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レディース先生

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2部分:第二章


第二章

「お見合いですか」
「どうですか、それで」
「喜んで」
 こう言う先生だった。
「受けさせてもらいます」
「そうされるんですね」
「はい、それでは場所と時間は」
「後でお話させてもらいます。そうですか、受けられるのですか」
「あのです」
 先生の方から。また言ってきた。
「私も生涯独身のつもりはありませんし」
「だからですか」
「そうです、それはありませんから」
「では。お見合いの時は」
「楽しみにしています」
 微笑んでさえいた。
「それでは」
「はい、そういうことで」
 これで話が決まった。先生はお見合いを受けることになった。
 日は休日で場所は名前のあるホテル、オーソドックスなお見合いであった。そして先生の服もまたオーソドックスに振袖であった。
 その振袖姿を見てだ。校長先生は言った。
「その服ですか」
「何か?」
「いえ、着物ははじめてだと思いまして」
「だからですか」
「いつもズボンですし」 
 そしてこのことを言うのであった。
「スーツかと思ったのですが」
「スカートは好きではないですから」
 だからそれではないというのである。
「あれはですね」
「あれは?」
「バイクに乗れません」
 だからだというのだった。
「ですから」
「それでお嫌なのですか」
「その通りです。振袖も同じですが」
「それでも今は振袖ですよね」
「どうせならと思いまして。スカートよりは好きなので」
 妙なこだわりもここで見せていた。
「ですから」
「それでなのですか」
「では行きましょう」
 その赤と鳳凰の模様、何処か赤星十三郎を思わせるその振袖姿でお見合いの場所に向かう。そうしてそのうえで相手と対するのだった。 
 そのお見合いの相手はだ。これがだ。
 見事なスーツを着てそのうえで黒い髪を丁寧に分けている。そのうえで多少濃いがしっかりとした顔立ちを見せている。表情は堅苦しさもあるがそれでいてユーモアもある。背は少し高く筋肉質である。その彼がいた。
 先生はその彼の顔を見てだ。ふと足を止めた。校長先生が先生にぶつかってしまった。先生が急に立ち止まってしまったからだ。
「すいません」
「いえ」
「いえ?」
「あっ、はい」
 先生はここで我に返ったように言ってきた。
「それで、ですよね」
「はい、それで」
「お見合いですね」
「ですから。ここに来られたのですが」
「はい、それでは」
 こうしてお見合いがはじまった。相手のその男はこう名乗ってきた。
「津上賢です」
「津上さんですか」
「はい、郵便局に勤めています」
 その職業も話すのだった。
「そこにです」
「郵便局のですか」
「そうです、そこにです」
「私はですが」
 今度は先生の方から言った。今二人はちゃぶ台を挟んでそれぞれの付添い人と一緒に向かい合っている。部屋は今にも茶道が開かれそうな落ち着いた部屋である。外では実際に竹が岩を打つ音も聞こえてきていた。
 
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