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破壊ノ魔王

作者:紅蓮刃
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一章
  7

盗賊の砦は大きな洞穴につくられ、入り口だけでなく高台にも見張りはいた。この見張りを始末しなければ近寄ることも容易ではない。
しかし相手はゼロだ。しかも空がだんだんと明るくなり、最悪な気分になりつつあるゼロだ。そんな手のかかることはしない。


「おい!誰だ!」

「うるせぇ、何も言うな。黙ってゼロがきたって報告してこい。戦争したくなけりゃ黙って通せ」


そういってドンと蹴り飛ばすと、ずかずかと中へと進む。見張りも他の盗賊たちもあまりの強引さに身を引くしかなく、言われるがまま盗賊のボスの前へと転がり出た。女を両手にぐーぐーと眠りこけていたボスは、急に開いた扉の音で不機嫌そうに目を開いた


「なぁんだ?やかましぃのお!」

「お、大ボス!あ、あああ怪しげな輩が……」


眉をひそめた大ボス。そこへ、煙草に火をともしながら扉をくぐる


「なんじゃあ……おめぇ」

「ゼロ。あんたがこの砦のボスか?一晩邪魔させてもらうぜ」

「ゼロ……。まさか、あの闇の帝王じゃねぇだろうなぁ?」

「まぁそう呼ばれることもあるな」

「信じるとでもおもうか?若造。度胸はかってやるが、嘘はよくねぇ……」

「同感だな。俺も嘘つくつもりはねぇ。信じる信じないは勝手だが、事を起こすつもりなら俺も加減しねぇぞ」


ゼロと盗賊の視線がぶつかる。鋭いゼロの目と老いによる威厳の目
その決着は盗賊の笑い声で終結した


「ガッハハハハ!おもしろい!おもしろい男じゃ!おい、部屋を用意してやれ!あと宴の準備じゃ!客人は歓迎せねばならん。ほら、女どももいつまでも寝ずに支度をせい!」


ゼロはニヤリと笑ってタバコをくわえ、ボスの前に腰を下ろした


「いやいや、失礼した。こんな姿で申し訳ない」

「気にすんな。こっちも勝手に押しかけた身だ。あんた、名前は?」

「わしはフォスタ。ゼロ殿、会えて光栄に思うぞ。そして礼を言おう。お前さんの力なら砦もろともチリにすることもできたじゃろうに、こうして会いに来てくたことに感謝するぞ」

「俺は快楽殺人鬼じゃねえよ」

「いやはや、まったくだ。すまぬすまぬ。わしは手配書に興味はなくて……有名な魔王と聞いても顔までは知らん」

「クク、それでなぜ俺が本物だと?」

「どうでもよい。本物かどうかなぞ小さいことよ。わしはお前さんが気に入った。わしを見ても恐れひとつもなければ、己の方が強いという傲りさえもない。実に読めぬ目をしておる」

「そりゃどーも。あんたの目はビビらせようとするだけで、殺そうとも傷つけようともする気が見えなかったよ」


フォスタは高らかに笑い、側の酒をゼロに振る舞った。ゼロもくいっと飲み干す。

しばらくたつと、たちまち砦内はさわがしくなり、大量の酒と食料が積み上げられ、男たちの歌声が響いた。女はさけをつぎ、男は踊り、騒がしい早朝になった


「ゼロさん!おれ、あんたに憧れてんスよ!軍も賞金稼ぎも物ともしねぇあんたに!サ、サインくだせぃ!」

「却下」

「盗賊として、ゼロさんのあれには驚いたよなあ。1億は越える宝石を盗んだとき!誰一人殺さず、何一つ傷つけず気づいたら空の上!はぁ~~かっちょいい!」

「あー、あの仕事ねぇ。だいぶ昔のことじゃねぇか」

「そりゃあゼロさんの偉業っスもん!ワルってどこにでも居ますけど、海賊でも空賊でもなく単独なんてスゴすぎますよ!ゼロさんを目にして生きてたやつはいないって噂っすからね!」

