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D&Dから異世界に迷い込んだようですよ?

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1話

 
前書き
他の小説を書きながら、これも書いてしまいました。
他にも書いています。
ですので、更新が来るときは来ますが来ない時が来ません。
ご了承ください。 

 
 深く光が閉ざしだす夜。人が誰も住んでいないだろう廃墟。その片隅にある、唯一形が保っている屋敷。所々から光が漏れているその庭で、突然光が満ち溢れた。
 光は一瞬で収まる。その後黒い杖に身を預けて立っている男。着ているロープはボロボロで、全身傷だらけ。背中のバックだけが無事なようだ。
 耳がとがっているエルフの男。彼ウースは、暗闇をきょろきょろと見渡す。

「どうやら内方次元界ではないようだ」

 安堵のため息を吐きながら呟く。
 それで力尽きたのか、段々と体が倒れていく。

「駄目だ。限界だ。一度寝(トランス)ないと」

 そのままうつぶせに倒れて、意識を失った。
 屋敷から二人ほどの影が飛び出して、彼に近づいていく。

「ジン坊っちゃん!人が倒れてますよ」
「黒ウサギ。この人ひどい傷だ」

 ウサギの耳をつけた女と幼い少年が、ウースの状態を看る。

「ジン坊っちゃんは治療器を持ってきてください。黒うさぎはこの人を運びますので」
「分かった」

 黒ウサギと名乗った少女は、ウースを背負い少年にテキパキと指示を出す。ジン坊っちゃんと呼ばれた少年も、彼女の言う事に頷く。先に屋敷に戻っていった。
 黒ウサギは背中にいる意識のないウースに、ちらりと視線を向ける。

「エルフが何でこんなところに」

 彼のとがった耳を観察して、首をかしげた。疑問はそのままに彼女達は、屋敷に入っていったのだった。






 朝。部屋のベットの上で、ウースは目をさます。
 傷も癒えて、新しい洋服を着ている。
 自身の状態を確認すると、

「よかった。親切な生物がいるようだ」

 呟きながら回りを確認する。持っていた背負い袋と傷ついたロープ、それに杖は近くに置いてあった。
 部屋のなかに誰も居ない事を見遣る。
 すると足を組み、

「とりあえず状態の確認と呪文の選択だな」

 と呟いて目を瞑る。
 30分もしない内に目を開く。すると疲れたようなため息をついた。

「レベル(生命力)は下がってる。神話パワーも消えてる。結構やられたな」

 頭を手で押さえて落ち込んでいる。
 しかし落ち込んでいる場合ではないと判断し、

「まず、次元を移動した場合に、いつもやってる事をしよう」

 ウースは立ち上がり置いてあるバックに向かう。
 彼は手をバックに入れた。直ぐに本を取り出す。
 その本を幾分か黙って読み続けた。そのまま、本をバックに入れる。
 今度は幾つかの物質を、バックから取り出す。杖を手に持ち、

「タンズ。パーマネンシイ。コンプリヘンド・ランゲージズ。パーマネンシイ」

と唱えた。取り出した物は、詠唱とともに消える。彼の唱えた呪文によって、どんな言語でも会話でき読めるようになった。この効果は永続する。

しかし、

「これでほぼ生命力(経験点)はなくなったか」

 パーマネンシイは魔法を永続化するかわりに、自身の生命力(経験点)を使う。その為ウースは、同じように消費する呪文は使えなくなった。
 杖を壁に掛けて、再度手をバックに入れる。すると、手のひらの部分にぼんやり開いた青い手袋を出した。ヴァイル・プラスヒームというマインドフレイヤーの触覚で形成された手袋。それは彼の精神力(スペルポイント)を回復する事の出来る。しかも一日に複数回できるのだ。
 その気味の悪い手袋をつける。

「パワー・ドレイン」

 言葉を放つと、ウースの周りをきらきらと光の粒子が纏わりつく。その光は1分ほどで消えた。
 
「精神力(SP)は大体回復できたか」

 独り言と共に手袋を取り、バックの中に入れる。そのまま、バックに背を向けて歩く。ベットに到着して座った。
 数分ほど待つと、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」
「はいりますよ」

