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大刃少女と禍風の槍

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番外『交わる世界』
  交節・『戦慄』なる者と吹きすさぶ【禍風】

 
前書き
コラボ第一弾!
本編も進めずに何やってんだ! と言う突っ込みは無しの方向で……。


今回は迷い猫さんのSAO二次からオリジナルキャラクター、薙刀使いな戦慄の葬者『フォラス』が参戦。

もしグザが居るアインクラッドが、ボーンアックス執筆中の世界では無く別の世界だったら? というIFにて展開されます。
グザのレベルも近辺状況も違いますし、ネタバレしても良い範囲で力を出してきます。
……とはいえ彼自身、序盤とはいえど既に本編で色々仄めかしてますが……。


 それではどうぞ。
 

 
 
 デスゲームたる『ソードアート・オンライン』―――その部隊、浮遊城・アインクラッド。 
 百層からなる構造を持つ城の中でも、取り分け景観が良いとは言えない…………具体的に言えば空が一面厚い雲に覆われ、雨の降りやまぬ湿度の高い森林地帯。

 黒雲で太陽が見えないと言うのに、それに加えて鬱蒼と木々が生い茂る為、陽の光を殆ど遮っており昼間なのに視界が悪くなっている。


 そんな、出来れば歩きたくない林道を一人の“少女”が、雰囲気に似合わぬ軽い足取りで歩いていた。

 痩せ型小柄な体型に、ポニーテイルな黒髪と可愛らしい黒眼、そして150㎝前半代の低身長。
 黒い装備も相まって正に全身 “黒尽くめ“ であり、この薄暗い雨中な森林では、逆に影が浮いて目立つ程だった。


「そう言えば此処に居るんだよね……件のプレイヤーが」


 “彼女”はそう呟き、先に話し合われていたトッププレイヤー達の会談を思い出す。


 その話をまず簡潔にまとめれば、攻略を進めている最中(さなか)にとある一人の男性プレイヤーと、トップギルドである《血盟騎士団》の一部隊が出会ったらしい。
 だが、何故に話題として上がったのか?
 ……出会ったそのプレイヤーはパーティーも組まず一人であったものの、ソロプレイヤーならば数が少ないだけでちゃんと前線にも存在している。


 ならば、何がおかしかったのか―――――それは彼が、今の今まで『全く知られていなかった』プレイヤーだったからなのだ。

 オマケに実力が規格外に高く、何故ずっと名を轟かせなかったのか不思議に思えるぐらいで、生真面目な《血盟騎士団》の副団長などは “明日からでも攻略に参加しろ” と詰め寄ったほど。
 ……尤もその小言は、相手の『一応ボス戦以外では、ちゃんと参加していたんだけど』との言葉で、詰まらざるを得なくなったらしい。

 だが謎を残していることには変わりなく、その所為で瞬く間に噂が駆け巡り、“少女”もまた耳にした―――と言う訳だ。


 されど、実際の所 “少女” の興味は、謎だの攻略に参加しろだのと、そんな当然かつ真面目な所には無い。
 “彼女” が気にしているのはもう一つの噂……攻略組プレイヤーとのデュエルと、その勝敗に有った。

 何でも、とある一人の《血盟騎士団》に所属する幹部プレイヤーが、傍から見れば中々動かない様に見える彼に痺れを切らし、『初撃決着モード』のデュエルを挑んだのだとか。
 勿論、それは“彼”の身と攻略効率を案じての事だし、受けるデメリットも無いからと、“彼”の方もまたヘラヘラ笑いながらそれを受けたらしい。

 そして行われたデュエルの結果は―――――


「う~ん……まさか、開始“一秒ちょっと”で瞬殺とはね」


 ―――何と、勝負にすらならなかったという。

 誤解を恐れずに言うなら、幹部プレイヤーは弱くもなく寧ろ強者に部類し、未知数な部分もある為に油断をしていた訳でもない。
 ただ圧倒的に“彼”が強く、恐ろしく速く、格が上だっただけなのだ。

