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ぼくだけの師匠

作者:櫻木可憐
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第1章~ぼくらを繋ぐ副作用~
  07.墓参り

菊の花は嫌いだ。二宮はそう思う。
食べても旨くなければ、仏花には大概入る花で、不愉快になる。
それでも買うのは日本のマナーとして。
暇があり、思い出せば来ていた墓参り。
大概マナー違反の花がその墓には入れられていて、二宮がそれを捨てていた。
何の花か気になり調べてみたこともある。
トケイソウというらしい。
今日、二宮が仏花を手にし、墓参りに行くと先客がいた。
その人物がトケイソウを置いていた本人らしく、花を眺めて笑みを浮かべていた。

「マナー違反だ」

そう言われた如月は二宮を見つめた。
二人は仲が悪い。
理由はだいぶ前になるが、満員電車での出来事だった。
如月は当時、今よりか女子らしいところがあり、スカートもはいていた。
満員電車を日頃から乗るはなく、その日は友人に会いにいくためだったようだ。
体に手が当たることに違和感を感じた如月ではあったが、満員電車だからと無視をした。
それを人は痴漢というのだが、彼女は知らず対処に遅れたのだ。
如月が反撃しようとした頃には、すでに別の人が手を出していた。
男の手首を掴み上げ、鋭い目付きで見ている二宮がいた。

「なぜ、『痴漢だ』、と助けを呼ばなかった!!」

そう言われた如月は真剣に答えた。

「数字や文字の並べ替えじゃないんですか?」

ちかんはちかんでもそれではない。
二宮は何も言えずに、立ち尽くした。
それ以来二人の仲はあまりよくなかった。

「トケイソウは隊長の趣味だ」

如月は二宮にそう言うと、笑いながらトケイソウを手にした。
かつての如月の隊長の墓参り。
二宮には関係無い人物だが、ボーダー隊員の中でこの隊長の墓参りに来る人は少なくない。
太刀川や東、迅も墓参りに来ているが、大抵如月が墓参りに来る日には来ないようにしている。

「二宮がまさか墓参りとはな。意外だ。」

「お前こそ、風間隊がA級昇格するという日に墓参りか。
この前の本部破壊で非番抜きとも聞いていたが」

「あはは・・・この日は命日だ。
何があろうが、休みはとるさ。」

如月は自分自身にうなずいてみせると、また笑いながらトケイソウを眺めた。
笑い方が変わったと二宮は感じた。
目はあまり笑っていない顔で、口はひきつっている。

「くちゅんっ!!」

如月は小さな可愛らしいくしゃみを出すと、二宮は自分のジャケットを被せた。
そのジャケットを投げ飛ばされた二宮は、不愉快を露にするが怒鳴りはしなかった。
それは雪に目を奪われたのが理由である。
やけに寒いと感じていたが、雪が降るとは二人して考えていなかった。 
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