「ありえねぇ。それが本当なら、だれがその噂流したんだよ」

「………」


豪快な盗賊団は大声で笑い続けた。ゼロはニヤリと笑うだけ。酒がまわり、騒がしさも際立った頃だった。

ゼロがふと口を開いた


「……で。さっきから聞こえるガキの泣き声はなんだ?」


騒がしい宴が途端に静まる。誰もが固まってゼロの方を見る。ゼロはククク、と笑うだけだ


「お前らの飲んでる酒は全部水で薄めてあるし、俺の酒には睡眠薬いり。俺を殺せなくても、眠らせてやり過ごそうとでも思ったか?残念だが、俺にはこういったモノは効かねぇ…が、量を考えろよな。致死量こえてるぞ。常人ならくたばってる」


冷めきった宴の場に……


「……てめぇら……んなことしてたのかぁ!!!」


途端に怒声が響き渡る。笑い、緩んだ顔が一気に恐怖にひきつり、泣き叫ぶように手下は言った


「すんません!大ボス!か、頭の指示で……。この取引は成功させねぇといけねぇから、ゼロさんに壊されたくないって……」

「あんのバカ息子!!何処いった!?あのガキ、いっぺん殺してやる!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」


酔いもまわり、暴れかたにもふらつきが見えるフォスタを、容易に止めたのはやはりゼロだった。加減のついていない拳が、すっぽりとゼロの手におさまる


「まぁ落ち着けよ。こんなしたっぱにキレてもしょうがねぇだろうが」

「でもよゼロどの!!わしは!!」

「いいから、その頭ってのに会わせてもらおうか。挨拶くらい、しねぇとマナー違反だもんな」


ゼロの悠然とした口調も、ニヤリと笑った顔も、盗賊たちには恐怖でしかなかった。すごすごとたちあがり、そこへ案内する。
この砦の頭のところへと

……付け加えるならば若干1名、そんなゼロを見ても目を輝かせる変わり者もいた


「すまんなぁ、ゼロ殿」

「睡眠薬のことか?別になんともねぇよ。それより、あんたが隠居の身だったとはな」


松明で照らされた薄暗い通路を歩きながら、ゼロはクククと笑う。歩けば歩くほどに子供の泣き声は近くなり、だんだんと大人の罵声も響くようになった。


「わしも……ガキの取引は、あんまりやりたくはねぇんだが、もうここはあいつに任せてあっから……なんとも言えなくてよ」

「へぇ?ガキに弱いのか、あんたでも」

「これでも嫁も子供ももったんだ……あんまり気はすすまねぇよ」

「その気のすすまねぇことを自分の子供がしてるってのは……なかなか面白いな」

「言ってくれる。あぁ、あいつだ、あいつ。わしの息子」


そこには子供を無理矢理牢へねじ込み、怒声を張り上げる男がいた。誰が見ても親子と分かるくらいにフォスタそっくりの男だ
ゼロはすっと身を隠し、その様子を見守った


「うるせぇぞ!ガキどこ!ピーピー泣くなや!!泣いてもわめいてもここからは出さねぇんだからよ!おい!早く次をつれてこい!!」


連れてこられた子供はひとりひとり足枷と手枷をはめられ、番号の書かれた札を首から下げていた。身なりもさまざまで、何も着ていない子供から豪勢なきれいな服をまとっている子供もいる
ゼロは小さくため息をついた