 その後、“彼”は『自分に納得がいかないなら、何時でも勝負を挑みに来て良い』……そう言い残して、この週間降雨量がどれだけか図るのも億劫そうな、常時雨降りエリアを名指しした。


 そして、その物好きな挑戦に臨む者こそが、今此処にいる“彼女”らしかった。


「何処まで強いんだろう……ちょっと楽しみになって来たかな」


 ブルリ、興奮と気温の両方から背筋を震わせて、少女は指定された場所を目指しひた歩く。
 と、一瞬だけ“彼女”は後ろを向き……不思議そうに小首を傾げながら、再び前に戻した。


「それにしても、アマリは何で来なかったんだろ? 別行動中では有るけどさ」


 友達らしき『アマリ』と言うらしき人物の名を口にし、歩く速度は緩めぬままに、心底不思議そうな声色で紡ぐ。
 どうもそのプレイヤーもこう言った荒事や謎事に興味を示す質らしいので、よく知っているであろう間柄とくれば尚更に不可思議に思うのだろう。


 振り払えぬ違和感を脳裏に留めたまま、振り続く小雨の中を行く事更に数分……。


「あ。あった」


 巨大なキノコや特徴的な形の葉っぱに囲まれ、そこら一帯だけ濡れていない広いスペースが現れた。
 此処はゲームで言う安全地帯であり、モンスターも出現しないので休憩にはもってこい。

 ……なのだが湿度が高い事に変わりはなく、地面にコレでもかと生える雑草に苔むした切株、食べても良いのか分からないキノコに時折通り過ぎる虫と、外観が良いとは言えないのもまた事実なのだ。
 

 と―――件のプレイヤーらしきものが切株に腰かけており、“少女”から見て背を向ける体勢で何やら青い“何か”を漂わせている。

 兎も角、お目当てのプレイヤーに出会えたのだからと、“彼女”は嬉々として歩みを進め、男性プレイヤーまで大きく近付く。


「えっ……?」


 そして―――絶句し、固まった。

 それはプレイヤーに似たキノコだったとか、イベントモンスターであっただとか、そういったオチから来るモノではなく……彼の格好にあった。


(は、半裸……? それに、全身刺青……?)


 男性の装備はある意味で奇抜であり、まず下はズボンをはいてグリーブまで付けているのに対し、上半身は細い布を右肩から斜めに掛けただけの『半裸』。
 黒人並な肌でも目立つぐらい、体中に刺青が彫られていて、差し詰め見た瞬間の第一印象は『刺青半裸などこぞの部族』がピッタリな容姿である。

 更にヘアバンドを巻いている事から、恐らく正面から見ると目が半分隠れているであろう事も窺え、そんな不気味に不気味を足した容姿に似合わない、繊細な『勿忘草色』の短髪もまた目を引いた。

 予想外にも程がある容姿から固まってしまった“少女”に、男性は背を向けて居るからか、ブルーベリー色のパイプを吸いながら、時折濃く蒼い煙を長く吐き出す。


 当然、背後の“彼女”には気が付いていない。




「……こりゃ珍しい。日に三度も来客があったのは、今日が初めてやね」


 ―――――かと思いきや何と、後ろにも目が付いているのか、男性が“少女”へ話しかけてきた。

 “少女”もまた混乱からはすぐに立ち直り、まずは此方からも言葉を返すべきだと、笑みを浮かべて口を開いた。


「へぇ、大盛況だったんだ。誰が来たの?」


 “少女”のその言葉に目の前の男は、一旦煙を吐き出すと苦笑し、


「一人目は兎も角、二人目がちょいと狂気じみてたわな。『いくですよー』とかぽや~っとしてた癖に、デュエルが始まった途端『あっはぁ!』とか笑いながら斧ブン回してきたやね。やー驚いた驚いた、っと」
「……えっ?」


