真田十勇士
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巻ノ二十 江戸その五
「あの方はやはり三河の方なので」
「今はな、しかしこれからはわからぬ」
「三年先は闇、ですか」
根津はこの言葉を出した。
「人の未来はわからぬもの」
「だからあの方が関東に入られることもあるやも知れぬ」
「あの方は今は甲斐、信濃に兵を進められていますが」
猿飛は徳川家の動きを語った。
「さて、そこから関東にもですか」
「そうなるのやもな」
「徳川殿はやはり北条家と争われるのか」
「そして東国を支配されるのか」
「果たして」
「そうなるのでしょうか」
「それは拙者もわからぬ、そもそも拙者も徳川殿が関東に入られるとはな」
幸村もだ、いぶかしむ声だった。
「思えぬが」
「しかし先はわからない」
「そうなのですか」
「人はどう生きていくかも」
「そうしたことも」
「わからぬものだからな、しかしその一生をな」
人はとだ、幸村はその澄んだ目で遠くを見つつ述べた。
「懸命に生きようぞ」
「ですな、我等は」
「その先がわからぬ一生を懸命に生きましょうぞ」
「義を貫き」
「そのうえで」
「そうしようぞ、ではこれよりじゃ」
幸村はその澄んだ目で微笑みつつ言った。
「上田に戻る」
「はい、これより」
「我等の場所に入りましょう」
「我等上田ははじめてですが」
「どの様な場所でしょうか」
「山ばかりじゃ」
幸村は笑ってだ。十人に言った。
「他には何もない」
「都や大坂と違い、ですか」
「そうした場所でありますか」
「いつも話している通りじゃ」
まさにというのだ。
「何もない場所じゃ、しかしな」
「それでもですか」
「上田は、ですか」
「よい場所じゃ」
こう十人に話すのだった。
「面白いからな」
「だからですか」
「あの国に入っても楽しめる」
「そうなのですな」
「うむ、そしてあの地でな」
何をするかもだ、幸村は話した。
「修行に励もうぞ」
「ですな、修行に励み」
「技を磨きましょう」
「そしてさらに強くなり」
「誰にも負けぬ様になりましょう」
「そうなろうぞ。では武蔵から甲斐に入り」
幸村は帰り道のことも話した。
「信濃を上りな」
「上田にですな」
「戻りますな」
「そうしようぞ」
こう言ってだった、幸村は江戸城の前を後にした。十人の過信達もその後ろに従いだった。長い旅路の帰路についた。
一行はすぐに武蔵を出て甲斐に入った、その甲斐に入ったところでだ。
幸村はしみじみとしてだ、こんなことを言った。
「この一年で甲斐は変わったな」
「ですな、武田様のご領地でしたが」
「その武田様が滅び織田家のものとなり」
「その織田家も去り」
「今や、ですな」
「主がおらぬ」
それが今の甲斐だというのだ。
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