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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第1章:平穏にさよなら
  閑話1「とある休日」

 
前書き
ただの日常回です。...というか蛇足です。
優輝にはこんな事もできるんだ程度に捉えるだけでいいと思います。

...いざとなれば読み飛ばしてもなんの支障もないし(ボソッ
 

 


       =out side=



「....ん.....。」

  カーテンの木漏れ日に当てられ、亜麻色の長髪を持った少女....聖奈司は目を覚ます。

「ふわぁ....。久しぶりにゆっくりできるかな。」

  ついこの前にあった魔法関連の事件で、彼女も少なからず疲れていた。
  なので、この休日でゆっくりと休みたいのだろう。

「とりあえず顔を洗ってこよ。」

  彼女には優輝と違って家族がいるため、別に朝食を用意する必要はない。
  だから、のんびりと顔を洗いに洗面所へと向かった。





「ごちそうさま。」

  手を合わせ、食べ終わった時の言葉を紡ぐ。

「(宿題も終わってるし、特になにかしたい訳でもないし...どうしよう?)」

  適当にのんびりしててもいいが、それでは暇になるため何かした方が彼女にとってはいいらしい。

「....天気もいいし、適当に散歩しようかな。」

  空は見事に晴れ渡っていおり、絶好の外出日和だ。
  そういう訳なので、彼女は外出の準備を整え、親に一言言ってから家を出た。

「...って、行き先も明確に決めてないや。...ま、いっか。」

  特に行き先を決める事もなく、心赴くままに散歩をするようだ。







「八束神社....那美さん、いるかな?」

  ふと辿り着いたのは八束神社。彼女はそこで以前の事件で知り合った巫女の女性の事を思い浮かべる。事件以降一度も会っていないのだ。

「...あ、いた。」

「あれ?あなたはえっと....。」

「聖奈司です。」

  階段を上りきり、境内を掃除していた那美と挨拶を交わす。

「そうそう。司ちゃんだったね。...あの時はありがとうね。」

「いえ、それほどでも...。」

  司は那美がアースラにいた時、なにかと同じ地球の人として色々と付き合ってあげたりしていたのだ。おかげで、那美にとって不慣れなアースラでの生活も難なく過ごせた。

「...そういえば、ちゃんと魔法の事は喋ってませんよね?」

「あー...秘密にする事自体が無理だったんだよね...。」

  そう言って溜め息を吐く那美に、司は訝しげになる。

「...実は、私が住んでる寮...さざなみ寮って言うんだけどね?そこに心が読める人がいて...。」

  曰く、リスティ・槙原という女性がそんな能力を持っていてばれてしまったとの事。...どうやら秘密にすることには同意してくれたようで難を逃れたようだが。
  その事に司は驚きはしたものの、苦笑いで済ませた。

「...この街って、案外普通の人が少ないですね。」

「今更ながら私もそう思うよ。...あ、心が読める人がいるっていうのは秘密ね?」

「分かってます。」

  司が知っているだけでも魔導師、人外レベルな剣士、吸血鬼、退魔士、式姫、神様と超人揃いだ。...普通の方が少ない。

「...でも、秘密にするのはいいんだけど、あの時...確か、薔薇姫さんだっけ...?」

「あ....。」

「彼女が死んでしまったのが、どうしても心に残ってて...。」

  司は那美が薔薇姫は生きている事を知らない事に気付く。

「えっと...実は...。」

  とりあえず、説明する事にした。



「...良かったぁ...死んでなかったんだ...。」

「...厳密には一度死んだようなものらしいですけど...まぁ、本人たちが良ければいいですよね。」

  一通り説明し、那美はホッとする。

「では、そろそろ行きますね。」

「うん。またね。」

「はい。」

  そう言って司は八束神社を後にする。

「(...尤も、行き先はないからどこへ行こうか...。)」

  散歩と言ってもルートを決めていないため、無計画だ。
  結局、放浪するように散歩をすることになった。







「....因果の如くここに来ちゃうなぁ...。」

  しばらく散歩し続け、そろそろ疲れてきた頃、司はある店に辿り着く。

「喫茶翠屋...お母さんからもし外で食べる場合のためのお金も貰ってるし、ここでお昼も済ませちゃおうかな。」

  海鳴市でも有名な翠屋に司はよく寄っているのでついついここに来てしまったのだろう。
  だが、ちょうどいいのも事実。そのまま司は店内へ入る。

「いらっしゃいませー。」

「...あれ?」

  店に入り、出迎えた店員を見て司は首を傾げる。
  自分と同い年くらいの、長めの黒髪と綺麗な黒目の可愛らしい店員。
  普通なら“こんな同い年の子がどうして翠屋の店員を?”程度の疑問なはずだが、司はどこか既視感を感じたので首を傾げていた。