 告げられた詳細に思わず、と言った感じで“少女”の目が軽く見はられた。


 それもその筈―――実は、今しがた男性が告げた人物の特徴こそ、“彼女”の友人であるアマリの物なのだ。
 使う武器然り、狂気染みていたという所然り、そして笑い声然り。
 これで別行動であった理由がハッキリし、“少女”はそんな行動など何時も通りなのか苦笑を浮かべていた。


「そういえば……そのプレイヤーはどうだった?」
「パワー方面に吹っ切れ過ぎでなぁ。防御力は高かったが、本体が致命的に遅いのよ。……ま、取りあえず簡単に言うなら『蹴っ飛ばして』勝ったわな……フゥ~ッ……」
「……!」


 まるで何でも無い事の様に告げられた勝敗内容に、今度こそ“少女”の眼は思い切り見張られる。


 蹴られた事を怒っている訳ではない、アマリが負けた事に驚いているのだ。
 しかも……憶測となるが、言いぶりからして[別段苦戦もせずに]勝ったのだろう事に、驚愕を隠せないでいるのだ。

 アマリは決して弱くは無い。
 それどころか先に挙げられた《血盟騎士団》幹部プレイヤーよりも実力は上。
 加えてパワーが尋常ではなく、掠り傷さえ致命傷となり得る。

 今やトッププレイヤー内の実力ランキングでも、上から数えた方が早いぐらい屈指の力を誇るのがアマリ―――――にも拘らず、目の前の男は勝ってしまったのだ。

 ギリギリではなく、ごく普通に。
 まるで、何でも無い事の様に。


(アマリを……“あの” 重量を蹴っ《飛ばした》だって……?)


 更に言うならそのアマリの持つ斧は、今存在する攻略組のプレイヤーのメインウェポン中最大重量を誇り―――アマリ本人だけだというなら未だしも、それを手にした彼女ごと飛ばすのは“不可能”に近い。

 目の前の男の不可思議さが、加速度的に増していく。


「それで如何すんだい? お前さんも、オレちゃんと闘うんかい?」


 “少女”が深い深い思考から解き放たれたのは、男性が未だに其方を向かぬままに声を掛けてきてからだった。


「闘うよ。元よりその心算で来たんだしね」
「ヒヒハハハ! そうかいそうかい、了解したわな」


 腕を添え、肩へ(もた)れかかるよう置いていた槍を蹴りあげると、手慣れた動作でキャッチしクルクル弄び始める。
 “少女”もまた己の得物である薙刀を抜き、右指を揃えて振ってメニュー画面を、次にデュエル申請のボタンをクリックする。

 デュエルすることは決まっているので特に突っかかりも無くするする受理され、頭上にカウントダウン表記が現れた。


 男性の方は『グザ』と言うらしく、『フォラス』と言う名の“少女”は、そういえば名前は知らなかったと今になって気が付いていた。


「へぇ、フォラスかい……有名だわな? 女みたいな男性プレイヤーだって」
「あははは、なんか変な方向で有名なんだね」


 ……訂正、どうやらフォラスは少女ではなく“少年”であった様だ。
 それに対してグザも殆ど驚いていないあたり、大して秘密裏にされている事柄でもないらしい。

 尤も―――真剣身を帯びた空気が漂う所為で、そんな方向へ思考を流している暇など、もう既に存在していないのだが。


(……槍使いなんだ)


 このデュエル開始数十秒前と言う限られた時間の中、まずフォラスが注目したのはグザのメインウェポンだった。

 フォラスの薙刀【雪丸】は、刀身込みで三メートル近い長さを誇る“遠距離系武器”であるのに対し、グザの槍は二メートルあるかも疑わしい片手槍であり、どちらかと言えば“近距離武器”に入る。
 リーチで有利なのは最早言うまでも考えるまでも無く……しかし、それに奢る事をフォラスは決してしない。

 何せ相手は己の相棒・アマリに勝ち、前線を一人で生き抜いてきた、未知の部分が大きい初対面のプレイヤー。
 見た限りではヘラヘラした笑いを崩さないが、その顔の裏に何を考えているのか、フォラスには皆目見当など付かない。

