そのアルカナは
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第1部~4月~
第1章 覚醒
影、そして
「本物……なのか?これは……」
突き刺さる棺桶なんて現実離れしたものに少しだけ戸惑っている。数十個はあるだろう。
いや
現実離れしてて当たり前か。ここは夢の中。有り得ないことくらい起こっても不思議じゃないよな
もういい加減うんざりしているんだ。夢なら醒めてくれ。
そう思った
瞬間
感じた
何かの気配。多分、棺桶の側だろう。
あの女の子がついに僕の目の前に姿を表すのか。
声も可愛かったし、うっすらと見えた姿も可愛かった、と思う。年頃の男子としては夢の中だろうと美人に会えるなら期待せざるを得ない。そういうもんだろう。
気配のした棺桶へと近づく。どんどんはっきりなっていってる事を考えれば、しっかりと姿が見えてもおかしくないよな。運命の相手だったりしちゃうのだろうか。
なんて警戒なんかしてません。当たり前。だって夢の中。警戒してどうすんの?
棺桶が突き刺さってる街を見る悪夢なんかウンザリだけど可愛い子に会える夢なら大歓迎さ
棺桶の裏をのぞき込む
そこにいたのは
影だった
それ以外形容しようがない。いや、なんだろう。真っ黒な液体、スライムのようなもの僕は影と呼称したが、もしかしたら正式名称何かがあるのかもしれない。
そんな事はどうでもいい
問題はその影にたくさんの腕があって、その一本一本に剣を持ってたってとこなんだよね。
そして不気味なことにそいつは、その影は、とても無機質な、表情のない仮面を付けていたのさ
「うわあああああああぁぁぁあぁ」
僕は逃げ出した。幽霊でビビらなかったのに、どうしてかって?僕も分からない。本質的に気持ち悪いと感じたんだ。何かは分からないけど、怖いとか、そういうのではなく、
気持ち悪い
それだけだった。
逃げる逃げる、夜の街を。相変わらず月は夜を照らしている。どこに逃げてるのか分からない。けどあいつから、あの影から逃げないと殺される。そんな気がしてた
どれくらい走っただろう。
逃げ込んだ先は駅ビルだった。僕はその中に身を隠している。
なんで夜なのに駅が空いてんのかなんて、考えなかった。それは多分夢だから。それで片付けた。
僕は駅ビル内にある大きな時計の陰に隠れていた。待ち合わせ場所に使ったことはあれど、隠れるのに使ったことはない。もっとも、これを隠れてると言えるのかは分からないけど走ってきた疲れで座りたかったのでこの陰に転がり込んだ。
「何なんだアレは」
思わず口に出す。期待していた美少女なんかじゃない。むしろいつにもまして更に変なモノを見てしまった。
「いいから覚めろよ……夢なんだろ……!いつもの通り声を聞いたら朝になってるって言う夢だろっ!わけわかんねぇよ……」
自分でも完全にパニックだった。それくらいあの影は僕の心を不安にさせた。
そもそもこうして逃げて隠れているけど逃げ切れたのだろうか。夢から覚めるまであの恐怖と戦わなければならないなんて、なんて悪夢なんだろう。
混乱した頭を無理矢理にでも落ち着かせながら、立ち上がる。
ぞくり
と嫌なものを感じた。気配。振り返るな。駆け出せ。見るな。
しかし
僕の体は無意識に後ろへと振り返ることを選択してしまった。
奴がいた。
あの影が
「助けて……」
近づいてくる影にどうすることも出来ない。ヘビに睨まれたカエルというのはこういう事なのだろうか。足がすくんで動けない。さっきは咄嗟だったが、今度はそうはいかない。
ゆっくりと影は近づいてくる。その何本もの腕を動かしながら。
「助けて……!」
誰にすがっているのだろう。僕自身の夢なのに。
「誰か助けてくれぇぇぇぇ!」
「承った」
声が聞こえた。あの女の子の声とは違う。誰かほかの人の声。
あの影の後ろには
二人の
人がいた
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