 ドアが開く。其処にはウサギ耳を着け肩が開きディーラー服。その服は彼女の立派な胸を強調している。ミニスカートは細い足を存分に見せ、黒ガーターがエロチックな雰囲気を出していた。
 全身を一瞬で観測した後、ウースが注目したのは、彼女のウサギ耳である。思わず、首を守るように触っていた。

(くびをはねられた!は実際勘弁な)

 彼女黒ウサギは、ウースの突然の行動に首を傾げながら部屋へと入っていく。

「目が覚めたようですね」
「ああ。君が助けてくれたのかな?助かったよ。ありがとう」

 言葉と共に頭を下げた。

「いえいえ。困った時はお互い様なのですよ」
「いや。助けられっぱなしと言うのもすわりが悪い」

 ベットから立ち上がり、ボロボロのロープを探る。中からハンカチのように折りたたまれた布を取り出した。それを広げると、中心に黒い穴が開いていた。ウースが其処に手を入れて、膨れた袋を握ったまま取り出した。
 呆然と立っている黒ウサギに近づくと、

「先に物納と言う形で悪いが受け取ってくれないか? もちろん、困っている事があれば何かしらの手助けはさせて貰う」
と言いながら袋を手渡す。
 彼女の手にずしりと重い感触が伝わった。恐る恐ると言う風に、ゆっくり袋を開く。袋の中には4個ほどのアクアマリンが入っていた。
 中を確認した黒ウサギが硬直する。

「もしかして、宝石は珍しくなかったかな? こっちの方がいいか?」

 次に穴から取り出したのは、白金に輝くスカラベ。所々に宝石の装飾が着いている。
 黒ウサギの口がぽかんと開いたままになる。
 黒ウサギの硬直を

(この次元界ではプラチナや宝石の価値が低いのか?)

 と思い言葉を紡ぐ。布はポケットにすばやく仕舞う。彼女は見逃していたが、ロープからそれと同じ布を幾枚も、着ている洋服のポケットに仕舞っていた。あまりの手先の速さに、黒ウサギは見過ごしていたのだ。

「他にミスラルやアダマンティンのインゴットならあるが・・・・・・貨幣は勘弁してくれないか。ここに来たばかりで持っていないんだ。」

 ぺこりとすまなそうに頭を下げた。
 その姿を見た黒ウサギが硬直から回復する。
 慌てた様に袋を突っ返す。

「こ、こんなに受け取れませんよ!」
「そういうわけにもいかない。とりあえずでいいから」

 押し付けあうように、袋が二人の間を往復する。
 お互い譲らない。ようやくウースが一歩引いた形で、
「じゃあ。こうしよう。何分私はこちらに来たばかりでね。拠点も宿もないんだ」

条件をだしていく。

「三日程で良いから、ここに住ませてもらえないかな? もちろん、恩返しとして私も何かしらはしよう」

人差し指を立てて、話を続ける。

「それともう一つ。私はこの世界の事をしらない。教えてもらえないかな」

 袋を黒ウサギに押し付けて、彼はにこりと笑った。
 その笑顔からこれ以上引く気がないことを悟った黒ウサギは、渋々と頷いた。





「箱庭ね。聞いた事のない世界だ」
「こちらもです。グルムーシュとかドル・アラーなんて聞いた事ありません」

 情報を共有した彼等は、互いの世界がまったく異なる事を理解しあった。

(とはいえ。こちらの神格もまったく聞いた事ない名前ではない。確かかつてあのツンデレハゲ……もとい師父と共に行った、世界の神格にあった筈の名前だ)
「セト。この名前に覚えは?」
「えっと。確か魔王の一体にそんな名前があった気がします」

 黒ウサギは頭に、細い指を当てて答えた。

(一応繋がりはあったわけが・・・・・・辺境。)

 色々考えがめぐるが、ウースは思考を閉ざす。

(まだ情報が足りない。結論を出すには早いな)