 何より腕脚が長く、身長すら如何見ても190代はあり、武器を含めぬプレイヤーそのもののリーチは彼の方が上。
 間合いを紛えばピンチとなる事受け合いだ。


 そうしてフォラスもグザも構えを見せずに、間もなくカウント十五秒前になった途端……彼なりの構えなのか、次第にフォラスの身体がユラリ、ユラリと揺さぶられ始めた。
 これからの行動に支障をきたさぬ為のルーティーンか、それとも本当に彼なりの構えなのか。

 一方のグザは片手に槍をぶら下げたまま、以前として薄笑いを止めようとはしない。
 まだ構えている分、フォラスの方がずっとマシだといえた。


 時間は当然止まらない。
 あと7秒、6秒、5秒、4……3……と終わりに近づき、DUEL! と大きく文字が瞬いた。



 刹那…………フォラスの姿が掻き消えた。


「!」


 視界から完璧に消えた彼を、もしこの場に何人もプレイヤーが居たとして、果たして目で追えたと言えるものは何人いるのか。

 その驚異的なスピードに、グザの顔に初めて笑み以外の感情が―――驚愕の感情が浮かんだ。





「うぉわあっ!?」


 ―――――しかし謎の[乾いた音]と同時に驚愕の“声”をあげたのは、何時の間にかグザの右隣に陣取っていたフォラスの方だった。


 見るとグザは正面を見据えているのに、右足での横蹴りをフォラスの薙刀目掛け、繰り出している。
 オマケに打ち払うのみで満足せず、距離こそあれどフォラスの顔面に突き付けられており―――何時でも脚裏で打ち据えられる態勢だ。


 慌てて大きく距離を取るフォラス。
 ……が、されどグザは追随もせず、肩に槍を担いで彼を見やるのみ。


「いや、驚いた驚いた。中々のスピードやね」


 言いながら字面とは正反対の、軽薄そうな笑顔を浮かべるグザ。

 そんな気の軽げなあんちゃん風情はそのままに、決して『鋭い威圧感』を霧散させようとはしない彼へ、フォラスも冷や汗を流しながら目線だけは逸らさない。


「驚いたのはこっちの方だよ……まさかこうも簡単に『心渡り』が破られるなんて、さ」
「あぁ、名前があったんかい」


 『心渡り』
 ―――簡単に言うならば、マジシャンが行う『右手や口振りで大仰に動作し、左手のタネから意識を外して隠す』トリックと基礎の原理自体は同じ。
 それに加え外的要因、リズムの急激な変化、本人の俊敏値、【隠蔽】スキルを駆使して相手の意識の外から攻撃を仕掛ける、いわばフォラスの十八番とも言える絡め手なのだ。

 そしてこれを見破った者こそいるものの、完璧に対処してきたプレイヤーは数えるほども居ない。


 ……にも拘らず、目の前のグザは“初見”で見破って来たのだ。


(オマケに下手すれば、今ので勝負が決まってたしね……おっそろしいな、この人)


 も一つ冷や汗を流すフォラスに、グザは余裕なのか追撃の構えを毛ほども見せない。
 それどころかニヤリと笑い、人差し指をクイクイ曲げて“挑発”のジェスチャーすら取って見せる。

 あからさまで、いっそ清々しく露骨なまでの『余裕』の態度。


「後悔しないでよ?」
「ヒヒヒ……なら後悔させてみなや」


 見た目といい笑い方といい、この人アニメとかの立ち位置でいえば悪役だよねー―――と、フォラスはそう思わずに居られない。

 それでも長いまばたきの後―――一瞬で切り替えてグザへ突貫した。
 かと思えば、二メートル弱で停止し薙刀の刀身を彼へ突き付けた。

 リーチ間の有利がある以上、下手に接近戦を挑むよりは、長柄の薙刀で対応した方が良い。
 相手の手の内が不明なのも考慮すると、確かに理にかなっている。


(背が高いなら避けられない様に……ここっ!)


