真田十勇士
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巻ノ二十六 江戸その八
「信濃も見てな」
「そして甲斐もですな」
「今のこの国も」
「そうされますな」
「うむ、確かに武田家は滅んだが」
しかしというのだ。
「国はある」
「そして民も」
「そうしたものは残り」
「そして生きていっていますな」
「そうじゃ、例えば当家がなくなってもな」
あえてだ、幸村は言った。
「上田の民達は生きていく」
「ですか、家がなくなろうとも」
「民は生きていて」
「そして、ですか」
「暮らしも行われますか」
「そうなる、真田家も最初から上田にいた訳ではない」
こうもだ、幸村は言った。
「永遠に上田にいるとも思えぬ」
「形あるもの全ては何時か消える」
「栄枯盛衰は世の常だからこそ」
「それで、ですな」
「真田家もですか」
「何時かは」
「そうなる、これは世の定めじゃ」
達観、幸村は若くしてそれを備えていた。そこからも語るのだった。
「栄えておっても何時かは消えるものなのじゃ」
「無情ですな」
「しかしその世においてですな」
「人は必死に生きる」
「そうあるべきですな」
「無情であっても為すべきことは多い」
非常にというのだ。
「人というものはな」
「それぞれの為すべきことがあり」
「それに務めなければならない」
「必ず、ですな」
「そうしなければなりませんな」
「そうじゃ」
こう言うのだった。
「何があろうともな」
「そうですか、では」
「殿も我等もですな」
「その天下において」
「果たすべきことを果たしていく」
「そうすべきですな」
「拙者がいつも言っている様にな、それにな」
また言った幸村だった。
「無情しか感じなくなったら出家して寺に励むべきじゃが」
「出家してもですな」
「我等の様な考えなら」
「世においてこの世で務めを果たすべきじゃ」
清海と伊佐に応えてだ、幸村は言った。
「我等ならばじゃ」
「その務めは、ですな」
「上田の民を守ることですな」
「そうじゃ、家を守りな」
幸村は今度は穴山と由利に答えた。
「それが務めじゃ、そして」
「義、ですな」
「それを貫くことですな」
「左様、義は忘れてはならぬ」
決してとだ、幸村は海野と望月に述べた。
「何があろうともな」
「そしてその義は」
「我等の義は」
「仁義、信義、礼儀、忠義、悌義、孝義じゃ」
この六つの義をだ、幸村は筧と根津に話した。
「それじゃ」
「殿もですか」
「忠義を果たされますか」
「そのつもりじゃ、拙者の忠義は父上そして兄上へのものじゃ」
猿飛と霧隠にだ、彼は話した。
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