 感情を微塵も出さず、黒ウサギに話題を投げる。

(ギフトゲーム。神の試練を簡略化して、民間にも適用されている遊び。一種の法と考えてもいい。つまり)
「しっかりとした法律はある。その上にギフトゲームが存在していると考えていいかい」
「YES! 大体そんな感じです。しかしギフトゲームを使った詐欺まがいな事は、処罰されます」

 幾つかの情報交換をして、満足したのだろう。黒ウサギにウースは軽く頭を下げた。

「助かったよ。情報がまったく無くてね」
「いえいえ、これくらいでしたら」

 手を振り恥ずかしそうに答えた。

「いやいや、話によれば君達は、三年ほど前に魔王に襲われたのだろう? 今も色々物入りなはずなのに」

 ウースはすまなそうに話を続ける。先ほどの住居に住まわせてもらうのが、心苦しいようだ。

「た、対価は十二分に貰っているのでお気になさらず」

 上擦るように声を張り上げて黒ウサギは答える。

「それでですね。是非ともわがコミュニティに入ってもらいたいのですが」
「まぁ、それは三日後にね」

 彼女の誘いを、ウースは凪のように流していく。

「君たちが色々大変なのは理解したし、命を助けてもらった義理がある。だから、手助けはさせてもらう。だけど私も此方に着たばかりなんだ。もう少し、待って欲しい」
「・・・・・・了解です」

 彼の答えに、黒ウサギは残念そうに頷いた。しかし、自身が急ぎすぎていたのを理解していたのだろう。彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。此方も性急でした」
「いやいや、先ほど言ったとおり君達が大変なのは良くわかっているから、気にしなくていい」

 ウースも困ったように、頬を掻いていた。
 その性か。二人の間に、妙な空気が流れた。
 その雰囲気を振り切るように、黒ウサギは立ち上がる。

「それでは! 我々の仲間とリーダーを紹介しましょう」

 案内するようにドアの方へと足を向けた。ウースもバックと杖を持って彼女に続く。

(流石に黒ウサギ達の現状は誤魔化せません。ですが、旗と名の事は話していない。三日くらいならごまかせる筈です)

 廊下に出て歩ている。
 黒ウサギに案内されながらも、周りを観察していた。
 例えば、立派な廊下で在りながら、何も芸術品が飾っていない事。所々埃が溜まっている事等々。
 ローグとしての技術を学んだ彼にしてみれば、色々解かる事があった。

(廊下の長さや階段からして、豪商か貴族の屋敷っぽいな。だが、掃除が行き届いていない。やはり結構大変な状況なようだ)

 それなり歩いて階段もありながら彼は、黒ウサギが住む場所の事を考えていた。
 
(だが彼女もまだ何か隠し事をしているようだ。これで色々と不相応なリーダーだった場合…………)

 思考を巡らせながら屋敷の中を歩いていく。二人はずっと黙ったまま歩いている。
 黒ウサギもウースに、話しかけられる状況ではなかった。

(できれば彼には仲間になってもらいたいものです。先から感じる力強さ。それに、黒ウサギ達の現状を憂いてくれているようですし)

 彼女も彼女で色々考える事が多いようだ。
 途中大きな木製の扉の前で、黒ウサギは立ち止まる。

「ジン坊っちゃん。昨日のエルフを連れてきましたよ」
「うん。入って、黒ウサギ」

 扉から聞こえた幼い響き。それを聞いて、ウースのとがった耳がピクリと動いた。
 扉を開いて二人は中に入っていく。
 応接間のような部屋に、一人の緑色の髪をした幼い少年が書類を整理していた。
 顔を上げて、黒ウサギのほうに目をやる。
 彼女は何かを確認するように頷く。

「彼があの時倒れていた」
「ウース=イースだ。よろしく」

 黒ウサギの紹介を遮り、彼は自身の名前を明かした。
 それに答えるように立ち上がった背の低い少年は、

「ジン=ラッセルといいます」
と頭を下げた。

(アウト。さあてどうしようか)

 ウースは明らかなわけ在りの様子に、自身の感情に思わず問いかけるのだった。 
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