 白一色で塗られた美しい薙刀が、閃きすら映さぬ速度を持って左脚を一閃。


「ほいっ」


 それは躊躇いも無く持ち上げられた脚で、あろう事か『踏まれて』しまった。


「……えっ?」


 元より筋力値の低いフォラスの一撃は、それで簡単にストップする。
 グザは其処で止まらず膝を曲げて、【雪丸】を蹴っ飛ばし初動を遅らせてきた。

 肉薄すべくか、グザに体が前屈みになり、槍の切っ先が彼の顔を向いた。


「させないよ!」


 バックステップで軽く距離を取り、対応すべくフォラスも薙刀を胴へ振う。
 それは片手槍で前屈みになりながら捌かれ、追撃の下段は当たる前にキックでカチ上げられ、引き戻しからの猛烈な踏み込みを活かしグザが一気に距離を縮めてきた。

 横への斬撃は不味い。
 判断を変えて【雪丸】を若干短く持つと、脚部や上半身へ目掛け突き入れる。

 だが、グザの動と静の切り替えも見事なモノ。


「おっとと……」


 すぐさま急停止し脚狙いは槍で、そのまま滑る様に移動させて上半身狙いも受け流す。

 フォラスとて当然そのまま攻撃などせず、俊敏度を活かし距離を取る事を怠っていない。


「はあっ!!」


 本格的に速度を増した、余りに素早く鋭いその刺突すら……フォラスにとっては立派なフェイント。

 再び同個所を狙いながらも、下を睨む目線の向きとは全く違う、頭部への強烈なスラストを爆速でお見舞いした。
 されど、それも頭を振って回避されてしまう。


 ……その裂帛の気概込めた一撃すらも、“騙暗かし”なのだと誰が気が付けるのか。


「喰らいなよっ!」


 本命は肩口目掛けて振り抜く、約90㎝近くもある刀身での袈裟掛けだったのだ。




「嫌さね」


 だから短槍を【雪丸】にあてられるだけなら未だしも―――

 ―――行き成りグザの『身長が低く』なり、【雪丸】が“思い切り絡ぶった”事にフォラスは驚きで声も上げられなかった。


 それが柔軟性を発揮した開脚と、反時計回りに身体を回しながらの前屈で避けられた、と気が付いても時すでに遅し。


「キィィアァ!!」


 上半身を起こして奇声と共に放たれた、槍の剛速投擲を胸へ喰らう結果となってしまった。


「うぐうっ……!?」


 デュエルの決着を付けるには当然足りないが、しかし衝撃のみでいえば重く響き渡る飛来物に思わず、フォラスはよろめき2、3歩たたらを踏む。

 その間にもグザは起き上りダッシュ。
 左手で空中に舞う槍をキャッチしながら、軸を変えてのレフトソバットがヒットする。
 何の嫌がらせか、追加でたたらを踏まされる。

 オマケに懐に入られてしまい、遠心力による速度と火力の両立が不可能となってしまっていた。


 すぐさま【体術】スキルを繰り出すか、出さないか……一瞬フォラスは迷うも、


(駄目だ間に合わない!)


 すぐさま判断を切り替え右回りに動きつつ距離を開ける。
 更にスピードと遠心力を使い、今度こそ薙刀スキルによる青き一撃で、瞬速にて横薙ぎに振う。

 が……どれだけ驚かせれば気が済むのか、グザはそれを後ろ向きからの『ブリッジ』で躱した。


「はぁっ…?」
「シイィィア!!」


 驚く間を見逃す甘さなど、与えてもらえないのは自明の理。
 
 グザは其処から息つく暇も無く、片手でロンダートを行い低空ジャンプ。
 ズドン! と着地してからの回し蹴り―――


「ジャアッ!!」


 ―――から体を捻りつつ、鋭いオーバーヘッドキック。

 まだ終わらない。

 一度左手でフォラスの目線を惑わし、己の脇下を通す様な軌道でショートスピアを突き出す。
 最後に肩を入れながらの打ちだされた剛穿を含めて、数連コンボを瞬く間に決めてくる。

