レディース先生
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1部分:第一章
第一章
レディース先生
矢追朝香先生はというと。その過去は誰でも知っていた。
「元ヤンかあ」
「それで先生だからなあ」
「そんな先生本当にいるなんてな」
「もうびっくり」
皆こう話す。外見は黒髪を奇麗に首の付け根の高さで前から後ろに斜めに切り揃えアーモンドに近い形の切れ眺めの目に薄い大きめの唇に奇麗な眉をしている。はっきりと言えば美人である。背は高くすらりとしている。いつもスーツにズボンで決めている。
しかしであった。先生の過去はあまりにも有名であった。とにかく昔は凄かったのである。
「あれでしょ?バイクに乗ってパパラパパラって」
「飯島直子みたいだったってね」
「今も車かっとばして学校に来るし」
「怒ると無言で凄い目でガン飛ばしてくるしね」
怒鳴ったりひっぱたいたりはしない。しかしその眼光を突き刺してくるのである。
「滅茶苦茶怖いからね、あれ」
「全く」
「普通に怖いから」
これが先生の評判だった。とにかく怖いのである。
しかしだ。普段は普通の先生である。元ヤンでおまけに鋭い眼光を飛ばし車を飛ばしていてもだ。それでも普段は普通であった。
だが確かに怖いものはあった。それで美人でも彼女に声をかける男はいなかった。
「ふられるというかなあ」
「おっかないし」
「近寄り難い雰囲気あるから」
だから誰も声をかけないのだった。
「怖いからなあ」
「下手したら簀巻きにされて海とかな」
「ああ、有り得るよな」
「レディースだからな」
こんなことを言われる先生だった。顔はよく性格も決して悪くはない。元レディースは伊達ではなく気風もいい。だから嫌われる人ではなかった。
だがその雰囲気が悪影響してだ。告白だの声をかけるだのといった話はなかった。先生も気付けば三十を超えていてだ。年齢的に困ったことになろうとしていた。
「あのですね」8
その先生にだ。校長先生が声をかけた。
「宜しいでしょうか」
「何をでしょうか」
職員室で声をかけられた。どの学校の職員室でも同じだがこの学校の職員室も灰色の机と色々な本やらファイルやらで埋め尽くされている。そこで声をかけられたのだ。
「今度ですが」
「何かありますか?」
「はい、まずはです」
「はい、まずは」
「落ち着いて話をして下さい」
何か虎を相手にしたような対応であった。
「いいですね」
「はい、今落ち着いてます」
先生も手元にあったペットボトルの烏龍茶を飲みながら応える。
「それで一体何が」
「お見合いですが」
こう切り出した校長先生だった。
「如何でしょうか」
「お見合いですか」
「はい、お見合いです」
また言うのだった。
「それは如何でしょうか」
「お見合いですか」
「お嫌ならいいです」
やはり虎を前にしたようにだ。警戒する感じであった。
「その場合はです」
「まだ何も言っていませんが」
先生は落ち着いていた。
「全く」
「あっ、そうでしたか」
「そうしたことでは何も言いませんし」
とはいってもであった。警戒はされていた。やはり元ヤンキーだのレディースというとだ。警戒されるものがあった。今でも眼光が鋭くなったりするのも影響している。
「何もしませんが」
「そうですか」
「はい、それでなのですが」
そして先生の方から言うのだった。先生は自分の席に座り校長先生はその左手に立っている。そのうえで声をかけているのである。
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