「お一人様ですか?」

「あ、はい。」

「では、こちらにどうぞ。」

  綺麗な声に促されるまま、空いている席に案内される。

「...あれ?司さん?」

「あ、緋雪ちゃん。」

  案内された席の隣には、緋雪が座っていた。
  他にも椿と葵が座っていた。

「かやのひめちゃんと薔薇姫さんも?」

「あ、今はもう草野姫椿という名前よ。椿の方で呼んで頂戴。」

「名前、変えたんだよね。君が司?あたしは薔薇姫。今は薔薇姫葵って名乗ってるよ。葵って呼んでね?」

「そ、そうなんですか。」

  名前が変わっている事と、一応初対面の葵にどもりつつも返事をする司。

「....あれ?」

  そこでふと、司はある事に気付く。

「優輝君はいないの?」

  そう、いつも緋雪と一緒にいるはずの優輝がいないのだ。
  椿と葵もいるのに、優輝だけいないのに疑問に思う司。

「あー、えっと、お兄ちゃんはね...。」

「この店の手伝いをしているわ。...始めてこの店に連れてこられたかと思ったら、当の本人は手伝いに回るんだもの...のんびりできても、優輝がいないと...。」

「あ、そうなんだ。」

  店のバイト...というか、年齢的にお手伝いをしていていない事に納得する司。
  ちなみに椿の後半の言葉は聞き流したようだ。

「それにしてもお手伝いって事は裏方?ざっと見たけど接客はしてなさそうだし...。」

  そう言いながら店内を見渡す司に、緋雪達は少し笑いを堪える。

「ど、どうしたの?」

「いやいや...ちょっとね...。」

  とりあえず、注文しようと司は適当にメニューを選び、店員を呼ぶ。
  
  偶然なのか、先程の店員が来た。

「ご注文をお伺いします。」

「えっと、ミートスパゲッティと、アイスティーを。アイスティーはミルクと砂糖をお願いします。」

「はい。ミートスパゲッティと、アイスティーですね。以上でよろしいでしょうか?」

「はい。」

「では、しばらくお待ちください。」

  慣れたような手際で司の注文を承った店員。
  それを見て、やはり司は首を傾げる。

「(...どこかで会った事あるのかなぁ...?)」

  会った覚えはないのに、既視感がある。その事に司はもやもやしていた。

「っ....!っ...!」

「....あの、なんでそんな笑いを堪えてるの?」

「だって...だって....!」

  さっきよりも笑いそうになっている緋雪にさすがの司も少し苛立った。

「お兄ちゃん...どうしてあんな....ぷっ、ふふ...!」

「.....えっ.....?」

  つい漏らした緋雪の呟きに、司はさっきの違和感が解消されると共に言葉を失った。

「まさか....今のが優輝君...?」

「そ、そうだよ...。」

  信じられないのか、そのまま固まってしまう司。

「(そ、そういえば、前世で....!)」

  司はそこで前世のある出来事を思い出す。
  かつて通っていた高校で、一人のクラスメイトが文化祭で女装させられ、異様に似合っていた事を...。

「(...だとしたら、既視感があるのも納得...かな?)」

  そのクラスメイトと優輝は似ているため、納得しかけた。
  ただ、まだ信じられなかったが。

  少しして、先程の店員が料理を持ってきた。

「お待たせしました。ミートスパゲッティとアイスティーです。」

「あの....優輝君...なの?」

  全くいつもの優輝と違う店員に、恐る恐る司は聞いた。

「.....ばれた?」

「.......。」

  いつもの声...ではないが、いつものような雰囲気に戻って店員...優輝はそう返した。
  
「どうして、女装なんか....。」

「えっと実は―――」





       ~一時間前~



「ここが...翠屋?」

「うん。士郎さんがマスターをしている店だよ。」

  優輝は緋雪と共に椿と葵を引き連れ、翠屋に案内していた。