 ギリギリ当たる間合いからの攻撃だからか、フォラスも掠り傷だけで済ませる事が出来た。


 しかし距離が近付いていた為に、追撃は出来ずまたも離れなければならず、反撃が儘ならない。

 それでもと繰り出した横薙ぎを……今度は態と片足を引っ掛けて勢いから逆立ちになり、そこから柄を蹴り飛ばして体操選手みたく飛び跳ねながら距離を詰めてくる始末。

 空中回し蹴りもどうにか捌いて、フォラスはまたも距離を開けた。



(【雪丸】じゃあ、この人相手には不利かなー……)


 通常、彼の持つ薙刀・【雪丸】はその適性距離の長さにより、相手を徹底して近付けない戦法が得意。
 だがグザはこれまでの相手と違い、見切って踏んでくるわ弾いてくるわ、思いもよらない方法を取ってくる。
 現実で武道でもやっていたか、槍術や足捌きともに迷いがなく、単なる回避や開脚を使う絡め手も難なく実行してきたのが、良い例だろう。

 フォラスも棒立ちで薙刀を振うのではなく、己の敏捷度を活かして間合いを調整してはいるのだが、結果はご覧のとおり……中々一定距離から離れてはくれないのだ。


(でも切り替えるにしたって―――いや、やってみないとね!)


 ニヤリ……フォラスは口元に笑みを浮かべ、デュエル開始前とは違うリズム、違う動きで体をゆらゆら揺らし始める。

 グザの目が、特徴的な軌道を描く穂先へ気を取られた……その隙に【隠蔽】スキルを発動。
 俊敏さをフルで発揮して、立て直すべく走行し距離を取る。


 後ろへ、後ろへとかっ飛んでいく視界の中……


「おーいおい、何処へ行こうってんだい」
「うわっ!?」


 すぐ後ろにグザが付いて来ていた。

 武器を向けて居ないこと、そして恐らくフォラスよりも彼のスピードが上だと言うこと。
 色々な要因が重なり、寧ろ先程までより距離を詰められて居る。


「シィアッ!」


 更に、ギアを一段上げたと思えば、グザは思い切り飛び蹴りを放ってきた。

 何とか前転するフォラスだが、速度を殺し切れず予想以上に転がっていく。
 みっともないが、そんな贅沢を言ってられる状況ではない。


「ギィリャアアアッ!」
「ぬぅ……あぁっ!」


 どうもドラゴンキックばりの一撃で、彼の頭上を飛び越していたらしいグザが、フォラスの顔面へ容赦のないフロンハイキックを噛ましてくる。
 相手の体勢が不安定な事もあり、如何にかフォラスは逆にグザを押し退けてやる。


「シュウウッ……!」


 が、その間隙は一瞬。

 仰け反りながら草地に手をついたグザは跳ね起きから踵落としを決めてきた。
 その勢いに乗り体勢を崩し、トーマスフレアに酷似したアクロバット蹴りで追撃を打ち込んできた。

 続けてハイキック―――に見せかけた踏み込みフェイントから肘打ちし、フォラスが危うい所を【雪丸】の柄で防げば、グザは後方宙返り。
 頭を柄擦れ擦れな位置にて通らせながら、フォラスを悠々飛び越した。


「ヒハハ!」
「この……ってうわっ!?」


 距離を取る前に足を脚で払うとまたもバック宙しながら頭上を越し、寝転がったフォラスの首目掛けてギロチンさながらの右脚が吸い込まれていく。

 慌てて起き上がるも背中に鋭い衝撃が走り、2度目の前転を強制される。
 後ろへとフォラスが目線だけ向ければ、今まさにグザが短槍を突き出したばかりの格好で固まっていた。


