いけ!」
女の人が動き出すと同時に、僕は男の方に手を惹かれ半ば引きずられるように走っていた。
その足はすぐ止まるのだが
「こいっ、ペルソ一ー」
ダァン
と銃声。僕と男は同時に振り返る。そこには腕を抑え膝をつく女の姿
「京子ちゃん!」
「止まるな馬鹿たれが!対象を早く!」
この状況はなんだ。そんなに、ピンチなのか。あんなに頼もしかった二人が、ここまで追い込まれる相手なのか、あれは
「すまん。少し待っててくれ。そこの路地に隠れてろ」
男は僕の手を離し、奴と対峙する。男は懐から銃をだした。
頭に当てる。
「こいっーー」
頭を打ち抜いた。衝撃映像だった。男は死んでいない。それどころか、見間違いでなければ、男の中から何か出てきようにみてる。いや、出てきたのだ。
金髪の人形のような。青い瞳の
「少女が、出てきた?」
「アギラオッ!」
男がそう唱えると、少女の手から炎が出る。やつに命中すると、奴の注意が男の方へと向く。
「立てるか!?京子ちゃん!」
「心配は……ない」
ふらふらと立ち上がる女に目を向けている男。そして、奴の攻撃がくる。
手に持った銃を男へと構えると引き金を引いた。二丁の銃を連射する奴。攻撃をなんとか躱すも——
「ぐっ……」
連射していた弾の一発が足を捉える。倒れる男。弾丸により打ち抜かれた箇所から血が流れ出ているのがわかる。
そして倒れた拍子に男の手に持っていたあの銃が
僕の目の前に転がってきた。
「はやくっ……逃げろっ!!」
この時自分でも何故こうしたのか分からない
この圧倒的絶望の元で
少女の声が頭に響いた
――私は貴方であり貴方は私です。
この状況、貴方はどうされたいですか?
どうされたい?そんなこと決まってる。いつものように気がついたら朝だったっていう日常が欲しい。それだけだ。
ーーなるほど、承知いたしました。なら私は我が主である貴方に忠誠を尽くしましょう。貴方がお望みであらば力を貸します。しかし契約をしてしまったからには、途中で投げだすなんて許されません。よろしいのですか?
どうでもいい。このままじゃ奴に殺される。それに逃げられたとしても僕を助けてくれたあの二人は助からない。僕は借りた恩は返す主義なんだ
ーー意外と芯の強いのですね……
あんたは僕なんじゃないのか
ーー自分自身で分かっていないことというのもあるのですよ?ジョハリの窓をご存知でしょうか?
「御託はいい」
僕は足元の銃を拾い上げる
「力を貸せ」
いつの間にか左手、つまり銃を持っていない方の手にはカードが握られていた。タロットカード。
アルカナは月
「ぺ」
使い方が何故かわかる
「ル」
銃口を頭に突きつける
「ソ」
恐怖はない。気持ちは逆に
高揚している
「ナ」
僕は引き金を引いた
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