「いらっしゃいませ....っと、優輝君達か。」

「こんにちは、士郎さん。」

「椿さんと葵さんはこの店は初めてだね。」

  珍しくさん付けで椿と葵を呼ぶ士郎。

「呼び捨てでいいわ。」

「見た目年下なのに敬称は違和感あるよね。」

「そうかい?だったらそうさせてもらうよ。」

  士郎は相手が年上且つ神様だという事もあり、敬称を付けていたようだ。

「じゃ、席に案内するよ。」

「はい。」

  優輝たちは士郎に案内され、席に座る。

「注文は決まってたりするかい?」

「いえ、椿と葵が...。」

「じゃあ、決まったら呼ぶようにね。」

  そう言って士郎は店の奥へと去っていく。
  しばらくして、優輝たちは料理を注文した。

  そして、食べ終わった後...。

「....うん。ちょうどだね。...どうしたんだい?」

「あ、いえ、ちょっと...。」

  お金を払い、しかし何か悩んでいる優輝に士郎は声をかける。

「...この前のお弁当のお礼として、何かしようかと思って...。」

「なるほど...。なら、店を手伝ってみないかい?」

「えっ...?」

  士郎は優輝にそんな提案をする。

「...自分で言うのもなんですけど、小学生を働かせるのは...。」

「まぁ、そうなんだけどね...。優輝君の意見を優先するよ。僕にとっての、恩を返す一つの手段だと捉えてくれればいい。」

  そう言われて優輝は考え込む。つまりは自分の意志次第なのだ。
  ....労働基準法とかは置いておいて。

「....じゃあ、やらせてもらいます。」

「そうかい。じゃあ、桃子に話を通してくるよ。しばらくしたら呼ばれると思うし、桃子の指示に従ってね。」

「わかりました。」

  士郎にも仕事があるため、すぐさま仕事に戻る。

「(バイト...いや、本当にお手伝いだと考えればいいか。)」

  そんな事を考えながらさっきの席に戻り、緋雪たちに説明しておく。
  しばらくして、桃子に呼ばれ、奥へと入っていく。

「....あれ?あの、桃子さん?これって...。」

「ええ。似合うと思って♪」

「...元々恩を返すためですし、こうなればとことんやってみますよ。....経験もあるし。」

  渡された服は....女性のものだった。ご丁寧にウィッグなども用意されている。
  一体どうやって似合うかどうか見極めたのか謎だが...優輝は諦めてソレを着用した。

「声とかもしっかり変えるので、驚かないでくださいね?」

  そう言って、店員の服を着用...もとい、女装が完了した。

「あー、あー、あー....こんなものですかね?」

「...正直、予想以上だったわ。」

「では、接客してきますね。」

  そう言って優輝は接客へと向かっていった。...明らかに男とは思えないような仕草も伴って。
  ...実は優輝、結構ノリノリだったりする。





       ~~~☆~~~





「―――って事。」

「説明を受けた時は私達も度胆を抜かれたわよ...。」

「お兄ちゃん、似合いすぎ...。そして、似合う事を見抜いた桃子さん凄すぎ...。」

  別に女性らしい服を着ている訳でもないのに、ウィッグとかで完全に女性に見えるのは、おそらく優輝自身の資質かもしれない。

「じゃあ、僕...私は接客に戻るからね。」

「...優輝君、ノリノリだね...。」

「ノリノリになる事で羞恥心とかをなくせるんだよ。」

  そう言って、優輝はまた入ってきた客の応対に向かっていった。

「いらっしゃいませ~。お二人様ですか?」

「えっ、あ、はい。」

「では、こちらにどうぞ。」

  優輝が応対した客はこれまた知り合いのアリサ・バニングスと月村すずかだった。

「ご注文が決まりましたらお呼びください。」

「あ、はい。」

  やはり、アリサ達も優輝の女装姿に違和感を持っていた。
  すると、司は苦笑いしながら二人に近寄って...