「盗む対象が悪い。貴族から回収してんじゃねぇか」

「そりゃあ……そっちのが売れるからなぁ」

「あほ。ガキ人質にしてふんだくったほうがまだいい。それに、あんな目立つガキ取引に出したら、軍に見つかって終わるぞ」

「お、おお?そ、そうなのか?」

「仲介を何人はさんでもいずれは足はつく。今までは軍も忙しかったからうまくいってたかもしれねぇけど……これからはそうもいかねぇぞ」

「あ、あぁ。忙しいって、ルナティクスの連中の始末か。結局ひとりも捕まらんかったらしいがのお」


これだけ小言を言っていれば、誰でも気づく。銃口は向けられ、即座に発砲された


「だれだ!!そこにいるのは!」

銃弾は壁にあたり誰に当たることもなかったが、すぐば弾丸のようにフォスタは飛び出した。


「ぶぁっっかもん!わしじゃ!!」


大きな拳が振り回され、その息子の頬へめり込む。しかし、吹き飛びもせず盗賊の頭は殴られて赤くなった頬をさすりながら何ともないように続ける。


「親父!?なんでここにいるんだよ!ここ嫌いじゃなかったのか?」

「嫌いだがしょーがねぇことがあったもんでよぉ……」


鎮まったはずの怒りがふつふつと沸き上がってくる前だった


「よお」

「!!!!」


背後からの声に勢いよく振り向く。そこには煙草の煙を揺らす悪魔がいた


「っっっっぜ、ゼ、ロ……」

「旨い酒だった。一杯のむか?」

「い、いや……」


子供に怒声を張り上げていた影はもうない。怯える動物のように、体を震わせ小さくなるだけだった。その息子の姿に、フォスタはがっくりと項垂れ、同じように小さくなるのだった


「おまえ、別に隠さなくていいだろ、これ。世間でいうとこの大犯罪者だぜ?俺は」

「いや……だから……とられちまうんじゃねぇかって思って……」

「バカが。こんなみみっちい稼ぎ方するかよ。金がほしいときは金を奪えばいい」


盗賊相手に盗賊の鏡のようなことをゼロは言った


「それにしても、ガキを獲って取引とはな。盗賊らしくねぇもんだ」

「なかなかうまくいかねぇんすよ。盗賊稼業も」

「なにがうまくいかねぇだ。悪党の良さをわかってねぇな、おまえ。まだまだってことか」


見た目では明らかにゼロの方が年下であり、小さくなっているとしてもこの男も一味のトップである。男は眉間にシワをよせ、イラついた声を上げてゼロを見下ろした。後ろで、フォスタがうんうんと大きくうなずく


「あんたと違って、おれぁ仲間の身を預かってんだ。なにがまだまだだ?おれぁお前が産まれたときから悪党やってんだよ!」

「それにしてはビビりまくった生き方してやがんな」

「うるせぇ!!警戒してなにが悪いんだ、こらぁ!!仲間を食わして守ってやっていくには良いも悪いもねぇわ!」

「そんなに他人を守りてぇなら盗賊稼業なんざやめとけ。真面目に足洗って働けよ。だからわかってねぇっつってんだよ」

「なんだよ!悪党の良さってやつか?あ???じゃ言ってみろよ!良さってのをよぉ!?」


ゼロはお決まりのニヤリとした笑みを浮かべ、盗賊の頭のみぞおちへ華麗な蹴りを食らわせた


「自由」


盗賊の頭は崩れ落ち、小刻みに体を揺らし、息ができないのか喉をにぎり悶えていた。父であるフォスタも助けようとはしない。それよりゼロの言葉に大きく賛同しているようだった


「国も世界も、縛ることはできない。リスクを承知にやりたいようにやる。それがメリットだろ。ただ生きるためなら真面目に働け。その方が楽だし危険も害もない。盗賊なら盗賊らしく、人に迷惑かけながら盗みに取り組めよ。今更びびってんじゃねぇ」


ゼロの言葉に、フォスタも頭もなにも言えない。そこに甲高い声が響き渡った


「はなせ!はなせぇ、ばかぁ!!ぼくににさわるなー!!!!」


子供の特有の甲高さにゼロの眉間におもいっきりしわがよる。暴れる子供に手を焼く手下と、柔らかい金髪をした小さな子供。この場所ではとくに珍しくもない光景であろう。しかし、そんなこと関係のない子供は泣きそうな顔で暴れる


「えええぃ、放さないなら……!」


子供のまわりに少し光が帯びた。その光が手に集まったかと思うと空気を読まずに子供は叫んだ


「くらえーーー!!!」


そこから発せられた雷
手下をやき、その他めちゃくちゃにはねあるイナズマ。そして……


バリリリリっっっ!


「…………」


辺りにはりつめた空気が流れる。ケラケラと笑っているのは自由になった子供だけだ。
そう、あの子供だけ


「ぜ、ゼロ……どの?」


さすがのフォスタもおずおずと言葉をかける。返答はない。ただ、ゆっくりと、指を曲げ、パキンと音をならし……


「……くそガキが」


ゆっくりと、音もなく、笑う小さな子供に歩み寄るのだった

 
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