「はああぁぁっ!!」


 距離を取ろうとフォラスが、空気を穿たんばかりに突きだした薙刀に対し―――意外にも半身になりながら大袈裟にかわされる。

 ……その行動の意図にフォラスが気が付いたのは、【雪丸】の柄を“掴む”と同時に詰め寄って来てからだった。


「ヒヒヒハハ……!」


 今の今まで自分の相棒足る【雪丸】を掴ませるなど、当然経験した事がないフォラスの動きが一瞬間だけ鈍った。
 生まれた間隙を逃さず、突き坐された槍の穂先は―――間一髪、反応したフォラスの首振りで頬を掠めていく。


「ぅくっ!?」


 が、膝蹴りが命中してしまい「く」の字に曲げさせられた。


「まだまだっ……!」


 字面だけなら苦悶だが……しかし顔に浮かぶは笑み。
 未だかつてない敵との戦いを、フォラスは心の底から楽しんでいた。

 この人ともう少し、ヒリヒリとする戦いを演じてみたい。

 『後もう少し……もう少しでいい、この戦いを長引かせてみたい』

 フォラスの頭の中にそんな言葉が浮かび、間髪いれずにバックダッシュ。


(間に合わせるっ!)


 最早グザの追跡には目もくれず、メニューを開いて《クイックチェッジ》をクリック。
 両手に現れるは白き薙刀ではなく、【エスペーラス】【マレスペーロ】と呼ばれる片手直剣。


 彼のもう一つの主軸スキルたる……《双剣》スキル、始動の時だ。


「あはっ」


 より一層楽しげに笑い、フォラスは思った以上に未だ遠くから走り寄るグザに、今度は自分から突っ込んでいく。

 突進と共に威力を増した量の剣が、橙色の十字を描き迫まらせる―――――






「ヒヒヒ、まだ甘いわな」


 ―――筈だったのだ。


 何が起きたのだろうか……グザの声が聞こえた直後、フォラスの視界は引っ繰り返り、ディエル終了のアラームが鳴り響いていた。

 数瞬遅れて逆さまに(・・・・・)なっていた己の視界が、背中への衝撃と共に上空へ向けての視点へと変わる。



 盛り上がる筈だったデュエルは、唐突に終わりを告げたのだった。














(負けた……負けたなぁ……)


 自分が負けたと頭では分かっていても、未だ着いて行けない部分があるのか、フォラスは終了後数分もの間、寝転がって天を覆う雨雲すら隠すキノコや葉っぱを見ている。


 敗北が分かってから次に思いだしたのは、グザが一回もソードスキルを使っていないと言う事だ。
 フォラスとて2回しか使っていないが、それは彼のプレイヤースキルに圧倒されていたから。

 オマケにグザは手を抜いていた訳では有るまいが、完全に本気だったとも言いきれず、フォラスとしてはもう少し手を引きだしておきたいとの、未練も抱いている。


「……フゥ~……ッ」


 件のグザはと言うと、起き上るまでは放っておく事としたか、先まで吸っていたブルーベリー色のパイプを口に咥えて、苔だらけの切り株に腰かけている。


 隙だらけではあるし、行き成り起き上がって闇討ちをしかけてやろうかな~……等とフォラスはかなり黒い事も考えては居た。
 ―――のだが、行動を起こそうとすればグザの体勢が少し変わる為、結果はまた残念なことになりそうだと、自重して苦笑していた。


「グザさん」
「ん? なんだい」
「また勝負してよね。もうちょっと本気出させたいからさ」
「ヒヒハハハハ……そりゃいいやね! またの挑戦、待っとるわな」


 だからフォラスは素直に、彼との再戦の申し込みを口にする。

 聞き取ったグザは、相変わらず爽やかさとは程遠い笑い声を響かせるのだった。











「ん? アマリからメール?」

『フォラスくん、グザにいへ挑むなら注意するです。プレイヤースキルが超すごい上、本人のスピードも馬鹿にならないですから! では、忠告完了なのです』

「いや遅いって、アマリ……遅すぎ」



 
 

 
後書き
と言う訳で、グザの勝利となりました。

……フォラスの事、自分は表現できていたでしょうか……? かなり不安になりながら書いた話でもあります。

では、また次回。 
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