「二人共、実はあれ、優輝君なんだよ。」

「えっ....嘘っ!?」

「私も驚いたよ~。」

  立ち振る舞いが完全に女性のものなので、違和感は感じるものの、一切正体が分からない。
  だから、知り合いが見るとここまで違和感が生じるのだろう。

「(前世の文化祭の経験がこんな形で活かされるとは...。結構、楽しい...♪)」

  やはりこの男(の娘)、ノリノリである。

「きゃぁあああ!!?」

「っ....!」

  突然店内に響き渡る悲鳴。咄嗟に優輝が声のした方...店の入り口を見ると、そこには覆面をした男が5人立っていた。...しかも銃を持って。

「全員、動くんじゃねぇ!」

「(...手にバッグを持っている。膨らんでいる所を見るに、強盗か何かした後か?それで警察に追いかけられてここに逃げ込んできたと...。)」

  外を見ればパトカーも集まっていた。優輝の推察通り、強盗の後逃げ込んできたのだ。

「てめぇらは全員人質だ!怪しい動きをしたら見せしめとして殺してやる!」

「ひっ....!?」

  そう言って一番近くにいた、さっき悲鳴を上げていた女性に銃が突きつけられる。

「(見たところ、全員銃を持っている。多分、銃以外にも凶器は持っているだろう。)」

  典型的な強盗。そう結論付けた優輝は奥にいた士郎と恭也に目配せをする。

「...ついでだ。おい、そこのガキ。この店の有り金全部この鞄に詰めろ。」

  そう言って強盗は近くにいた優輝にまだ空きのあるバッグを投げつけられる。

「....早くしろ!」

「は、はい!」

  怒鳴られ、つい返事をする。...という演技をし、レジまで行って一瞬だけ強盗達の視線が逸れた瞬間...。

「はっ!」

「なっ!?ぐっ!?」

  レジにある鉄製のお金を置くトレイを、女性に銃を突き付けている男に投げつけ、持っている銃を弾き飛ばす。

「っ!?このガキ...!」

「....シッ!」

  レジから横に飛び退き、銃で狙われる直前にしゃがみ込む。その際にふわりと浮きあがったスカートから覗く、太ももに着いているベルトから投げナイフを四つ取り、投げる。

「ぐっ....!?」

  強盗達は揃って銃を取り落としてしまう。
  もちろん、殺傷沙汰を避けるため、刃引きはしてある。

「はっ!」

「ぜぁっ!」

  すかさず、待機していた士郎と恭也が飛び込み、二人ずつ仕留める。

「このガキャァアア!!」

「っ....!」

  残った一人がナイフを取り出し、優輝に襲い掛かる。
  それを見た周りの人達は悲鳴を上げる事すらできずに、見ている事しかできなかった。
  ....が、

「...はっ!」

「ぐぅっ!?」

「せやっ!」

「おぐっ!?」

  強盗の突っ込んできた勢いを利用して投げ飛ばすように叩き付け、その上さらに、がら空きになった胴体へ全体重をかけて肘打ちをする。

「お客様、店内で乱暴はいけませんよ?」

「ぐ....くそ...が.....。」

  念のため、ナイフを手から弾き飛ばし、気絶したのを確認する。

「士郎さん、後は任せます。」

「ああ。...しかし、いつの間にそんなベルトを?」

「いつか役に立つかと思って...。」

  ちなみにこれらは女装を想定しており、ベルトとナイフはレアスキルの創造で作ってある。
  ...一体、なぜそんな事を想定していたのだろうか。

「助かった...のか?」

「店員さんがやっつけたの...?」

  周りの客からちらほらとそんな声が漏れる。そして....

「「「「「おおおおおおおーーっ!!」」」」」

  歓声が上がる。強盗が入ってきたのを店員が撃退したのだから、当然かもしれない。

「(あちゃー...こりゃ、完全に営業に戻れそうにないなぁ...。)」

  強盗が入った時点でその日は営業に戻れる訳がないのだが、優輝はそんな事を暢気に考えていた。一応、誰かの命を失う危険があったのは承知しているため、現実逃避的な事を含めてそう思っただけなのだが。

「(まぁ、巻き込まれたら徹底的にやる性分だし、仕方ないかな。)」

  そう結論付け、入ってきた警察の事情聴取を受けに行った。









「...色々あったなぁ...。」

  夕暮れの帰り道、司は一人でそう呟いた。

「優輝君の女装とか、強盗とか...あれ、休日ってなんだっけ...?」

  あまりにも多くの事があったため、司にとって休日という感覚ではなくなっていたようだ。

「...それにしても、優輝君...。」

  思い起こすのは、女装していた優輝の雰囲気や声、仕草。

「そっくりだったなぁ....。」

  司は、そのどれもに()()()()()()()

「....ふふっ。」

  かつての...そう、前世の事を思いだして司は笑った。
  ()()()()()()()()()()()....と。

「....さーて、明日も休日だから、明日こそちゃんと休もう。」

  軽く伸びをしながら、司はそう言った。







   ―――どこか憂いを帯びた眼差しで、夕日を眺めながら....。









 
 

 
後書き
第2話で前世で女装させられたという事を優輝が地の文で言っていましたよね?実はあれ、この話の伏線だったんですよ!(伏線というかこんな話がやりたかっただけ)

...と言う訳で、優輝の特技(?)の一つ、女装でした。
本当はメイド服で強盗の時に“戦うメイドさん”にしたかったんですけど...。無理でした。

前書きにもあった通り、いざとなれば読み飛ばしてもさして影響はない話です。(伏線みたいなのがあるとか言っちゃいけない。)

...まだ、閑話は続きますよ?この話は一話完結ですが。
 
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