なかったことに
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3部分:第三章
第三章
「申し訳ありませんが」
「迷惑なんですがね」
忌々しげにだ。青年は言うのだった。そのソバカスのある顔はむくんでいる感じだ。そしてその目はだ。妙に濁った感じであった。
その彼を見てだ。本郷と役は。
今は黙っていた。警部に任せたのだ。
そして警部はそれに応えてであった。青年とやり取りをするのだった。
「もう一度です」
「またなのかい?」
「はい、お話をお聞かせ願いたいのですが」
「だからもう何度も話したじゃないか」
やはり忌々しげに返す青年だった。
「ベネットは朝マミィが起こしに行ったらもう」
「お亡くなりになられていたのですね」
「そうだよ」
そうだというのである。
「本当にそれだけだよ」
「そうですね。それは御聞きした通りです」
「そういうことだよ。ところで」
ここでだ。青年はだ。
本郷と役を見た。そのうえでこう言うのだった。
「こっちのアジア系の人達は?」
「探偵です」
警部がこう紹介するとだった。
本郷と役もだ。一礼してからだ。こう話すのだった。
「はじめまして、日本から来ました」
「宜しく御願いします」
「日本?ああ、あの国の」
青年はそれを聞いてだ。まずは目をしばたかせた。本郷と役はその目を見た。そのことは言わずにだ。青年に対して己の名前も話した。
「本郷忠です」
「役清明といいます」
「日本人なんだね」
「はい、そうです」
「その通りです」
また話す二人だった。
「とはいいましても仕事ですが」
「それで来ていますが」
「そうだね。日本も日本人も嫌いじゃないけれど」
それもだとだ。青年は彼等にも忌々しげな顔を向けてだ。こう話すのだった。
「ベネットの件で来てもらっても。迷惑だよ」
「まあそう仰らずに」
ここでまた言う警部だった。そうしてだ。
青年に対してだ。こう尋ねるのだった。
「ご両親はおられますか?」
「ああ、いるよ」
青年は不機嫌そのものの声で話した。
「二人共ね」
「では早速ですが」
「やれやれ。そうしてまた疑うんだね、僕達を」
「疑ってはいません」
「実際に疑ってるじゃないか」
またこう言う青年だった。
「だから何度も来るんじゃないか」
「あの、それでも」
「わかったよ。じゃあね」
「はい、御願いします」
こうしてだ。その両親とも会うことになった。父親は頭の禿げたやはり肥満した男である。母親もだ。三人共実に肥満していた。
その彼等もまた忌々しげに話す。とにかくベネットは朝起きたら死んでいた、自分達が知っているのはそれだけだとだ。こう話すばかりだった。
警部はその事情聴取の他にもだ。二人を屋敷の中のあらゆる場所を案内して見てもらった。ただし青年が付き添っている。屋敷の中はやはり広い。部屋もかなりの数だ。バスもトイレも幾つもある。そして使用人達もいた。どの使用人達もだ。かなり太っている。
事情聴取と屋敷の中の取調べが終わるとだ。三人は追い出される様にして屋敷を出た。そしてそれからであった。
帰りの車中でだ。二人はだ。運転している警部にこう尋ねられた。
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